建設DXを提供する株式会社CORDERは2026年7月23日、総合建設会社(ゼネコン)の積算担当者の65.5%が50代以上であり、2024年4月の時間外労働上限規制適用後も33.6%が打刻外業務を行っているという調査結果を公表しました。建設業界の原価管理を支える積算部門において技術継承の途絶とコンプライアンス違反の慢性化が同時に進行しており、従来の自社育成モデルを脱した組織構造の再構築が急務となっています。
ゼネコン積算部門を襲う高齢化と隠れ残業の実態
50代以上が65.5%を占める極端な年齢構成と2030年問題
今回の調査は、2025年12月17日から30日にかけて、全国の建設業従事者のうちゼネコンで主に積算業務を担当する113名を対象にインターネットで実施されたものです。調査結果から判明した最も衝撃的なファクトは、積算担当者の年齢構成における極端な歪みです。
| 年代 | 構成割合 | 現場における立ち位置と直面する組織課題 |
|---|---|---|
| 20代 | 5.3% | 極めて少数の存在。入社後の早期離職や教育リソース不足が課題 |
| 30代 | 9.7% | 中堅手前の若手。ベテランからの技術継承が遅れ負担が増大 |
| 40代 | 19.5% | 実務の核を担う中堅層。ベテランと若手の間に位置するが人数不足 |
| 50代 | 31.0% | 経験豊富なベテラン層。業務の属人化が進み個人へ業務が集中 |
| 60代以上 | 34.5% | 最多の構成比。数年以内の定年退職による技術大量流出のリスク |
50代以上が全体の65.5%(50代:31.0%、60代以上:34.5%)を占める一方で、20代と30代を合わせても15.0%(20代:5.3%、30代:9.7%)にとどまっています。中堅層である40代の19.5%を加味しても、ベテラン層との人数差は圧倒的です。
積算業務は、設計図面から施工に必要な資材や人工(にんく)を正確に拾い出し、工事原価を算出するゼネコンの収益の要です。しかし、60代以上の担当者が3分の1以上を占める現状から見ても、今後数年以内に大量のベテラン社員が退職期を迎えます。ベテランが持つ暗黙知や見積もりの知見が組織内に残らないまま退職が進めば、2030年前後には「組織的な積算業務の遂行そのものが不可能な状態」に陥る危険性が高まっています。
時間外労働の上限規制適用後も横行する「打刻外業務」
勤務実態に関する調査では、回答者の33.6%が「勤務時間として打刻した時間以外にも業務を行ったことがある」と回答しました。2024年4月より建設業においても時間外労働の上限規制(原則月45時間、年360時間など)が適用されましたが、約3人に1人の積算担当者が「打刻外業務(隠れ残業)」を行っている実態が明確になりました。
積算業務は締め切りが厳格であり、見積提出前には膨大な量の図面チェックや数量拾いが発生します。上限規制の遵守が社内で厳しく求められる一方、業務量そのものが削減されていないため、自宅への持ち帰り仕事やPCログを残さないサービス残業によって対応せざるを得ない現場の苦境が浮き彫りとなっています。
若手教育の失敗と積算精度低下への危機感
若手社員に対する技術教育の状況について、60.2%の担当者が「不十分である(部分的に進んでいるが不十分+ほとんど進んでおらず危機感がある)」と回答しました。教育を進める上での具体的な障壁・課題として以下の要因が挙げられています。
- 人材定着の難しさ(56.9%)
- 数量拾いにおける積算精度の低下(49.2%)
- コスト(単価)算出における積算精度の低下(47.7%)
従来の積算教育は、ベテラン社員の横につき長年のカンや経験を伝授する「徒弟制度」的な手法が主流でした。しかし、教育コストをかける余裕がないことに加え、過酷な労働環境によって「人材定着」が進まないため、教育体制そのものが崩壊しています。その結果、若手が算出した積算結果の精度に不安が残り、結局ベテランがダブルチェックや全修正を行わなければならないという悪循環が発生しています。
参考記事: 歩掛り(ぶがかり)とは?人工との違い・計算方法から原価削減の実務策まで解説
建設業界の主要プレイヤーに及ぶ具体的影響
ゼネコン(元請け):原価管理能力の喪失と赤字受注リスク
ゼネコンにとって、積算精度の低下は企業の経営基盤を直接揺るがす重大な脅威です。歩掛りや最新の資材価格、標準労務費の変動を的確に把握できないまま見積を作成した場合、不適切な低価格で受注してしまう「赤字受注(逆サヤ)」のリスクが跳ね上がります。
ベテラン社員が退職するまでの残された期間内に、「個人に閉じた暗黙知の形式知化(データ化)」と「定型業務のアウトソーシング」を完了させなければ、ゼネコンとしての最も根本的な強みである原価管理能力そのものを失うことになります。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?改正建設業法での変更点と企業が取るべき対応策を解説
行政・規制当局:実態調査と客観的ログに基づく労務管理の要求
約33.6%の担当者が打刻外業務を行っているという事実は、労働基準法および働き方改革関連法への実質的な違反状態を示唆しています。労働基準監督署による労務監査において、勤怠システムの自己申告打刻と、業務PCの起動・終了ログやメール送信履歴との不一致が厳しく追及されるケースが増加しています。
行政が推進する「建設業働き方改革加速化プログラム」を実質化させるためにも、ゼネコン各社に対しては、形式的な打刻管理を脱し、客観的データに基づいた徹底的な労務管理体制の構築が求められます。
参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?2024年適用後の3本柱と現場の対応手順を解説
SaaS・積算AIベンダー:単なるツール提供から「AI+BPO」統合支援へ
これまでのBIMや積算専用SaaSベンダーは、ツールの機能拡充を中心にサービスを展開してきました。しかし、積算部門の20〜30代比率がわずか15.0%にまで低下した現状では、高機能なツールを導入しても「使いこなせる社内人材がいない」という壁に直面します。
今後は、AIによる自動数量拾いなどのソフトウェア提供にとどまらず、人手不足を直接補う「専門積算士によるBPO(積算代行)サービス」を組み合わせた、ハイブリッド型のソリューションを提供できるベンダーが市場の主流となります。
ConShiftの視点:自社育成モデルから「プラットフォーム活用型」への完全転換
今回の調査結果が示している本質的な課題は、ゼネコンが長年依存してきた「自社で新卒・若手を採用し、10年かけて熟練の積算士に育てる」というインハウス型の育成モデルが完全に限界を迎えた点にあります。
積算業務は、図面の読み取り、幾何学的な数量計算、施工条件に応じた歩掛りの選定、資材・労務単価の把握など、広範かつ高度な専門知識を必要とします。若い世代の定着率が低下(56.9%が課題と回答)している中で、従来の徒弟制度的な教育を継続することは物理的に不可能です。
経営層が取るべき方向性は、積算業務を社内だけで完結させる発想を捨てることです。今後は、以下の2つの要素を融合させた「プラットフォーム活用型モデル」への再編が不可欠となります。
1. 図面拾いや数量算出の自動化・標準化
過去の見積データや図面情報をデジタル資産として構造化し、AIや専用ツールを活用して定型的な数量拾い作業を自動化します。これにより、経験の浅い若手でも標準的な精度で業務を行える環境を整えます。
2. 高度な非定型業務の外注化(BPO活用)
難易度の高い工法の検討や、大規模案件における下請企業との交渉・調整など、高度なノウハウが必要とされる領域については、専門の外部パートナー(積算代行企業など)へアウトソーシングします。
自社社員を「手作業で図面から数量を拾い出す単純作業」から解放し、AIが出力したデータの検証や最終的な原価調整というコア業務に集中させる体制を構築することこそが、2030年問題を乗り越える唯一の道筋です。
今後ゼネコン経営層が明日から取り組むべきアクション
ゼネコンの経営層や積算部門の責任者は、積算体制の崩壊を防ぎ、コンプライアンスリスクを低減するために、直ちに以下の取り組みに着手する必要があります。
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PCログと勤怠データの照合による「隠れ残業」の全社実態調査
勤怠管理システムの打刻記録と業務用PCの稼働ログを突き合わせ、33.6%に上る「打刻外業務」の実態を社内で早期に把握し、持ち帰り仕事やサービス残業が発生しない業務フローへと見直します。 -
積算ノウハウのデータベース化による「暗黙知」の形式知化
ベテラン社員の頭の中や個人のメモに留まっている歩掛りの適用基準や単価の調整ルールをフォーマット化し、社内のナレッジデータベースや積算AIツールへ集約を開始します。 -
積算代行(BPO)サービスの試用導入と外部連携体制の構築
繁忙期や大型案件の積算業務の一部を外部の専門パートナーへ委託し、自社担当者の負担軽減を図ると同時に、アウトソーシングを前提とした新たな業務分担モデルをテスト運用します。
出典: BUILT
出典: PR TIMES(株式会社CORDER プレスリリース)



