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コスト管理 2026年9月3日

NEDOが浮体式洋上風力5件採択|大手3社参画で施工技術革新へ

NEDOが浮体式洋上風力5件採択|大手3社参画で施工技術革新へ

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2026年8月17日、浮体式洋上風力発電の低コスト化に向けた次世代技術開発テーマ5件を採択しました。大林組、大成建設、清水建設の大手ゼネコン3社が主要プロジェクトに参画しており、海洋エネルギー市場における施工技術の確立が建設各社の将来的な競争力を大きく左右する局面を迎えています。

浮体式洋上風力の商業化に向けたNEDO採択テーマと政策背景

日本政府は「洋上風力産業ビジョン(第2次)」において、2030年までに10GW、2040年までに30〜45GWの案件形成を掲げています。日本周辺の海域は遠浅の海岸線が少なく水深50mを超える深海域が多いため、45GWのうち15GW以上は海上に構造物を浮かべる「浮体式洋上風力発電」で賄う計画です。さらに2025年6月には改正再エネ海域利用法が成立し、排他的経済水域(EEZ)への開発エリア拡大が可能となったことで、浮体式の実装に対する要請は急速に高まっています。

しかし、浮体式洋上風力は着床式と比較して浮体構造物の製造費や係留システムの設置工費、荒天時のメンテナンス費用などのコストが高止まりしており、商業化に向けた最大の障壁となっています。今回のNEDO事業「次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究」は、2026年度から2027年度にかけて実海域での低コスト化技術を検証する目的で公募されたものです。

採択テーマ名 幹事企業 共同実施・参画組織 研究開発の主眼
TLP型ハイブリッド浮体式洋上風車支持構造物の実用化検証 大林組 ユーラスエナジーホールディングス TLP型による揺れの抑制、建造費削減、実海域運用検証
コンクリート製浮体の設計・製造・維持管理を通じた低コスト化技術開発 大成建設 東京電力ホールディングス、北海道電力 国内調達材(コンクリート)による材料安定調達、既存港湾での製造
モジュール型浮体に導入するピン結合技術およびグラウト接合技術の開発 JFEエンジニアリング 清水建設、東京電力リニューアブルパワー、ユーラスエナジーHD、日本海事協会 陸上土木技術の海洋転用、既存造船・鋼構造工場の活用、港湾組立短縮
光ファイバセンシングによる係留システムの長期モニタリング・健全性評価 神鋼鋼線工業 大阪大学、ニューブレクス(再委託) 高耐食型鋼製ケーブルの劣化診断、遠隔保守による維持管理費低減
洋上での風車施工技術および大規模修理技術の開発 東京電力リニューアブルパワー 日本海事協会、東京大学 大水深・荒波海域における洋上交換・補修工法の確立、稼働停止ロス削減

本実証事業の最大の特徴は、エネルギー事業者だけでなく大手ゼネコンが中核として組み込まれている点です。浮体構造物の製造から海上での組立・接合、係留工事に至る一連のバリューチェーンにおいて、建設業が持つ構造設計力と施工技術がコストダウンの鍵を握っています。

参考記事: i-Constructionとは?建設DXを推進する3つの柱と導入のメリットをわかりやすく解説

大手ゼネコン3社が挑む要素技術とアプローチの差別化

今回参画した大手3社は、それぞれ異なる構造形式や材料特性に着目し、浮体式の高コスト構造に対する独自の解決策を提示しています。

大林組:動揺を抑える「TLP型ハイブリッド浮体」の実用化検証

大林組は、テンション・レグ・プラットフォーム(TLP)と呼ばれる緊張係留方式とコンクリート・鋼のハイブリッド構造を組み合わせた浮体支持構造物の実用化検証を主導します。TLP型は海底のアンカーと浮体を強固な緊張材で結ぶことで波浪による上下動や動揺を大幅に低減できるため、発電効率の向上と浮体構造のコンパクト化が可能です。

大林組はユーラスエナジーホールディングスとともに、商用規模での浮体製作手法や実海域での運用性、係留施工の省人化工法を確立し、量産フェーズでの大幅な建造コスト削減を目指します。

大成建設:材料調達の安定性を強みにする「フルコンクリート製セミサブ型」

大成建設は、東京電力ホールディングスおよび北海道電力と連携し、コンクリート製セミサブ型浮体の技術開発を推進します。鋼製浮体は国際的な鋼材市況の変動や特殊造船設備の空き状況に左右されやすい課題がありますが、コンクリート浮体は骨材やセメントなどの主要材料の多くを国内調達できるため、調達の安定性と価格優位性に優れています。

同グループは先行研究で培った「フルコンクリート製コンパクトセミサブ型浮体」の知見をもとに、既存の港湾インフラやプレキャスト技術を活用した製造・組立体制を構築し、維持管理を含めたライフサイクルコストの低減を実証します。

参考記事: 大成建設、CO2最大110kg固定を3年実証|施工管理が選ぶGX技術

清水建設:土木接合工法を海洋へ転用する「モジュール型浮体」

清水建設は、幹事企業のJFEエンジニアリングや東京電力リニューアブルパワー等とともに、モジュール型浮体の接合技術開発に参画します。この取り組みでは、国内の既存造船所や鋼橋工場で分割製造されたモジュール部材を港湾ヤードへ搬入し、陸上土木・建築分野で実績のある「ピン結合技術」および「グラウト接合技術」を用いて一体化させます。

高度な溶接設備を洋上や臨海ヤードに持ち込むことなく強固な接合を実現することで、現地での組立工期を大幅に短縮し、国内サプライチェーンの生産余力を最大限に活用するアプローチをとっています。

参考記事: 清水建設、55歳以上37%の建設現場へ人型ロボ協調基盤を提唱

建設サプライチェーンおよび施工現場に及ぼす影響

大手ゼネコンが海洋エネルギー分野の技術開発を主導する動きは、建設業界のサプライチェーンと現場マネジメントに広範な変化を波及させます。

元請けゼネコン:請負業から「海洋エネルギー技術プロバイダー」への転換

従来のゼネコンにおける洋上土木工事は、港湾の防波堤建設や着床式基礎の打設など、発注図面に基づく請負施工が中心でした。しかし浮体式洋上風力市場では、浮体構造の設計認証、ヤードでのモジュール量産、大水深での無人係留施工までをパッケージとして提供できる「技術プロバイダー」としての役割が求められます。

独自工法の知的財産権を保有し、発電事業者に対して初期投資(CAPEX)と運用コスト(OPEX)の低減効果を数値で証明できる元請け企業のみが、将来の数兆円規模に上る海洋工事市場で主導権を握ることになります。

専門工事業・建機メーカー:遠隔無人施工と海洋ロボティクスへの投資加速

大水深海域での施工は、潜水士による人力作業が物理的に不可能な領域へ移行します。これに伴い、水中無人探査機(ROV)や遠隔操作式水中重機を用いたアンカー設置・ケーブル敷設・点検技術の需要が急拡大します。

建機メーカーや特殊土木会社にとっては、陸上のICT建機や遠隔施工システムで培ったロボティクス技術を海洋環境へ応用する研究開発が競争力の源泉となります。水中での高精度位置測位や自動把持ロボットなどを保有する専門事業者は、大手ゼネコンにとって不可欠なパートナーとしての地位を確立します。

施工管理者:物理的な現場常駐から「遠隔デジタルツイン管理」へのシフト

海洋現場は気象・海象条件の制約が極めて厳しく、日々の工程管理や安全管理を現場目視のみで行うことは困難です。施工管理者は、風況・波高のリアルタイム予測データ、光ファイバセンシングによる張力監視データ、ドローンや水中ドローンから送られる映像を統合した「デジタルツイン環境」上で施工プロセスを制御する役割を担います。

陸上の事務所や遠隔オペレーションセンターから海上の施工状況を一元管理するデータ主導型のマネジメント能力が、今後の施工管理者に求められる中核スキルとなります。

参考記事: 【週間サマリー】08/24〜08/31|「現場依存と属人性の解体」が導く自律施工と組織的ガバナンスの確立

ConShiftの視点|海洋エネルギー市場が迫る建設業の提供価値シフト

本事業が示す構造変化の本質は、建設業の付加価値が「現場労働力の供給」から「過酷環境を克服する自動化テクノロジーの社会実装」へと決定的に移行している点にあります。

国内の建設現場では技能労働者の高齢化と人手不足が深刻化していますが、海洋工事は大水深・波浪・気象制約という極限の現場条件が重なるため、陸上以上に「人の介在を最小化する完全自動化・無人化」が不可欠です。大林組のTLP緊張制御、大成建設のコンクリートプレキャスト化、清水建設のモジュール乾式接合といった技術は、いずれも「現場での現地作業時間を極小化し、工場製作と自動機械に置き換える」思想で共通しています。

過酷な海洋環境で磨かれた無人化施工・高精度センシング・モジュール接合のノウハウは、将来的にトンネル坑内や超高層ビル、山岳地帯といった陸上の危険作業・過密工程の省人化施工へ逆輸入される技術基盤となります。海洋エネルギー開発への投資は、単なる個別インフラの受注競争ではなく、建設業全体の生産性モデルを再定義する実証実験としての意義を持っています。

明日から意識すべき3つの実務アクション

海洋エネルギー市場の拡大と施工技術の高度化を見据え、建設企業の経営層や現場リーダーが着手すべき実務アクションを整理します。

  1. 自社が保有する要素技術の「海洋・過酷環境」への転用可能性を棚卸しする

プレキャスト工法、高耐久コンクリート、遠隔重機操作、構造モニタリングなど、自社が陸上工事で培った強み技術を浮体製造や沿岸ヤード工事へ展開できるか検証します。

  1. 浮体式洋上風力の法規制・港湾実証動向のモニタリング体制を構築する

改正再エネ海域利用法に基づく促進区域の指定動向や、国交省・NEDOの技術開発公募の推移を定期的に追跡し、自社の事業計画への影響を早期に把握します。

  1. 遠隔モニタリングとセンシング技術の実現場導入を前倒しで進める

光ファイバやIoTセンサを用いた構造物の健全性評価、水中ドローン等の遠隔機器の試行導入を日常現場で進め、非対面・遠隔での施工管理ノウハウを組織的に蓄積します。


出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
出典: 清水建設株式会社
出典: 大成建設株式会社
出典: 日本貿易振興機構(JETRO)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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