国土交通省大臣官房技術審議官の松本健氏は2026年9月3日、直轄工事を通じて「多様な働き方の実現と生産性向上の両立」を先導し、働き方改革を新たな段階へと移行させる方針を明らかにしました。週休2日の定着という基盤の上に立ち、猛暑回避やAI等のデジタル技術活用、2027年度予算概算要求を通じた事業量確保を一体で進める姿勢は、建設企業の経営および現場管理に実効的な変革を促します。
国土交通省が掲げる「働き方改革の新段階」と発注方針
直轄工事の発注行政を統括する国土交通省の大臣官房技術審議官に就任した松本健氏は、専門紙各社の取材において、持続可能な建設産業の基盤づくりに向けた重点施策を提示しました。従来の「4週8閉所」を中心とした画一的な休日確保にとどまらず、気候変動や地域の実情に即した柔軟な働き方への移行を打ち出しています。
週休2日の定着基盤と新たな働き方への移行プロセス
国土交通省ではこれまで、直轄土木・営繕工事を中心に週休2日の普及を強力に推進してきました。令和6(2024)年度に完了した直轄営繕工事における「月単位の週休2日」達成割合は85.7%に達するなど、官公庁発注の現場では着実な成果が上がっています。
一方で、2026年に公表された民間工事を含む調査データでは、現場技術者の「4週8休以上」取得割合が38.5%、技能者が37.0%にとどまり、公共工事主体の企業(約52%)と民間主体の企業(約20〜24%)の間で依然として大きな格差が存在しています。
こうした実態を踏まえ、発注行政の旗振り役である国土交通省は、一律の閉所にとどまらない「地域や現場の状況に応じた多様な選択肢」の提示へと舵を切りました。
| 年代・時期 | 政策・制度の節目 | 主な取り組みと発注行政の動向 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | i-Construction 2.0策定 | 2040年度までに現場省人化3割(生産性1.5倍)を目指す方針を設定 |
| 2024年6月 | 第三次・担い手3法公布 | 適正工期の確保、労務費の適正転嫁、工事平準化を法制化 |
| 2025年12月 | 第三次・担い手3法全面施行 | 労務費基準勧告や資材高騰時の協議義務化が完全運用 |
| 2026年3月 | 直轄工事取組方針公表 | 週休2日定着を前提に、猛暑対策など気候・地域対応型の柔軟就労へ移行 |
| 2026年9月 | 松本技術審議官の新方針表明 | AI活用、猛暑回避、2027年度予算要求による事業量確保の連動を明言 |
参考記事: i-Constructionとは?建設DXを推進する3つの柱と導入のメリットをわかりやすく解説
猛暑の常態化に対応する作業回避とAIの現場実装
今回の新方針における中核は、「猛暑期間・時間帯の作業回避」と「AIなどの先端デジタル技術を活用した効率的な働き方」の融合です。
地球温暖化により夏季の体温を超える酷暑が常態化する中、従来の「朝8時から夕方17時まで」という固定的な労働モデルは熱中症リスクを高め、担い手確保の大きな障壁となっています。国土交通省は直轄工事において、日中の過酷な時間帯を避けるサマータイムや変形労働時間制の柔軟な運用を後押しするとともに、施工現場におけるAIの実装を加速させています。
具体的には、画像認識AIによる出来形検測や遠隔臨場の普及、さらには設計・施工データのBIM/CIM連携を推進することで、現場技術者の拘束時間や移動負担を劇的に削減します。
| 施策カテゴリー | 具体的な推進項目 | 現場および発注業務への導入効果 |
|---|---|---|
| 環境適応型労務 | 猛暑時間帯の作業回避、サマータイム、変形労働時間制 | 熱中症リスクの低減と年間を通じた安定就業の確保 |
| デジタル技術・AI活用 | AI画像認識による出来形検測、書類作成の自動化、遠隔臨場 | 現場立ち会い待ち時間の削減と内業工数の大幅圧縮 |
| 地域・中小への波及 | 簡易型ICTツールの普及、データ連携標準化、技術者育成支援 | 直轄工事のDX成果を地場工務店や中小土木工事へ展開 |
参考記事: 関東地方整備局、猛暑対策を最大30点評価へ!省人化技術が受注を左右
2027年度予算概算要求による「事業量の確保」と適正価格転嫁
働き方改革と生産性向上を支える経済的基盤として、松本審議官は2027年度予算概算要求において「事業量の確保」を最優先事項として掲げました。
資材価格や労務費の高騰が続く中、予算額の単なる維持では実質的な施工規模が縮小してしまいます。国土交通省は公共事業関係費の前年度当初比大幅増額を要求し、価格上昇分を適切に吸収した事業量を確保する方針です。
あわせて、施工時期の平準化やスライド条項の適切な運用を通じ、受注企業が適正な利益を確保しながら人材投資・DX投資を行える環境を整えます。
参考記事: 国交省27年度概算要求、公共事業費7.6兆円計上で経営予見性向上
発注方針の転換がもたらす主要プレイヤーへの影響
国土交通省が示した新たな方針は、行政機関から元請ゼネコン、地域を支える地場インフラ企業に至るまで、建設業界のあらゆる主体に実務的な見直しを迫ります。
行政・規制当局(地方整備局および自治体)
直轄工事を所管する地方整備局では、猛暑対策を総合評価落札方式で加点評価する試行工事の導入や、AIを活用した検査・監督業務の効率化が本格化します。
また、地方自治体発注の公共工事においても、国の方針に追従する形で「第三次・全国統一指標」に基づく施工平準化や週休2日工事の補正係数見直しが進められます。自治体の技術職員不足を補うため、遠隔臨場やデータ提出のデジタル化を標準仕様とする動きが加速します。
ゼネコン(元請け)
元請ゼネコンにとっては、直轄工事での発注者との緊密な対話を通じ、AIやデジタル技術をフル活用した新たな施工管理モデルを確立することが急務となります。
単に週休2日を達成するだけでなく、酷暑期における屋外作業人員の削減率や、BIM/CIMを用いた官民データ連携の実績が、総合評価落札方式における強力な受注競争力へと直結します。現場ごとの気候条件や作業制約に応じた高度な工程計画立案力が求められます。
中小工務店・地場インフラ企業
地域のインフラ維持や除雪・災害復旧を担う地場建設会社にとって、国の施策が「直轄工事から地域・中小規模工事へのICT波及」を明確に打ち出した点は大きな追い風です。
高額な専用重機を自社保有せずとも導入可能な簡易型ICT施工ツールや、スマートフォンを活用したクラウド施工管理アプリの活用支援策が拡充されます。2027年度予算の事業量確保により、価格転嫁を進めながら若手人材の処遇改善と通年雇用を維持する経営体質への転換が期待されます。
参考記事: 国土交通省の2027年度予算1.45倍要求とAI活用が促す現場の働き方改革
ConShiftの視点|「一律の休日確保」から「現場適応型DX」へのパラダイムシフト
松本技術審議官の発言が示す業界の構造変化は、建設DXの目的が「画一的な労務管理の遵守」から「現場環境に応じた実効的な省人化と柔軟就業」へと完全にフェーズを移行した点にあります。
これまでの働き方改革は、一律に4週8閉所を達成すること自体が自己目的化し、夏場の酷暑による工程遅延を吸収しきれないといった現場の歪みを生む側面がありました。しかし、i-Construction 2.0とAI実装を前提とした今回の指針は、「人が屋外の過酷な環境に出なくても工程が進む仕組み」を構築することで、結果として多様な働き方を担保する思想に基づいています。
2027年度概算要求による事業量確保の裏付けがある今、建設企業が取るべき戦略は明確です。単に発注者の仕様に受動的に従うのではなく、AI点検や遠隔臨場、プレキャスト化などを組み合わせた「環境適応型の施工提案」を自ら行える企業が、今後の公共調達市場で確固たる優位性を築くことになります。
施工現場と経営陣が明日から取り組むべき3つのアクション
国土交通省が打ち出した新方針を受け、建設企業の経営層や現場リーダーが直ちに着手すべき実務項目を整理しました。
- 自社現場における気候リスクの棚卸しと柔軟な就業ルールの策定
自社の施工現場における夏季の作業環境や拘束時間を再点検し、日中作業の回避やサマータイム、1年単位の変形労働時間制の導入可否を検討します。直轄工事で先行する柔軟就労のモデルを研究し、協力会社と早期に合意形成を図れる体制を整えます。
- 施工管理・写真検査におけるAIツールの試験運用開始
出来形検測や安全巡視、写真整理など、現場技術者の内業負担が大きい業務を代替できるAI搭載型SaaSツールの試行導入を進めます。遠隔臨場システムへの対応力を高め、発注者検査の待ち時間を削減する実務手順を社内で標準化します。
- 2027年度の公共事業量確保を見据えた適正積算とスライド条項の確認
最新の実勢労務単価や資材価格の見積もり反映を徹底し、物価上昇局面に対応できる積算体制を再構築します。インフレスライド条項や単品スライド条項の請求手順を社内で確認し、発注者との適切な価格協議を行える管理体制を確立します。
出典: 日刊建設工業新聞
出典: 国土交通省 記者発表資料
出典: 国土交通省 土地・不動産・建設産業局
出典: 国土交通省 官庁営繕部


