東急建設は、国土交通省近畿地方整備局発注の山岳トンネル工事において全自動ドリルジャンボを導入し、発破掘削の穿孔作業編成を従来の5人から1人へ削減する実証に成功しました。危険度の高い切羽直下での作業を最小化して現場の安全性を大幅に高めるとともに、穿孔データの自動収集を通じて熟練技能の可視化と発破計画の脱属人化を切り拓く重要な転換点となります。
有田海南道路1号トンネルにおける全自動穿孔技術の実証
東急建設(代表取締役社長:久田浩司)は2026年8月28日、近畿地方整備局発注の「有田海南道路1号トンネル工事」において、山岳トンネルの発破掘削に伴う穿孔(せん孔)作業に全自動ドリルジャンボ「ロボロック」を試行導入したと発表しました。従来と同等の施工精度を維持したまま、作業編成人員を標準の5人からわずか1人へと80%削減する大幅な省人化を達成しています。
山岳トンネル工事の発破工法において、掘削サイクルの約6割を占める穿孔作業は、重機のブーム操作や穿孔位置の決定など、熟練作業員の長年の経験と勘に大きく依存してきました。さらに、切羽近傍は常に岩石の剥落(肌落ち)による重大災害リスクと隣り合わせの環境です。今回の取り組みは、作業員の安全確保と担い手不足への抜本的対策を同時に狙ったものとなります。
導入重機の仕様と作業編成の変革
本実証で導入された重機は、古河ロックドリルが開発した全自動ドリルジャンボ「J32RX-Hi ROBOROCK®」(NETIS登録番号:KT-220218、3ブーム・2マンゲージ仕様)です。従来の施工体制では、切羽近傍で岩盤に穿孔位置を直接印付けするマーキング作業に2名、ジャンボのキャビン内で各ブームを手動操作するオペレーターが3名の計5名体制が標準とされていました。
これに対し、事前の計画・シミュレーションソフトを活用して自動穿孔を行うことで現場マーキングを不要化し、操作キャビン内から1名が自動運転を監視・制御する体制へと刷新されました。
| 項目 | 従来の施工体制 | 全自動ドリルジャンボ導入後 | 変化・改善効果 |
|---|---|---|---|
| 切羽近傍の作業員 | 2名(マーキング・誘導作業) | 0名(切羽立ち入り不要) | 肌落ち災害リスクの極小化 |
| 重機操作・監視人員 | 3名(各ブーム手動操作) | 1名(キャビン内監視) | 操作の自動化による省人化 |
| 合計編成人員 | 5名 | 1名 | 穿孔作業人員を80%削減 |
| 施工精度・品質 | 作業員の技量・勘に依存 | 設計データに基づく自動穿孔 | 従来と同等以上の精度を担保 |
有田海南道路1号トンネルにおけるDX推進の経緯
東急建設が施工を担当する有田海南道路1号トンネル(延長1,546m)では、今回の全自動ドリルジャンボの導入に先立ち、掘削から土砂搬出、支保工設置に至る各工程で段階的な省人化・自動化技術の現場検証が進められてきました。
| 年月 | 取り組み内容 | 目的・成果 |
|---|---|---|
| 2020年6月 | 古河ロックドリルが「J32RX-Hi ROBOROCK®」を発売 | 熟練作業員に頼らない自動穿孔技術の実用化 |
| 2023年2月 | 有田海南道路1号トンネル工事の施工着手 | 工期:2023年2月1日~2026年3月31日 |
| 2025年7月 | タグチ工業とベルトコンベヤ土量管理システムを導入 | ズリ(掘削土砂)搬出監視の省人化・安全性向上 |
| 2025年11月 | AI人検知機能を備えた切羽遠隔監視システムを稼働 | 切羽内の安全管理体制強化(日本テクノ・ラボ等と共同) |
| 2026年5月 | ロックボルト工の省人化・省力化技術パッケージ実証 | 編成人員約40%削減、切羽立ち入りゼロの実現 |
| 2026年8月 | 全自動ドリルジャンボ「ロボロック」の試行導入発表 | 穿孔人員を5人から1人へ削減、施工データ収集開始 |
制度的背景と労働環境の課題
山岳トンネルの切羽周辺は、建設現場の中でも最も危険度の高い作業空間の一つです。厚生労働省の統計によると、切羽で発生する肌落ち災害は、被災者の約6%が死亡し、42%が休業1か月以上の重傷を負う極めて重篤な事故形態となっています。こうした状況を受け、厚生労働省は2024年3月に「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を改正し、切羽への立ち入り原則禁止やデジタル技術を用いた遠隔化を強く求めています。
さらに、2024年4月からは労働基準法の時間外労働上限規制(年720時間・月45時間原則)が建設業にも全面適用されました。国土交通省が推進する「i-Construction 2.0」においても「建設現場のオートメーション化」が重点方針として掲げられ、2040年度までに現場の省人化と生産性向上を達成することが全産業的な急務となっています。切羽近傍からの人払いを実現し、作業工数を抜本的に削る今回の試みは、法令遵守と労働安全衛生の強化に直結する施策です。
穿孔データと3D計測の統合による発破計画の最適化
東急建設の取り組みは、単なる重機の自動運転にとどまりません。全自動ドリルジャンボから自動的に取得される穿孔位置、穿孔角度、穿孔エネルギー(打撃圧や回転圧など)といった各種データを網羅的に収集し、これまで熟練技術者の勘や経験という暗黙知に委ねられていた削孔ノウハウを形式知としてデジタル化しています。
さらに現場では、車載式3次元(3D)レーザースキャナーやドローンを用いた計測技術を併用しています。発破後の切羽面の平滑度や余掘量(設計断面を超えて余分に掘削してしまった量)を高精度に測定し、それらの計測結果と削孔時のエネルギーデータを統合分析する体制を構築しました。地山性状に応じた最適な穿孔パターンや火薬装薬量を逆算・算定し、経験の浅い技術者でも高精度な掘削計画を立案できる「発破計画最適化施工管理システム」の開発が進められています。
トンネル現場における自動化・ロボット化の潮流については、建設RX・施工ロボットの最新動向や、吹付け工程の無人化を検証した山岳トンネル自動吹付け技術の実証事例でも詳細に解説されています。
建設業界各層への波及効果
全自動重機の導入と施工データの統合分析は、ゼネコン、技能労働者、建機関連企業の業務フローや協業関係に明確な変化をもたらします。
ゼネコン(元請け):脱属人化と原価管理精度の劇的な向上
元請けゼネコンにとって、山岳トンネル工事の採算性は余掘量の抑制と掘削サイクルタイムの短縮に直結します。従来の工法では、発破計画が現場代理人や発破責任者の経験則に依存しており、岩盤性状が急変した際の断面過不足が工期遅延やコンクリート吹付け量の増大を招いていました。
穿孔エネルギーデータと3Dスキャンによる平滑度測定をアルゴリズム化することで、地山性状の変化に合わせた発破計画の即時最適化が可能になります。余掘りを最小限に抑えることで、掘削土砂の搬出費用や後工程の吹付けコンクリート材料費を大幅に圧縮できます。また、若手技術者であっても熟練技術者と同等の掘削マネジメントが可能となり、深刻化する技術者不足に対する確固たる防壁となります。
職人・技能労働者:切羽直下の危険作業からオペレーション管理者へ
作業編成が5人から1人へと縮小されることは、技能労働者の就労形態に根本的な変化を突きつけます。これまで切羽直下で粉塵や落石の恐怖にさらされながら手作業で行っていたマーキング作業から完全に解放され、労働安全性が劇的に向上する恩恵は極めて大きいです。
一方で、求められる役割は大きく変わります。重機の手動レバーを直感的に操る職人技能から、事前に計画された施工データをモニター上で確認し、自動運転の進捗を監視しながら異常時に適切に対処する「オペレーター兼データ管理者」への転換が求められます。単なる肉体労働の削減にとどまらず、現場技能者の職務内容がデジタルツールを活用した高度な管理業務へとシフトしていく契機になります。
建機メーカー・レンタル業者:ハードウェア単体提供からデータプラットフォーム提供へ
建設機械を取り巻くサプライチェーンにおいても、ビジネスモデルの変革が不可避となります。従来のように建機の稼働時間やリース料のみで収益を上げるモデルから、穿孔時の岩盤抵抗データや稼働ログを収集・加工し、ゼネコン側の施工管理システムと安全かつ円滑に連携させるソフトウェア基盤の提供が競争軸となります。
特に古河ロックドリルの「ロボロック」のような高機能重機を普及させるためには、機械のレンタルだけでなく、事前の穿孔パターン設計支援や現場通信インフラの構築サポートなど、データ利活用をパッケージ化したサービス提供が受注獲得の決定打となっていきます。
ConShiftの視点(独自考察)
東急建設の取り組みが示す本質的な構造転換は、全自動建機の導入が単なる「5人から1人への省人化」にとどまらず、「建機そのものが地山データを取得するセンシング基盤へと変貌した」点にあります。
従来の施工現場において、重機は設計図面通りの掘削を行う「作業実行ツール」に過ぎませんでした。しかし本事例では、ドリルジャンボが岩盤を穿孔する際の打撃エネルギーや回転抵抗のデータをリアルタイムに取得し、さらに車載3Dスキャナーやドローンが発破後の破砕面をミリ単位でデジタルツインとして再現しています。すなわち、重機が作業を行いながら同時に地盤の物性を計測し、そのフィードバックによって次の発破計画をアルゴリズムが自動更新する「自律的クローズドループ」が現場内に確立されつつあります。
この変化は、建設DXの成否を分ける分岐点となります。単に既存の作業をロボットに置き換える「部分最適」では、高額な導入コストに見合う投資対効果を得ることは困難です。東急建設が有田海南道路1号トンネルで展開しているように、土量管理、切羽監視、ロックボルト工、そして穿孔作業と、工種間のデータを連携させ、現場全体の意思決定プロセスをデータドリブンに変革して初めて、真の生産性向上が達成されます。施工各社は建機メーカー任せの自動化に甘んじることなく、取得したデータをどのように自社の施工管理システムに統合し、独自の施工知見として蓄積・再利用できるかを競い合うフェーズに入ったと評価できます。
まとめ
東急建設による全自動ドリルジャンボの現場実装は、過酷かつ危険とされてきた山岳トンネルの切羽作業を安全な環境へと変革し、熟練工の減少に対応する現実的な解を示しました。
現場を預かる施工管理関係者や経営層が明日から意識すべきアクションは以下の通りです。
- 施工データの収集体制を早期に構築する
自社の現場で稼働している建機や計測機器から、どのようなデータ(稼働ログ、負荷データ、3D点群など)が取得可能かを洗い出し、単なる作業記録にとどまらないデータ活用の検討に着手することが求められます。
- 危険作業工程における人払い技術の選定を進める
切羽直下や高所など、労働災害リスクの高い工程を特定し、遠隔操作や自動運転技術を導入して「人が立ち入らない施工フロー」を標準工程として再設計する意識が必要です。
- 技能労働者のデジタルリスキリングを推進する
ハードウェアを動かす職人から、自動化システムを監視・操作するオペレーターへと役割が移行することを見据え、現場技能者がデジタルツールを抵抗感なく扱える教育・育成体制を整えることが肝要です。
出典: ニュースイッチ
出典: 東急建設株式会社
出典: 古河ロックドリル株式会社
出典: 厚生労働省



