- 概要:2026年4〜8月の新設住宅着工は31.72万戸(前年同期比+14.5%)ですが、2024年同期比は-7.7%にとどまり、季節調整済年率換算も平均75.5万戸で横ばいが続いています。
- 実務への影響:建売住宅(2年前比+2.7%)を除く注文住宅(同-8.3%)や分譲マンション(同-27.0%)の低迷が続いており、確認申請手続きの標準化や労務費転嫁などの採算管理が目安になります。
2026年4〜8月は前年比+14.5%、だが2年前比は-7.7%の現実
国土交通省が公表した「建築着工統計調査」によると、2026年4〜8月の新設住宅着工戸数は合計31万7,203戸となり、前年同期(27万7,065戸)と比べて +14.5% となりました。しかし、制度改正前の2年前である2024年同期(34万3,636戸)と比べると -7.7% の水準にとどまっています。
足元の前年同月比でプラスが続いている背景には、2025年4月の制度改正(省エネ基準適合義務化および4号特例の縮小)直後に着工が大きく落ち込んだ反動で、数値が上振れて見えている側面があります。
なお、本記事では国土交通省の統計分類について、持家を「注文住宅」、分譲住宅のうち一戸建を「建売住宅」、分譲住宅のうちマンションを「分譲マンション」、貸家を「賃貸」と読み替えて記載します。
2025年4月の改正では、原則すべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務付けられたほか、木造2階建て住宅などが建築確認申請における構造・省エネ関連図書の提出および審査の対象となりました。こうした制度の変わり目では着工戸数が大きく上下するため、足元の数値を評価する際は、前年との比較だけでなく2年前の水準や長期的な流れを併せて確認することが大切です。
制度直前の急増と反動減、差し引き4.6万戸の下振れ
新設住宅着工戸数は、制度改正が行われた2025年4月を挟んで大きく動きました。2025年3月に駆け込みとみられる急増が起き、4月以降は減少が続きました。
| 分類 | 2026年8月実績 | 前年同月比 | 2026年4〜8月合計 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 総数 | 63,974戸 | +6.1% | 317,203戸 | +14.5% |
| 注文住宅 | 17,713戸 | +1.0% | 86,000戸 | +12.0% |
| 建売住宅 | 10,182戸 | +7.5% | 51,601戸 | +19.0% |
| 分譲マンション | 6,475戸 | +5.3% | 32,839戸 | +7.5% |
| 賃貸 | 28,309戸 | +6.5% | 143,166戸 | +17.2% |
2025年3月の上振れと4〜9月の反動減
2025年3月の着工戸数は 8万9,802戸(前年同月比+39.6%) と急増し、季節調整済の年率換算値は 105.4万戸 に達しました。
しかし、改正後の2025年4〜9月は 6か月連続で前年同月比マイナス となりました。各月の前年同月比は以下の通りです。
- 2025年4月:-26.6%
- 2025年5月:-34.4%
- 2025年6月:-15.6%
- 2025年7月:-9.7%
- 2025年8月:-9.8%
- 2025年9月:-7.3%
前年の同月(2024年各月)と比べると、2025年3月の上振れ分は +2万5,494戸 でした。これに対し、4〜9月の6か月間の下振れ合計は -7万1,555戸 にのぼり、差し引きすると -4万6,061戸の下振れ となっています。駆け込みとみられる増加分以上に、その後の落ち込みが大きかった計算になります。

2025年3月の急増を分類別に見ると、賃貸が前年同月比 +51.2%、注文住宅が +37.9%、建売住宅が +24.3%、分譲マンションが +20.4% でした。賃貸や注文住宅を中心に、改正前の駆け込み申請が行われた可能性があります。
なお、2026年3月の着工戸数は前年同月比 -29.3% と大きく減っていますが、これは比較対象である2025年3月が急増した月だったことによる反動です。
年率75万戸の横ばい推移、底流にある基調的な減少傾向
前年同月比の数値だけで見ると足元は持ち直しているように映りますが、季節調整済の年率換算値を確認すると、異なる状況が見えてきます。
季節調整済の年率換算とは、気象条件や営業日数といった毎年起きる月ごとの偏りを除き、「このペースが1年続いた場合に何戸になるか」を計算した数値です。なお、この数値は毎年12月分のデータが出そろった段階で過去にさかのぼって再計算されるため、後から改訂される場合があります。

季節調整済年率換算の推移
年率換算値の推移を見ると、急減期を抜けた2025年10月以降は 72.2万〜78.9万戸(平均75.5万戸) で推移しており、横ばいの状態が続いています。2024年の年平均水準(79.2万戸)へ向かって上がっていく動きは見られません。
制度改正前から続く基調的な減少
注意が必要なのは、基準としている2024年の着工水準自体が、制度改正の前から減少傾向にあった点です。新設住宅着工戸数の年間合計を見ると、以下の流れをたどっています。
- 2022年:85.95万戸
- 2023年:81.96万戸(前年比-4.6%)
- 2024年:79.22万戸(前年比-3.3%)
- 2025年:74.07万戸(前年比-6.5%)
制度改正前の2年間(2022年→2024年)の減少率は -7.8% でした。2026年4〜8月の合計(31万7,203戸)を2年前の2024年同期(34万3,636戸)と比べた減少率は -7.7% であり、改正前の2年間とほぼ同じペースで減少が続いている可能性があります。
足元の数字は制度改正に伴う急変動から落ち着きつつあるものの、長期的な需要縮小の流れそのものが止まったとは言い切れない状況です。
分類別比較:建売住宅のみが2年前を上回りマンションは-27.0%
分類別の動向を見ると、住宅の種類によって動きに差が出ています。2026年4〜8月の合計戸数を、前年同期(2025年)および2年前同期(2024年)と比較した結果は以下の通りです。
| 分類 | 2024年4〜8月 | 2025年4〜8月 | 2026年4〜8月 | 前年同期比(2025年比) | 2年前同期比(2024年比) |
|---|---|---|---|---|---|
| 建売住宅 | 50,245戸 | 43,358戸 | 51,601戸 | +19.0% | +2.7% |
| 賃貸 | 150,510戸 | 122,118戸 | 143,166戸 | +17.2% | -4.9% |
| 注文住宅 | 93,762戸 | 76,782戸 | 86,000戸 | +12.0% | -8.3% |
| 分譲マンション | 45,014戸 | 30,551戸 | 32,839戸 | +7.5% | -27.0% |
| 総数 | 343,636戸 | 277,065戸 | 317,203戸 | +14.5% | -7.7% |

建売住宅の相対的な堅調さ
4分類の中で、2年前の2024年同期の水準を上回ったのは 建売住宅(+2.7%)のみ でした。前年同期比でも +19.0% と大きく伸びています。
建売住宅は、建築コストの上昇局面において注文住宅よりも総額を抑えやすい選択肢として選ばれやすい面や、規格化された設計によって確認申請手続きや省エネ適合作業を標準化しやすかったことなどが、底堅さの背景にある可能性があります。
分譲マンションの大幅な落ち込み
一方で、分譲マンションは2026年4〜8月で3万2,839戸にとどまり、前年同期比では+7.5%となったものの、2024年同期比では-27.0% と大きく落ち込んでいます。
国土交通省の民間発注動向調査(2026年9月公表)によると、計画通りに工事を発注できなかった企業のうち、68.2%が「人件費高騰や資材調達難によるコスト増を許容できなかった」 ことを理由に挙げています。発注できなかった工事が「増えた」と回答した企業は不動産業が他業種を上回っており、工事費の膨張によって採算が悪化し、デベロッパーが着工時期を後ろ倒ししている動きと整合的です。
各住宅区分のより詳しい推移は、新設住宅着工戸数の推移でも解説しています。
サプライチェーンへの影響:工務店からゼネコンまでの実務環境
住宅着工の推移は、工務店やゼネコン、専門工事業者の実務にもそれぞれ異なる影響を与えています。
注文住宅(工務店・ハウスメーカー)
注文住宅の2026年4〜8月着工戸数は8万6,000戸で、前年同期比では+12.0%となったものの、2024年同期比では-8.3% です。
工務店にとっては、2025年4月の法改正に伴う新区分(新2号・新3号)への移行により、木造2階建て住宅等における壁量計算や省エネ適合計算の図書作成・審査手続きの負担が増えた可能性があります。また、建設資材価格の推移に見られるようなコスト高に伴う販売価格の上昇が、施主の資金計画に影響している可能性があります。
建売住宅(住宅供給会社・パワービルダー)
建売住宅は2026年4〜8月に5万1,601戸が着工され、2024年同期比でも +2.7% とプラスを維持しています。設計の標準化が進んでいるビルダーでは、4号特例縮小に伴う図面作成の定型化を早期に進め、着工までの遅れを小さく抑えられた可能性があります。
ただし、用地取得費や建築コストが高止まりしているため、完成在庫の回転率や販売価格のバランス管理が収益を左右する状況が続いています。
分譲マンション・賃貸住宅(ゼネコン・専門工事業者)
分譲マンションは2年前比で -27.0%、賃貸は -4.9% となっています。集合住宅を手掛ける中堅ゼネコンや専門工事業者にとっては、民間プロジェクトの発注見送りや着工遅延が現場の稼働率に影響している可能性があります。
時間外労働の上限規制(建設業の2024年問題)や、改正建設業法による適正工期の確保が義務付けられたことで、工程の短縮によるコスト吸収は難しくなっています。施工余力の制約と工事費上昇が重なり、デベロッパー側の慎重姿勢につながっていると読めます。
今後のウォッチ指標と実務対策
今後の事業計画や現場リソースを判断する上では、以下の指標を継続して追うことが目安になります。
| 指標名 | 確認元 | 確認頻度 |
|---|---|---|
| 新設住宅着工戸数(利用関係別) | 国土交通省「建築着工統計調査」 | 毎月公表 |
| 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算) | 国土交通省「建築着工統計調査」 | 毎月公表(年1回改訂) |
| 建設工事費デフレーター | 国土交通省 | 毎月公表 |
| 民間発注動向・工期設定実態調査 | 国土交通省不動産・建設経済局 | 随時 |
足元の新設住宅着工戸数は前年同期比で二桁のプラスを示していますが、制度改正前の2024年同期比では-7.7%であり、年率換算でも約75万戸前後で横ばいが続いています。前年比の伸びを需要回復と捉えるのではなく、基調的な減少傾向を前提とした業務設計が求められます。
今後やるべき実務対策
工務店・住宅会社
- 構造・省エネ関連図書の作成と確認申請の業務フローを標準化し、確認申請手続きの期間短縮と設計原価の抑制を定着させる。
- 注文住宅の需要減退に備え、規格型住宅の展開や断熱改修などのリフォーム需要を取り込み、新築請負以外の収益源を確保する。
- 資材価格の変動リスクを想定し、請負契約時の価格スライド条項の活用を進める。
ゼネコン・専門工事業者
- 標準労務費の勧告制度を踏まえ、原価割れ受注を避けた見積もりと労務費の適切な転嫁を徹底する。
- 施工管理のデジタル化や遠隔臨場を進め、現場管理者の業務負担を軽減する体制を整える。
- 発注者の着工見送りや工期延伸リスクに備え、早期の協議申し入れと施工協力会社のリソース確保を並行して進める。
出典: 国土交通省「建築着工統計調査」 / 統計最終更新: 2026年8月
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年に入って住宅着工戸数の前年比がプラスになっている理由は何ですか?
A. 2025年4月の制度改正(省エネ基準適合義務化や4号特例縮小)直後に大幅な着工減が生じたため、その反動で2026年の前年同月比が大きくプラスに見えています。制度改正前の2024年同期と比べると-7.7%にとどまっており、着工水準そのものが回復しているとは評価できません。
Q. 2025年4月の建築基準法改正前後で住宅着工はどう動きましたか?
A. 改正直前の2025年3月は駆け込みとみられる申請により前年同月比+39.6%(年率105.4万戸)へ急増しました。しかし4〜9月は6か月連続で前年同月比マイナスとなり、5月には年率55.4万戸まで落ち込みました。3月の上振れ分(約2.5万戸)に対し、4〜9月の下振れ分(約7.2万戸)が上回る結果となりました。
Q. 新設住宅着工が横ばい傾向の中、工務店やゼネコンがとるべき実務対策は何ですか?
A. 工務店では新区分に伴う構造・省エネ関連図書の作成と確認申請の業務フローを標準化し、設計原価の圧縮とリードタイム短縮を図ることが目安になります。ゼネコンや専門工事業者では、適正な労務費転嫁による採算確保と、ICTツール活用などによる施工管理体制の効率化を進めることが有効な選択肢となります。