国土交通省は2026年10月1日、「持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会」の専門部会である「第1回 入札・発注ワーキンググループ」を開催します。地方自治体における技術系職員の減少や災害対応の激甚化を踏まえ、入札不調・不落の抑止やオープンブック・コストプラスフィー(OBCF)契約の活用促進に向けた制度設計に着手します。
新ビジョン策定に向けた入札・発注WGの設置経緯と主要論点
国土交通省は、2017年に策定した「建設産業政策 2017+10」に続く新たな建設業政策の指針(新ビジョン)を2027年夏頃にとりまとめる計画を進めています。この親会となる検討会の下、制度運用の実効性を高める専門部会として「企業評価ワーキンググループ(WG)」と「入札・発注ワーキンググループ(WG)」が設置されました。
新ビジョン策定と専門WG設置のタイムライン
2024年6月に公布された「第三次・担い手3法(品確法・入契法・建設業法)」は、2025年12月に不当に低い請負代金による契約締結の禁止規定などが完全施行されました。これを受けて国交省は、法制度の実効性を高めつつ、中長期的な産業構造転換を導くための議論を進めています。
| 年月 | 政策・会議体名 | 主な決定事項と検討内容 |
|---|---|---|
| 2017年7月 | 建設産業政策 2017+10 | 若手入職促進や生産性向上を目指す10年計画を公表 |
| 2025年6月〜2026年3月 | 今後の建設業政策のあり方に関する勉強会 | 全7回にわたり技術者確保や発注契約等の課題を抽出 |
| 2026年7月9日 | 新ビジョン策定検討会(第1回) | 大久保哲夫座長(三井住友信託銀行特別顧問)を選任、2つのWG設置を決定 |
| 2026年9月17日 | 企業評価WG(第1回) | 蟹澤宏剛座長(芝浦工業大学教授)のもと、経営事項審査等の見直しに着手 |
| 2026年10月1日 | 入札・発注WG(第1回) | 自治体の入札改善、災害対応、OBCF契約の活用促進を議論開始 |
| 2027年夏頃(予定) | 新ビジョン策定とりまとめ | 中央建設業審議会(中建審)への報告を経て新指針を公表 |
参考記事: 担い手3法(品確法・入契法・建業法)とは?法改正の変遷と実務で押さえるべきポイントを徹底解説
入札・発注ワーキンググループで協議される4つの主要論点
2026年10月1日に中央合同庁舎2号館で開催される初会合では、事業者ヒアリングを含め、自治体発注の改善と新たな契約手法の定着が議論される見通しです。
| 検討領域 | 直面する課題 | WGにおける制度的アプローチ |
|---|---|---|
| 地方自治体の発注体制 | 技術系職員の減少による積算・監督業務の機能不全 | 発注事務の共同化・外部委託、積算基準の簡素化推進 |
| 入札不調・不落対策 | 実勢価格との乖離による事業遅延・再入札増 | 実勢を反映した予定価格の設定、適切なスライド条項の運用徹底 |
| 激甚化する災害対応 | 発注手続きの遅延と復旧工事の担い手不足 | 包括的調達方式や随意契約ガイドラインの明確化 |
| 契約方式の多様化 | 価格固定型契約による受注者のコスト高騰リスク | オープンブック・コストプラスフィー(OBCF)契約の普及・民間波及 |
このうち「オープンブック・コストプラスフィー(OBCF)契約」は、実費(原価)を開示した上で、あらかじめ合意した一定割合または定額の手数料(フィー)を請負代金とする契約手法です。資材価格の乱高下や工期変更リスクを受注者が一手に背負う従来の総額請負契約の限界を打開する仕組みとして、公共工事だけでなく民間工事への適用手法も検討対象に含まれています。
参考記事: 入契法(公共工事入札契約適正化法)とは?基本構造や4つの柱、施工体制台帳の提出義務を徹底解説
入札・発注制度の見直しが業界各層に及ぼす実務影響
入札・発注WGで検討される施策は、直轄工事を発注する国土交通省にとどまらず、地方自治体、元請ゼネコン、民間の施主・デベロッパーの契約実務に直接影響を及ぼします。
行政・地方自治体:発注業務の標準化と積算体制の再構築
小規模自治体を中心に技術系職員の退職や採用難が進み、直轄工事基準に準拠した積算や設計図書の作成が追いつかない自治体が増加しています。
本WGの検討を通じて、都道府県と市区町村の間での共同発注体制の構築や、発注者支援業務(CM方式等)の活用指針が改定される見通しです。実勢価格と乖離した予定価格の積算による不調・不落を減らすため、国交省が示す最新の標準労務費や資材単価補正係数の即時導入が地方自治体にも強く要請されます。
元請ゼネコン:原価連動型契約への移行と見積精度の担保
元請ゼネコンにとっては、予定価格の適正化とスライド条項(単品スライド・インフレスライド)の運用の明確化により、原価割れによる不採算受注リスクを抑える土台が整います。
OBCF契約の適用が拡大した場合、ゼネコン側には資材調達価格や下請専門工事会社への支払実績といった原価データの透明性が求められます。ブラックボックス型の利益確保は通用しなくなる一方、施工プロセスの合理化や資材調達力に応じた正当なフィー(報酬)を契約上で確保する積算・管理能力が受注競争力に直結します。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント
民間施主・デベロッパー:コスト透明化契約の受容とリスク分担
公共工事の調達制度の見直しは、建設業法上の適正工期確保や不当廉売禁止の規定を媒介として、民間工事の受発注取引にも波及します。
資材高騰が続く中で、民間工事においても固定総額請負契約によるゼネコン側の辞退や見積辞退が常態化しています。WGで策定されるOBCF契約の運用指針やモデル契約約款は、民間施主にとっても不確実性の高いプロジェクトを着工させるための実効的な選択肢となります。
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
ConShiftの視点|OBCF契約が迫る「原価開示型」施工管理への転換
入札・発注WGが初会合でOBCF契約の活用促進を論点に据えた事実は、従来の「確定総額・落札後リスク請負型」の調達モデルが制度的限界を迎えていることを裏付けています。
自治体工事で頻発する不調・不落は、積算基準の更新遅れと実勢市場価格との乖離によって生じています。これに対し、原価実績に一定の手数料を加算するOBCF手法が実用化されれば、不調の解消だけでなく、突発的な資材高騰時における受注者の経営破綻リスクを回避できます。
一方で、OBCF契約の定着はゼネコンに対して「原価管理の徹底的な透明化」を要求します。実行予算と下請発注金額、材料伝票の整合性をデジタルデータで即時に発注者へ提示・証明できる管理インフラを持たない企業は、この新たな契約枠組みから排除されるリスクを抱えることになります。
まとめ|新発注基準の運用を見据えた実務対応
国交省の入札・発注WGによる制度設計は、2027年夏の新ビジョン策定を経て全国の地方自治体や民間工事契約へと順次浸透していきます。
- 自治体案件におけるスライド条項適用条件と積算根拠の再点検
自社が応札する自治体の入札公告において、最新の労務単価改定やスライド条項の運用ルールが反映されているかを積算段階で厳密に確認する。
- 原価データの開示・証明に耐えうる管理システムの構築
OBCF契約の導入を見据え、下請契約金額や資材購入実績を工事ごとに追跡・出力できるERPや原価管理ツールの運用基準を社内で整備する。
出典: 建設通信新聞Digital
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 国土交通省 検討会配付資料



