本田技研工業、東京都、および建機レンタル大手のカナモトは2026年8月20日、交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を用いた建設現場の電動化および共用化の実証事業を、2028年竣工予定の超高層ビル「Torch Tower(トーチタワー)」の建設現場で開始しました。メーカーや機器ごとに分断されていたバッテリー規格を統一して現場全体で使い回す本取り組みは、建設現場の脱炭素化(GX)と充電待機ロス解消を両立させる新たな施工インフラモデルとして注目されます。
トーチタワー建設現場で挑むバッテリー共用化実証の全貌
東京都千代田区大手町二丁目で進められている「Torch Tower(トーチタワー)」は、地上62階・高さ約385mに達する完成時に日本一の超高層複合ビルです。この大規模都市再開発の現場において、東京都の「令和8年度規格型バッテリー活用機械導入促進事業」の一環として、交換式共通バッテリーを活用した現場実証が2027年3月まで実施されます。
実証事業の推進体制と各社の役割
本プロジェクトは、行政・モビリティメーカー・建機レンタル大手が主体となり、プロジェクトの施行者・設計監理者・施工者が現場フィールドを提供する産官連携体制で推進されています。
| 区分 | 組織・企業名 | 主な役割・担当業務 |
|---|---|---|
| 事業主体 | 東京都(産業労働局) | 企画・全体推進(ゼロエミッション東京・非ガソリン化施策の一環) |
| 事業主体 | 本田技研工業株式会社 | 交換式バッテリー、電動モビリティ、ポータブル電源の提供とデータ検証 |
| 事業主体 | 株式会社カナモト | 実証用電動建機・作業機の調達・配備、現場運用の検証 |
| 現場協力 | 三菱地所株式会社 | 施行者(実証フィールドとなるトーチタワー建設現場の提供) |
| 現場協力 | 株式会社三菱地所設計 | 設計監理 |
| 現場協力 | 清水建設株式会社 | 施工者(現場内での実機運用・作業員による実効性検証) |
参考記事: 三菱地所、1ha解体が2026年8月完了|ダウンタイム活用が再開発を加速
現場へ投入される74個のバッテリーと対応機器群
実証現場には、計74個の「Honda Mobile Power Pack e:」(単体容量1,314Wh、質量約10kg、現場合計容量約97kWh)が投入されています。これらを特定の単一機器専用とせず、現場巡回用モビリティから作業機械、充電インフラに至るまで共通電源として循環させます。
| カテゴリ | 機器・設備名称 | 数量・仕様 | 現場での主な用途 |
|---|---|---|---|
| 交換式バッテリー | Honda Mobile Power Pack e: | 74個(単体1,314Wh) | 全対応機材の共通動力源 |
| 電動モビリティ | ジャイロキャノピー e:(ホンダ) | 2台(ビジネス用電動三輪) | 広大な現場内の巡回、資材・保冷温庫の運搬 |
| 可搬式電源 | Honda Power Pod e:(ホンダ) | 4台(着脱式給電器) | 現場内でのAC100V電源供給 |
| 電動作業機器 | 高圧洗浄機・LED投光器(他社製) | 複数台 | 洗浄作業、夜間・地下照明 |
| 自走式台車 | CP200(DONKEY製) | 複数台 | 重量資材の電動搬送 |
| クローラー台車 | CuGoMEGA M2 MPP(CuboRex製) | 複数台 | 不整地・段差での資材搬送 |
| 交換・充電設備 | Gachaco製 小型バッテリー交換機 | 7台(4個用) | 現場各所での急速バッテリー交換 |
| 交換・充電設備 | 日東工業製 小型バッテリー交換機 | 2台(9個用) | 拠点での集中充電・ストック管理 |
建設現場が抱えていた電動化の課題と検証項目
建設業界において脱炭素化(GX)の推進は喫緊の課題であり、国土交通省の施策をはじめ現場でのCO2排出削減が強く求められています。しかし、従来の電動建機や電動資機材の導入には、現場実務において以下の3つの大きな壁が存在していました。
- メーカーごとの規格の分断: 機械メーカーごとに専用バッテリーや充電器が異なり、資材置き場や詰所での充電器管理・配線管理が極めて煩雑化していた。
- 充電に伴う長時間のダウンタイム: 内蔵バッテリー型機器の場合、充電のために数時間の作業中断が発生し、稼働率低下や予備機の重複保有コストを招いていた。
- 仮設電源の配線リスク: 有線コードによる給電は、足元での配線引っ掛かりや断線、水濡れによる漏電といった安全衛生上のリスクを伴っていた。
本実証では、バッテリー交換ステーション(Gachaco製および日東工業製)を現場各所に配置し、残量が減ったバッテリーを即座に満充電バッテリーへ手動で差し替える運用を行います。これにより充電待機時間をゼロに近づけ、稼働データを収集して作業効率や消費電力の最適化モデルを検証します。
参考記事: 国交省が2026年度直轄6件でグリーン鉄試行、公共調達の評価軸激変へ
建設業界の各プレイヤーに与える構造的インパクト
今回の実証事業は、単なる電動機器の試験導入にとどまらず、建設現場のサプライチェーンや施工管理プロセスのあり方に広範な影響を及ぼします。
建機レンタル業者・建機メーカー:機体貸出からエネルギー基盤提供への転換
建機レンタル業界において、従来のビジネスモデルは「建設機械単体のリース・レンタル」が中心でした。しかし、現場の電動化が進むにつれ、ユーザーであるゼネコンが求めるものは「機械」だけでなく「現場で止まらずに動くエネルギー供給体制」へとシフトしています。
カナモトが本実証に事業主体として参画しているように、今後は交換式バッテリーのストック管理、現場内充電ステーションの設計・配置、さらには電力使用データの可視化サービスまでを包括した「エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)」型の提案力がレンタル会社の競争力を左右します。また建機メーカーにとっても、自社専用規格に固執するのではなく、オープンな共通バッテリー規格に適合したアタッチメントや駆動ユニットを設計することが、現場での採用シェアを拡大する前提条件となります。
現場監督・施工管理者:燃料手配の省力化と安全衛生環境の抜本改善
施工管理者の日常業務において、内燃機関用燃料(軽油・ガソリン)の搬入管理、危険物保管場所の届出・保安点検、有線給電用ドラムコードの取り回し確認は大きな管理負荷となっていました。
共通交換式バッテリーの導入により、これらの管理業務が大幅に削減されます。また、トーチタワーのような超高層ビル工事では、外周部が塞がれた屋内フロアや地下ピットなどの密閉空間における作業が多数発生します。排出ガス(NOxやCO)が一切出ず、低騒音・低排熱である電動機器を活用することで、作業員の健康被害や酸欠リスクを排除し、良好な換気・作業環境を担保できます。
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専門工事業者・技能労働者:資材運搬の軽労化とマルチタスク化の推進
現場内で稼働するDONKEY製やCuboRex製の自走式電動台車に共通バッテリーが搭載されることで、重量物搬送の肉体的負担が大幅に軽減されます。熟練技能者の高齢化が進む中、省力化モビリティの導入は作業員の身体的疲労を抑え、歩掛りの向上に直結します。
さらに、高圧洗浄機や投光器、電動台車の間で同一バッテリーを使い回せるため、職人は作業工程に応じてバッテリーを差し替えるだけで複数機器をフレキシブルに運用できます。予備バッテリーを何種類も持ち歩く必要がなくなり、段取り工数の削減につながります。
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ConShiftの視点|ハードウェアとエネルギーの分離がもたらす現場GX
本実証の革新性は、「機体ごとのエネルギー確保」から「現場全体でのエネルギー共用」へのパラダイムシフトにあります。
従来の建設現場では、機械本体と動力源(燃料タンクや内蔵バッテリー)が一体化しており、機体単位でエネルギーマネジメントを行う必要がありました。しかし、ホンダの「Mobile Power Pack e:」のように、動力源が約10kgの共通モジュールとして標準化・分離されることで、現場のエネルギーは「機体」から「プラットフォーム」へと昇華します。
昼間は自走式台車や高圧洗浄機で使い、夕方以降は投光器へ差し替えて夜間照明として活用し、現場巡回のEVバイクへも同じ規格で充当する。このように現場内の電力アセットを流動化させることで、現場全体で保有すべきバッテリー総容量を最小化し、導入コストを大幅に抑制できます。今後、大型建機から小型電動ツールに至るまで規格統一が進むかどうかが、建設DXおよびGXの投資対効果(ROI)を左右する決定打となるでしょう。
明日から意識すべき3つのアクション
現場の脱炭素化と生産性向上に向けて、経営層および現場リーダーが直ちに着手すべき実務対応を整理します。
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現場内の小型内燃機関機器・有線ツールの稼働実態を棚卸しする
自社の施工現場で使用している発電機、投光器、小型運搬車、洗浄機などの燃料消費量や有線配線の危険箇所をリストアップし、電動・可搬バッテリー化による安全・環境改善余地を数値化する。 -
建機レンタル会社との連携による電動資機材の試行枠組みを検討する
今後の総合評価落札方式や民間デベロッパーの環境要件強化を見据え、共通規格バッテリー対応機器や充電インフラの調達ルートをレンタルパートナーと協議し、モデル現場での部分導入を計画する。 -
現場内充電ステーションの仮設計画と電力マネジメントを標準化する
バッテリー交換ステーションの配置計画、受変電設備からの夜間充電スキームなど、現場の仮設計画図に「エネルギー補給拠点」の設計を組み込む業務フローの構築を進める。
出典: Webikeプラス
出典: 本田技研工業株式会社
出典: 株式会社カナモト
出典: 建機情報Web(kenkij.com)



