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Home > 積算・受発注> 国土交通省の安衛経費調査:内訳明示で8割が満額受領|標準見積書の導入へ
積算・受発注 2026年8月6日

国土交通省の安衛経費調査:内訳明示で8割が満額受領|標準見積書の導入へ

国土交通省の安衛経費調査:内訳明示で8割が満額受領|標準見積書の導入へ

国土交通省が2025年10〜11月に実施したウェブ調査によると、2025年12月施行の改正建設業法で確保が義務化された安全衛生経費を見積書に内訳明示して提示した事業者のうち、約8割が減額されることなく見積額の100%を受領できたことが判明しました。
見積書への内訳明示率自体は2割台と依然低い水準にあるものの、工種ごとの標準見積書や確認表を適切に活用して提示することが、元請・発注者からの正当な支払いと現場の安全担保を両立させる最大の鍵となります。

改正建設業法が求める安全衛生経費の確保と実態データ

改正建設業法(2025年12月施行)における制度的背景と規制強化

建設現場における事故防止と職人の安全確保は、これまで元請・下請双方の努力や現場ごとの運用に依存しがちな側面がありました。しかし、2025年12月に施行された改正建設業法では、安全対策を講じるための費用を「不可欠な原価」として位置付け、労務費、法定福利費、建設業退職金共済(建退共)掛金と並んで、請負契約締結時に確保・内訳明示すべき必要経費として法制化されました。

この改正法では、単に見積書に記載することを促すだけでなく、元請業者や発注者が下請業者に対して「著しく低い安全衛生経費」による見積もりを強要することや、正当な理由のない「不当な減額依頼」を行うこと自体を禁止しています。違反行為に対しては行政指導や指名停止措置などの厳しい規制が課されることとなり、取引適正化のための制度的枠組みが強固に構築されました。

このような法改正の背景には、建設業界が直面する深刻な人手不足(担い手不足)と高齢化の問題が存在します。若年層や新規入職者が安心して働ける安全な労働環境を整備するためには、安全対策に伴う費用を下請の自己負担や利益の削り出しに頼る構造を根本から是正する必要があったためです。

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?改正建設業法での変更点と企業が取るべき対応策を解説

専門工事業団体における標準様式(確認表・標準見積書)の作成進捗

国土交通省が2026年3月に専門工事業85団体を対象として実施した調査では、法整備を受けて業界団体がいかに具体策を講じているかが数値で示されました。各工種の施工特性に応じた「安全衛生対策項目の確認表」および「標準見積書」の策定状況は以下の通りです。

区分 作成完了 作成中 検討中 計(前向きな意向)
安全衛生対策項目の「確認表」 40団体(約5割、前年5月は34団体) 7団体 18団体 65団体(全体の約76%)
安全衛生経費の「標準見積書」 23団体(約3割、前年は13団体) 13団体 26団体 62団体(全体の約73%)

※国土交通省調査(2026年3月時点、85団体対象)より作成。

「確認表」とは、安全足場の設置や保護具の準備、誘導員の配置といった個々の安全衛生対策について、「元請と下請のどちらが実施・費用負担を行うのか」を事前明確化するためのチェックシートです。調査結果によると、約5割に当たる40団体で完成しており、作成中・検討中を含めると全体の約4分の3の団体が導入に前向き姿勢を示しています。

一方、確認表に基づいて算出された金額を見積書に独立して計上するための「標準見積書」についても、約3割の23団体が作成を完了させており、前年の13団体から着実に増加しています。専門工事業界全体として、客観的な基準に基づく積算体制の構築が加速していることが分かります。

建設業許可業者Web調査が明かす「内訳明示率」と「受領率」の乖離

法整備や団体の取り組みが進む一方で、現場レベルでの実際の見積提出状況には課題が残されています。国土交通省が建設業許可業者を対象に実施したウェブ調査(有効回答数6,051者、2025年10〜11月実施)では、以下のようなリアルなデータが浮き彫りとなりました。

工事区分 内訳明示して提出した割合(前年度) 内訳明示時に見積額の100%を減額なく受け取れた割合
公共工事 24.6%(23.7%) 78.9%
民間工事 20.8%(18.6%) 77.4%

※国土交通省「令和7年度 社会保険の加入及び賃金の状況等に関する調査」より作成。

このデータから読み取れる最も重要で特筆すべき事実は、「見積書に安衛経費を内訳明示して提示した事業者は、公共工事で78.9%、民間工事で77.4%が100%削られることなく満額受領できている」という点です。

しかしその反面、そもそも見積書に安衛経費を内訳明示して提出している割合は、公共工事で24.6%、民間工事で20.8%と、2割台の低い水準にとどまっています。多くの下請業者が「どうせ見積もっても削られるのではないか」「独自の計算根拠では説明がつかない」という先入観や従来の取引慣行から、内訳明示に踏み切れていない現状が見えてきます。

現在も公共・民間双方の工事で、約半数の事業者において「安全対策の実施主体や費用負担の役割分担が不明確なまま契約が交わされている」という実態が存在します。この不透明さを解消し、内訳明示率を引き上げることが今後の最優先課題と言えます。

参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正のポイントと発注者・受注者の実務を徹底解説

建設業界の各プレイヤーに与える具体的な影響と実務上の対応策

専門工事業・サブコン(下請)における機会と課題

今回の調査データで示された「内訳を明示すれば約8割は減額されずに満額通る」という結果は、下請事業者にとって強力な追い風となります。これまで曖昧なまま自社の粗利益から持ち出していた安全対策費用を、正当な「原価」として回収できる実証が得られたためです。

専門工事業者が今後実施すべき実務のポイントは、自社独自の曖昧な積算に頼るのではなく、自社が所属する業界団体が策定した「確認表」と「標準見積書」を全面的に導入することです。元請事業者との契約協議の段階で、あらかじめ「どの安全対策項目をどちらが負担するか」を確認表で摺り合わせ、その合意内容に基づいて標準見積書を作成し提出する手順を徹底する必要があります。

「提示してもどうせ通らない」という諦めの意識を捨て、客観的な法的根拠・団体基準を盾に正当な見積もりを行う姿勢こそが、自社の施工管理費や利益率を適正に防衛するための最大の武器となります。

ゼネコン(元請)におけるリスク管理と発注者交渉力の強化

元請業者であるゼネコンにとって、下請業者から提出された安衛経費の内訳明示見積もりに対して不当な減額交渉や一括叩きを行うことは、明確な法令違反リスクとなります。改正建設業法における適正取引規制の対象として、行政指導や公表リスクを背負うことになるためです。

そのため、ゼネコンには「下請からの安衛経費要請を適切に受領・検証する社内体制」の構築が不可欠となります。同時に、自社だけでその費用を抱え込むのではなく、さらに上流である「発注者(施主)」に対して、法改正に基づく必要経費として適切に価格転嫁・請求するフロントエンドの交渉力が問われます。

民間工事の現場においては、施主側に「安全衛生経費の支払いは法律で定められた発注者の義務である」という認識がまだ十分に浸透していないケースも少なくありません。ゼネコン側も標準見積書や国交省の広報リーフレットを活用し、契約根拠を明示して発注者を説得するプロセスが求められます。

行政・発注者による規制指導と周知啓発の加速

国土交通省をはじめとする規制当局は、今回の調査で判明した「内訳明示率2割台」という低水準を厳しく受け止めています。制度の形骸化を防ぐため、行政側は今後より一層の指導・監視体制を強化する方針です。

具体的には、元請・下請・一人親方のみならず、公共発注者、民間事業者、個人施主に至るまで、それぞれの立場に応じた専用リーフレットを作成・配布し、役割分担と費用負担の徹底を促しています。

また、著しく低い見積もりでの買い叩きや不当な減額要求が行われている事案に対しては、相談体制の整備や立入検査・指導の厳格化を進めています。公共工事においては、総合評価落札方式や事前公表価格への安衛経費の反映など、発注者側の積算基準そのものの見直しも進められています。

ConShiftの視点:安全対策費用が「サービス」から「削れない原価」へ

本調査結果が示している本質的な変化は、建設業界における「安全」の位置づけが劇的に再定義されたという点です。これまで安全対策費は、下請企業の自発的な努力やサービス精神、あるいは現場監督の工夫といった抽象的な概念で処理されがちでした。しかし、改正建設業法の施行と標準見積書の普及により、労務費や資材費と何ら変わらない「削ることが許されない必須原価」として市場に完全定着しつつあります。

この構造的シフトにおいて、今後企業の業績を大きく左右するのは「客観的なデータに基づく積算の標準化能力」です。

自社独自の感覚やどんぶり勘定で「安全対策費:一式」と提示する企業は、今後元請や発注者から根拠を問われた際に説明を果たせず、減額の対象とされるリスクが高まります。一方で、業界団体の確認表をベースに「どの作業にどのような安全対策が必要であり、それにいくらの費用がかかるのか」を細部まで言語化・数値化できる専門工事業者は、確実に受領率を高め、安定した利益率を確保できるでしょう。

また、ゼネコン側にとっても、下請の安衛経費を正当に評価し発注者へ転嫁できる企業こそが、優良な専門工事業者や技能者を確保できる時代へと突入しています。「安全コストを削減して利益を出す」時代は終わりを告げ、「安全コストを正しく積算し、正当に対価を得る」企業だけが持続可能な成長を遂げることができるのです。

まとめ:現場と経営層が明日から取り組むべき3つのアクション

改正建設業法に基づく安全衛生経費の義務化は、業界全体の取引適正化と担い手確保に向けた大きな一歩です。この法改正の恩恵を最大限に享受し、経営改善に結びつけるために、施工管理者や経営層が明日から実践すべきアクションを整理します。

  1. 自社工種の「標準見積書」および「確認表」の最新版を入手し導入する
    自社が所属する専門工事業団体(または関連団体)が公表している確認表と標準見積書のフォーマットを直ちにダウンロードし、積算実務の標準ルールとして社内に周知・定着させてください。

  2. 見積提示時に「安衛経費の内訳明示」を徹底し、従来の慣行を打破する
    「内訳を出しても削られる」という固定観念を捨て、確認表を添付した上で安衛経費を独立した項目として明記した見積書を提出してください。データが証明する通り、内訳を明示することで約8割の確率で減額なしの支払いを獲得できます。

  3. 元下間・発注者間での事前協議(役割分担チェック)を契約工程に組み込む
    工事着手前の契約協議段階において、確認表を用いて元請・下請間の安全対策項目の実施主体と費用負担を一つずつ双方で確認・合合する運用を義務化してください。元請企業においては、その合意内容を発注者への請負金額改定や増額交渉の根拠として提示する運用を確立しましょう。

出典: 日刊建設工業新聞
出典: 国土交通省

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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