大成建設と住友大阪セメントは、二酸化炭素(CO2)を原料とする人工石灰石を活用し、コンクリート1m3あたり最大約110kgのCO2を固定する技術について、国土交通省直轄の2現場における約3年間の実証試験を完了したと発表しました。既存の製造設備を変更せず従来と同等の施工性・耐久性を証明した本技術は、建設資材の脱炭素(GX)化を大きく加速させる実効性の高い成果として注目を集めています。
CO2固定量最大110kg/m3を達成した脱炭素コンクリート技術の全貌
建設業界におけるCO2排出量の大部分はセメントの製造過程に由来しており、脱炭素社会の実現に向けたコンクリート技術の革新は最重要課題の一つです。大成建設と住友大阪セメントが推進した本取り組みは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション(GI)基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」の一環として実施されました。
本技術の核となるのは、排出されたCO2を回収・固定して製造した人工石灰石(炭酸カルシウム)をコンクリートの原料として添加する手法です。これにより、コンクリート1m3あたり最大約110kgのCO2を内部に長期固定することが可能となりました。実験室での研究開発にとどまらず、実際の土木工事現場での適用と長期モニタリングを経たことで、社会実装に向けた技術的基盤が確立されました。
過酷な実現場における長期耐久性・品質の実証
本実証試験では、コンクリート構造物が晒される厳しい環境下での耐久性を評価するため、条件の異なる国土交通省直轄の土木工事2現場においてプレキャスト部材を導入し、約3年間にわたる追跡調査が行われました。
| 現場名・所在地 | 環境条件と検証目的 | 適用プレキャスト製品 | 実証結果と耐久性評価 |
|---|---|---|---|
| 成瀬ダム原石山採取工事(秋田県) | 寒冷地(厳しい凍結融解作用による凍害リスクの検証) | 落蓋式U形側溝 | ひび割れ・表面剥離・強度低下なし。従来と同等の耐凍害性を確認 |
| 荒島第二トンネル工事(福井県) | トンネル坑内(自動車排ガス等による中性化進行リスクの検証) | 縦壁付矩形水路 | 内部鉄筋の腐食や劣化なし。中性化抵抗性を十分に確保 |
3年間の現地モニタリングの結果、両現場ともに構造物のひび割れや表面剥離、強度の低下、内部鉄筋の腐食などは一切確認されませんでした。さらに、工場でのプレキャスト部材の製造に際しては、既存の調合・成形・養生設備や製造サイクルをそのまま活用可能であり、特別な設備投資や工程の変更を伴わずに導入できる点が実務上の強みとして確認されています。
プロジェクトの歩みとJIS規格改正への波及効果
本技術の開発から現場実証、そして標準化に向けた動きが進められてきました。
- 2021〜2022年:NEDOのGI基金事業に大成建設・住友大阪セメントの共同提案事業が採択され、CO2固定コンクリートの技術開発が本格化。
- 2022年9月〜10月:国土交通省直轄の成瀬ダム工事および荒島第二トンネル工事にて、実構造物への試行適用(プレキャスト製品の設置)を開始。
- 2026年3月:本実証事業で得られた技術データや知見の一部が反映される形で、「セメントの日本産業規格(JIS)」の改正が実施される。
- 2026年7月23日:約3年間の現地モニタリングと各種物理試験を終え、製品としての耐久性と実務上の施工性を公に発表。実用化フェーズへ移行。
また、本技術ではCO2固定量や要求される構造性能に応じて選べる4種類のコンクリート仕様が用意されています。これにより、高度な耐久性が求められる重要構造物から、施工性を優先する一般構造物まで、現場のニーズに応じた柔軟な適用が可能となっています。
建設サプライチェーンに与えるインパクトとプレイヤーごとの影響
公共工事の現場で実用性が証明されたことは、建設業界全体のサプライチェーンに大きな構造変化をもたらします。大手ゼネコンから地域の建設会社、建材メーカー、発注者に至るまで、それぞれの立場において実務上の対応が求められます。
元請けゼネコン・土木施工管理者への影響
公共工事における総合評価落札方式では、環境配慮型技術の導入や環境負荷低減に関する技術提案の重要性が増しています。今回、国土交通省の直轄工事において約3年間のデータに裏打ちされた実績が示されたことで、元請けゼネコンにとっては確実性の高いGX提案の強力な選択肢が加わったことになります。
特に施工管理部門においては、単に「環境に優しい材料を使う」だけでなく、CO2固定量の算出や品質データの証明を求められる機会が増加します。仕様ごとの固定量(最大110kg/m3)を把握し、積算時や施工計画書において適切な仕様選定を行う能力が受注力を左右する要素となります。
参考記事: 総合評価落札方式とは?加点項目と技術提案書の書き方・落札率を高める実務を解説
建材メーカー・サプライヤーへの影響
コンクリート製品メーカーや生コンクリート製造業者にとって、本技術の最大のポイントは「既存の製造設備や工程を変更せずに製造できる」点にあります。追加の大規模な設備投資を抑えつつ脱炭素建材のラインアップを拡充できるため、カーボンリサイクル製品の市場投入に向けたハードルが大きく下がります。
排出されたCO2を資源として捉え、建材の中に封じ込める「循環型サプライチェーン」の構築が現実味を帯びる中、早段階で対応可能な製造体制を整えたメーカーが市場における競争優位を獲得することになります。
発注者・行政機関への影響
国土交通省をはじめとする行政機関や地方自治体では、品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)に基づき、環境性能と品質を兼ね備えた新技術の積極的な導入が推進されています。
2026年3月のJIS規格改正に本実証成果の一部が反映されたことは、行政側が低炭素コンクリートを標準仕様や推奨基準として組み込む法的な地ならしが進んでいることを意味します。今後は直轄工事にとどまらず、地方自治体が発注する公共工事においても、CO2固定コンクリートの採用指定や総合評価での加点措置が広がる可能性が高まっています。
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正のポイントと発注者・受注者の実務を徹底解説
ConShiftの視点:施工管理における「炭素固定量証明」の義務化と現場の対応
本技術の実証完了が示唆する本質的な変化は、資材としてのコンクリートの位置づけが「CO2排出の主要因」から「CO2を永久固定する貯蔵庫(炭素ストレージ)」へと逆転した点にあります。
これまで施工管理における品質管理とは、圧縮強度、スランプ、空気量、塩化物イオン量といった物理的・化学的性能の担保を意味していました。しかし今後は、コンクリート1m3あたりに「実際に何kgのCO2を固定したか」という炭素固定量のデータを定量的に把握・追跡・証明する管理業務が新たな標準として加わることになります。
大成建設と住友大阪セメントの取り組みによって、CO2固定量に応じた4つの仕様区分が設定されたことは、現場での炭素管理が具体化した好例です。施工管理者は、構造物の要求性能とCO2削減目標の双方をバランスさせながら調達計画を立てる役割を担うことになります。
こうした変化に対応するためには、建設会社は施工プロセスのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、トレーサビリティを持った環境データの集計・管理体制を早期に構築することが不可欠です。環境性能を客観的に実証できる体制を持つ企業こそが、次世代の公共工事や大規模開発において選ばれ続けることになります。
明日から意識すべき環境対応へのアクション
経営層や施工管理リーダーが明日から取り組むべき実務上のアクションは以下の通りです。
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自社が関わる公共工事提案において低炭素コンクリート技術の活用余地を調査する
発注者が求める総合評価方式の技術提案において、JIS規格改正に対応したCO2固定コンクリート等の採用が可能か調達ルートを含めて確認します。 -
現場における資材調達データと炭素固定量の集計プロセスの可視化を開始する
使用する資材のCO2排出量および固定量をデータとして管理・集計する体制を現場レベルで整備し、将来の環境データ提出要請に即座に応えられる準備を進めます。

