株式会社アンドパッドは2026年8月20日、東京ガス株式会社、ダイキン工業株式会社、株式会社カインズの生活インフラ大手3社とそれぞれ戦略的資本業務提携を締結したと発表しました。利用社数26.5万社を超えるプラットフォームに蓄積された膨大な施工・工程データをAI学習基盤へと昇華させ、サプライチェーン全体で現場判断を支援する「AX(AI Transformation)」を本格実装する重要な転換点となります。
アンドパッドと大手3社による資本業務提携の全容
建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を展開するアンドパッドが、エネルギー・空調・住まい領域のトップ企業3社と結んだ資本業務提携は、単なるツールの導入支援を超え、現場の暗黙知をAIの学習資源へと転換する産業横断型の取り組みです。
提携の基本概要と当事者一覧
今回合意された戦略的資本業務提携は、アンドパッドが推進する建設業特化型AIプロジェクト「ANDPAD Stellarc(アンドパッド・ステラーク)」を中核に据え、各社が持つ現場接点や施工データを連携させるものです。各業界で圧倒的な事業規模とサプライチェーンを有する3社が参画することで、AIを活用した生産性向上モデルを協力会社まで広く波及させる狙いがあります。
| 企業名 | 本社・代表者 | 主な事業領域 | 提携における役割と狙い |
|---|---|---|---|
| 株式会社アンドパッド | 東京都港区 代表取締役 稲田 武夫 | クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」運営 | AIデータプラットフォームの構築、バーティカルAIプロダクトの開発・提供、現場定着支援 |
| 東京ガス株式会社 | 東京都港区 代表執行役社長 CEO 笹山 晋一 | 都市ガス・エネルギーソリューション等 | 設備施工・維持管理現場の担い手不足解消、現場データ連携による施工体制の安定化と生産性向上 |
| ダイキン工業株式会社 | 大阪府大阪市 代表取締役社長 兼 COO 竹中 直文 | 空調機器・化学製品の製造・販売 | 空調工事における工事力強化、安全・施工品質の向上、サプライチェーンを構成する施工会社の成長支援 |
| 株式会社カインズ | 埼玉県本庄市 代表取締役社長 CEO 高家 正行 | ホームセンターチェーン経営 | 2016年からの協業を深化、リフォーム・エクステリア現場の施工管理連携強化と品質安定化 |
提携各社が取り扱う顧客情報などのデータ管理については、各社の提携契約に基づき個別かつ厳格に運用されます。合意された目的・範囲内でのみ取り扱われ、当該企業の同意なくAIモデルの学習や第三者提供に用いられることはありません。
提携に至る背景:現場の「暗黙知」をAIの競争力へ
建設業をはじめ、工場・店舗・社会インフラなどの施設資産の新設・維持・修繕を担う業界では、職人や現場管理者の高齢化、若手入職者の減少、技術・技能継承の遅れが深刻化しています。これらは個別の現場や単一企業の業務効率化だけでは解決が難しい構造的課題です。
一方で、生成AIをはじめとする先端テクノロジーの実装が世界中で進む中、日本の強みである「現場力」と「高品質な施工データ」を領域特化型AI(バーティカルAI)に学習させ、産業全体の基盤を強化する機運が高まっています。AIが日々の工程管理や品質検査、安全確認などの判断を直接支える「AX(AI Transformation)」は、実証実験の段階を脱して実用フェーズへと移行しつつあります。
アンドパッドは、2016年のサービス開始以来、直感的で使いやすいUI/UXと現場への徹底した伴走支援体制を強みとして普及を進めてきました。国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」においても「令和6年度推奨技術」に選定されるなど、建設現場のデファクトスタンダードとしての地位を確立しています。
アンドパッドの事業推移とAIプラットフォーム戦略
アンドパッドが構築を進める「AIデータプラットフォーム」は、これまで現場ごとに分散・ブラックボックス化していた施工写真、図面、工程表、検査記録、施工者間の連絡履歴といった「非構造化データ」を、日々の業務フローを通じて構造化・蓄積している点に優位性があります。
| 年月 | 主な出来事 | プラットフォーム戦略上の意義 |
|---|---|---|
| 2012年9月 | 株式会社オクト(現・株式会社アンドパッド)設立 | 建設業界の非効率を解消するITサービスの開発に着手 |
| 2016年3月 | クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」提供開始 | 現場施工管理のクラウド化・ペーパーレス化を推進 |
| 2024年8月 | 国土交通省のNETISにて「令和6年度推奨技術」に選定 | 公共・民間工事における技術的信頼性と導入効果が公的に評価 |
| 2025年12月 | 建設業特化型AIプロジェクト「ANDPAD Stellarc」始動 | 現場データを学習基盤とするバーティカルAIソリューションの開発を本格化 |
| 2026年3月 | 「ANDPAD」サービス提供開始10周年 | 利用社数26.5万社、ユーザー数69万人を超える業界最大級の基盤へ成長 |
| 2026年8月 | 東京ガス・ダイキン・カインズと戦略的資本業務提携を締結 | 生活インフラ大手3社のサプライチェーンを巻き込んだAX実装へ移行 |
アンドパッドの開発チームは、エンジニア自らが元請企業や職人の現場へ赴き、業務上の細かな課題を抽出する「圧倒的解像度」の開発方針を採用しています。この現場密着型の体制によって、日々の実務に溶け込むデータ収集が可能となり、実用性の高いAI開発を支える強固なデータ基盤が形成されています。
参考記事: 矢作建設が2026年8月にAI共同開発を開始|独自工法の積算効率化へ
提携3社の事業特性とAI協業における具体的シナジー
今回資本提携を結んだ3社は、それぞれエネルギー、空調、住まいという生活インフラの要を担う業界トップランナーです。各社が持つ現場特性とアンドパッドのAI基盤がどのように連動するのかを整理します。
東京ガス:2030年に向けた「AIネイティブ企業」への変革と施工網の維持
首都圏を中心に都市ガスおよびエネルギーソリューションを提供する東京ガスは、2030年に向けて「第3の創業」を掲げ、全社的なAIネイティブ化を推し進めています。
都市ガス配管の敷設やガス機器の設置、経年設備の修繕・保守点検業務は、極めて高い安全性と施工品質が求められる領域です。しかし、ガス工事を担う指定工事店や協力会社においても熟練技術者の引退が進み、将来的な施工能力の維持が重要な経営課題となっていました。
本提携により、東京ガスの広範な設備施工・維持管理現場における工事記録や点検データをANDPAD上で構造化し、AIによる施工計画支援や安全点検アラートなどのプロダクト開発が進められます。協力会社の施工管理負担を軽減し、インフラ維持体制の持続可能性を高める取り組みが具体化します。
ダイキン工業:空調機器グローバルNo.1の現場力と工事力強化
空調機器売上高で世界トップの実績を誇るダイキン工業は、社内でのAI人材育成を経営方針に掲げるなど、デジタル技術の現場実装に注力してきたメーカーです。
大型ビルから一般住宅まで、空調設備の導入には冷媒配管工事や電気配線、ダクト施工など多様な専門技術が介在します。機器自体の性能向上に加え、それらを据え付ける協力施工会社の工事品質や施工能力の維持・向上が、顧客満足度を左右する要素となっています。
ダイキンは本提携を通じて、施工現場における検査データや工程進捗データをANDPAD Stellarcの基盤と連携させます。施工手順の自動確認や現場特有の不具合兆候の検知など、現場職人の判断を支援するAI機能を共同開発することで、サプライチェーン全体の安全・品質向上と協力会社の施工力強化を図ります。
カインズ:リフォーム・エクステリア事業の急拡大に伴う施工管理の標準化
ホームセンター業界をリードするカインズは、住まいやくらしに関わるリフォーム・エクステリア工事の取り扱いを急速に拡大しています。
ホームセンターを窓口とする住宅リフォームは、水回り設備の交換から外構工事まで多種多様な小規模現場が短期間で並行稼働します。地域の多様な職人や協力工務店が施工を担うため、現場ごとの品質管理や進捗把握のばらつきをいかに抑えるかが課題となっていました。
カインズは2016年からアンドパッドとの協業を続けており、今回の資本提携によってその関係を大幅に深化させます。リフォーム現場の写真記録や日報データをAIが自動解析し、工程遅延のリスク予測や標準仕様に沿った施工チェックをアシストする体制を整え、顧客体験の向上と施工現場の業務負荷軽減を両立させます。
建設業界の各プレイヤーに及ぶ構造的影響
インフラ大手3社とアンドパッドの資本提携は、元請け・資材提供側から末端の施工現場に至るまで、建設産業のサプライチェーン全体に広範な影響を及ぼします。
サブコン・設備工事業界:元請プラットフォーム連携と技能継承のAI支援
空調やガスをはじめとする設備工事を担う専門工事業者(サブコン)にとって、大手元請や機器メーカーが共通のAI基盤を標準化する動きは、業務プロセスの変革を迫る要因となります。
これまでサブコン各社は、元請企業ごとに異なる管理帳票や指定システムへの二重入力に追われるケースが多く見られました。本提携によってメーカー・インフラ大手がANDPADを軸としたデータ連携基盤を確立することで、工事データの提出や進捗報告の共通化・自動化が進むと期待されます。
さらに、熟練配管工や電気工事士の「配管の取り回し判断」や「現場の納まり調整」といった暗黙知が、施工写真やチャットログの解析を通じて形式知化されます。経験の浅い若手作業員であっても、AIが現場条件に応じた施工手順や過去のトラブル事例をリアルタイムで提示することで、確実な作業遂行が可能となり、技能継承のスピードが大幅に向上します。
中小工務店・地場ビルダー:リフォーム現場の管理標準化と負担軽減
地域に密着して新築住宅や改修を手掛ける中小工務店や地場ビルダーにとって、大手流通チェーンによる施工管理AIの普及は、自社のデジタル化を後押しする契機となります。
リフォームや小規模改修工事は、新築と比較して現場数が多く工期が短いため、現場監督1名が十数件の現場を掛け持ちすることも珍しくありません。現場巡回や写真整理、顧客への報告書作成に追われ、本来注力すべき品質管理や追加提案の時間が削られる状況が常態化していました。
カインズなどの大手リフォーム発注者がAI対応の管理基盤を協力会社へ展開することで、中小工務店は追加のシステム開発投資を行うことなく、高精度なAIアシスタントを活用できるようになります。施工写真を撮影するだけでAIが部材や工程を識別して帳票を作成するなど、管理工数の大幅な削減が期待されます。
現場監督・施工管理者:付随業務の自動化とリスクマネジメントへのシフト
現場の最前線で工程・安全・品質を統括する施工管理者にとって、現場データのAI化は日々の働き方を根本から変える可能性を秘めています。
従来の施工管理業務では、夕方から夜間にかけて行われる「工事写真の仕分け・アルバム作成」「日報作成」「協力会社への連絡調整」といった付帯業務が長時間労働の主因となっていました。AIデータプラットフォームが日常のやり取りや現場写真を自動で構造化・整理することにより、事務作業の時間が大幅に圧縮されます。
これにより、施工管理者の役割は「記録を作成・整理する業務」から、「AIが提示する工程遅延リスクや安全上の懸念点をもとに、事前に手を打つ高度な現場マネジメント」へとシフトします。限られた人員でより多くの現場を安全かつ高品質に管理できる体制への移行が進みます。
参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?2024年適用後の3本柱と現場の対応手順を解説
ConShiftの視点|「個社導入」から「サプライチェーン共通OS」へのパラダイムシフト
今回の提携が示している建設DXの本質的な転換は、個別の企業が業務効率化のためにSaaSツールを導入する「点」のデジタル化から、サプライチェーン全体で共通のAI基盤を共有しデータを循環させる「面」の構造改革への移行です。
なぜ生活インフラ大手3社との資本提携が重要なのか
建設産業においてAIの精度を高めるためには、汎用的な大規模言語モデル(LLM)の導入だけでは不十分です。現場ごとに異なる納まり、気象条件、図面の差異、職人の口語的なやり取りといった「現場特有のドメイン知識と活動データ」をどれだけ集め、適切に構造化できるかがモデルの性能を決定づけます。
東京ガス、ダイキン工業、カインズの3社は、それぞれエネルギー設備、空調工事、住宅リフォームという生活に直結する現場において、国内最大級の施工ネットワークを有しています。これらのトップ企業が持つ膨大な現場接点から生成される実データを契約に基づき安全に学習基盤へ組み込める体制を整えたことは、アンドパッドのバーティカルAI「ANDPAD Stellarc」の競争力を決定的に高める要因となります。
単独のITベンダーが現場データを収集しようとしても限界がありますが、発注・資材供給の頂点に立つ大手企業と資本業務提携を結ぶことで、協力会社を含むサプライチェーン全体へAIプロダクトが自然に浸透していく流通経路が完成します。
データ活用におけるガバナンスと競争優位性の両立
複数の大手企業が同一のプラットフォーム上で協業するにあたり、最も重要な論点となるのが「データのセキュリティと取り扱い範囲」です。
プレスリリースでも明記されている通り、各社が保有する機密情報や顧客データは厳格に隔離され、合意された目的外での学習や他社への流出が防止される規約となっています。このような安全なデータガバナンスが担保されて初めて、競合関係や機密保持が絡む建設業界において、共通プラットフォーム上でのAI共同開発が成立します。
建設テック市場は、単に便利な施工管理アプリを提供するフェーズから、現場データを安全に統合し、AIによる判断支援を業界標準機能として提供できる「産業共通OS」の構築競争へと突入しています。
参考記事: 東京ミッドタウン八重洲でロボ4台が稼働、ビルOS対応が受注力に直結|
まとめ|建設・設備事業者が明日から意識すべき3つのアクション
インフラ大手3社とアンドパッドによる資本業務提携は、建設業界のAXがサプライチェーン全体を巻き込んで本格稼働したことを示しています。ゼネコンや工務店、設備工事の経営層・現場リーダーが明日から取り組むべきアクションを整理します。
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自社の施工写真・連絡履歴・工程データを「資産」として捉え直す
日々の施工写真の撮影やチャットでのやり取りを単なる連絡ツールとして消費せず、将来的なAI活用の教師データとして整然と蓄積できるよう、クラウド管理ツール(ANDPAD等)の社内入力ルールやフォーマットを再標準化します。 -
元請・機器メーカー側のデータ連携・AX方針を把握する
東京ガスやダイキンなどの主要取引先がどのようなデジタル基準やデータ連携を進めているかを注視し、指定ツールやAI機能への対応遅れが自社の受注機会損失につながらないよう、情報収集と体制整備を進めます。 -
「AI支援を前提とした業務フロー」への段階的な移行を検討する
現場監督や職人が手作業で行っている写真整理や日報作成、検査チェック業務を洗い出し、AIによる下書き作成や自動判定へ任せられる業務を特定して、現場の負担軽減と省人化に向けた具体的な試行を開始します。
建設業界におけるAI活用は、個別の業務効率化にとどまらず、企業の施工能力とサプライチェーン内での信頼性を左右する決定的な要素となりつつあります。現場データをいち早く整理し、AIプラットフォームとの連携を深めることが、今後の持続的な成長への確かな道筋となります。
出典: PR TIMES
出典: 株式会社アンドパッド 公式発表
出典: 創業手帳


