Skip to content

Conshift(コンシフト)

  • 施工管理
  • 人材マネジメント
  • 積算・受発注
  • 政策動向
  • ツール紹介
  • 統計分析
  • 用語辞典
Home > 品質・安全> 前田建設工業、切羽圧の10秒先予測でシールド工事の属人化打破へ
品質・安全 2026年9月4日

前田建設工業、切羽圧の10秒先予測でシールド工事の属人化打破へ

前田建設工業、切羽圧の10秒先予測でシールド工事の属人化打破へ

前田建設工業が推進するシールドトンネル工事向け「切羽圧制御支援システム」において、ULSグループ傘下のULSコンサルティングが支援したリアルタイムAIモデルが実施工現場で熟練技術者と約90%の判断一致率を記録しました。地下工事の安全性と品質を左右する最重要工程「切羽圧管理」の暗黙知を約3000項目の特徴量からアルゴリズム化し、共通基盤を通じて他現場へ即座に水平展開できる本成果は、建設業の技能伝承と施工自律化を大きく前進させる契機となります。

シールド工事の難所「切羽圧制御」をAIが支援する新体制

都市部や大深度地下のインフラ整備において広く採用されるシールド工法において、切羽(掘削先端面)の安定確保は地盤崩落や地表面沈下を防ぐための生命線です。

2026年9月3日、ULSグループの中核子会社であるULSコンサルティングは、前田建設工業が開発した「切羽圧制御支援システム」のAIモデル設計およびプロトタイプシステム開発を支援した実績を公表しました。本システムは、掘進に伴って複雑に変動する切羽圧をAIが解析し、約10秒先の圧力変動を高精度に予測してオペレーターへ警報を通知する仕組みです。

熟練技術者の長年の勘と経験に依存していた切羽圧制御を客観的なデータとアルゴリズムへと置き換える本技術は、どのような背景から開発され、どのような仕様を持つのか、その全体像を整理します。

切羽圧制御支援システムの開発背景と公開情報

本システムの開発および現場実証は、前田建設工業が自社のシールド工事共通基盤上で推進してきたDX戦略の一環です。前田建設工業は2026年5月27日に本システムの現場適用成功を公表しており、今回ULSコンサルティングがAI構築支援のパートナーとしての詳細な技術アプローチを開示しました。

項目 詳細仕様・発表内容
システム名称 切羽圧制御支援システム
開発主体・支援企業 前田建設工業株式会社(開発主体)、ULSコンサルティング株式会社(AIモデル構築・システム開発支援)
公表日 前田建設工業:2026年5月27日、ULSコンサルティング:2026年9月3日
解析データ規模 現場の各種センサーから約3000項目の特徴量を抽出
予測時間軸 約10秒先の切羽圧変動および上限・下限値超過の予兆
予測精度 実施工現場において熟練技術者の判断と約90%の確率で一致
警告機能 画面の発光・点滅、警告音によるオペレーターへの即時アラート通知
稼働基盤 シールド工事共通データプラットフォーム「MAIOSS-Ⅱ(マイオス・ツー)」
展開計画 前田建設工業の現場に加え、インフロニアグループ内の三井住友建設の現場へ水平展開予定

本取り組みの最大の特徴は、特定現場のみでしか機能しない専用システムではなく、同社が社内統一規格として運用するシールド工事共通プラットフォーム「MAIOSS-Ⅱ」上で稼働する点です。他現場への展開が迅速に行えるアーキテクチャが当初から設計されています。

切羽圧管理が抱えてきた「暗黙知の属人化」という壁

シールド工法は、円筒形のシールドマシンを地中で推進させながら、先端のカッターヘッドで地盤を掘削し、掘削土砂を後方へ排出しつつセグメントを組み立ててトンネルを構築する工法です。

この掘進プロセスにおいて最も神経を使うのが、切羽に作用する土圧や水圧に対抗し、掘削面を崩壊させないように保持する「切羽圧」のコントロールです。切羽圧が低すぎると地盤が崩落して地上道路の陥没事故を引き起こし、逆に高すぎると地表面の隆起やベントナイト泥水の噴発トラブルを招きます。

これまで、この切羽圧の微細な調整は熟練オペレーターの「暗黙知」に依存してきました。掘削対象となる地層は、硬質な粘土、軟弱なシルト、礫混じりの砂層など、数十メートル掘り進むだけでもめまぐるしく変化します。オペレーターは、ジャッキの推進速度、カッタートルク、スクリューコンベヤの回転数、注入材の圧力、排土量など、計器に並ぶ膨大な数値を同時に視認しながら、経験に基づく直感で排土バルブの開閉や推進スピードの微調整を行っていました。

しかし、24時間連続稼働が基本となるシールドトンネル工事において、すべてのシフトに最高峰の熟練技術者を常時配置することは困難を極めます。技術者の経験年数や体調、当日の集中力によって制御精度にばらつきが生じやすく、掘進トラブルの未然防止と品質の均一化が業界全体の重要課題となっていました。

参考記事: シールド工法とは?土圧式・泥水式の選び方から標準手順・最新DX技術まで解説

開発に至る時系列とインフロニアグループの展開

本システムの開発は、単発の現場思いつきで実現したものではなく、前田建設工業が数年前から段階的に進めてきたデータ基盤整備の上に成り立っています。

年月 出来事・マイルストーン
2024年3月29日 前田建設工業がシールド工事共通データプラットフォーム「MAIOSS-Ⅱ」を開発し、社内統一規格として導入(5現場に先行導入)
2024年4月1日 改正労働基準法が施行され、建設業への時間外労働上限規制が全面適用
2024年6月 第三次・担い手3法(改正建設業法等)が成立し、適正な工期設定や賃金原資確保が法制化
2025年5月14日 前田建設工業の持株会社インフロニア・ホールディングスが三井住友建設の完全子会社化に向けたTOBを発表し経営統合へ合意
2026年5月27日 前田建設工業が「MAIOSS-Ⅱ」を活用した「切羽圧制御支援システム」の開発および現場適用成功を公表
2026年9月3日 ULSコンサルティングが同システムのAIモデル構築およびプロトタイプ開発を支援した実績を正式発表

2024年3月に社内規格化された「MAIOSS-Ⅱ」は、運転制御、品質管理、物流、安全環境、トラブル防止というシールド工事に関わる5つの基幹データをクラウドへ集約する統合システムです。このデータ基盤に蓄積された実施工のセンサーログや熟練オペレーターの操作ログが十分に揃ったことで、高度な機械学習モデルを構築する素地が整いました。

さらに、インフロニア・ホールディングスによる三井住友建設の統合により、本技術は前田建設工業単体の現場にとどまらず、グループ全体の土木現場へと水平展開される道筋が確立されています。

3000項目の特徴量から10秒先を予測するAIアルゴリズム

切羽圧制御の難しさは、掘進に関わる各種設備や地盤の物理量が相互に複雑に絡み合っている点にあります。推進ジャッキの圧力を変化させてから切羽圧に影響が出るまでには一定の時間遅れが存在し、スクリューコンベヤの排土速度を変えればチャンバー内部の土圧バランスも同時に崩れます。

この非線形な現象をモデル化するため、ULSコンサルティングは現場の多種多様なセンサーデータから約3000項目もの特徴量を抽出しました。シールドマシンの油圧、推力、トルク、泥水・添加材の流量、ストローク変位、地盤性状の推定値など、時間遅れ(タイムラグ)を考慮したパラメータを組み合わせ、切羽圧の変動および管理値(上限・下限)を逸脱する予兆を先読みするAIモデルを設計・検証しました。

シールド工事の専門技術者とAIエンジニアが共同で学習データの精査と評価基準のすり合わせを重ねた結果、実際の現場検証において「約10秒先の切羽圧変動」を熟練技術者の判断と約90%の確率で一致させる高精度を達成しました。

異常や圧力逸脱の兆候を検知した場合、システムは画面の発光や点滅、警告音によって瞬時にオペレーターへ通知します。10秒という時間は、短く見えるものの、シールドマシンの操作においては排土バルブを絞る、あるいはジャッキスピードを落とすといった初動の是正アクションを起こすために十分な猶予を生み出します。

参考記事: 大成建設とエイシング、直径11mシールド機の自動運転で誤差3mm以内を達成


迫る構造的変化と建設業界各層への波及効果

日本の建設業は、就業者の高齢化と若手入職者の不足という深刻な担い手不足に直面しています。国土交通省の公表データによると、建設業就業者数はピーク時(1997年)の685万人から2022年には479万人へと約30%減少しました。さらに、就業者の約35〜36%を55歳以上の高齢層が占める一方、29歳以下の若年層は約12%にとどまっています。厚生労働省の有効求人倍率統計でも、土木・建築技術者の倍率は4倍台後半から5倍近傍で推移しており、極度の人手不足が常態化しています。

熟練技術者の大量離職が現実のものとなる中、切羽圧制御のAI化は建設業界のサプライチェーン各層に大きな実務的インパクトを与えます。

ゼネコン(元請け):施工精度の平準化とグループ横断での資産活用

総合建設会社(元請けゼネコン)にとって、シールドトンネル工事における地盤沈下や陥没事故は、企業の社会的信用を失墜させかねない致命的なリスクです。

従来の施工管理では、現場ごとに配置されるオペレーターの技量によって掘進の安定性に差異が生じるリスクを抱えていました。切羽圧制御支援AIの導入により、どの現場、どの掘進シフトであっても、熟練技術者と同等の予兆検知体制を常時敷くことが可能になります。人的なミスや判断遅れに起因する施工トラブルが抑制され、全社的な施工品質が平準化されます。

さらに、前田建設工業が整備した「MAIOSS-Ⅱ」のように、データ基盤を標準化してAIを組み込むアプローチは、経営統合を進めるインフロニアグループ(三井住友建設を含む)全体でのスケールメリットを最大化します。現場ごとにバラバラだった暗黙知をグループ共通のデジタル資産へと転換し、総合評価方式の入札における技術提案力強化へ直結させることができます。

現場監督・施工管理者:初動対応の迅速化と心理的重圧の軽減

シールド工事の現場を担当する現場代理人や施工管理者にとって、切羽圧の管理は最も神経をすり減らす業務の一つです。夜間掘進中に異常圧力が検知された場合、現場監督が詰所に駆けつけて状況を把握し、指示を出すまでにタイムラグが生じます。

切羽圧制御支援システムが実装されれば、3000項目の特徴量を監視するAIが、圧力の異常逸脱を約10秒前に先回りしてアラートを発信します。事後的な異常発生への対症療法ではなく、予兆段階での初動対応が可能になるため、地盤変状のリスクを未然に摘み取ることができます。

また、掘進管理室のオペレーターにとっても、AIによる二重チェック体制が機能することで、重大インシデントへの心理的重圧が大幅に軽減されます。画面の警告通知と連動して適切なアクションを取る運用マニュアルを整備すれば、経験の浅い若手技術者であっても熟練者に近い判断基準を早期に習得でき、現場教育の期間短縮にも寄与します。

ITコンサル・AIベンダー:現場基盤と連動した「業務特化型共創モデル」の重要性

テクノロジーを提供するITコンサルティング企業やAIベンダーにとっても、今回のULSグループの取り組みは極めて示唆に富んでいます。

国土交通省が公表した「令和8年版(2026年版)国土交通白書」によると、日本の建設・運輸現場におけるAI導入率は約1割にとどまり、日米の民間AI投資額には250倍以上の開きが存在します。現場へのAI導入を阻む要因の上位には「導入・運用コストの高さ」や「現場の個別作業が多く標準化が困難なこと」が挙げられています。

汎用的な画像認識や単一の予測アルゴリズムを持ち込むだけでは、泥土や高水圧に囲まれた特殊な土木現場のニーズに応えることはできません。今回の事例のように、ゼネコン側が構築したデータ基盤(MAIOSS-Ⅱ)を正確に理解し、シールド技術者のドメイン知識を抽出して3000項目もの特徴量を設計できる「業務特化型の共創支援」を提供できるベンダーだけが、今後の建設DX市場で強固なポジションを確立できます。

参考記事: 国土交通白書、民間AI投資は米国の250分の1|現場導入1割の打開策


ConShiftの視点|「地下の非可視空間」で進む施工自律化のフロンティア

前田建設工業とULSコンサルティングによる切羽圧予測AIの実装は、建設DXの重心が「現場の帳票デジタル化」や「地上の測量可視化」といった初期フェーズを脱し、「不可視領域における重機オペレーションの自律化」へと完全に移行したことを示しています。

地上での建設作業であれば、高精度GNSSやドローン、LiDARセンサーを活用して施工対象を直接三次元計測し、建機のガイダンスや自律制御を行うことが可能です。しかし、地下数十メートルの地盤を進むシールドマシンは、周囲が完全に土砂や地下水に閉ざされた極限環境で稼働しています。切羽の崩壊兆候を直接目で見ることはできず、オペレーターは機体のセンサー群が発する間接的な信号から地下の動態を推論するしかありませんでした。

この「地下の非可視性」こそが、これまで高度な熟練の勘を要求し、シールド工事の自動化を阻んできた最大の障壁でした。今回、3000項目の特徴量を駆使して切羽圧変動の10秒先予測を約90%の精度で一致させた成果は、間接的なセンサーデータから地下の物理現象を正確にアルゴリズム化できることを証明しました。

先行して大成建設が外径11m級の大断面シールドにおいて「エッジ逐次学習AIによる方向制御(ジャッキ推力配分)」で到達誤差3mm以内を達成した事例と合わせ、シールド工事を構成する中核サブシステムが着実にAIへと置き換わりつつあります。

【シールド工法における主要サブシステムの自律化ロードマップ】

 [方向制御・線形追従]
  ・ジャッキ推力重心のリアルタイム自動制御(大成建設等の先行実証)
            │
            ▼
 [切羽圧・地盤保持制御] ← 今回の到達点(前田建設工業・ULS)
  ・3000項目の特徴量解析による約10秒先の圧力変動予測(一致率約90%)
  ・MAIOSS-Ⅱを通じた逸脱予兆警報と操作ガイド化への進化
            │
            ▼
 [統合自律制御プラットフォーム]
  ・方向制御 + 切羽圧制御 + 排土量・裏込め注入制御の完全同期
  ・地上管制室からの複数シールド機遠隔モニタリング・完全無人掘進

前田建設工業は、現在の「逸脱予兆の警報通知機能」にとどまらず、今後は逸脱を自動で回避する「操作ガイド機能」へと進化させる方針を示しています。方向制御、切羽圧制御、そして排土量や裏込め注入の制御がひとつのAIアーキテクチャ上で同期したとき、シールドトンネル工事は「熟練工が暗闇の運転席で操作する重機」から、「地上の遠隔監視室からソフトウェアが統括管理する工業プロセス」へと完全に変貌を遂げることになります。


まとめ|明日から現場と経営が意識すべき3つのアクション

熟練技術者の暗黙知をAIで形式知化し、共通データ基盤上で水平展開する前田建設工業の取り組みは、すべての建設企業に対して次世代の技術戦略のあり方を示しています。人手不足が一段と深刻化する中、経営層や現場リーダーが明日から着手すべき実務的なアクションを整理します。

  1. 自社が抱える「職人芸・熟練操作」の暗黙知を数値パラメータへと棚卸しする

自社が手掛ける工種(トンネル、深礎、地盤改良、基礎杭打ち、構造物据付など)において、ベテランの勘や経験に頼っている操作や判断を洗い出します。どの圧力、回転数、電流値、変位速度を組み合わせればその判断を説明できるのか、特徴量としてのデータ化可能性を整理します。

  1. 現場個別でのツール導入をやめ、全社横断の「共通データ基盤」を設計する

現場ごとに異なる計測システムやベンダーのツールを場当たり的に導入することを中止し、前田建設工業の「MAIOSS-Ⅱ」のように、施工ログが全社共通フォーマットで蓄積されるデータ基盤を構築します。データが標準化されていなければ、どれほど高度なAIモデルを開発しても他現場へ迅速に水平展開することはできません。

  1. ドメイン知識を深く理解できるテック企業との「共創開発体制」を確立する

市販のパッケージソフトをただ導入するだけの関係を脱し、自社の土木・建築技術者と外部のAIエンジニアが一体となってデータ検証やPoC(概念実証)を進められる共創パートナーを選定します。自社が持つ現場データと外部のアルゴリズムを掛け合わせ、自社固有の強みとなるデジタル資産を内製化していく姿勢が不可欠です。


出典: 財経新聞
出典: ULSコンサルティング株式会社 ニュースリリース
出典: 前田建設工業株式会社 プレスリリース(2026年5月27日)
出典: 前田建設工業株式会社 プレスリリース(2024年3月29日)

Share this article:

監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

関連記事

清水建設の遠隔装薬、1孔30秒で切羽の完全無人化と安全性向上を実現
2026年8月28日

清水建設の遠隔装薬、1孔30秒で切羽の完全無人化と安全性向上を実現

南九州道・妙見第一橋復旧に予備費206億円、施工管理者に求められる機動性
2026年8月6日

南九州道・妙見第一橋復旧に予備費206億円、施工管理者に求められる機動性

清水建設、最大1800人規模の現場で8秒顔解析AI導入し熱中症防ぐ
2026年9月2日

清水建設、最大1800人規模の現場で8秒顔解析AI導入し熱中症防ぐ

ConShift

建設業のビジネス知識に関心を持つ経営層・現場リーダーのための課題解決メディア。現場のノウハウから最新のDX事例まで、ビジネスを加速させる情報をお届けします。

カテゴリー

  • 施工管理
  • 品質・安全
  • コスト管理
  • 人材マネジメント
  • 積算・受発注

もっと探す

  • 政策動向
  • BIM/CIM
  • 法規制・制度
  • 海外トレンド
  • ツール紹介
  • 統計分析
  • 建設業界用語辞典

サイト情報

  • 運営者情報
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • LogiShift
  • TechShift

© 2026 ConShift. All rights reserved.