- キーワードの概要:山留め工事とは、建物の基礎や地下空間を作るために地面を掘る際、周囲の土や地下水が崩れて流れ込まないように仮設の壁や支えを設置する工事です。
- 実務への関わり:作業空間の安全を確保するだけでなく、隣接する建物や道路が地盤沈下で傾く事故を防ぎます。地盤の硬さや地下水位に応じて最適な工法を選定し、安全法令に沿った点検を行います。
- トレンド/将来予測:都市部の狭小地や大深度掘削の増加に伴い、高剛性・高止水性の連続壁工法や、センサーを用いたリアルタイムな地盤変形モニタリング技術の導入が進んでいます。
- 山留め工事(土留め工事)の基本概念と目的:掘削深さ・地盤条件に応じた役割と定義の違い
- 土留めと山留めの用語定義の違い・法的位置づけ(安衛則基準)
- 側圧(土圧・水圧)に対抗し掘削空間・隣接構造物を保護する力学的役割
- 【工法比較】主要な山留め壁4種類の特徴・適用地盤・止水性の違いと選定基準
- 親杭横矢板工法と鋼矢板(シートパイル)工法の特徴・適用限界
- SMW工法(柱状改良土留め壁)と場所打ち地下連続壁工法
- 工法選定マトリクスと判断手順
- 山留め支保工の構造形式(自立・切梁・アースアンカー)と施工・解体手順
- 切梁プレロード工法・腹起し・火打ちの架設手順と盛替え・解体ステップ
- アースアンカー工法(地盤アンカー)の選定条件と施工管理
- 山留め壁の動態観測(計測管理)の管理基準値
- 山留め工事で発生する土圧・水圧トラブルの破壊現象と防止対策
- 軟弱粘性土地盤におけるヒービング現象
- 砂質地盤におけるボイリング・盤ぶくれ・パイピング
- 山留め工事の概算費用相場・積算根拠とICT施工管理
- 山留め壁・支保工の工種別概算費用相場と見積精査項目
- ICT自動動態計測・BIM/CIM連携による施工管理
- よくある質問(FAQ)
山留め工事(土留め工事)の基本概念と目的:掘削深さ・地盤条件に応じた役割と定義の違い
山留め工事(土留め工事)は、地下構造物の構築や基礎工事に伴う掘削(根切り)を行う際、掘削面背面の土砂崩壊や地下水の流入を防ぎ、安全な作業空間を確保するとともに周辺構造物・埋設物の沈下や変状を防止する仮設工事です。
山留め構造は、土圧や水圧を直接受ける「山留め壁(土留め壁)」と、その荷重を支持する「山留め支保工」で構成されます。地盤条件、地下水位、掘削深さ、敷地境界との離隔に応じた工法選定と構造計算が設計・施工の根幹を担います。
土留めと山留めの用語定義の違い・法的位置づけ(安衛則基準)
実務において「山留め」と「土留め」は同義として扱われる場面が多いものの、適用される法規や専門分野によって呼称の使い分けが存在します。
- 用語の使い分けと概念
- 山留め(建築分野・慣用表現):主に建築工事の地下根切り工事において、掘削箇所の周囲に設ける仮設構造物を指します。『建築工事標準仕様書・同解説 JASS 3 土工事および山留め工事』(日本建築学会)や『山留め設計指針』など、建築標準仕様書や学術指針では「山留め」の呼称が標準的に用いられます。
- 土留め(土木分野・法令上の公的用語):土木工事における路体保護や開削工事の仮設壁、あるいは造成地の擁壁など、土砂の崩壊を防ぐ構造物全般を指します。労働安全衛生法や同規則などの法令条文では一貫して「土止め」「土止め支保工」と表記されます。
山留め工事は崩壊による労働災害リスクが高いため、労働安全衛生法および建築基準法によって技術要件や資格者配置が義務付けられています。
| 適用基準・法令 | 主な義務・技術要件 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 建築基準法施行令 第136条の3 | 深さ1.5m以上の根切り工事を行う場合、地盤崩壊の恐れがない場合等を除き山留め設置が義務付け。主要部分は構造計算により安全性を確認。 | 住宅基礎や浅いピット掘削であっても1.5mを超える場合は山留めの検討・設置が必要。 |
| 労働安全衛生法施行令 第6条 | 掘削面の高さが2m以上となる地山の掘削、および土止め支保工の切りばり・腹起こしの取付け・取り外し作業。 | 地山の掘削及び土止め支保工作業主任者の選任と直接指揮が必須。 |
| 労働安全衛生規則 第373条 | 土止め支保工の点検義務(設置後7日を超えない期間ごと、中震以上の地震後、大雨等の後)。 | 部材の変形、接続部の緩み、切梁プレロード工法の軸力保持状態などを記録・補修。 |
| 労働安全衛生法 第88条 | 深さ10m以上の地山の掘削工事(一部条件を除く)。 | 工事開始の30日前までに所轄労働基準監督署長への建設工事計画届の提出が必要。 |
側圧(土圧・水圧)に対抗し掘削空間・隣接構造物を保護する力学的役割
山留め工事の力学的本質は、地盤を掘削することで失われる「掘削側の土重量」に起因する応力解放に対し、背面から作用する主働土圧および静水圧(間隙水圧)の合力(側圧)と釣り合う抵抗力を工学的に構築することにあります。
- 側圧の作用と釣合い構造
- 山留め壁背面の作用力:土粒子による主働土圧に加え、地下水位以深では水圧が加算されます。粘性土では経時的な粘着力低下、砂質土では水位変動による有効応力の変化を考慮する必要があります。
- 掘削底面下の受働抵抗(根入れ部):山留め壁を掘削底面より深く打ち込むことで、底面下の受働土圧を反力として利用します。自立式山留めでは、この根入れ部の曲げモーメントと受働抵抗のみで側圧に対抗します(一般に掘削深さ3〜4m程度が限界)。
- 支保工による反力伝達:掘削深さが大きくなると、壁体の変形を抑えるために腹起し・切梁、あるいは背後地盤に定着させるアースアンカー工法を配置し、水平力を支持します。
【山留め壁に作用する力学モデル】
[ 背面地盤側 ] [ 掘削構内側 ]
主働土圧 ───▶ ┌───┐ ◀─── 切梁反力(山留め支保工)
+ 静水圧 ───▶ │山 │
│留 │
──── 掘削底面 ─┴───┴─────────────────
主働土圧 ───▶ │め │ ◀─── 受働土圧(根入れ部地盤の抵抗力)
└───┘
側圧の釣合いが崩れたり、山留め壁の剛性・遮水性が不足したりすると、構内への土砂流入にとどまらず、背面地盤の沈下に伴い道路の陥没や隣接建物の不同沈下を引き起こします。さらに掘削底面では、土圧・水圧の不均衝によってヒービング(軟弱粘性土の隆起)、ボイリング(砂質土の噴出)、盤ぶくれ(難透水層下の被圧水による押し上げ)といった重大な地盤破壊事故に直結します。
したがって、山留め壁形式の選定にあたっては、地盤の透水係数、N値、地下水位、掘削深さに適合した剛性と止水性を備えているかを力学的に検証することが不可欠です。
【工法比較】主要な山留め壁4種類の特徴・適用地盤・止水性の違いと選定基準
山留め壁は、掘削に伴う背面土圧や側圧を直接受け止め、地盤崩壊や地下水の流入を防ぐ仮設構造物です。実務で多用される代表的な4工法の技術的特性、適用限界、選定マトリクスを以下に整理します。
親杭横矢板工法と鋼矢板(シートパイル)工法の特徴・適用限界
親杭横矢板工法と鋼矢板工法は、中小規模の掘削工事を中心に採用実績の多い工法ですが、部材構成や止水性能が根本から異なります。
- 親杭横矢板工法
- 構造・施工:H形鋼などの親杭を1.0〜1.5m間隔で先行削孔または打設し、掘削の進行に合わせて杭間に木製矢板やコンクリート製横矢板を挟み込みます。
- 長所・経済性:構成部材が軽量で汎用機械による施工が可能なため、初期導入コストが最も安価で仮設材の転用率も高い工法です。
- 適用限界:壁体自体に止水性がありません。地下水位の高い砂質土地盤で採用すると、矢板の隙間から細粒分が土砂ごと流出し、背面地盤の沈下やパイピング現象を誘発します。原則として「地下水位が掘削底面より十分低い地盤」または「自立性のある硬質粘性土地盤」に限定して適用します。
- 鋼矢板(シートパイル)工法
- 構造・施工:U形やハット形などの鋼矢板を、両端の継手(インターロッキング)を噛み合わせながら地中に圧入・打設し、連続壁を構築します。
- 長所・適用地盤:継手構造により一定の止水性を発揮するため、地下水位の高い砂質土層や軟弱粘性土層にも適用できます。標準的な掘削深度であれば山留め支保工(切梁・腹起し)との併用により安定した土留め性能を確保できます。
- 適用限界:砂礫層や玉石混じりの硬質地盤では、圧入時に継手外れが生じやすく遮水欠損の原因となります。また、工事完了後に鋼矢板を引き抜く際、引き抜き跡の空隙によって周辺地盤沈下を引き起こすリスクがあるため、セメントミルク等の同時充填注入工法が必須となります。
【親杭横矢板と鋼矢板の構造イメージ】
[親杭横矢板工法] [鋼矢板工法]
H形鋼 H形鋼 継手嵌合による連続壁
┌───┐ ┌───┐ ╔═╗ ╔═╗ ╔═╗ ╔═╗
│ H │=======│ H │ ╚═╝═╚═╝═╚═╝═╚═╝
└───┘ 横矢板└───┘ (遮水性あり・継手管理が重要)
(止水性なし・湧水対策必須)
SMW工法(柱状改良土留め壁)と場所打ち地下連続壁工法
市街地の近接施工や高地下水位の大深度掘削では、高い遮水性と壁体剛性を併せ持つ工法が選定されます。
- SMW工法(ソイルセメント柱列壁工法)
- 機構・特徴:多軸式アースオーガー機を用い、現地の土砂とセメント系懸濁液を原位置で撹拌混合してソイルセメント柱を造成します。未硬化のうちに芯材(H形鋼)を建て込み、エレメント同士をラップさせて連続壁を構築します。
- 水圧トラブル抑止:高い遮水連続性を保持できるため、地下水圧の高い砂質層におけるボイリングや、背後地下水の回り込みによるヒービングを強力に抑制します。難透水層まで確実に根入れすることで、被圧帯水層に起因する盤ぶくれも遮断可能です。
- 施工上の制約:大型のアースオーガー機やプラント設備を要するため、一定規模以上の作業ヤードが必要です。
- 場所打ち地下連続壁工法
- 機構・特徴:安定液で孔壁を保護しながら専用機で深溝を掘削し、鉄筋籠を吊り込んでコンクリートを打設するRC壁体工法です。
- 大深度・本設兼用:掘削深さ20mを超える大深度掘削や、隣接構造物への変位を許さない超近接施工に対応します。都市部の地下鉄開削工事や超高層ビルの地下階構築において、仮設山留め壁にとどまらず地下外壁(本設構造物)として兼用される事例が多く見られます。
- 経済性・ヤード条件:工事費が高額となるため小規模工事には適しません。また、排泥処理設備や大型クレーンの配置が必須となるため、広大な施工ヤードの確保が前提条件となります。
工法選定マトリクスと判断手順
| 工法名 | 止水性・剛性 | 適用土質・限界条件 | 経済性・施工ヤード |
|---|---|---|---|
| 親杭横矢板工法 | ・止水性:なし ・剛性:低〜中 |
・自立性のある粘性土、砂質土 ・地下水位が高い地盤は適用不可 |
・コスト:最も安価 ・必要ヤード:狭小地でも施工可能 |
| 鋼矢板工法 | ・止水性:中(継手処理依存) ・剛性:中 |
・軟弱粘性土、砂質土 ・硬質地盤・玉石混じり層は打設困難 |
・コスト:比較的安価(材転用時) ・必要ヤード:中規模機械で施工可能 |
| SMW工法 | ・止水性:高 ・剛性:高(芯材による) |
・砂質土、粘性土、シルト層 ・高地下水位・大深度掘削に対応 |
・コスト:中〜高 ・必要ヤード:プラント・大型重機が必要 |
| 場所打ち地下連続壁 | ・止水性:極めて高い ・剛性:極めて高い(RC構造) |
・全土質(軟弱地盤から硬質岩盤) ・20m超の大深度・近接施工に対応 |
・コスト:高額(本設兼用で圧縮可) ・必要ヤード:広大な泥水処理ヤード必須 |
現場条件に応じた選定フロー
- 地下水位と透水性の確認:掘削底面より地下水位が高い場合、親杭横矢板工法は除外。鋼矢板またはSMW工法を基本とし、ボイリングやヒービングのリスクを評価します。
- 支持層の硬度と障害物:N値50を超える硬質砂礫層や玉石が介在する場合、鋼矢板の単独圧入は困難となります。プレボーリング併用、またはSMW・連続壁工法を選択します。
- 掘削深さと周辺変位許容値:掘削深さ3〜4mを超える場合は自立式を避け、支保工(切梁・腹起し)の架設やアースアンカー工法を併用します。
山留め支保工の構造形式(自立・切梁・アースアンカー)と施工・解体手順
山留め壁単体で側圧を支えきれない場合、壁体を支持する支保工を架設します。形式選定は、掘削深度、平面形状、敷地境界条件、周辺地盤の変位許容値によって決定されます。
| 支保工形式 | 概要・支持メカニズム | 主な適用条件・掘削深さ | メリット・デメリット |
|---|---|---|---|
| 自立式 | 山留め壁の曲げ剛性と根入れ部の受働土圧のみで支持。 | 掘削深さ3〜4m程度までの浅い掘削。良質な地盤条件。 | 構内に障害物がなく作業性が高い。大深度では壁体変位が過大になる。 |
| 切梁式 | 構内の対向する壁間で切梁を突っ張り、腹起しを介して土圧を相殺。 | 掘削深さ4m以上の中〜大深度。対向壁の距離が概ね50〜60m以内。 | 敷地境界外への越境がなく確実に支持できる。構内の作業性は低下する。 |
| アースアンカー式 | 背面地盤にアンカー体を定着させ、PC鋼材の引張力で支持。 | 大規模開削、平面形状が不整形または幅が広く切梁架設が困難な敷地。 | 構内が無支柱となり掘削・躯体施工効率が向上。隣地地下の使用承諾が必須。 |
| アイランド工法 | 中央部を先行掘削して躯体を構築し、そこから壁体へ斜め切梁を架設。 | 平面スパンが非常に広い大規模建築物の地下掘削。 | 切梁長さを短縮し座屈を防げる。掘削・躯体工事が2段階になり工程が複雑化。 |
切梁プレロード工法・腹起し・火打ちの架設手順と盛替え・解体ステップ
軟弱地盤や大深度掘削における切梁式支保工では、切梁設置時に油圧ジャッキ等で強制的に軸力を導入する「切梁プレロード工法」を適用し、山留め壁の初期たわみや周辺地盤の沈下を抑制します。
【切梁式支保工の標準施工フロー】
[一次掘削] (支保工設置レベル下50〜80cmまで掘削)
↓
[腹起し・切梁・火打ち設置] (ブラケット固定、部材締結、裏込め充填)
↓
[プレロード導入] (油圧ジャッキで設計軸力を載荷、パックプレート固定)
↓
[二次掘削] (次段の支保工設置を繰り返して最終掘削面へ到達)
↓
[基礎・地下躯体構築] (耐圧盤・床・壁コンクリート打設および強度発現)
↓
[盛替え梁設置・切梁解体] (躯体への荷重伝達確認後、支保工を順次撤去)
↓
[埋戻し・山留め壁引抜き]
架設・盛替えの実務手順
- 先行掘削: 支保工設置レベルから50〜80cm程度下まで掘削します。過剰な掘削は自立高さを増大させ、初期変位を招くため管理値を厳守します。
- 腹起しの設置と裏込め: 山留め壁にブラケットを溶接固定して腹起し(H形鋼)を設置します。壁体との隙間にはモルタルやライナープレートを密実に充填し、偏載荷を防止します。
- 切梁・火打ちの架設とプレロード載荷: 対向する腹起し間に切梁、隅角部に火打ちをボルト接合します。切梁端部の油圧ジャッキで設計軸力の50〜100%を載荷後、鋼製パックプレートを挟み込んで固定します。
- 躯体構築に伴う盛替え・解体: 地下躯体コンクリートが設計基準強度の70〜100%以上に達した段階で、躯体スラブ・梁と山留め壁の間に盛替え梁を設置し、荷重受け先を切り替えた上で本切梁を解体・搬出します。
アースアンカー工法(地盤アンカー)の選定条件と施工管理
アースアンカー工法は、削孔した孔内にPC鋼材を挿入し、グラウト材を加圧注入して定着体を造成する工法です。
- 選定条件
- 隣地境界・埋設物クリアランス:隣地地下へのアンカー突出に対する所有者の承諾取得(道路下は占用許可)が前提となります。背面に下水道管や地下鉄トンネル等の埋設物がないクリアランスを確保します。
- 定着層の地盤性状:十分な周面摩擦抵抗力が得られる良質な砂質土層(N値20以上)や粘性土層(N値15以上)、または岩盤が必要です。シルト層や有機質土ではクリープ変形が生じるため定着層には不適です。
- 施工管理値
- 削孔精度:機械のセット角度(水平面より下向き10〜30度程度)を厳密に管理します。
- グラウト品質・緊張管理:グラウト圧縮強度が所定値(20〜24N/mm²以上)に達した後、センターホールジャッキで極限引抜力の1/2以下の設計荷重まで引張試験を行い、ウェッジで頭部を腹起しに定着(ロックオフ)します。定期的なリフトオフ試験で残留引張力を監視します。
山留め壁の動態観測(計測管理)の管理基準値
地盤崩壊や周辺構造物の沈下事故を防ぐため、計測機器を用いて壁体や周辺地盤の挙動を定量的に把握します。
| 管理区分 | 基準値の目安 | 現場での発生状況の評価 | 実施すべき具体的な対応アクション |
|---|---|---|---|
| 日常管理レベル(正常) | 計測値 ≦ 設計計算値の70〜80% | 設計予測の範囲内で安定して推移。 | 定常観測を継続。標準工程通り施工。 |
| 一次管理値(注意値) | 設計計算値の80〜100%程度 | 変位速度の加速、地下水位の異常変動。 | 計測頻度を半日・リアルタイムへ引き上げ。原因究明、背面土のすき取り検討。 |
| 二次管理値(限界値) | 設計計算値の100%超(許容値超過) | 壁体降伏、支保工座屈、ボイリング等の危険。 | 直ちに掘削作業を中断。緊急段増し・増しジャッキ、構内への注水・埋戻しを実施。 |
近年は、LPWA等の無線通信を用いて傾斜計やロードセルのデータをクラウドへ集約し、管理値超過時に自動発報するIoT自動計測システムが標準化されています。
山留め工事で発生する土圧・水圧トラブルの破壊現象と防止対策
掘削に伴う応力解放や地下水の流動変化により、掘削底面が破壊される事故が発生します。地盤性状(粘性土・砂質土・被圧帯水層)ごとの破壊メカニズムと安全率の算定根拠を把握した対策が求められます。
軟弱粘性土地盤におけるヒービング現象
沖積粘性土などの軟弱地盤を開削する際、山留め壁背面の土重量やすべり破壊力が底面地盤のせん断抵抗力を上回り、掘削底面が隆起・破壊する現象です。
【ヒービングの力学的メカニズム】
山留め壁背面地盤(土重量+上載荷重) ──[主働すべり破壊力]──▶ 掘削底面へ回り込み
│
掘削底面地盤(せん断抵抗力+支持力) ◀──[受働抵抗力不足]───────┘
安全率の算定と防止対策
ヒービングの照査には円弧すべり面法(修正フェレニウス法等)を用い、仮設時における安全率は $Fs \ge 1.2$ を確保します。
$$Fs = \frac{\sum M_r}{\sum M_d} \ge 1.2$$
($\sum M_r$: 地盤のせん断強度および壁体曲げ剛性による抵抗モーメント、$\sum M_d$: 背面土重量および上載荷重による回転モーメント)
- 事前対策
- 壁先端を軟弱粘性土層下部の硬質地盤(N値の高い層)まで延長し、すべり破壊線の回り込みを遮断。
- 親杭横矢板を避け、曲げ剛性の高いSMW工法や鋼矢板工法を採用。
- 掘削底面下に深層混合処理工法を施工し、底面地盤のせん断強度(粘着力 $c$)を向上。
- 壁背面の土をすき取り段落としを行い、駆動土重量を低減。
- 変状発生時の応急措置
- 掘削構内への土砂投入(押さえ盛土)による緊急抑止。
- 切梁プレロードの追加載荷による壁体内傾の拘束。
砂質地盤におけるボイリング・盤ぶくれ・パイピング
透水性の高い砂質地盤や被圧地下水が存在する地盤では、水圧に起因する破壊現象が発生します。
| 破壊現象 | 主な発生地盤 | 発生メカニズム | 主な防止対策 |
|---|---|---|---|
| ボイリング | 地下水位の高い砂質土・シルト質砂 | 壁内外の水位差による上向き浸透流が砂の有効応力をゼロにし、底面から砂と水が湧出。 | 根入れ長を不透水層まで延長、ディープウェル工法等による地下水位低下。 |
| 盤ぶくれ | 難透水層(粘性土)下に被圧帯水層(砂礫層)が存在する地盤 | 掘削底面下の難透水層自重を、下層の被圧水頭による揚圧力が上回り底面が押し上げられる。 | ディープウェルによる被圧水頭の減圧(揚水)、遮水壁の深層根入れ。 |
| パイピング | 砂質土層、山留め壁の継手周辺 | 壁体継手不良や局所的な水みちに浸透流が集中し、パイプ状の水路が形成されて土砂流出。 | 継手部の薬液注入補強、SMW工法等の施工、建入れ精度の管理。 |
1. ボイリングの限界判定
掘削底面の上向き動水勾配 $i$ が限界動水勾配 $i_c$ に達すると発生します。
$$i_c = \frac{G_s – 1}{1 + e}$$
($G_s$: 土粒子比重 $\fallingdotseq 2.65$、$e$: 間隙比)
実務上、安全率は $Fs = \frac{i_c}{i} \ge 1.5 \sim 2.0$ を確保するよう根入れ深さを決定します。
2. 盤ぶくれの安定計算
掘削底面の難透水層厚さ $D$ と湿潤単位体積重量 $\gamma_t$ による荷重が、被圧水頭圧 $h_w \cdot \gamma_w$ を上回る必要があります。
$$Fs = \frac{D \cdot \gamma_t}{h_w \cdot \gamma_w} \ge 1.2$$
安全率が1.2未満となる現場では、構内外にディープウェルを設置して被圧水頭を難透水層下面以下まで強制減圧させます。
3. 地下水低下工法運用の留意点
- ディープウェル工法(深井戸):透水係数 $k = 10^{-2} \sim 10^{-4}\,\text{cm/s}$ の砂礫層・大深度被圧帯水層に適用。構外の過剰揚水は周辺地盤の圧密沈下を招くため、遮水層への確実な根入れ、またはリチャージ工法(復水)を併用します。
- ウェルポイント工法:透水係数 $k = 10^{-3} \sim 10^{-5}\,\text{cm/s}$ の細砂・シルト質砂層に適用。1〜2m間隔で配置した吸水管から真空ポンプで強制排水し、水位低下と地盤締固め効果を両立させます。
山留め工事の概算費用相場・積算根拠とICT施工管理
山留め壁・支保工の工種別概算費用相場と見積精査項目
山留め工事は仮設工事であるため、「施工・解体・リース期間」が積算金額を大きく左右します。
| 工法種別 | 概算直接工事費の目安 | 止水性 | 主な適応条件 |
|---|---|---|---|
| 親杭横矢板工法 | 約1.5万〜3.0万円/m² | なし | 地下水位が低く、自立性の高い粘性土・砂質土 |
| 鋼矢板(シートパイル)工法 | 約2.5万〜4.5万円/m² | 中〜高 | 軟弱地盤、地下水位のある砂質土、河川近接 |
| SMW工法(柱列壁) | 約4.0万〜7.0万円/m² | 極めて高い | 高地下水位地盤、大深度掘削、近接施工 |
| 地中連続壁工法 | 約10万〜20万円/m² | 極めて高い | 大深度・超高剛性が求められる本設兼用壁 |
支保工費用は、切梁式山留め支保工で1段あたり約3万〜6万円/m、切梁プレロード工法加算が1箇所あたり数万円程度です。アースアンカー工法はアンカー1本あたり約15万〜30万円(削孔長・定着地盤により変動)が相場となります。
見積精査時のチェックポイント
- 鋼材リース期間の算定:H形鋼や鋼矢板の損料は日数単位で計上されます。地下躯体完了から埋め戻しまでの所要日数が過小計上されていないか確認します。
- 引抜間隙の充填注入工:鋼矢板や親杭の引抜き跡に生じる空隙を放置すると周辺地盤沈下を招くため、セメントスラリー充填工の計上有無を精査します。
- 発生汚泥の処理費:SMW工法で生じるセメントベントナイト混合汚泥は産業廃棄物処理となるため、建設発生土処分費と区分して適正単価が反映されているか照合します。
ICT自動動態計測・BIM/CIM連携による施工管理
施工中の安全性確保と省人化を両立するため、IoTセンサーによる自動動態計測とBIM/CIMを連携させた施工管理が導入されています。
【山留めICT自動計測とBIM/CIM連携の運用フロー】
[現場計測] 各種IoTセンサー(変位・間隙水圧・切梁軸力)
│
▼(無線通信・自動補正)
[クラウド] リアルタイムデータ収集・管理基準値判定
│
├─▶ 【閾値超過時】関係者へ自動アラート通知(応急措置)
│
▼(データ連携)
[BIM/CIMモデル] 3D土留めモデル上に変位・軸力を視覚的マッピング
│
▼
[施工管理] 次段掘削の安全性確認・干渉チェック・重機配置計画の最適化
- IoTリアルタイム監視と多段階警報:壁体変位計、ロードセル、間隙水圧計のデータを無線通信でクラウドへ集約。日常管理値・一次管理値(注意)・二次管理値(限界)を超過した際に自動警報を発報し、切梁プレロードの増し締めなどの対策を即座に指示します。
- 3D干渉チェックと動的掘削シミュレーション:敷地境界、地下埋設管、本設杭の位置情報を統合したBIM/CIMモデル上で、親杭の削孔位置やアースアンカーの角度干渉を事前検証します。さらに掘削ステップごとの作業空間を可視化し、重機と切梁の接触事故を防止します。
よくある質問(FAQ)
Q. 山留め工事とは何ですか?どのような目的で行われますか?
A. 地下構造物の構築や基礎工事の掘削(根切り)を行う際、掘削面背面の土砂崩壊や地下水の流入を防ぐ仮設工事です。土圧や水圧を受ける「山留め壁」とそれを支持する「山留め支保工」で構成されます。作業者の安全空間を確保するだけでなく、周囲の地盤沈下や隣接構造物・埋設物の変状を防止する目的があります。
Q. 「山留め」と「土留め」の違いは何ですか?
A. 実務上はほぼ同義ですが、使用される分野や法令によって使い分けられます。「山留め」は主に建築分野の地下掘削工事で使われる慣用表現で、建築学会の仕様書などに用いられます。一方、「土留め(土止め)」は土木分野全般や擁壁などを指すほか、労働安全衛生法などの法令条文において公的用語として一貫して使用されています。
Q. 山留め工事(土留め)が必要になる掘削の深さは何メートルからですか?
A. 建築基準法施行令に基づき、深さ1.5m以上の根切り工事を行う場合は原則として山留めの設置と構造計算による安全確認が義務付けられています。また、掘削深さが2m以上になると「地山の掘削及び土止め支保工作業主任者」の選任と直接指揮が必要になり、深さ10m以上では工事開始30日前までに労働基準監督署への届出が義務となります。
