- キーワードの概要:鉄骨建方とは、工場で作られた柱や梁などの鉄骨部材を建設現場に運び、クレーンで吊り上げて建物の骨組みを組み立てる工事のことです。
- 実務への関わり:重機の選定や建て逃げと呼ばれる組み立て順序の計画を綿密に行うことで、現場の安全確保や作業効率の向上、工期短縮に大きく貢献します。
- トレンド/将来予測:近年はBIMを用いた3次元シミュレーションによるクレーン作業半径の事前検証や、地上で部材を一体化する地組み工法の活用が進んでいます。
- 鉄骨建方の基本概要と施工計画|重機選定から「建て逃げ」ルート設計まで
- 現場条件に応じた揚重機(クローラー・ラフテレーンクレーン)の選定基準
- 建て逃げ順序の決定と地組みスペース・搬入動線の計画
- 【工程別】鉄骨建方の標準施工手順と重要管理ポイント
- アンカーボルト据付〜柱・梁の揚重・地組みと仮ボルト締め
- 建入れ直しとJASS 6に準拠した管理許容差
- 高力ボルト本締めとデッキ敷き・現場溶接
- 建入れ直しの実践技術|測定方法とワイヤー・チェーンブロックによる調整手順
- トランシットを用いた2方向多点計測の手順
- ワイヤー・チェーンブロックによる引き調整と熱膨張補正
- 鉄骨建方の安全管理基準|安衛則の遵守と墜落・飛来崩壊防止対策
- 高所作業における墜落防止設備の設置
- 強風・悪天候時の作業中止基準とクレーン玉掛け合図
- 鉄骨建方の施工管理チェックリストとDX・3D計測による精度向上
- 施工計画・受入・建方・完了時の3段階施工管理チェックリスト
- 3Dレーザースキャナー・BIMを活用した建入れ直し計測と施工DX
- よくある質問(FAQ)
鉄骨建方の基本概要と施工計画|重機選定から「建て逃げ」ルート設計まで
鉄骨建方とは、工場で製作・加工された柱・梁・ブレースなどの鉄骨部材を現場へ搬入し、クレーン等の揚重機を用いて所定の位置に吊り上げ、立体的な骨組へと組み立てる一連の工事を指します。基礎アンカーボルトへの柱建てから始まり、仮ボルトによる接合、建入れ直し(倒れ・垂直度の修正)、高力ボルトの本締め、現場溶接、デッキプレート敷設に至る構造体構築の根幹工程です。
建方工事の成否は、着工前の施工計画によって決まります。敷地境界、上空障害物、地盤耐力、進入路幅員などの制約条件に対し、揚重機の作業半径不足や、クレーンが現場から退出できなくなる「閉じ込め」を防ぐため、事前の綿密な動線・揚重検討が不可欠です。
現場条件に応じた揚重機(クローラー・ラフテレーンクレーン)の選定基準
鉄骨建方で使用する揚重機の選定では、「最大作業半径における定格荷重」「作業高さ」「地盤支持力」の3要素を検証します。吊り上げる部材の自重に、玉掛けワイヤロープや吊り具(天秤等)の重量を加算した「総吊り上げ荷重」を算出し、クレーンの定格総荷重表に対して安全率(一般的に定格荷重の70〜80%以下)を見込んだ範囲に収めます。
| 項目 | ラフテレーンクレーン(ホイールクレーン) | クローラークレーン |
|---|---|---|
| 走行・接地方式 | タイヤ駆動(4輪駆動・4輪操舵) | 無限軌道(キャタピラ) |
| 作業時の設置条件 | アウトリガーの最大張出しが必須 | 幅広履帯による面接地(アウトリガー不要) |
| 主なメリット | ・公道自走が可能で機動性が高い ・狭小地や市街地現場に適応 |
・吊り荷を吊った状態での移動(地引き・走行)が可能 ・軟弱地盤での接地圧が比較的低い |
| 主なデメリット | ・吊り荷走行は原則不可 ・アウトリガー設置スペースの確保が必要 |
・公道自走不可(現場への搬入・組立解体にトレーラーと相番クレーンが必要) |
揚重機選定における実務上の主要な検討項目は次の通りです。
- 作業半径と定格総荷重の検証
- ブームを最も倒した状態(最大作業半径)で取り付ける最遠部の梁や柱の重量を算出し、クレーンの定格荷重を下回っているか確認します。
- 隣接建物や架空線などの上空障害物がある場合、ブームの旋回角度や起伏角度に干渉しない揚程・ブーム長さをシミュレーションします。
- 地盤耐力と養生計画
- アウトリガー反力やクローラー接地圧に対して地盤が耐えられるかを地質調査データに基づき確認します。
- 地盤支持力が不足する場合は、厚さ $22\,\text{mm}$ 以上の敷鉄板を二重敷きにする、あるいは地盤改良を行うなどの沈下・転倒防止措置を講じます。
- 相番(あいばん)クレーンの配置計画
- 大型クローラークレーンの組立・解体時や、地上で複数の部材を一体化する「地組み」作業時の部材反転・保持用途として、主クレーンとは別に配置する補助クレーン(相番クレーン)の作業スペースおよび作業可能半径を確保します。
建て逃げ順序の決定と地組みスペース・搬入動線の計画
建方計画における基本原則が「建て逃げ」です。敷地の最奥部や重機の進入路から最も遠い工区から建方を開始し、クレーンが自ら組み立てた鉄骨架構に退路を塞がれないよう、出口方向へ後退(逃げ)しながら組み立てを進めます。
建方順序の不整合は、クレーンの旋回範囲内に既設フレームが干渉して部材を吊り込めなくなる事態を招くため、以下の手順に沿って詳細な工区割り・動線計画を立案します。
- 工区割り(ゾーン分け)と剛性確保の順序
- 建物全体の構造特性を考慮し、原則としてブレース構造や耐震壁などの耐震要素(固定芯)が含まれる構面から先行して組み立てます。
- 最初に着手する工区でアンカーボルトへの柱建て、梁の仮ボルト締め、建入れ直し、ワイヤロープによる控え取りまでを完了させ、自立安定した「基準構面(鳥かご状の安定架構)」を早期に形成します。
- 地組み(じぐみ)ヤードの配置計画
- 地組みとは、高所作業時間を削減し施工効率を向上させる目的で、地上に仮設架台を設け、柱と梁、あるいは大梁と小梁・ブレースをあらかじめ地上でボルト接合・一体化しておく工法です。
- 地組みヤードは、主クレーンの揚重作業範囲内かつ部材搬入トラックの荷下ろしがスムーズに行える位置に配置します。
- 架台周辺には、玉掛け作業員やボルト締付作業員が安全に通れる足元通路を確保します。
- 搬入動線と揚重効率の最適化
- 鉄骨部材を積載した大型トレーラーやトラックが進入・荷下ろし・転回・退出するための動線を一方通行(ワンウェイ)で計画します。
- 部材の現場到着後すぐに吊り上げて取り付ける「直送建方」を行うか、敷地内のストックヤードに一度仮置きして地組みを行うかを部材単位で明確にし、部材製作工場側と搬入時間を分単位で調整します。
事前にBIM等を用いた3次元モデルや施工ステップ図を作成し、柱・梁の部材長さとクレーンブームの旋回クリアランス、地組みヤードの広さ、仮設通路の干渉を可視化して検証することで、手戻りのない建方計画が成立します。
【工程別】鉄骨建方の標準施工手順と重要管理ポイント
鉄骨建方は、基礎工事で埋設されたアンカーボルトへの柱脚据え付けから始まり、柱・梁の骨組形成、建入れ直し、各種本接合、スラブ受けとなるデッキプレート敷設まで連続して進行します。施工管理技術者は、各ステップにおける技術基準値や許容誤差を把握し、品質不良や手戻りを防ぐ工程内検査を実施します。
アンカーボルト据付〜柱・梁の揚重・地組みと仮ボルト締め
鉄骨建方の精度と安全性を左右する起点工程が、基礎コンクリート打設前後のアンカーボルト据付および柱脚のレベル調整です。
- アンカーボルトの据付とレベル調整
- アンカーボルトの埋設精度は、通り芯のズレを±3mm〜±5mm以内、高さを±2mm以内に収めて管理します。
- 露出柱脚工法では、無収縮モルタルを用いた「まんじゅう工法」等によりベースプレート下面のレベル(天端高さ)を正確に調整します。
- 二重ナット(ダブルナット)および座金を用いて締め付けを行い、建築基準法施行令第66条およびJASS 6に基づき、ボルトのねじ山がナットの外側に「3山以上」突出していることを確認します。
部材を吊り上げて接合する際は、風荷重や作業荷重による倒壊を防ぐため、直ちに仮ボルト締めを行います。
- 仮ボルトの締結基準と選定ルール
- 締結本数: 国土交通省『公共建築工事標準仕様書』および日本建築学会『JASS 6』の規定に基づき、本接合が高力ボルト接合の場合は「1群のボルト数の1/3以上かつ2本以上」を均等に締め付けます。混用接合や併用継手の場合は「1/2以上かつ2本以上」が必要です。
- ボルトの種別: 仮ボルトには、本接合用ボルトと同軸径の普通ボルト(中ボルト)を使用します。建入れ調整時や孔合わせ時に無理なせん断力や衝撃が加わると、ねじ山の損傷や遅れ破壊の原因となるため、本締め用の高力ボルトを仮ボルトとして流用することは禁止されています(エレクションピース等の仮接合部は高力ボルトを使用し、全数締め付けます)。
【仮ボルト締結の標準ルール】
・一般の高力ボルト継手 : 1群のボルト孔数の「1/3以上」かつ「2本以上」
・混用接合・併用継手 : 1群のボルト孔数の「1/2以上」かつ「2本以上」
・エレクションピース : 高力ボルトを使用し「全数」締め付け
※仮ボルトには普通ボルト(中ボルト)を使用し、本締め用高力ボルトの流用は不可
建入れ直しとJASS 6に準拠した管理許容差
仮ボルトで仮組みした直後の骨組には、製作誤差やクリアランスによる傾きが生じています。本締めや溶接を行う前に、建物の垂直精度を正規の位置へと矯正する作業が「建入れ直し」です。
直交する2方向からトランシット(トータルステーション)やレーザー鉛直器を用いて柱の倒れ・通り芯のズレを計測し、ターンバックル付きワイヤロープやチェーンブロックで引き戻しながらミリ単位で補正します。
| 測定項目 | 管理許容差(目標精度) | 限界許容差(是正・組直し基準) |
|---|---|---|
| 柱の鉛直度(倒れ) | $e \le H/1000$ かつ $10\,\text{mm}$ 以下 | $e \le H/700$ かつ $15\,\text{mm}$ 以下 |
| 建物全体の倒れ | $e \le H/4000 + 7\,\text{mm}$ かつ $30\,\text{mm}$ 以下 | $e \le H/2500 + 10\,\text{mm}$ かつ $50\,\text{mm}$ 以下 |
※ $H$ は柱の高さまたは建物の全高を表します。
管理許容差を超えた場合は直ちにワイヤの引き具合を再調整します。限界許容差を超えたまま本接合を完了させた場合、外壁パネルやサッシの取付不能、構造耐力の低下を引き起こし、部材の解体・組直しといった手戻りにつながります。
高力ボルト本締めとデッキ敷き・現場溶接
建入れ直し完了後、本接合工程へ進みます。接合工法は主に「高力ボルト摩擦接合」と「現場溶接」に分かれます。
- 高力ボルト本締めの標準手順
- 仮ボルトの入れ替え: 普通ボルトで締めていた仮ボルトを、本締め用の高力ボルトセットへ1本ずつ全数入れ替えます。
- 一次締め: 専用のトルクレンチを用い、規定トルク値(トルシア形高力ボルトの場合は一般に100〜150N・m程度)でボルト群の中央から外側に向かって均等に締め付けます。
- マーキング: ボルトの先端(ねじ部)、ナット、座金、母材にまたがる直線を耐候性マーカーで一直線にマーキングします。
- 本締め: 専用締付機(シャーレンチ)を用いて本締めを行い、ピンテールが破断したことを確認します。
- 締付け後検査: 目視によりピンテールの破断状況を確認し、マーキングのズレからナットの共回り・軸回り・座金連れ回りを検査します。
【高力ボルト本締めの3ステップ】
[一次締め] ───> [マーキング] ───> [本締め(ピンテール破断)]
(中央から外側へ) (ボルト〜母材へ一直線) (目視・共回り検査)
高力ボルトの本締めと並行して、現場溶接および床デッキプレートの敷設を行います。
- 現場溶接の品質管理
- 柱相互の継手(完全溶け込み溶接)などでは、開先形状の確認、エンドタブおよび裏当て金の取付状態を点検します。
- 気温が5℃以下の環境下では母材の予熱(20〜40℃以上)を実施し、溶接割れを防止します。
- 溶接完了後、外観目視検査に加えて超音波探傷試験(UT)等の非破壊検査を行い、内部欠陥の有無を判定します。
- デッキプレート敷設・スタッド溶接
- 梁の上フランジにデッキプレートを割付け通りに敷設し、即座に焼抜き溶接を行って風荷重等による飛散を防ぎます。
- コンクリートスラブとの一体化を図る頭付きスタッド溶接後は、打撃曲げ試験(15度曲げ)で破断や溶接欠陥がないことを確認します。
- これらの高所作業においては、先行して張られた親綱へのフルハーネス型墜落制止用器具のフック掛け、および水平養生ネットの展張を徹底します。
建入れ直しの実践技術|測定方法とワイヤー・チェーンブロックによる調整手順
アンカーボルト上に建てられた鉄骨柱の倒れやねじれを放置したまま高力ボルト本締めに移行すると、建物全体の鉛直精度が崩れ、外壁パネルやサッシの納まり不良を引き起こします。精度の高い測定と、治具を用いた微細な引き調整手順を確立して作業を進めます。
トランシットを用いた2方向多点計測の手順
建入れ直しにおける柱の倒れ測定では、直交する2方向(X方向・Y方向)から同時に通り芯のズレと鉛直度を計測することが原則です。1方向のみの測定では、柱のねじれや斜め方向への倒れを見落とす原因になります。
- 測定機器の使い分け
- トランシット/トータルステーション(TS): 基準墨(通り芯の逃げ墨)上に設置し、柱下部と柱頂部のターゲットを視準して倒れ量をミリ単位で直読。中高層現場における標準手法。
- レーザー鉛直器: 柱脚部から柱頭部に向けてレーザーを鉛直照射し、受光板でズレを測定。外部足場が未設置の吹きさらし環境下で有効。
- 下げ振り(手動式): 低層部や小規模現場での簡易確認に限定して使用。
- 測定手順のフロー
- 基準点の設置: 床面の基準墨から一定の離れ(例:1,000mm逃げ)を取った位置にトランシットを据え付け、直交2方向の基準ラインを確定します。
- 多点視準: 柱脚のベースプレート位置、中間継手部、柱頂部(梁取り合い部)の3点以上を順次視準し、それぞれの倒れ量と方向を記録します。
- 調整指示: 計測担当者は無線機等を用いて建て方班へ「X方向へ+5mm、Y方向へ−3mm」といった補正値をリアルタイムに伝達します。
ワイヤー・チェーンブロックによる引き調整と熱膨張補正
1. 引き治具の設置と調整手順
- 治具の緊結位置
- 引っ張り用のワイヤーロープは、柱頭部の吊りピースや専用のアイプレート、梁の接合ガセットプレート等にシャックルを用いて緊結します。
- 地上側・下階側の控えアンカーや建込み済みの強固な柱脚部へレバーブロックを介して接続します。
- 仮ボルトの摩擦管理
- 仮ボルトが完全に締め付けられていると部材が動かず、緩めすぎると倒壊の危険が生じます。
- 仮ボルトは「手締め+スパナで軽く効かせた状態」を維持し、部材同士に適度な面圧を残しながらチェーンブロックの引張力で徐々に傾きを補正します。
- 建て逃げと対角ブレースによる剛性確保
- ブレースが入る耐震要素スパンから優先的に建入れ直しを行い、垂直精度が出た段階でブレースや仮控えを効かせて基準ブロックを固めます。この基準ブロックから外側へ向けて建て逃げ順序で調整を進めることで、全体の歪みの累積を防ぎます。
2. 日照・温度変化(熱膨張)の補正ノウハウ
鉄骨は太陽光の直射熱による熱膨張の影響を強く受けます。晴天時には日照面(南面・西面)が膨張して伸び、柱が日陰側へ反る現象が発生します。
- 計測時間帯の選定: 最終的な鉛直精度の確定測定は、日照影響が最も少ない早朝(日の出直後から午前8時前後)または日没後・曇天時に実施します。
- 日照見込み補正: 日中に建て入れ調整を行う場合、柱高さ$10\,\text{m}$の鋼材で表裏の温度差が$15^\circ\text{C}$ある現場では、計算上約$1.8\,\text{mm}$の熱変形が生じます。この差を見越してあらかじめ日照側へ数ミリ引き込んだ状態で仮保持します。
3. 作業時の安全管理
- 親綱とフルハーネスの完全使用: 柱・梁上の作業では、あらかじめ柱間に張られた親綱への安全帯フック常時掛けを徹底します。
- 張力解放時の危険防止: 高力ボルト本締め完了後に治具を取り外す際、急激にレバーブロックのテンションを緩めるとワイヤーが跳ねる危険があります。徐々に荷重を抜き、部材の復元挙動がないことを確認してから解体します。
鉄骨建方の安全管理基準|安衛則の遵守と墜落・飛来崩壊防止対策
労働安全衛生規則(安衛則)第517条の2に基づき、あらかじめ部材の倒壊防止措置や作業手順を定めた「作業計画」を策定し、現場作業員全員へ周知します。また、安衛則第517条の4および第517条の5に基づき、「建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者技能講習」を修了した作業主任者を選任し、作業の直接指揮や安全保護具の使用状況を常時監視させます。
高所作業における墜落防止設備の設置
墜落災害を防ぐためには、地上で事前に安全設備を組み込む「地上先行設置」を徹底します。梁材を地組みする段階で親綱支柱(スタンション)と親綱をセットし、楊重・設置直後から作業員がフルハーネス型墜落制止用器具を掛けて移動できる環境を整えます。
- 親綱支柱(スタンション)および親綱
- 梁の上フランジに規定トルクで親綱支柱を取り付け、直径16mm以上の合成繊維ロープまたは所定のワイヤロープを緊張器で張設します。
- 親綱1スパンあたりの使用人数制限(原則1スパン1名)を遵守し、移動時の無胴綱状態を防止するためランヤードは2丁掛けとします。
- 安全ネット(水平養生ネット)
- 建方を行う節の直下に隙間なく水平ネットを張り渡します。柱・梁とネットの隙間は20cm以下に抑え、部材や工具のすり抜けによる下層への飛来落下を防止します。
- 安全ブロック(昇降用墜落阻止器具)
- 柱の昇降用タラップを使用する際、最上部から安全ブロックを吊り下げて接続します。日常点検で引き出しロープの巻き込み不良やロック機構の作動状況を確認します。
強風・悪天候時の作業中止基準とクレーン玉掛け合図
悪天候が予測・確認された場合は、安衛則に基づき施工管理者の判断で即座に作業を中止します。
| 異常気象の区分 | 作業中止の判断基準値 | 根拠・想定リスク | 主な安全処置 |
|---|---|---|---|
| 強風 | 10分間の平均風速が $10\,\text{m/s}$ 以上 | 安衛則第517条の3。部材の旋回制御不能、高所作業員の転落 | 揚重作業の中止、吊り荷の地上降下、ブームの格納または緊結 |
| 強雨 | 1回の降雨量が $50\,\text{mm}$ 以上、または1時間降雨量が $20\,\text{mm}$ 以上 | 視界不良、鉄骨表面の滑りによる転落、足場不良 | 屋外高所作業の中止、電気機器の浸水・感電防止養生 |
| 大雪 | 1回の降雪量が $25\,\text{cm}$ 以上、または大雪警報発令時 | 部材滑動、視界遮断、仮設足場への積雪による荷重超過 | 建方作業の中止、積雪箇所の除雪および融雪確認後の再開 |
| 地震 | 震度4以上の揺れを観測した直後 | 部材の歪み、アンカーボルトや仮ボルトの破断・緩み | 全面作業中止、建入れ直し精度・仮ボルト締結状態の緊急点検 |
クレーン揚重作業時の安全を担保するため、合図系統の統一と玉掛け作業ルールを標準化します。
- 合図系統の一本化: 玉掛け技能講習修了者を専任し、合図者は腕章等で識別します。無線合図を用いる場合も連絡用チャンネルを単一化し混信を防ぎます。
- 「3・3・3運動」の徹底: 地切り時に部材を地上30cmで一旦停止させ、3秒間静止してワイヤの緩みや荷の水平度を確認後、作業員が荷から3m以上退避したことを確認して巻き上げを開始します。
- 自立安定性の確認: アンカーボルトへの柱建て込みから仮ボルトの締め付けが完了し、規定本数の仮ボルト締めと控え取りによって自立性が確保されるまでは、クレーンの吊りワイヤを解放しません。
鉄骨建方の施工管理チェックリストとDX・3D計測による精度向上
許容差の逸脱や仮締めの不備は後工程の溶接や外壁工事に波及します。施工段階別の管理基準と、最新の計測・省力化技術の適用ポイントを整理します。
施工計画・受入・建方・完了時の3段階施工管理チェックリスト
| 施工段階 | 主な確認項目 | 管理基準・確認手順 | 根拠・判定基準 |
|---|---|---|---|
| 建方前(受入・準備) | アンカーボルト精度 | 通り芯ズレ±3〜5mm以内、高さ±2mm以内、余長ねじ山3山以上 | JASS 6 / 建築基準法施行令第66条 |
| 建方前(受入・準備) | 揚重計画・安全設備 | クレーン作業半径・アウトリガー地耐力確認、建て逃げ手順、親綱先行設置 | 労働安全衛生規則第517条の2 |
| 建方中(組立・調整) | 仮ボルト締結 | 中ボルト使用、1群の1/3以上かつ2本以上を均等締付け(エレクションピースは高力ボルト全数) | 公共建築工事標準仕様書 / JASS 6 |
| 建方中(組立・調整) | 建入れ直し(鉛直度) | 柱の倒れ:$H/1000$かつ$10\,\text{mm}$以下($H$は柱高さ)、直交2方向から測定 | JASS 6 管理許容差 |
| 建方中(安全管理) | 気象条件と作業中止 | 10分間の平均風速$10\,\text{m/s}$以上、強雨(1回$50\,\text{mm}$以上)で作業即時中止 | 労働安全衛生規則第517条の3 |
| 建方後(本接合) | 高力ボルト本締め | 一次締め→マーキング→本締め(ピンテール破断・ナット回転量確認) | JASS 6 |
| 建方後(完了検査) | 最終倒れ・溶接検査 | 限界許容差:柱$H/700$かつ$15\,\text{mm}$以下、完全溶け込み溶接部の超音波探傷試験(UT) | JASS 6 限界許容差 |
3Dレーザースキャナー・BIMを活用した建入れ直し計測と施工DX
トランシットや下げ振りを用いた従来計測では、測定員2名と記録員1名による多点計測の待ち時間や目視確認の手戻りが課題でした。これらの工数を削減するため、点群データとBIMを活用したデジタル計測手法が導入されています。
- 3D点群スキャンによる鉛直度解析
- 地上設置型3Dレーザースキャナーで建方後のフレームをスキャンし、点群データをBIM設計モデルとリアルタイムで照合します。
- 柱ごとの倒れ量と方向がタブレット端末上にヒートマップ表示され、管理許容差($H/1000$ かつ $10\,\text{mm}$ 以下)を超過している箇所を瞬時に特定できるため、引き調整の指示を迅速化できます。
- 4D BIMを活用した揚重・干渉シミュレーション
- 3Dモデルに時間軸(工程情報)を付与した4D BIM上で、部材搬入順序、クレーン配置、ブーム旋回時の既存構造物とのクリアランスを事前にシミュレーションします。
- 建て逃げ順序と荷下ろしヤードの干渉を事前に解消し、揚重機のアイドリング時間や部材旋回待ちを削減します。
- 自動溶接ロボットの実装
- 建方後の柱継手溶接工程において、開先形状の自動計測から積層溶接・スラグ除去までを自動で行う現場溶接ロボットの導入が進んでいます。
- 建設RXコンソーシアム等を通じた施工ロボット制御ソフトウェアの標準化により、技能労働者不足への対応と品質の均一化が図られています。
よくある質問(FAQ)
Q. 鉄骨建方とはどのような工事ですか?
A. 工場で製作された柱や梁などの鉄骨部材を現場へ搬入し、クレーンなどの揚重機を使って立体的な骨組を組み立てる工事です。基礎アンカーボルトへの柱建てから始まり、仮ボルト締め、建入れ直し(垂直度の修正)、高力ボルト本締め、現場溶接などを経て建物の構造体を構築する重要な根幹工程です。
Q. 鉄骨建方における「建て逃げ」とは何ですか?
A. 敷地の最奥部など重機の進入路から最も遠いエリアから組み立てを始め、出口方向へ後退(逃げ)しながら順次施工を進める手法です。クレーンが自ら組み立てた鉄骨架構に退路を塞がれ、現場内に閉じ込められて退出できなくなるトラブルを防ぐために行われます。
Q. 鉄骨建方で使うラフテレーンクレーンとクローラークレーンの違いは何ですか?
A. 主な違いは走行方式と機動性です。ラフテレーンクレーンはタイヤ駆動で公道自走ができ市街地や狭小地に適しますが、作業時にアウトリガーの張り出しが必要です。一方、クローラークレーンはキャタピラ接地で軟弱地盤に強く吊り荷走行が可能ですが、公道自走ができないため現場での組立・解体作業が必要になります。
