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人材マネジメント 2026年9月4日

厚労省・国交省、27年度助成73億円要求で問われる採用変革

厚労省・国交省、27年度助成73億円要求で問われる採用変革

厚生労働省と国土交通省は2026年9月4日、建設業の人材確保および育成に向けた令和9年度(2027年度)予算概算要求の概要を共同で公表しました。技能者の高齢化と若手入職の低迷により地域インフラの維持が岐路に立つ中、両省が連携して雇用改善や処遇向上に向けた大型予算を確保することは、民間企業の労務管理や採用戦略の実効性を大きく高める契機となります。

2027年度概算要求の全容と深刻化する建設業の人口動態

建設業界における最大の構造課題である「担い手不足」に対し、国の労働行政と建設行政を司る両省が足並みを揃えて令和9年度(2027年度)の重点予算要求を取りまとめました。現場の技能者不足が工期の遅延や事業継続リスクへと直結する中、提示された施策パッケージは産業の存続を見据えた極めて実効的な内容となっています。

発表の概要と予算配分の全体像

今回の発表は、厚生労働省職業安定局建設・港湾対策室と国土交通省不動産・建設経済局建設振興課が連名で実施したものです。概算要求の骨子として「人材確保」「人材育成」「魅力ある職場づくり」の3つの重点事項が掲げられ、両省の連携施策が一体的に整理されました。

厚生労働省は、労働環境の整備や技能継承を後押しする事業主向け助成金として「建設事業主等に対する助成金による支援」に73億円を計上しました。さらに、若年技能者の育成環境を整える中小建設事業主への支援に4.9億円、現場の雇用管理体制を強化する雇用管理責任者等研修に1.1億円、若年層の入職を促す「つなぐ」化事業に3,300万円などを要求しています。

一方の国土交通省も、「国土と経済成長を支える建設産業の供給力強化 等」として29.8億円の内数などを連動して要求しており、ハード・ソフト両面から産業の担い手基盤を底上げする姿勢を鮮明にしています。

重点施策項目 主な事業名 令和9年度概算要求額 主管省庁
人材確保 建設事業主等に対する助成金による支援 73億円 厚生労働省
人材確保 「つなぐ」化事業の実施 3,300万円 厚生労働省
人材確保・育成 国土と経済成長を支える建設産業の供給力強化 等 29.8億円(内数) 国土交通省
人材育成 中小建設事業主等への支援 4.9億円 厚生労働省
魅力ある職場づくり 雇用管理責任者等に対する研修の実施 1.1億円 厚生労働省

過去年度との比較に見る予算枠拡充の推移

厚生労働省と国土交通省は、毎年8月末から9月上旬にかけて翌年度に向けた建設業の人材確保・育成策を共同発表しています。直近の要求額の推移を比較すると、国の危機感の強まりと支援規模の拡大傾向が明白です。

厚生労働省が所管する「建設事業主等に対する助成金による支援」は、令和7年度の69億円から、令和8年度(2026年度)要求時には70億円、そして今回の令和9年度(2027年度)要求では73億円へと段階的に増額されています。また、若手と現場の架け橋となる「つなぐ」化事業も、令和8年度の2,900万円から3,300万円へと拡充されました。

国土交通省の関連施策においても、令和8年度概算要求では「担い手確保等を通じた持続可能な建設業の実現(6.6億円の内数)」とされていた位置づけが、令和9年度には「供給力強化」を掲げた29.8億円の内数へと大幅に再編されており、産業供給力の崩壊を食い止めるための重点投資へとシフトしています。

要求年度 助成金支援(厚労省) 「つなぐ」化事業(厚労省) 供給力・担い手確保(国交省)
令和8年度 70億円 2,900万円 6.6億円の内数
令和9年度 73億円 3,300万円 29.8億円の内数

参考記事: 国交省松本審議官、2027年度予算とAIで建設現場の働き方変革へ

技能者の4分の1が60歳以上という人口動態の危機

両省が多額の予算を投入して人材施策を急ぐ最大の背景には、建設産業における急激な高齢化と世代交代の停滞があります。

公表データによると、建設業の技能労働者のうち60歳以上の占める割合は約25.7%に達し、実に全体の4分の1を超えています。さらに55歳以上まで広げると36.7%を占めており、全産業平均の32.4%と比較しても極めて高い水準です。これに対し、将来を担うべき29歳以下の若年層は全体の約11.7%〜12%にとどまっており、全産業平均の16.9%を大幅に下回っています。

建設投資のピークであった1997年に685万人を記録した建設業就業者数は、2020年代には480万人前後まで約3割減少しました。今後5〜10年の間に大量の団塊世代やベテラン技能者がリタイア期を迎えることは不可避であり、若年技能者の入職・定着率を劇的に引き上げなければ、自然災害の応急復旧や道路・橋梁・上下水道などの社会資本維持といった「地域の守り手」としての機能が瓦解しかねません。

年齢階層・就業データ 建設業の実態 全産業平均 業界への構造的影響
60歳以上の比率 約25.7%(約4分の1) 約21.5% 数年以内の大量離職による技能断絶リスク
55歳以上の比率 36.7% 32.4% 中核技術者の高齢化と現場管理負担の増大
29歳以下の比率 約12.0% 16.9% 新規入職者の不足と次世代リーダー候補の欠如
年間実労働時間 2,018時間 1,956時間 他産業より約62時間長く若年層敬遠の要因に
平均年収(生産労働者) 432万円 508万円 他産業平均を約15%下回り処遇改善が急務

法改正と連動する政策パッケージ

今回の予算措置は、単独の財政出動ではなく、近年急速に進められてきた法制度改革と完全に連動しています。

2024年4月からは、労働基準法の猶予期間終了に伴い、建設業にも罰則付きの時間外労働上限規制(原則月45時間・年360時間、休日労働を含まない時間外労働の上限年720時間など)が全面適用されました。これにより、従来の長時間労働に依存した工期設定や現場管理は法的に許容されなくなっています。

さらに、2024年6月に公布された「第三次・担い手3法」(建設業法、公共工事入札契約適正化法、公共工事品質確保促進法の一体的改正)は、適正工期の確保や労務費の適正転嫁を義務付けました。2024年秋以降に資材高騰時の契約変更協議義務などが順次施行され、2025年12月には中央建設業審議会による「標準労務費」の勧告制度や、著しく低い労務費での契約禁止が全面施行されています。

2027年度予算概算要求における厚生労働省と国土交通省の連携は、これら法改正によって整えられた法規範の実効性を担保し、中小事業主が制度変更に対応できるよう資金面と運用面から強力に後押しする役割を担っています。

施行・公布時期 関連法令・政策 主要な制度内容と建設現場への実務的影響
2024年4月 改正労働基準法 建設業の時間外労働上限規制適用。違反企業への罰則導入
2024年6月 第三次・担い手3法公布 担い手確保、労務費適正転嫁、工期適正化を法制化
2024年12月 建設業法一部施行 資材価格高騰時の協議義務化、工期ダンピング禁止の強化
2025年12月 建設業法等全面施行 標準労務費の勧告制度運用開始、不当に低い請負契約の禁止
2026年9月 2027年度予算概算要求 助成金73億円計上など、法遵守を支える財政支援を拡充

参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説

建設業界の各プレイヤーに及ぼす具体的な影響

省庁連携による巨額の予算措置は、元請ゼネコンから下請専門工事業者、地域を支える工務店、そして公共事業の発注機関に至るまで、建設サプライチェーン全体に直接的な変化をもたらします。

中小工務店・地場ビルダーにおける採用・育成モデルの刷新

地方の中小工務店や地場ビルダーは、資金力や採用ノウハウの不足から、若年層や女性の確保において大手ゼネコンや他産業の後塵を拝してきました。大工や多能工の高齢化が直撃し、将来の施工能力を維持できるかどうかが経営存続の最大の焦点となっています。

今回の予算要求において、厚生労働省が「中小建設事業主等への支援」に4.9億円を計上し、さらに73億円規模の助成金枠を拡充したことは、地場企業にとって大きな支援材料です。若手技能者を雇い入れて自社内で育成する際の賃金助成や訓練受講経費、資格取得費用などを公的支援で賄うことが可能になります。

また、小規模企業では後回しにされがちだった「雇用管理責任者」の育成支援(1.1億円)を活用することで、就業規則の見直し、変形労働時間制の適切な運用、現場の安全衛生体制の高度化など、若者が定着しやすい職場環境の整備を進められます。助成金を計画的に活用して初期負担を抑えながら、未経験者を採用・育成する仕組みを社内に定着させることが可能となります。

参考記事: 国交省、27年度予算で上限1/2補助へ拡充!復興住宅のDX推進

サブコン・専門工事業者の技能継承と処遇改善

型枠、鉄筋、鳶、左官、内装、設備などを担う専門工事業者(サブコン・下請企業)は、技能者の高齢化による職人不足の最前線に立たされています。ベテランの技が形式知化されないまま退職を迎えてしまえば、施工品質や生産能力の決定的な低下を招きます。

73億円規模で要求された厚生労働省の助成金メニュー(建設事業主等適用処遇改善助成金・建設労働者技能実習コース等)は、専門工事業者が若手を送り出す技能講習や実技訓練の費用負担を直接的に軽減します。熟練技術者が若手に技術を指導する間の賃金補填や、外部研修施設を活用した集中トレーニング環境の整備が加速します。

さらに、国土交通省が進める「建設キャリアアップシステム(CCUS)」との連動により、習得した技能や資格が客観的に評価される仕組みが整いつつあります。2025年12月に全面施行された「標準労務費勧告」に基づき、適正な労務費を元請へ請求・受領し、助成金を活用してスキルアップさせた若年技能者の賃金引き上げに直結させるという、健全な経営循環を確立する好機が訪れています。

参考記事: 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは?2026年完全義務化への対応と導入メリット・登録手順を解説

ゼネコン(元請け)に求められるサプライチェーン統括

元請ゼネコンにとって、下請専門工事業者の担い手不足は自社の施工歩掛や受注可能量に直結する重大問題です。自社社員の労働時間規制をクリアするだけでなく、一次・二次協力会社を含めた現場全体の労務環境と処遇を統括するサプライチェーンマネジメントが不可欠となっています。

国土交通省が計上した「国土と経済成長を支える建設産業の供給力強化 等(29.8億円の内数)」は、重層下請構造の是正やCCUSを活用した適正な技能評価・賃金還元の推進を後押しします。元請企業は、下請企業が厚労省の助成金を円滑に活用して教育訓練を実施できるよう、工程の平準化や研修休暇の取得支援を行うことが求められます。

また、第三次・担い手3法の下では、不当に低い労務費での契約や、工期短縮のしわ寄せを下請に押し付ける行為への行政指導が厳格化されています。元請は国の支援策を熟知し、協力会社全体の賃金水準向上と安全衛生活動を支援することが、優良な協力会(職長会)を確保し続けるための唯一の防衛策となります。

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

行政・規制当局による施策の縦割り打破と監視強化

厚生労働省と国土交通省が共同で概算要求を行い、広報を一体化させている動きは、行政機構における縦割り排除の明確な表れです。

従来、賃金や労働時間、労働安全衛生といった労務管理は厚生労働省(労働基準監督署)の所管であり、建設業の許可制度、請負契約、適正工期、入札行政などは国土交通省の所管でした。しかし、時間外労働上限規制の完全適用や第三次・担い手3法の全面施行を経て、労働条件の悪化と不適正な商取引は不可分の構造問題であるとの認識が定着しました。

今後、両省は合同での実態調査や情報共有を一層緊密化させるとみられます。労働基準監督署による臨検監督で長時間労働や労務費不払いが確認された場合、建設業法違反(ダンピング受注や工期しわ寄せ)の疑いで国土交通省や都道府県の建設業主管課へ通報・連携される運用が強まる見通しです。政策予算の拡充と同時に、違反企業に対する監督指導の包囲網も着実に狭まっています。

参考記事: 建設業の36協定・時間外労働の上限規制の基礎知識|2024年4月適用ルールと違反リスクを解説

ConShiftの視点|「個社の自助努力」から「公的インフラを活用した構造転換」へ

今回の2027年度予算概算要求が示している建設産業の構造変化は、労働力確保を民間企業の自助努力だけに委ねる時代の完全な終焉です。

技能労働者の4分の1が60歳以上という現実は、もはや単なる景気循環の一局面ではなく、産業存続に関わる不可逆な人口動態の危機です。少子高齢化が全産業で加速する中、賃金水準が全産業平均より約15%低く、労働時間が約62時間長いという従来の労働条件のままでは、どれほど採用広報を強化しても若手が定着するはずがありません。

厚生労働省の助成金73億円や中小支援4.9億円、そして国土交通省の供給力強化施策(29.8億円の内数)は、民間企業が構造転換を果たすための公的な投資原資と捉えるべきです。特に重要なのは、法改正によって「標準労務費勧告」や「適正工期の確保」という取引ルールの厳格化が行われ、下請叩きが法的に封じられた上でこの予算が投じられている点です。

今後、建設企業の淘汰と二極化は加速します。国の助成金を活用して技能者の資格取得や多能工化を推し進め、CCUSレベル判定に連動した賃金体系へと移行し、適正な労務費を堂々と発注者・元請へ見積提出できる企業は、若手や女性を惹きつけて事業規模を維持できます。一方で、従来どおり低単価と長時間労働に頼り、国の支援策を情報不足から活用できない企業は、職人の高齢退職とともに施工力を失い、退場を余儀なくされます。公的支援スキームを経営戦略の中核に据える姿勢が、今まさに問われています。

参考記事: 技能者能力評価基準(レベル判定)とは?評価の仕組みとカード更新の手順を解説

経営層と現場リーダーが明日から取り組むべき3つのアクション

公表された2027年度概算要求と施策の方向性を踏まえ、ゼネコンや工務店の経営者、現場リーダーが直ちに着手すべき具体的な実務アクションを整理します。

1. 厚労省の建設業向け助成金メニューの受給要件を総点検する

厚生労働省が要求した73億円規模の助成金には、人材確保等支援助成金や人材開発支援助成金などの建設分野特化コースが含まれています。自社の就業規則や雇用管理体制が助成要件を満たしているか、受給可能な制度を社労士等の専門家とともに棚卸ししてください。特に若手採用に伴う賃金支援や、資格取得・技能実習にかかる経費補助は即効性が高いため、次年度の採用・研修計画と予算を今から連動させて設計することが不可欠です。

2. 雇用管理責任者の配置と社内労務規定のアップデートを完了させる

若年層や女性の定着率向上に向け、現場ごとに雇用管理責任者を選任し、厚生労働省の委託研修(1.1億円枠)を積極的に受講させてください。2024年4月に適用された時間外労働上限規制への適合状況を再確認し、36協定の遵守はもちろん、年次有給休暇の計画的付与や変形労働時間制の導入など、柔軟で持続可能な勤務体系を現場レベルで構築します。離職率を下げるための社内相談窓口や評価制度の透明化も同時に着手すべき実務です。

3. CCUSの完全登録と標準労務費を反映した見積体制を構築する

自社の技能者および一次・二次協力会社のCCUS(建設キャリアアップシステム)への登録状況を総点検し、カードタッチの徹底と就業履歴の蓄積を進めてください。2025年12月に全面施行された標準労務費の基準を把握し、自社の積算根拠に適正な労務費・法定福利費を明記した見積書を作成・提示できる体制を整えます。不当な指値発注を拒否し、技能者のスキルに見合った対価を正当に要求することが、企業の持続可能性を担保する上で重要です。

参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?適正工期・賃金引き上げ・現場DXを実現する3つの柱を解説


出典: 厚生労働省
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 厚生労働省 報道発表資料(令和8年度概算要求)
出典: 厚生労働省 建設業の時間外労働上限規制特設サイト
出典: 国土交通省 建設産業・不動産業

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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