国土交通省は2026年7月31日、製造工程における二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減した鋼材「グリーン鉄(グリーンスチール)」を直轄工事に試験導入すると発表しました。2030年度以降の公共工事での本格活用を見据えた動きであり、建設業界における資材調達基準や入札評価のあり方に直接影響を与える重要な転換点となります。
国土交通省と経済産業省が主導するグリーン鉄試行工事の全容
今回の取り組みは、国土交通省と経済産業省が緊密に連携して進めるGX(グリーントランスフォーメーション)推進施策です。鉄鋼業は国内製造業におけるCO2排出量の約35%を占めるため、インフラ整備をはじめとする公共調達で初期需要を喚起し、脱炭素型資材の市場形成を後押しする狙いがあります。
国土交通省は同日付で「土木工事の脱炭素アクションプラン」を改定し、資材(鋼材)の脱炭素化に向けたロードマップを明確に位置づけました。2026年度中に10箇所以上の現場へ順次拡大する方針であり、その第1弾として直轄土木工事6件(鋼材使用規模:計約2,000トン見込み)が選定されています。
初弾に選定された直轄工事6案件の概要
初弾となる試行工事では、橋梁の上部工や排水路整備などが対象となっています。
| 発注機関 | 工事件名 | 所在地 | 対象工種・構造 |
|---|---|---|---|
| 北海道開発局 | 一般国道5号 仁木町銀山大橋上部中央工事 | 北海道 | 橋梁鋼上部工 |
| 中部地方整備局 | 令和7年度 鵜森三郷排水路整備工事 | 岐阜県 | 排水路整備(鋼矢板等) |
| 中部地方整備局 | 令和7年度 42号松阪多気BP朝田高架橋鋼上部工事 | 三重県 | 橋梁鋼上部工 |
| 中国地方整備局 | 令和7年度 福山道路赤坂東歩道橋鋼上下部工事 | 広島県 | 歩道橋鋼上下部工 |
| 四国地方整備局 | 令和7-9年度 安芸道路黒鳥高架橋上部A1-P2工事 | 高知県 | 橋梁鋼上部工 |
| 四国地方整備局 | 令和7-9年度 安芸道路黒鳥高架橋上部P7-A2工事 | 高知県 | 橋梁鋼上部工 |
これらの現場では、経済産業省の「GX需要創出・カーボンプライシング運営事業」と連携しながら、鋼矢板や橋梁用厚板などの実施工における流通スキームを検証します。また、日本製鉄のマスバランス方式GXスチール「NSCarbolex® Neutral」をはじめとする低炭素鋼材の採用が決定・発表されており、サプライチェーン全体での実効性が試されます。
試行工事を通じて検証される実務課題
単に資材を置き換えるだけでなく、公共工事の実務へ定着させるための標準化作業が並行して進められます。
- CFP(カーボンフットプリント)算定手法の標準化: 製造段階から施工現場への搬入、架設に至るまでのライフサイクル全体におけるCO2排出量を統一基準で算出する枠組みを検証します。
- サプライチェーンと流通体制の構築: 特殊な管理が必要となる低炭素鋼材のトレーサビリティ確保や、全国規模での安定調達網を整備します。
- GX価値の適正評価とコスト負担の検証: 通常鋼材と比較した調達コスト差(グリーンプレミアム)の扱いや、積算基準への反映方法を精査します。
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正のポイントと発注者・受注者の実務を徹底解説
建設バリューチェーン各層に及ぶ構造的影響
国交省直轄工事での試行開始は、2030年度の本格運用に向けて公共工事の評価軸が大きく変わる前触れです。施工者、資材流通、ITベンダーのそれぞれに新たな対応が求められます。
ゼネコン(元請け):環境価値が入札競争力に直結
公共工事の入札において、これまでのQCD(品質・コスト・工程)に加えて「環境(炭素排出量)」が同等の重要評価軸として組み込まれる可能性が高まっています。特に総合評価落札方式における技術提案や加点項目において、低炭素鋼材の調達実績やCFP算定精度が評価対象となる枠組みが想定されます。
これにより、現場ごとの資材選定にとどまらず、全社的な調達方針としてサプライヤーとの連携を深め、低炭素資材を確実に手配できる体制を整えることが受注力を左右する要因になります。
参考記事: 総合評価落札方式とは?加点項目と技術提案書の書き方・落札率を高める実務を解説
建材メーカー・サプライヤー:低炭素鋼材の認証と供給網の確保
高炉メーカー各社によるマスバランス方式や電炉材を活用したGXスチールの製品化が進む中、商社やファブリケーターを含めたサプライチェーン全体で正確な排出削減証明書を管理・伝達する体制が必須となります。
公共工事で指定される環境要件を満たせない資材は選定から除外されるリスクがあるため、流通段階での在庫管理やトレーサビリティの電子化が急速に求められることになります。
BIM・施工管理SaaSベンダー:排出量算定と資材マスターの統合
建設現場における環境負荷管理の義務化を見据え、施工管理ソフトやBIMツールへのCFP自動算定機能の実装が不可欠になります。設計データや積算データに炭素排出原単位を紐付け、歩掛や資材数量からCO2排出量を自動算出するシステム需要が拡大します。
現場の施工管理者が煩雑な計算業務に追われることなく、日々の出来高登録と連動して発注者提出用の環境レポートを作成できる機能が、SaaS選定の重要な基準になります。
ConShiftの視点(独自考察)
今回の試行工事は、建設業界において「炭素の価格化」が調達実務に本格的に組み込まれ始めたことを示しています。
従来、建設資材の調達は「設計仕様を満たす中で最も安価かつ納期に間に合うもの」という基準が中心でした。しかし、国交省が「土木工事の脱炭素アクションプラン」に基づき2030年度以降の本格導入を明示し、初弾として橋梁厚板や鋼矢板など主要構造部材で試行を開始したことで、炭素排出量の多寡が資材の選定可否に直結する時代に入りました。
今後は、2026年度の10現場以上での検証を経て、地方自治体の発注工事や民間発注の大型開発にもグリーン鉄の指定調達が波及することが予想されます。建設企業にとっては、積算時の単価比較だけでなく、資材ごとの削減量証明やCFPデータを迅速に提示できる体制を早期に構築することが、中期的な事業継続性を確保するための前提条件となります。
明日から意識すべきこと
グリーン鉄の公共工事導入に向け、建設実務者が即座に着手すべきポイントを整理します。
-
自社が扱う主要鋼材のCFPデータの把握
まずは橋梁材、鋼矢板、鉄筋など、自社で調達頻度が高い鋼材について、メーカーが提示しているCO2排出原単位やマスバランス方式による削減証明書の取得フローを確認してください。 -
総合評価落札方式での環境評価基準の動向注視
地方整備局が公表する工事発注見通しや入札公告において、低炭素資材の活用がどのように試行・加点対象として組み込まれているかを継続的にモニタリングしてください。 -
積算・施工管理データの電子化と連携準備
資材数量データから炭素排出量を算出できるよう、施工管理ツールや原価管理システムの資材マスター整備を進め、データ連携が可能な環境を整えておくことが重要です。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 国土交通省
出典: 経済産業省



