- キーワードの概要:無電柱化推進計画とは、地震や台風による電柱倒壊を防ぐ防災や、安全な通行空間の確保、景観向上を目的に、国や自治体が電線の地中化を進めるための取組計画です。
- 実務への関わり:建設現場や道路工事において、従来の大型構造物だけでなく浅層埋設や小型ボックスなどの低コスト工法を採用することで、施工コストの削減や工期の大幅短縮に貢献します。
- トレンド/将来予測:国の目標に基づき事業完了までの期間短縮が加速しており、地下埋設物協議におけるデジタル技術の活用や、民間の宅地開発における電線地中化の推進がより一層広がると見込まれます。
日本の都市部における無電柱化率は、ロンドンやパリの100%、ソウルの49%と比較して、東京23区内であっても約6%にとどまります。この遅れを解消するため、国土交通省は無電柱化推進計画に基づき、約1,000kmの整備完了(併せて約4,000kmの計画策定)と、従来平均約7年を要していた工期の約4年への大幅短縮を掲げています。本記事では、無電柱化推進法および道路法第37条を軸とする法体系の全体像をはじめ、自治体における優先整備路線の定量選定手法、現場で導入が進む低コスト工法の実務要件、さらには民間宅地開発における助成金活用まで、専門メディアの視点から体系的に解説します。
- 無電柱化推進計画の全体像と最新の整備目標【法体系と推進体制】
- 最新の無電柱化整備目標と「3つの柱」(防災・安全・景観)
- 国・自治体・電線管理者が果たす役割分担の整理
- 地方自治体における無電柱化推進計画の策定フローと優先路線選定基準
- 優先整備路線の選定ロジック(緊急輸送道路・通学路・景観地区)
- 国の指針と整合性を保つ自治体計画の策定手順と関係機関協議
- 現場・発注実務で採用される無電柱化の主要工法と低コスト手法
- 従来型の電線共同溝方式と施工上の課題
- 低コスト手法(小型ボックス・直接埋設・浅層埋設)の技術要件とコスト削減効果
- 発注見通しと民間開発(不動産・宅地開発)への影響・活用法
- 建設事業者・施工管理技士が抑えるべき今後の発注見通し
- 宅地開発・民間不動産事業における無電柱化の要件と資産価値への影響
- 無電柱化事業を円滑に進めるための実務推進チェックリストと課題対策
- 地下埋設物協議を円滑化するDX・BIM/CIM活用アプローチ
- 計画策定から施工完了までの実務推進チェックリスト
無電柱化推進計画の全体像と最新の整備目標【法体系と推進体制】
無電柱化施策の根幹をなす法体系は、2016年12月に施行された「無電柱化の推進に関する法律(無電柱化推進法)」です。同法は、災害の防止、安全・円滑な交通の確保、良好な景観の形成を目的に、国・地方公共団体・電線管理者の責務を明確化し、国の基本指針となる推進計画の策定を義務付けています。これを受けて国土交通省が数年ごとに推進計画を改定し、都道府県や市町村は地域の実情に応じた地方無電柱化推進計画を策定する枠組みが構築されています。
行政指導および法的規制の要となるのが「道路法第37条」に基づく道路の占用制限です。道路管理者は、防災上の観点や交通の円滑化を図るため、特定区域における電柱の新設を禁止・制限できます。多くの自治体が、災害時に救急車や支援物資輸送のルートとなる緊急輸送道路全線を対象に占用制限を指定し、電柱の新設を抑止しています。さらに、電線共同溝の整備事業が進行している区間においても、地上への既設電柱の建て替えや新規占用を原則認めない指定が順次適用されています。
最新の無電柱化整備目標と「3つの柱」(防災・安全・景観)
国土交通省が定める推進計画では、今後5年間で約1,000kmの整備完了(併せて約4,000kmの計画策定)を目標として設定しています。従来の着手率重視から「整備完了率」を評価軸へと移行させ、事業のスピードアップを図る方針が示されています。具体的には、従来約7年を要していた事業着手から工事完了までの平均期間を、約4年へ短縮するための取り組みが進行中です。
この整備目標を達成するための軸となるのが、「防災」「安全・円滑」「景観・観光」という「3つの柱」です。
- 防災(強靱化): 首都直下地震や南海トラフ巨大地震、猛烈な台風による電柱倒壊を防ぎ、緊急輸送道路の道路啓開(救援ルートの確保)を即座に行える体制を構築します。特に第一次緊急輸送道路における整備完了率向上や、電力・通信基盤のレジリエンス強化を最優先課題として設定しています。
- 安全・円滑(交通空間の確保): バリアフリー法に基づく特定道路や「ゾーン30プラス」に指定された通学路において、歩道上の障害物となる電柱を撤去します。車椅子やベビーカーの通行幅員を十分に確保し、児童の登下校時における交通人身事故リスクを着実に低減させます。
- 景観・観光(地域価値向上): 世界文化遺産の周辺地域、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)、歴史まちづくり計画の重点区域などを対象とし、道路管理者と観光・景観部局が連携して連担した電柱撤去を進めます。
整備速度の向上と予算の有効活用に向け、従来の大型ボックス構造に依存しない各種施工法(浅層埋設技術や小型ボックス、側溝配線、地上機器の小型化、軒下配線・裏配線など)を現場条件に合わせて選定し、従来比で約2割のコスト削減を目指す実務設計が標準化しつつあります。
国・自治体・電線管理者が果たす役割分担の整理
無電柱化を計画的かつ円滑に推進するためには、国、地方自治体、および電力・通信事業者(電線管理者)の3者が明確な役割分担のもとで協働する必要があります。電線共同溝法に基づく事業等では、道路管理者と電線管理者が費用を分担し、建設工事と設備入設を分担施工する体制が確立されています。
| 主体 | 主な役割と法的責務 | 具体的な業務内容・実務対応 |
|---|---|---|
| 国(国土交通省等) | ・全国方針(無電柱化推進計画)の策定 ・制度設計および法整備 ・財政的・技術的支援 |
推進計画の策定、道路法第37条の運用指針提示、地方自治体向け補助制度(防災・安全交付金等)の整備、低コスト手法の技術ガイドライン策定。 |
| 地方自治体(都道府県・市町村) | ・地方無電柱化推進計画の策定 ・自治体管理道路の占用制限指定 ・地域事業の統括と現場調整 |
優先整備路線の選定、道路法第37条に基づく新設電柱占用制限の告示、電線共同溝整備事業の発注、沿道住民への説明・合意形成。 |
| 電線管理者(電力・通信事業者) | ・自社設備の地中化および撤去 ・技術開発とコスト縮減への協力 ・単独地中化等の実施 |
電線共同溝への電力線・通信ケーブルの入設、地上機器(変圧器等)の設置、不要となった地上電柱・空線撤去、整備費用の法的負担。 |
自治体の土木担当者や建設コンサルタントは、国が示す整備目標や技術基準を反映させつつ、管轄エリアの推進計画を策定する業務を担います。ゼネコンや電気工事会社等の施工者は、電線共同溝の掘削・管路敷設において浅層埋設をはじめとする施工要件を適正に捉え、電線管理者側の入設工程と合致した工程管理を実行することが前提となります。
地方自治体における無電柱化推進計画の策定フローと優先路線選定基準
地方自治体が独自の無電柱化推進計画を策定・改定する際、管内の全道路を一度に整備することは予算および施工体制の面から現実的ではありません。国の「第3次無電柱化推進計画」や推進法の基本理念を受け止めつつ、地域の課題に応じた優先度の付け方を論理的に構築することが自治体担当者や建設コンサルタントの実務において重要となります。
優先整備路線の選定ロジック(緊急輸送道路・通学路・景観地区)
地域内の道路ネットワークから限られた財源で最大の整備効果を得るためには、「抽出(スクリーニング)」「技術的施工性の評価」「優先度の絞り込み」という3段階の定量的な選定ロジックが有効です。東京都目黒区の事例では、区道約350kmの中から「防災」「安全」「景観」の観点に基づき153路線(延長約37km)を整備計画路線として選定し、そこから歩道幅員や連絡性などの評価軸を用いて計画期間内に着手する優先整備路線へと絞り込んでいます。
| 評価軸 | 選定対象エリア・路線 | 主な評価指標・抽出要件 | 関連する制度・整備手法 |
|---|---|---|---|
| 防災 | 緊急輸送道路、避難所・防災拠点へのアクセス道路 | 広域避難場所への連絡性、倒壊による道路閉塞リスク | 道路法第37条に基づく占用制限、電線共同溝 |
| 安全 | 通学路、駅周辺地区、バリアフリー推進エリア | 児童・高齢者の通行量、有効歩道幅員(2.5m未満等)での接触リスク | 低コスト手法(小型ボックス埋設等) |
| 景観 | 歴史的景観地区、観光地、主要商店街 | 景観計画等での指定、観光歩行者数、まちづくり計画との連動 | 自治体管路方式、地上機器の民地設置 |
優先路線の選定実務では、上記の各評価軸で抽出された路線に対し、道路法第37条の適用可否や歩道幅員の制約状況を加味してマトリクス化を行います。さらに、地下埋設物(ガス管・上下水道管)の過密度から算出した施工難易度を掛け合わせることで、住民や議会に対して定量的かつ客観的な根拠を提示できる優先整備計画が確立されます。
国の指針と整合性を保つ自治体計画の策定手順と関係機関協議
市町村が無電柱化推進計画を策定または更新する際は、国および都道府県の推進計画との整合を保ちつつ、関係事業者との調整を同時並行で進める必要があります。実務手順は大きく分けて以下の5つのステップで進行します。
- ステップ1:基礎調査と現況把握
管内道路における既設電柱基数、地下埋設物の埋設状況、道路幅員、沿道土地利用の状況を調査します。地中探査や既存試掘データの集計により、管路敷設時の障害要因を事前に抽出します。 - ステップ2:整備目標の設定と整備手法の選定
計画期間(5〜10年)における整備目標(総延長km数や完了目標率)を設定します。この際、従来型の電線共同溝方式に固執せず、角型FEP管の採用による材料費削減や、既存ストック(既設側溝等)を活用した低コスト手法の適用割合を具体的な目標数値に反映させます。 - ステップ3:協議会の設置と関係機関協議
道路管理者(自治体土木部局)、警察(交通規制・地上機器位置確認)、消防、および電線管理者(一般送配電事業者・NTT等の電気通信事業者)で構成される「無電柱化推進協議会」を設置します。設計初期段階から地上機器の設置候補地(道路敷内、公園等の公有地、または沿道民地)について協定案を協議します。 - ステップ4:道路法第37条の適用手続きと資金計画の策定
優先整備路線に対して道路法第37条に基づく占用制限の適用指定を行います。整備にかかる費用負担(道路管理者負担分と電線管理者負担分)を確定させ、国の無電柱化推進計画事業補助金や地方債などの財源計画を策定します。 - ステップ5:パブリックコメントと計画の告示
計画素案に対するパブリックコメント(住民意見募集)を実施し、地元の合意形成を図ったうえで無電柱化推進計画として公表・告示します。
自治体の計画策定において特に停滞しやすい要因は、電線管理者との協議による地上機器設置場所の確保と事業費負担の調整です。実務においては、事業着手前に地上機器を公有地(公園・広場等)へ配置する方針の同意を得るか、あるいは開発事業者に対して都市計画法や開発許可基準を活用した「敷地内設置の義務付け」を事前交渉しておくことが、着工後の大幅なスケジュール遅延を防ぐ有効な解決策となります。
現場・発注実務で採用される無電柱化の主要工法と低コスト手法
従来型の電線共同溝方式と施工上の課題
道路下に電力線と通信線をまとめて収容する電線共同溝方式は、日本の無電柱化事業において長年標準的な手法として採用されてきました。本管路と地上機器(変圧器・トランスボックス)、各戸引き込み用の特殊部(ハンドホール)で構成され、高い安全性と施工後の維持管理性を確保できる点が特徴です。しかし、建設コストは1kmあたり約3.5億〜5億円に達し、施工工期の長期化が現場の常態的な問題となっています。
施工管理技士や建設コンサルタントが実務で直面する最大の課題は、地下埋設物との干渉と掘削規模の大きさです。従来の電線共同溝の基準では、車道部で1.2m以上、歩道部で0.5m以上の土被り(埋設深さ)が求められていたため、大きな掘削断面が必要でした。その結果、既設の上下水道管やガス管との離隔が取れず、大規模な「支障移設工事」が多発し、全体の工期が当初計画の1.5〜2倍に延伸するケースが散見されます。
また、緊急輸送道路での電柱占用制限や国の整備目標を達成する上で、従来の標準構造は適用条件の厳しさがネックとなっていました。特に歩道幅員が2m未満の狭隘道路や歩道が存在しない生活道路では、大型の特殊部や地上機器の設置スペースを確保できず、事業が物理的に停滞する現場が相次いでいます。
低コスト手法(小型ボックス・直接埋設・浅層埋設)の技術要件とコスト削減効果
こうした従来手法の課題を打破するため、国土交通省の「無電柱化のコスト縮減の手引き」等に基づき本格導入されているのが低コスト手法です。埋設深さ基準の緩和や構造物のコンパクト化により、工事費の抑制と工期短縮を同時に達成します。発注実務および施工計画においては、現場の道路条件・地下埋設物の密度・将来の需要変動に応じて適切な手法を選定する必要があります。
| 工法名称 | 技術要件・構造上の特徴 | コスト削減効果 | 主な適用条件 |
|---|---|---|---|
| 小型ボックス活用方式 | 低圧電力線と通信線を同一の小型コンクリートボックス内に同時収容し、構造断面をコンパクト化する手法。 | 従来比で整備費を約2割削減。掘削幅と特殊部サイズを抑え、材料費や仮設費を縮減。 | 歩道幅員が狭い区間や、電力・通信の将来的な配線増設需要が少ない都市部道路。 |
| 浅層埋設方式 | 土被り基準の緩和(車道部で路面から35cm程度まで浅層化)を適用し、浅い位置に管路を敷設する手法。防護板の併用が必須。 | 従来比で整備費を約1〜2割削減。掘削土量の削減に加え、既存地下埋設物の上越しが可能になり支障移設費用を大幅削減。 | 交通量が少ない生活道路(舗装設計交通量250台/日・方向未満等)や既存地下埋設物が密生する区間。 |
| ケーブル直接埋設方式 | 保護管路を用いず、ケーブルを保護シートや防護板と共に直接地中に埋設する手法。 | 従来比で整備費を約2〜3割削減。管路材費用が不要となり、掘削幅縮小と工程短縮を実現。 | 寺社・学校沿いや再開発完了区域など、将来の掘り返しや配線増設の可能性が低い区間。 |
浅層埋設方式を採用する施工現場では、再掘削時の重機損傷事故を防ぐ防護対策が品質・安全管理の要となります。浅層埋設区間では、バックホウのバケットや舗装カッターからケーブルを保護するため、管路上部に鋳鉄製やコンクリート製の防護板を連続設置し、所定の耐荷重・耐熱性能を満たす施工手順を徹底します。また、設計段階で電力事業者・通信事業者・道路管理者の三者による事前協議を行い、管路の占有区分や将来の維持管理責任の境界を定めた協議書を作成しておくことが、着工後の手戻りや工程遅延を未然に防ぐ実務手順となります。
発注見通しと民間開発(不動産・宅地開発)への影響・活用法
国土交通省や各地方自治体が無電柱化推進計画に基づき整備を加速させる中、建設業界や不動産業界におけるビジネスチャンスと実務上の影響が明確化しつつあります。インフラ整備にかかわる建設事業者・施工管理技士にとっては公共工事の発注トレンドの把握が、不動産開発事業者にとっては物件の価値向上や助成金の活用が、それぞれ事業の成否を分ける重要要因です。
建設事業者・施工管理技士が抑えるべき今後の発注見通し
ゼネコンや電気工事会社における今後の受注機会は、国家的な整備目標と各自治体の個別計画に直結しています。国の第3次無電柱化推進計画では今後5年間で約1,000kmの整備完了を目標に掲げており、整備対象の重点は「第一次緊急輸送道路」「主要駅周辺の通学路・歩道幅員が狭い道路」「歴史的景観地区」に設定されています。さらに、道路法第37条に基づく新設電柱の占用制限指定区域が急ピッチで拡大しており、指定区域内での電線地中化工事が優先的に発注される構造が成立しています。
発注される工事構造においては、従来の電線共同溝方式に加え、施工費と工期を縮減する各種構造の採用が増加しています。発注形態と適応場所の区分は以下の通りです。
| 工法・構造の名称 | 発注上の構造的特徴 | 従来方式に対する優位性 | 主な適応箇所・施工上のポイント |
|---|---|---|---|
| 小型ボックス構造 | 電力・通信ケーブルを一体型の小型ボックス内にまとめて収納する方式 | 掘削幅・掘削深さを縮減でき、土工量を削減可能 | 地下埋設物が込み合う都市部や幅員の狭い道路 |
| 管路直接埋設構造 | 防護基準を満たす管路(ECVP管など)を地中に直接埋設する方式 | コンクリート構造物の設置を減らし工期を大幅短縮 | 車両交通量が少ない生活道路や浅層埋設現場 |
| ケーブル直接埋設構造 | 高強度な防護材と一体化したケーブルを直接埋設する方式 | 管路の設置工程自体を省略し施工コストを最小化 | 歩道幅員に制約がある区間や歩行者専用道路 |
施工管理技士や技術者が入札・施工にあたって抑えるべきポイントは、試掘調査の精度と地下埋設物(ガス管・上下水道管)の移設調整能力です。狭あい道路で浅層埋設工法を採用する場合、地上機器(変圧器等)の設置スペースを民地側や公有地内に確保するための道路管理者・電線管理者・土地所有者間の合意形成が着工のボトルネックとなります。そのため、施工管理計画の段階で特殊部(マンホール・ハンドホール)のコンパクト化技術や新材料(硬質塩化ビニル管など)の施工要件を熟知し、現場での工程遅延を防ぐ調整能力を提示することが施工体制評価点の獲得に繋がります。
宅地開発・民間不動産事業における無電柱化の要件と資産価値への影響
民間不動産開発や宅地分譲事業においても、無電柱化は単なる景観美化にとどまらず、事業収益性と安全性を左右する重要施策となっています。無電柱化推進法第12条および都市計画法第29条に基づく開発許可制度の運用強化により、国土交通省は「開発事業における無電柱化推進のためのガイドライン」を策定し、事業規模に応じた無電柱化の原則化や行政指導を推進しています。
宅地開発で地中化を導入することにより、電柱や支持線による敷地利用の制約が解消され、街区全体の景観・日当たり・開放感が大幅に向上します。地震や台風などの自然災害時にも倒壊による損害や停電リスクが低減されるため、防災性能を備えたハイグレードな分譲地として差別化を図ることができます。実際、開発規模1,000㎡〜3,000㎡程度の戸建て分譲地の実例では、電線類を地中化した街区は電柱が存在する周辺相場に対して価格プレミアムが形成されるケースが多く、早期完売による資金回収期間の短縮という定量的メリットが確認されています。
無電柱化に伴う初期の建設コスト増加(宅地1区画あたり100万〜300万円程度)に対しては、自治体による助成金制度を活用することで負担を大幅に削減可能です。代表的な支援制度として以下の例が存在します。
- 東京都「宅地開発無電柱化推進事業」: 住宅を主用途とする都内の開発許可事業を対象に補助金を交付。開発面積3,000㎡未満の場合は無電柱化に要する調査設計費・工事費の4/5、開発面積3,000㎡以上の場合は2/3(上限最大4,000万〜6,000万円等)の補助率が適用されます。
- 独自条例を伴う自治体制度: 一部の自治体(茨城県つくば市など)では無電柱化条例により開発事業者の地中化工事負担割合や要件を明示すると同時に、公共相談窓口を通じて配線計画・概算費用の事前協議支援を行っています。
不動産開発事業者は、都市計画法第32条に基づく公共施設管理者との協議初期段階で地方自治体の無電柱化相談窓口を活用し、設計段階から低コスト手法(小型ハンドホールや浅層配管)を計画に組み込むことが重要です。これにより、助成制度の適用要件を確実に満たしながら、安全で資産価値の高い街づくりを実現できます。
無電柱化事業を円滑に進めるための実務推進チェックリストと課題対策
無電柱化事業では、計画段階から施工・引き渡しに至るまでに、自治体、建設コンサルタント、電線管理者(電力・通信事業者)、他占用事業者(上下水道・ガス等)といった多数のステークホルダー間での合意形成が不可欠です。特に都市部の狭隘道路における電線共同溝の整備では、地下空間の過密化と既存図面の精度不足が原因で、協議調整の難航や工事着手後の手戻りが発生しやすい構造となっています。
地下埋設物協議を円滑化するDX・BIM/CIM活用アプローチ
無電柱化事業が長期化する最大の要因は、地下埋設物データの精度不完全性と、それに伴う関係事業者との事前協議の不図合です。従来の2次元(2D)台帳に基づく協議では、上下水道管やガス管の実際の埋設深さや管径、位置のズレを完璧に把握できず、現地試掘を何度も繰り返す必要が生じていました。このボトルネックを解消する有効なアプローチが、BIM/CIMを活用した地下インフラの3次元化と統合データベース構築です。
具体的な手法として、地中レーダー探査(非破壊調査)と現地試掘データを組み合わせ、地下埋設物の3次元点群モデルを作成するデジタル手法が導入されています。掘削箇所の状況をスマートフォンで撮影し短時間で3D点群データ化するWebアプリ技術などを活用することで、施工現場で新旧の管路や不明管の立体位置を正確に記録できます。これをBIM/CIMソフトウェア(Civil 3DやNavisworks等)上で重ね合わせることで、関係事業者が共通の3次元モデルを閲覧しながら協議を進めることが可能になります。
3D空間上で自動干渉チェックを行うことで、電線共同溝の特殊部(手ホール・人ホール)や管路の最適な配置計画を早期に確立できます。これにより、従来の2D図面修正に伴う何重もの協議往復を削減し、設計・協議期間を大幅に短縮できます。また、浅層埋設や小型ボックスといった低コスト手法を適用する際にも、既存管路の上部空き空間の利用可否を3D上で即座に判定できるため、試掘箇所の限定や追加移設費用の発生を防ぐ確実なリスク管理につながります。
計画策定から施工完了までの実務推進チェックリスト
無電柱化事業を計画的に完了させるには、法制度の運用、予算確保、技術的検証、関係者協議のタイミングを工程ごとに明確化することが求められます。自治体における推進計画の策定から現場施工・完成に至るまでの各フェーズで確認すべき実務タスクとポイントを以下に提示します。
| 事業フェーズ | 主な実務タスク | 重点チェック項目・課題対策 | 関連法規・基準 |
|---|---|---|---|
| 1. 計画策定・路線選定 | ・優先整備区間の設定 ・整備目標の数値設定 ・無電柱化協議会の立ち上げ |
・防災(緊急輸送道路)、交通安全(通学路)、景観の観点から客観的基準で路線を選定しているか ・道路法第37条に基づく新設電柱の占用制限区域の指定手続きを併せて検討しているか |
・無電柱化推進法第7条・第8条 ・道路法第37条 |
| 2. 調査・基本設計 | ・地下埋設管の2D/3D調査 ・低コスト手法の採用検討 ・整備方式(電線共同溝等)の決定 |
・地中レーダー探査や試掘を実施し、既存管路の不確実性を早期排除しているか ・浅層埋設や小型ボックス、低コスト管路材(ECVP管・角型FEP管等)の適用条件を満たしているか |
・無電柱化低コスト手法導入の手引き ・電線共同溝整備マニュアル |
| 3. 詳細設計・事業者協議 | ・BIM/CIMモデルによる干渉チェック ・電線管理者・他占用者との協議 ・地上機器設置場所の確保 |
・3次元モデルを用いて特殊部位置や分岐管路の干渉を事前検証し、手戻りを防止しているか ・道路外民有地や公園等の活用を含め、地上機器(トランス等)の設置承諾を取得できているか |
・電線共同溝の整備等に関する特別措置法 ・BIM/CIM適用ガイドライン |
| 4. 施工・引き渡し | ・本体工事(管路・特殊部・地上機器) ・入線・引込工事・電柱撤去 ・施工データの3Dデジタル納品 |
・本管工事と電気・通信の引込・連系工事の同時施工により工期短縮を図っているか ・掘削時の埋設位置情報を3D点群データ等で記録し、将来の維持管理データとして移管しているか |
・道路占用許可基準 ・建設DX・デジタル納品要領 |
実務においては、地上電柱の撤去が完了して初めて整備目標が達成されます。特に本管工事完了後の電線引き込みや電線管理者による旧電柱撤去の工程遅延を防ぐため、設計段階から道路管理者・警察・電力・通信・ガス・上下水道で構成する協議会にて工事工程の一元管理を実施することが、事業を着実に完工させる必須要件となります。
よくある質問(FAQ)
Q. 無電柱化推進計画とは何ですか?最新の目標も教えてください。
A. 無電柱化推進計画とは、無電柱化推進法に基づき国や自治体が推進する整備計画です。日本の無電柱化率は東京23区でも約6%と海外より低いため、国土交通省は約1,000kmの整備完了や約4,000kmの計画策定を掲げています。併せて、従来平均約7年を要していた工期を約4年へ短縮し、防災・安全・景観の向上を目指しています。
Q. 無電柱化の工事期間を短縮する低コスト工法にはどのような種類がありますか?
A. 従来の電線共同溝方式に加え、浅層埋設や直接埋設、小型ボックスなどの低コスト手法が導入されています。埋設深さを浅くするなどの工夫により、掘削量や地下埋設物との調整作業を大幅に削減できます。これにより、工事費用の抑制だけでなく、従来平均約7年かかっていた工期を約4年へと短縮する効果が得られます。
Q. 無電柱化を推進するメリットと優先的に整備される道路の基準は何ですか?
A. 主なメリットは「防災(地震・台風時の倒壊防止)」「安全(歩道のバリアフリー化)」「景観の向上」の3つです。これらを基に、災害時の物資輸送を担う緊急輸送道路、児童が利用する通学路、歴史的・観光的な景観地区などが優先整備路線として定量的に選定され、重点的に事業が進められます。
