一般社団法人日本建設業連合会(日建連)は2026年7月31日、「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状[四半期版]2026年夏版」を公表し、直近2年間で建設総合コストが平均7.3〜8.2%上昇したことを明らかにした。資材価格の高騰や納期遅延に加え、労務費の上昇が重複する「高コスト・高不確実性」の環境下において、建設各社は従来の積算基準や工程管理の手法を根本から見直す時期を迎えている。
日建連が明かした2026年夏版コスト試算と資材・労務費の急騰実態
日本建設業連合会(日建連)が取りまとめた「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状[四半期版]2026年夏版」では、世界的な原材料・エネルギー不足、円安、さらには労働需給の逼迫を背景に、建設コスト全般が力強く上昇を続けている実態が数値で示された。日建連は従来、毎月発行していた説明パンフレットを2026年から四半期版へと見直し、直近2年間の実効的なコスト動向をタイムリーに把握できる体制へと移行している。今回のレポートは、その最新分析となる。
建設総合コストの上昇幅と部門別の構造差
今回の試算にあたり、日建連は材料費割合を50〜60%、労務費率を30%と設定し、仮設費や経費等を含めた全建設コストの変動額を割り出した。その結果、2024年6月から2026年6月までの直近2年間で、建設総合の平均コストは7.3〜8.2%増加した。
部門別に見ると、土木部門と建築部門で上昇率に差が生じている。土木部門では8.7〜9.8%の上昇と最大1割近く跳ね上がっており、建築部門の6.8〜7.6%を上回る強い押し上げ圧力が確認された。これは、土木工事において石油由来資材や鋼材のコスト影響を受けやすいことや、全施工費に占める労務費率の高さが背景にある。
| 部門 | 2年間の建設コスト上昇率(試算値) | 主なコスト押し上げ要因 |
|---|---|---|
| 建設総合 | 平均 7.3 〜 8.2% | 資材価格の高止まりと労務費の連動引き上げ |
| 土木部門 | 8.7 〜 9.8% | ストレートアスファルト高騰、高い労務費比率 |
| 建築部門 | 6.8 〜 7.6% | 絶縁電線・アルミ地金の高騰、設備遅延に伴う仮施工費 |
5年間で39%高騰した建設資材物価と品目別の伸び率
資材価格の動向を示す「建設資材物価指数(東京)」によれば、建設総合の平均は2021年6月からの5年間で39%上昇した。内訳は建築部門が36%増、土木部門が44%増となっており、中長期にわたり構造的なインフレが続いていることがわかる。直近2年間(2024年6月比)に限っても総合平均で9%上昇しており、価格高騰の勢いは衰えていない。
品目別に分析すると、特に設備系・金属系・石油製品系の高騰が目立つ。この2年間における主要品目の上昇率は以下の通りである。
| 主要資材品目 | 過去2年間の価格上昇率 | 現場施工・見積り実務への直接的な影響 |
|---|---|---|
| 600Vビニル絶縁電線 | 45%増 | 設備工事の当初見積り超過、電気工事費の予算再調整 |
| 硬質ポリ塩化ビニル管 | 34%増 | 給排水設備・土木配管工事における直接工事費の圧迫 |
| アルミ地金 | 31%増 | サッシ・カーテンウォールなど開口部建材価格の上昇 |
| ストレートアスファルト | 21%増 | 道路・舗装工事の原材料費増、公共土木での単価改定 |
公共工事設計労務単価の2万5,000円突破と「6%賃上げ」目標
資材高騰と並ぶコスト押し上げの主因が労務費の上昇である。国土交通省が発表する公共工事設計労務単価(賃金相当分)は、2024年比で9.5%引き上げられ、全国全職種加重平均値は2万5,834円に達した。これにより、単価は初めて2万5,000円の大台を突破した。平成25(2013)年の改定以来14年連続の上昇となり、底値であった平成24(2012)年比では+94.1%と、ほぼ2倍の水準へ達している。
さらに、国土交通大臣と日建連を含む建設関係4団体は、2026年の技能労働者の賃上げ目標について「おおむね6%の賃上げ」を目指すことで申し合わせている。
ここで重要なのは、公表される労務単価(2万5,834円)は「作業者本人が受け取る基本給や基準内手当等」の額面であり、事業主が負担すべき法定福利費(社会保険料の事業主負担分)や安全衛生費などの必要経費は含まれていない点だ。国土交通省の試算によれば、事業者が技能者を1人雇用するために必要な実質総コストは、公表単価の約148%(日額約3万8,200円相当)にのぼる。下請契約や見積提出においては、単価そのものだけでなく、この「事業者の実負担コスト」を考慮した積算を行う必要がある。
参考記事: 公共工事設計労務単価とは?令和6年改定の数値データと手取り額との違い・積算実務を徹底解説
納期遅延の慢性化と仮引き渡し・再工事による二重コスト負担
今回の夏版レポートで日建連が強く懸念を示しているのが、単なる「単価高」にとどまらない「納期遅延」とそれに伴う二重コストの発生である。
中東情勢の緊張に起因する部材調達の滞りや、特定の建築設備工事への現場集中に伴う職人不足が重なり、躯体から仕上げ、設備関連に至るまで部材の納入時期が不安定化している。納期が工期に間に合わない場合、現場では「一旦代替品を取り付けて仮引き渡しを行い、本資材が到着した後に再工事を実施する」といった苦肉の策を余儀なくされている。
この仮施工と再工事のプロセスにより、代替品の調達費用だけでなく、二段階にわたる仮設費・手戻り人工・撤去費用が発生し、工期延滞のリスクとともに二重のコスト負担が現場の利益を直接圧迫している。
建設コスト・納期不安定化が主要プレイヤーに与える具体的インパクト
資材・労務費の双子型インフレと納期の不安定化は、建設産業に携わる各プレイヤーの経営・実務プロセスにそれぞれ異なる課題をもたらしている。
ゼネコン(元請け):見積有効期限の短縮とインデックススライドの適用強化
元請ゼネコンにとって、見積提出から契約・着工までに数ヶ月のタイムラグが生じる従来の慣行は、大きな経営リスクとなっている。短期間で数%単位の資材・労務コスト変動が発生するため、受託時点での利益率が着工時には消失しているケースが相次いでいる。
この事態に対処するため、元請各社は発注者に対する見積書の有効期限を従来の3ヶ月から1ヶ月程度へ短縮する動きを強めている。また、工事請負契約書の中に、資材高騰時に請負代金を増額改定する「単品スライド条項」や「インフレ・スライド条項」を確実に盛り込む交渉力が必須となっている。
同時に、下請協力会社に対しては「標準労務費」を意識した適正な労務費の支払いが求められる。下請叩きによるコスト吸収は法的に厳しく制限されており、労務単価の上昇分を適切に民間工事へ転嫁できるかが経営の生命線となる。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?改正建設業法での変更点と企業が取るべき対応策を解説
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正のポイントと発注者・受注者の実務を徹底解説
現場監督・施工管理者:「動的工程管理」への移行と歩掛りの見直し
現場の施工管理者は、「必要な資材が定刻通りに現場へ搬入される」という従来の固定的な前提を捨てざるを得なくなっている。設備部材の納期遅延が発生した際、即座に他工区の施工順序を入れ替えるような「動的工程管理」が必須となっている。
従来のExcelによる静的な工程表管理では、度重なる仕様変更や納期延期に伴う全体工程への影響度試算が追いつかない。そのため、サプライヤーからの出荷状況や職人の手配状況をリアルタイムで共有できるデジタルの工程管理ツールの導入が進んでいる。
また、手戻り工事や仮引き渡し対応が発生すると、施工に必要な人工を示す「歩掛り(ぶがかり)」が当初計画から悪化する。現場監督は、現在の施工状況における実質的な歩掛りを正確に計測し、追加費用が発生した場合にはエビデンスを揃えて発注者や元請本部へ変更協議を申請する実務能力が求められている。
参考記事: 歩掛り(ぶがかり)とは?人工との違い・計算方法から原価削減の実務策まで解説
発注者・デベロッパー(施主):「安さ最優先」の限界と新たな発注方式の採用
民間デベロッパーや個人施主などの発注側にとっても、今回のデータは発注戦略の本格的な転換を迫るものだ。価格の安さだけを重視して施工会社に無理な値を叩かせる従来型の発注スタイルは、施工会社の辞退や資材確保の優先順位低下を引き起こし、結果として大幅な工期遅延や施工品質の低下という形で発注者自身に跳ね返ってくる。
そのため、施工会社を早期に選定し、専門工事の価格決定プロセスを透明化しながらリスクを共有する「コストオン方式」や「ECI(Early Contractor Involvement)方式」を採用する動きが広がっている。施主と施工者が早期にパートナーシップを組み、資材の早期手配と適正な価格設定を行うことが、プロジェクトを予定通り完成させる重要な選択肢となりつつある。
参考記事: コストオン方式とは?仕組み・メリットとゼネコン・施主双方の実務プロセスを徹底解説
ConShiftの視点:インフレと供給制約を前提とした「建設経営モデル」への転換
今回の日本建設業連合会による発表は、建設業界が「安価で安定した供給」を前提とした旧来の構造から、インフレと供給制約を不可避の定数として織り込む「高コスト・高不確実性」の構造へ完全に移行したことを表している。単なる一時的な資材高騰期としてやり過ごすのではなく、企業経営のシステム自体を新たな構造に適応させなければならない。
第一に求められるのは、「リアルタイム積算」と「契約の動的化」である。過去の施工実績データや数ヶ月前の資材物価をベースにした固定的な見積りは、利益を圧迫する最大の原因となる。四半期単位での日建連データや資材物価の変動をシステム上で自動追従する積算プロセスを構築し、見積書には「資材価格の変動に伴う価格見直し条件」を標準で盛り込むべきである。
第二に、公共工事設計労務単価2万5,834円(事業者実コスト約3万8,200円)という数字を重く受け止め、法定福利費や適正な利潤を反映した価格転嫁を徹底することだ。2024年の改正建設業法や品確法の趣旨を踏まえ、標準労務費を下回る不当な買いたたきを徹底的に排除し、技能者の待遇改善と企業の経営力強化を両立させる価格交渉力が元請・下請双方に不可欠となる。
第三に、サプライチェーンの不確実性を織り込んだ「施工のバッファー設計」である。特定メーカーの部材に依存した設計・施工計画は、納期遅延が起きた瞬間に現場を停滞させる。設計段階から代替品(同等品)の選定ルールを定めておき、発注者との間で早期の合意形成を図る体制を作ることが、二重コストの発生を防ぐ最大の防御策となる。
まとめ:建設企業が明日から着手すべき3つのアクション
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自社見積もり・積算基準の更新とインフレ条項の運用徹底
日建連の最新四半期データを反映し、見積有効期限の短縮および契約書へのスライド条項明記を標準化する。 -
労務実コスト(約3.8万円/日)に基づく下請発注単価の見直し
標準労務費の勧告制度を念頭に置き、技能労働者の賃上げ6%目標と法定福利費を含めた適正単価で契約を交わす。 -
設備資材の早期手配と施工管理ツールのデジタル化推進
納期遅延を見越した動的工程管理を導入し、代替品手配や再工事による二重コストのリスクを組織的に排除する。
出典: デジコン
出典: 一般社団法人日本建設業連合会
出典: 国土交通省

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