清水建設、エフティーエス、戸田建設、西松建設、前田建設工業の5社は2026年8月6日、山岳トンネル工事向けのエレクタ一体型コンクリート自動吹付けシステム「ヘラクレス-AUTO」を徳島県の道路トンネル現場に実適用し、高い実用性を実証したと発表しました。熟練技能者のノズル操作に依存していた難作業を高度センシングと自動制御で代替し、切羽直下の危険作業をゼロに抑えながらサイクルタイムを約5%短縮した本技術は、山岳トンネルDXにおける大きな転換点となります。
「ヘラクレス-AUTO」実道現場への適用と技術概要
山岳トンネル工事において、掘削直後の岩盤崩落を防ぐ一次支保工としてのコンクリート吹付けは、施工速度と構造物の安全性を左右する極めて重要な工程です。従来この作業は、高濃度の粉じんが立ち込める過酷な切羽近傍で、熟練オペレーターが目視と手の感覚を頼りにノズルを操作して施工していました。
今回実証された「ヘラクレス-AUTO」は、エレクタ一体型の吹付け機械に高度なセンシングシステムと自動制御アルゴリズムを統合した自動施工システムです。5社連合が2020年4月から共同開発を進め、実現場での運用を通じてその有効性を定量的に証明しました。
リアルタイム計測と自動制御を両立する要素技術
「ヘラクレス-AUTO」の中核を成すのは、「吹付けナビゲーションシステム」と「ノズル自動制御システム」の連携です。トンネル切羽はコンクリートの跳ね返りや粉じんにより極めて視界が悪く、従来の光学式センシングでは正確な表面計測が困難でした。本システムではミリ波レーダ技術、モーションキャプチャー技術、機体位置計測技術を融合させることで、過酷な粉じん環境下でも吹付け厚さをリアルタイムに三次元計測することを可能にしています。
吹付け作業中、システムは設計厚さと現在の吹付け厚さとの差異をタブレット画面上に色分け表示します。施工エリア内の厚さ不足箇所や余剰箇所が一目で把握できるだけでなく、独自開発のノズル誘導アルゴリズムによって、凹凸の激しい掘削面に対してもノズルと吹付け面との距離・角度を常に一定に維持します。オペレーターはキャビン内などの安全な場所からタブレット上で施工エリアを指定するだけで、均質な吹付け施工を全自動で完了させることができます。
実証現場「長生・明谷トンネル」の施工実績とデータ
本システムの実証施工は、国土交通省四国地方整備局発注の「一般国道55号桑野道路長生・明谷トンネル工事」において、清水建設の施工により実施されました。
| 項目 | 詳細仕様・実績値 |
|---|---|
| 工事件名 | 一般国道55号桑野道路長生・明谷トンネル工事 |
| 発注者/施工者 | 国土交通省四国地方整備局/清水建設 |
| 工事場所/工期 | 徳島県阿南市/2023年3月〜2026年12月 |
| 掘削延長/内空断面積 | 1,001m(工事延長1,080m)/93.7㎡ |
| システム導入時期 | 2025年6月より実証施工開始 |
| 自動吹付け実績 | 施工延長約250m、吹付け数量約5,500㎥ |
| 施工効率化効果 | 手動操作比でサイクルタイムを約5%短縮 |
| 安全性向上効果 | 切羽直下での作業時間をゼロ化(天端45度ライン外から操作) |
実証施工では、約250メートルの区間で合計約5,500立方メートルのコンクリート吹付けを自動で行いました。所定の吹付け厚さを確実に確保した上で、熟練オペレーターの手動操作と比較して吹付けサイクルタイムを約5%短縮することに成功しました。さらに、従来は吹付け厚さの検尺やノズル操作のために必要だった「切羽天端から45度の崩落危険ライン内」への作業員の立ち入りを完全に排除し、作業時間ゼロを達成しています。
開発タイムラインと受賞実績
本システムの開発は、ゼネコン4社と機械メーカーによる段階的な実証プロセスを経て実用化に至っています。
| 年月 | 主なマイルストーン |
|---|---|
| 2020年4月 | 清水建設、戸田建設、西松建設、前田建設工業、エフティーエスの5社が共同開発に着手 |
| 2025年6月 | 模擬トンネル実験を経て「長生・明谷トンネル工事」へ現場導入、実証施工を開始 |
| 2026年8月 | 実現場での約5,500㎥施工実績・サイクルタイム5%短縮を発表。外販展開を公表 |
厚生労働省の「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」や「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」の強化、国土交通省が進める「i-Construction 2.0」のオートメーション化方針を背景に、開発初期から高い評価を受けてきました。
建設業界各プレイヤーへの具体的な影響
「ヘラクレス-AUTO」の実用化と外販展開は、山岳トンネル工事に携わる元請けゼネコン、機械メーカー、現場技能者の業務環境に多面的な変化をもたらします。
元請けゼネコン:共同開発による投資回収と標準化の進展
準大手・大手ゼネコンが競合の垣根を越えてアライアンスを組み、山岳トンネルのコア技術を共同開発した事例として極めて合理的です。単独開発に伴う莫大な研究開発費やリスクを5社で分散しつつ、各社の現場知見を統合して完成度を高めました。
実現場での施工実績が確立されたことで、今後は自社施工現場への横展開が加速します。特に切羽直下の無人化は、発注者に対する安全管理体制の強力な差別化要素となるだけでなく、労災リスクの大幅な低減につながります。
建機メーカー・専門機器企業:オープンな外販モデルによる普及拡大
共同開発メンバーであるエフティーエスが装置の製造・外販を担当するスキームにより、開発に参加した特定ゼネコンの現場に技術が囲い込まれることなく、業界全体へ流通する基盤が整いました。
山岳トンネル用重機の市場において、後付け可能な自動化アタッチメントや統合制御システムの需要が今後急速に高まる見込みです。重機メーカーやレンタル会社にとっては、自動制御対応機のラインアップ拡充やメンテナンス体制の構築が新たな収益機会となります。
現場技能者・職人:過酷作業からの解放とオペレーションの変革
山岳トンネルの吹付け作業は、粉じんや騒音、落石リスクに常に晒される過酷な環境下で行われてきました。本システムの導入により、作業員は粉じん濃度が低く落石リスクのないキャビン内や離隔位置からタブレット端末で施工状況を監視・指示する役割へとシフトします。
従来は長年の経験が必要だった吹付け厚さのコントロールがデジタル化・自動化されることで、若手オペレーターでも高品質な施工が可能になります。熟練技能者の急速な高齢化と離職が進む中、省人化と技術承継の課題を同時に解決する手段となります。
ConShiftの視点:協調領域の拡大と山岳トンネル全自動化への布石
「自前主義」からの脱却とオープンイノベーションの定着
本件の注目点は、清水建設、戸田建設、西松建設、前田建設工業というトンネル分野の有力ゼネコンが手を組み、完成した技術をエフティーエス経由で外販するオープン戦略を採った点にあります。
かつての建設業界では、施工技術の自動化やロボット化は各社が独自に開発し、特許で囲い込む「競争領域」として扱われる傾向がありました。しかし、i-Construction 2.0が掲げる現場のオートメーション化を実現するには、個社単独の開発リソースでは限界があります。安全対策や基礎的な施工プロセスの自動化を「協調領域」と再定義し、開発コンソーシアムを通じてデファクトスタンダード(業界標準)を形成するモデルが、土木分野のDXにおける主流となりつつあります。
山岳トンネル全工程の無人化・自動化へのロードマップ
山岳トンネル工事は、「掘削(削岩・発破)」「ずり積み・運搬」「支保工建込み」「コンクリート吹付け」「ロックボルト打設」という定型的なサイクルを繰り返す工種です。「ヘラクレス-AUTO」による吹付けの自動化と切羽直下作業ゼロの達成は、先行して開発が進む「全自動鋼製支保工建込みロボット」や「遠隔削岩・装薬システム」と組み合わせることで、山岳トンネル切羽作業の「完全無人化」に向けた最後のピースを埋めるものと言えます。
各要素技術がモジュール化され、現場全体を統合制御するプラットフォームが確立されれば、山岳トンネル施工は「現場作業」から「遠隔管制オペレーション」へと根本的に産業構造が転換していくことになります。
明日から現場と経営が意識すべきアクション
山岳トンネルをはじめとする土木工事の現場リーダーおよび経営層が、この自動化の潮流を踏まえて直ちに着手すべき実務的な対応を整理します。
1. 切羽立入り作業の棚卸しと危険度マッピングの実施
自社が施工を担当する山岳トンネル現場において、作業員が切羽天端45度ライン内に立ち入る工程をすべてリストアップし、リスク評価を再確認します。吹付け厚さ検尺や支保工位置決めなど、自動化・遠隔化技術によって代替可能な作業を特定し、機械化の優先順位を策定します。
2. 外販型自動化機器の導入検討と積算・調達ルートの確認
エフティーエスをはじめとする建機メーカーから外販される最新の自動化ユニットについて、仕様、導入コスト、現場適用条件の情報を収集します。新技術導入によるサイクルタイム短縮効果と安全対策費用の削減効果を試算し、新規現場の積算や技術提案書への反映準備を進めます。
3. タブレット・ICT機器を前提とした若手オペレーターの育成
吹付け作業が手動操作からタブレット監視・パラメータ制御へと変化することを見据え、現場オペレーターの教育訓練プログラムを見直します。三次元点群データやリアルタイム計測画面を正確に読み取り、機械の自動運転を的確にモニタリングできるデジタル施工管理スキルの習得を推進します。
出典: BUILT
出典: 清水建設
出典: 戸田建設
出典: エフティーエス
出典: Digital Construction



