大成建設、成和リニューアルワークス、JP Droneの3社は2026年8月26日、360°カメラ搭載ドローンを活用した管路点検手法「T-pipe vision 360」を共同開発し、KHネオケム四日市工場の排水管路調査に適用したと発表しました。作業員が狭隘・酸欠リスクのある管内に立ち入ることなく、最大100m区間を連続撮影して地上・地下一体型の高精度3Dモデルを構築できる本技術は、老朽化する地下インフラの維持管理業務を劇的に効率化する画期的な取り組みです。
地下インフラ老朽化と安全対策が迫る「非立ち入り点検」の必然性
高度経済成長期以降に集中的に整備された下水道管路や工場敷地内の埋設排水管路は、全国的に供用開始から数十余年が経過し、急速な老朽化が進行しています。管路の腐食やクラック、継手部のズレに起因する道路陥没や漏水事故は、社会インフラの信頼性を揺るがす重大な課題となっています。特に化学工場や大規模生産施設における排水管路の破損は、有害物質の漏洩や工場の操業停止に直結するため、予防保全に基づく計画的な点検・修繕が強く求められています。
しかし、従来の埋設管路調査には構造的・環境的な高いハードルが存在していました。
従来の管路調査が抱えていた技術的・安全上の課題
従来の管路点検では、作業員がマンホール等から管内へ直接進入し、目視や手持ちカメラで劣化状況を記録する手法が一般的でした。しかし、管路内部は以下のような極めて過酷な環境に晒されています。
- 酸素欠乏や硫化水素などの有毒ガス発生による中毒・窒息リスク
- 管径が小さく足場が悪い狭隘空間での転倒・挟まれリスク
- 暗所作業に伴う視認性の低下と、それに起因する損傷箇所の見落としリスク
- 水位の上昇や突発的な排水流入による水難事故リスク
これらのリスクを回避するため、送気マスクの装着や換気設備の設置、監視員の配置など厳格な安全対策が講じられてきましたが、人手不足が深刻化する建設・維持管理業界において、重厚な安全要員を常時確保することは年々困難になっています。
また、自走式TVカメラを管内に走らせる手法も普及していますが、前方を撮影する標準的な単眼カメラでは、管路の全周(天井部・側壁部・水面付近)を一度に網羅することが難しく、カメラの向きを変えながら何度も往復撮影する必要がありました。さらに、取得された映像から異常箇所を見つけたとしても、「その損傷が地上のどの位置(直上位置)に該当するのか」を正確に特定するには、地上と地下の図面を突き合わせた煩雑な測量作業が必要であり、補修工事における掘削位置のズレや交通規制計画の手戻りを引き起こす要因となっていました。
このような背景から、作業員が管内に一切立ち入ることなく、短時間で管内全周を漏れなく撮影し、地上データとシームレスに位置統合できる新たな点検ソリューションが渇望されていました。
参考記事: 奥村組、2026年8月にいわき市で下水管調査をワンストップ化した実証結果を発表
管路点検手法「T-pipe vision 360」の技術構造と実証成果
大成建設ら3社が開発した「T-pipe vision 360」は、360°カメラを搭載したドローンとSfM(Structure from Motion:多視点ステレオ写真測量)技術を融合させ、安全・高精度・短時間での管路調査を実現する革新的な点検手法です。
共同開発企業の役割と推進体制
本技術の開発は、ゼネコンの総合力、リニューアル工事の現場知見、そして産業用ドローンの要素技術を融合させた共同体制によって推進されました。参画各社の役割は明確に分担されています。
| 企業名 | 代表者 | 主な役割と機能 |
|---|---|---|
| 大成建設株式会社 | 代表取締役社長 相川善郎 | 技術開発全体の統括、地上・地下一体型3Dモデル構築、CIM連携による補修計画高度化 |
| 成和リニューアルワークス株式会社 | 代表取締役社長 大石憲寛 | 大成建設グループの総合エンジニアリング企業として、インフラ維持管理・リニューアル実務への適用展開 |
| JP Drone株式会社 | 代表取締役社長 後藤純一 | 非GPS・閉鎖性狭小空間向けドローン機体の開発、点検フライト技術の提供 |
飛行型と舟艇型ドローンの仕様とハイブリッド運用
管路内の環境は、完全な気中状態から満水・流水状態まで多岐にわたります。「T-pipe vision 360」では、管径や水位、管内の飛行空間といった現場条件に応じて、「飛行型ドローン」と「舟艇型ドローン」の2種類の機体を柔軟に使い分けるハイブリッド運用体制を確立しています。
| 項目 | 飛行型ドローン | 舟艇型ドローン |
|---|---|---|
| 機体寸法(横×縦×高さ) | 230mm × 210mm × 40mm | 300mm × 450mm × 320mm |
| 搭載センサー・機器 | 高解像度360°パノラマカメラ、LED照明 | 高解像度360°パノラマカメラ、LED照明 |
| 最大調査可能距離 | 最大延長約1.5km程度(通信安定時) | 最大延長約1.5km程度(通信安定時) |
| 主要適用環境 | 気中空間(管径や飛行クリアランスが確保できる管路) | 有水部・水上(一定の水位が存在する管路) |
| 走行・移動方式 | 4ローターによる自律・遠隔飛行 | 水面浮遊・スクリューまたは水流推進 |
いずれの機体も、暗小空間での撮影を担保する強力な全方位照明と、管壁に接触しても飛行・航行を継続できる保護ガードを備えています。非GPS環境下である地下管路内においても安定した操作性を保持し、通信環境が良好であれば最大延長約1.5kmまでの長距離点検に対応可能です。
KHネオケム四日市工場における実証調査の内容
本技術の有効性を検証するため、三重県四日市市に位置する化学プラント「KHネオケム株式会社 四日市工場」の敷地内排水管路をフィールドとした実証調査が実施されました。
実証調査の実施概要
- 調査対象区間①:管径1,350mm、延長約100mの管路(飛行型ドローンを適用)
- 調査対象区間②:管径1,500mm、延長11.3mの管路(飛行型ドローンおよび舟艇型ドローンを併用適用)
- 調査体制:ドローン操縦者1名、補助員2名の計3名体制
- 管内立ち入り:完全非立ち入り(マンホール開口部からの機体投入・回収のみ)
実証の結果、管径1,350mm・延長100mの長距離区間において、作業員が一度も管内に立ち入ることなく、全区間の360°連続高解像度映像の取得に成功しました。
また、11.3m区間における往復の実移動時間は、飛行型ドローンで約90秒、舟艇型ドローンで約2分30秒を記録しました。機体の投入から撮影、回収までを短時間で完結できるため、工場排水の一時的な流量制限や生産ラインの停止時間を最小限に抑えられる運用効率の高さが証明されました。
SfM技術による高精度3Dモデル化と地上・地下一体統合
「T-pipe vision 360」の最大の技術的ブレイクスルーは、取得した360°映像から高精細な3Dモデルを生成し、それを地上の3D地形・構造物モデルとセンチメートル単位で空間統合するプロセスにあります。
1. 360°全周撮影による見落としの低減とSfM解析
搭載された360°カメラは、機体の全方位を同時に記録します。前方カメラのように方向転換を繰り返す必要がないため、管路の側壁や天井部、水際部におけるクラックや滞水痕を死角なく捉えることができます。この連続パノラマ静止画群からSfMアルゴリズムを用いて管内形状を3次元点群・メッシュデータとして復元します。
2. マンホール立坑部を基準点とした地上・地下モデルの空間統合
管路本体だけでなく、マンホール直下の垂直立坑部も同時に撮影・3Dモデル化します。地上部でドローン空撮や地上測量によって取得した「地上部3Dモデル」と、立坑部の同一基準点(マンホール縁やステップ位置など)をマッチングさせることで、地上と地下がシームレスにつながった「一体型3Dデジタルツイン」を構築します。
3. 計測精度:設計値1,500mmに対し誤差約7mmを達成
舟艇型ドローンで取得したデータをもとに管径1,500mmの管路を3Dモデル化し、デジタル空間上で管径寸法を計測したところ、計測値は約1,507mmという結果が得られました。設計値1,500mmに対する誤差はわずか約7mm(誤差率約0.47%)にとどまり、実務における健全度評価や維持管理計画に十分適用可能な計測精度であることが実証されました。
参考記事: 東京ミッドタウン八重洲でロボ4台が稼働、ビルOS対応が受注力に直結
建設サプライチェーンと維持管理実務に与える波及効果
「T-pipe vision 360」がもたらす地上・地下一体型3Dモデルは、単なる点検作業の省力化にとどまらず、建設会社、現場管理者、施設発注者のそれぞれに対して大きな実務変革をもたらします。
ゼネコン(元請け):新設中心から「データ駆動型ストックマネジメント」への競争力シフト
国内の建設投資が新設から維持更新・長寿命化へと大きく舵を切る中、ゼネコン各社には「建てて終わり」ではなく「竣工後のライフサイクル全体を支える技術力」が問われています。
地下埋設物はこれまで「見えないブラックボックス」であり、改修や更新工事のたびに試掘調査や地上測量を行う多大なコストが発生していました。大成建設が示したように、地上と地下を統合したデジタルツインを構築・保有できる能力は、プラント施設や都市インフラの包括管理受託(PPP/PFIやコンセッション事業)における決定的な差別化要素となります。
将来的な更新計画において、BIM/CIMデータと点検データを連動させることで、精緻な工事費積算や工期シミュレーションを初期提案段階から提示できるようになり、元請けとしての受注競争力を飛躍的に向上させます。
現場監督・施工管理者:手戻りのない補修計画立案と安全管理の高度化
施工管理現場において、地下埋設管の補修工事は最も不確実性が高く、トラブルが発生しやすい工種の一つです。
従来は「図面上の位置」と「現場の地上位置」のズレにより、舗装を切断して掘削したものの目的の損傷箇所から数メートルずれていたという手戻りが頻発していました。しかし、地上・地下統合3Dモデルを活用すれば、地下の異常箇所(クラックや継手外れ)の直上地上位置がセンチメートル単位で特定できます。
これにより、現場監督は以下のような実務メリットを享受できます。
– 工事用重機(バックホウやクレーン)の最適な配置計画をオフィス内の3Dモデル上で事前シミュレーション可能
– 道路や工場内通路の交通規制範囲を必要最小限に絞り込み、近隣や工場稼働への影響を抑制
– 酸欠・狭隘空間への作業員立ち入りを点検フェーズでゼロ化し、労働災害リスクを根本から排除
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発注者・プラント管理者:突発事故リスクの低減と修繕投資の最適化
工場やプラントを保有する民間企業や、上下水道インフラを管理する自治体にとって、維持管理コストの抑制と操業の継続性確保は経営の最重要命題です。
「T-pipe vision 360」によって取得された高精度な3Dデータは、施設台帳やアセットマネジメントシステムに直接組み込むことが可能です。従来の定性的な「写真台帳」から、管径の変形量やクラックの深さ・幅を定量的にモニタリングできる「デジタル資産」へと進化します。
これにより、劣化が軽微な段階でのピンポイントな補修(予防保全)が可能となり、突発的な管路破損による工場操業停止や巨額の緊急復旧工事コストを回避し、中長期的なライフサイクルコスト(LCC)を最小化できます。
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ConShiftの視点|「目視点検」から「地上・地下統合デジタルツイン」へのパラダイムシフト
大成建設、成和リニューアルワークス、JP Droneによる「T-pipe vision 360」の開発は、建設業界における地下インフラ管理のパラダイムを根本から転換させる意義を持っています。
地下空間の「ブラックボックス化」を打破する3D座標統合の威力
これまでインフラDXやデジタルツインの社会実装は、ドローン空撮や地上レーザースキャナーが活用しやすい「地上構造物(橋梁・ビル・ダムなど)」が先行してきました。一方で、地下空間はGPSが届かず、暗所かつ閉鎖空間であるため、点群データの取得や地上座標との紐付けが極めて困難な「DXの空白地帯」でした。
本技術の核心は、単にドローンを管内に飛ばして映像を撮ったことではなく、「立坑を介して地上と地下の点群モデルを一体化し、地上からの絶対位置を導き出したこと」にあります。誤差約7mmという精度は、土木工事の実務公差を十分にクリアする水準であり、これにより地下空間は「推測して掘る対象」から「地上と同じ精度で画面上で設計・施工できる対象」へと変化しました。
CIMデータ連携が拓く「インフラ維持管理の自動化プラットフォーム」
大成建設らは今後、本手法とCIM(Construction Information Modeling)技術との連携を進め、点検から維持管理情報を統合したデジタル管理基盤の構築を目指す方針を示しています。
この動きが進展すれば、将来的には以下のような高度な自動化オペレーションが現実味を帯びてきます。
1. 定期的なドローン自動航行による管内3D点群データの差分比較
2. AIによる管壁クラックの進展度や変形量の自動検知
3. CIMモデル上での補修工法選定・積算・発注図面生成の自動化
インフラ維持管理が「職人の勘と経験による目視調査」から「点群データとAIによる定量評価」へと移行する中で、地上・地下を統合した空間データを握る企業が、次世代のインフラ保全市場におけるプラットフォーマーとしての主導権を握ることになるでしょう。
まとめ|次世代インフラ維持管理に向けた3つの実務アクション
地下インフラの老朽化と建設就業者の減少が加速する中、非立ち入り点検と3Dデジタルツインの導入は不可避の流れとなっています。建設企業の経営層や施工管理者、インフラ維持管理の担当者が明日から取り組むべきアクションを3点にまとめます。
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自社が関与する閉鎖空間・危険作業における「非立ち入り化」の対象業務を洗い出す
点検や調査において作業員がマンホールや暗渠、ピットなどの危険空間へ立ち入っている業務をリストアップし、ドローンやロボットの代替適用可能性を検証しましょう。 -
「地上測量」と「地下点検」を個別に発注・管理する分断プロセスの見直しを進める
調査データを単体の写真や動画で終わらせず、地上座標や図面と紐付いた3Dデータ・点群データとして一元管理できるデータ連携パイプラインを設計しましょう。 -
維持管理フェーズにおけるCIM・デジタルツインの利活用体制を早期に構築する
新設工事の施工BIM/CIMにとどまらず、既存構造物の点検データを取り込んで補修・更新工事の設計や積算に直結させる技術ナレッジを組織的に蓄積しましょう。
地上と地下の境界を越えてデータをシームレスに統合する技術を取り入れることが、これからのインフラ維持管理市場を勝ち抜く確かな原動力となります。
出典: 大成建設株式会社 プレスリリース
出典: 成和リニューアルワークス株式会社 お知らせ
出典: 日刊建設工業新聞



