国土交通省は2026年8月24日、土砂崩壊や重機接触の危険が伴う砂防・地すべり対策工事において、遠隔操作と自動施工技術の標準化を推進する検討委員会の中間とりまとめを公表した。建設業全体の労働災害が減少基調にある一方、砂防関係工事では年間2〜5件の死亡災害が横ばいで発生しており、直轄事業で年間1割未満にとどまる導入率の引き上げと地域中小建設業への実装を目指す。
砂防工事における遠隔・自動施工推進の経緯と現場実態
山間部や傾斜地で施工される砂防関係事業は、出水期や積雪期による厳しい工程制約を受ける現場が多く、地震や大雨の直後には二次災害の危険を抱えたまま緊急の土砂撤去や流木処理が求められる。重機の旋回範囲への作業員立ち入りや不安定な土砂の崩壊によって重大な人身事故が絶えず、安全管理の抜本的な見直しが長年の課題となっていた。
こうした過酷な作業環境を無人化するため、国土交通省は平時工事を含めた遠隔・自動施工技術の普及に向けた制度設計を開始した。
検討委員会の立ち上げと制度標準化の歩み
国土交通省は2024年4月に策定した「i-Construction 2.0」に基づき、2040年度までに建設現場の作業員を少なくとも3割省人化(生産性1.5倍向上)させる目標を掲げている。この方針に沿って、危険リスクの高い砂防関係事業での技術実証と現場導入の標準化プロセスが段階的に進められた。
| 年月日 | 出来事・施策の推移 | 主催・関係機関 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 「i-Construction 2.0」を策定、2040年度に向けた省人化目標を設定 | 国土交通省 |
| 2025年7月 | 立谷沢川上流松沢地区管理用道路整備工事で遠隔・自動施工を試行 | 東北地方整備局新庄河川事務所、新庄砕石工業所 |
| 2026年6月10日 | 砂防関係事業における遠隔・自動施工の推進検討委員会(第1回)開催 | 国土交通省 |
| 2026年6月18日 | 日本建設機械施工大賞で新庄砕石工業所らの取り組みが選考委員会賞を受賞 | 一般社団法人日本建設機械施工協会 |
| 2026年6月19日 | 令和8年度 全国砂防関係工事安全施工管理技術研究発表会を開催 | 全国砂防関係工事安全施工管理技術研究発表会実行委員会 |
| 2026年8月24日 | 砂防関係事業における遠隔・自動施工の推進検討委員会の中間とりまとめ公表 | 国土交通省 |
参考記事: 国土交通省、砂防工事の遠隔施工で作業効率1.36倍向上へ中間まとめ
直轄事業の実施率1割未満が突きつける中小普及の壁
国土交通省の推進検討委員会資料によると、2025年度時点における直轄砂防関係事業の遠隔・自動施工実施率は、年間の工事件数全体に対して1割未満にとどまる。大手ゼネコンが開発してきた無人化施工システムは、大規模災害の緊急復旧や大規模土工プロジェクトを主眼に設計された専用機が多く、導入にかかる設備投資や通信基地局の構築コスト、専任オペレーターの育成負荷が地域中小土木企業の導入障壁となっていた。
砂防工事の多くは地域の中小建設会社が元請・下請として施工を担っており、高額な専用重機を自社保有する投資モデルは成立しにくい。大手主導の特殊技術にとどまっていた自動化施工を、一般的な油圧ショベルや運搬車に汎用機器を組み合わせる形態へと転換させることが、普及に向けた必須条件となっている。
新庄砕石工業所らが実証した一連作業の自動化モデル
地域の中小土木企業が導入可能な現実的モデルとして選考委員会賞を受賞したのが、山形県の新庄砕石工業所を中心とする官民共同の実証プロジェクトである。同社は国土交通省東北地方整備局新庄河川事務所立谷沢川砂防出張所、建機メーカーの日立建機、レンタル大手の西尾レントオール、AI画像解析を手がけるトライポッドワークスの5者体制で現場実証を推進した。
実証現場となった「立谷沢川上流松沢地区管理用道路整備工事」では、既存の建設機械に後付け可能な遠隔操作ユニットを装着した油圧ショベルと、自動運転システムを搭載したクローラダンプを連携させた。さらにAIカメラを用いて施工エリア内の障害物検知や土砂の積込み判定を実施し、流木の切断から土砂の掘削、ダンプへの積込み、運搬ルートの自律走行に至る一連の工程を無人化・自動化した。
有人施工と比較したAIカメラによる解析結果では、遠隔操作および自動走行の連携によって、作業要員1名あたりの作業効率が通常施工比で1.36倍に向上した。作業員を崩落の危険がある法面直下や重機の旋回半径内から完全に排除しながら、施工スピードを落とさずに稼働を維持できる体制を実証している。
参考記事: 建設RX・施工ロボットとは?設立背景や主要技術・現場での活用メリットを解説
建設業界の各プレイヤーに及ぼす影響
砂防工事における遠隔・自動施工の標準化は、施工を請け負う地域企業から機材の調達先、発注制度を運用する行政機関まで、サプライチェーン全体に実務上の変化をもたらす。
地域中小建設業・地場土木会社
中小建設会社にとっては、危険現場への立ち入りを前提とした安全管理コストの削減に直結する。法面崩壊や土砂崩落のリスクが高い砂防現場では、常時監視員の配置や退避経路の確保、危険手当の支給が必要とされていたが、遠隔・自動施工の導入によりこれらの監視要員を作業員から省くことが可能になる。
技能労働者の高齢化が進む地方都市において、過酷な現場環境からのオペレーター解放は若手採用や就労定着の改善要因となる。エアコンを備えた遠隔操作室や現場事務所内からのレバー操作が可能になれば、身体的疲労や熱中症のリスクが軽減され、経験年数の浅いオペレーターでもAIガイダンスや自動運転のアシストを受けながら一定水準の土工品質を確保できるようになる。
建機メーカーおよび建機レンタル企業
建機流通を担うメーカーやレンタル会社には、専用設計の新型機を販売するアプローチから、既存機を活用できるレトロフィット(後付け型)機器と汎用自動走行ユニットの供給体制への転換が求められる。中小土木会社は工事ごとに機材をレンタルで調達する傾向が強いため、遠隔操作ボックス、通信アンテナ、検知カメラをセットにしたパッケージ型レンタル商品の需要が拡大する。
現場ごとの電波到達性や山間部の通信環境を考慮し、衛星通信(スターリンク等)や可搬型Wi-Fiメッシュネットワークと連動させた通信トラブルのない機材パッケージの構築が、レンタル会社の競争力を左右する。トラブル発生時に即座に現地対応できる技術サポート要員の配備も、受注獲得の前提条件となる。
行政・規制当局(国土交通省および地方自治体)
国土交通省は今回公表した中間とりまとめを基礎として、遠隔・自動施工に対応した積算基準の改定および歩掛の策定作業に入る。現行の歩掛体系は現場内での有人作業を前提として組まれており、遠隔操作装置の損料や初期設置費、通信回線維持費、AI解析費用が適切に計上されない構造が普及を妨げていた。
今後は直轄砂防工事における遠隔・自動施工の指定型発注や施工者希望型発注を増やし、実証データを収集したうえで、総合評価落札方式における技術提案での加点措置を講じる方向にある。さらに国の直轄事業だけでなく、都道府県や市区町村が発注する治山・急傾斜地崩壊対策工事への波及を見据え、標準仕様書への技術要件の反映を進める体制が整備される。
参考記事: 国総研が遠隔施工実験に2000万円、異業種人材の建機操縦参入を促す
ConShiftの視点(独自考察)
雲仙普賢岳の災害復旧から始まった日本の無人化施工は、これまで「大規模災害時の特殊工法」として扱われてきた。しかし、新庄砕石工業所の実証が示した「作業効率1.36倍」というデータは、遠隔・自動化が災害時の退避手段ではなく、平時工事における生産性向上ツールとして採算ベースに乗り始めたことを示している。
大手ゼネコンが開発する独自開発の閉じたシステムから、日立建機、西尾レントオール、トライポッドワークスのように建機メーカー・レンタル企業・ITベンダーが標準機材を持ち寄るオープンなアライアンスモデルへ移行した点に本質がある。自社で膨大な開発投資を行えない地方の中小企業であっても、レンタル網を通じて外部から技術モジュールを調達することで、大手に依存せず高度な自動化現場を立ち上げられる構造が確立された。
直轄砂防工事の遠隔施工率が現状で1割未満にとどまるという事実は、国交省の積算歩掛改定とレンタル網の整備が整った瞬間に、一気に現場浸透が進む余地があることを意味する。年間2〜5件の死亡災害が続く危険作業を有人で続けさせる現場管理は発注者側からも是正対象となり、遠隔・自動施工への対応力を持たない施工会社は危険現場の入札から排除される段階へ移行しつつある。
まとめ
国土交通省の中間とりまとめ公表により、砂防・地すべり対策現場における遠隔・自動施工は、平時工事の標準仕様へ向けて制度設計が加速している。施工会社は自社が抱える山間部・傾斜地現場の危険度を洗い出し、主要レンタル会社と連携して後付け型遠隔操作機器の調達手順を早期に確認しておく必要がある。
出典
- 出典: 労働新聞社Webサイト
- 出典: 国土交通省
- 出典: 国土交通省(中間とりまとめ資料)
- 出典: 一般社団法人日本建設機械施工協会
- 出典: トライポッドワークス株式会社
- 出典: PR TIMES(株式会社新庄砕石工業所)



