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コスト管理 2026年9月8日

全建調査、民間工事20.8%で価格協議されず。原価割れ防ぐ契約対策とは

全建調査、民間工事20.8%で価格協議されず。原価割れ防ぐ契約対策とは

全国建設業協会が会員企業1,877社を対象に実施した調査で、資材価格や労務費が高騰した際に契約変更協議が行われない民間工事が20.8%に達している実態が明らかになりました。国直轄工事での未実施割合が4.1%にとどまる一方、民間発注案件では変更協議の不調などを背景に全体の15.7%で原価割れの契約が発生しています。

全建アンケートが浮き彫りにした設計変更と価格転嫁の実態

一般社団法人全国建設業協会(全建、今井雅則会長)は2026年9月上旬、「2026年度(令和8年9月)発注関係事務の運用状況等に関するアンケート報告書」を公表しました。同調査は、公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)の運用実態や入札契約制度の課題を把握するため、全国47都道府県の建設業協会に所属する会員企業を対象として毎年継続して実施されているものです。

今回は2026年7月に調査が行われ、会員企業1,877社から回答を得ました。調査対象期間は2025年6月1日から2026年5月31日までの1年間です。建設資材の価格高騰や労務費の上昇、さらには時間外労働の上限規制の適用を受けた工期設定など、施工現場を取り巻く環境が激変するなか、発注者ごとの設計変更および価格転嫁への対応状況に明確な格差が存在していることが浮き彫りとなりました。

発注者区分別にみる契約変更と原価割れの実態

今回の調査結果において際立っているのは、国土交通省などの国の機関と、民間発注者や基礎自治体との間にある対応の温度差です。施工条件の変化に伴う「必要な設計変更(請負代金の変更)」がおおむね行われているとする割合は、公共工事全体で9割を超えています。しかし、民間工事では8割台にとどまります。

さらに、資材価格や労務費が上昇した局面における「契約変更の協議」や「採算性」に着目すると、その乖離はより深刻です。民間工事では協議自体が行われないケースが2割を超え、赤字工事の発生割合も公共工事を上回っています。

発注者区分 設計変更の実施率 協議未実施の割合 原価割れ発生率
国土交通省 99.0% 4.1% 7.1%
都道府県・政令市 96.5% 7.3% 13.7%
市区町村 91.8% 14.2% 14.9%
民間発注者 84.0% 20.8% 15.7%

設計変更そのものは公共工事で高い水準で実施されているものの、市区町村や民間発注者になるにつれて、価格高騰に対する契約変更協議の実施率は低下しています。また、協議が行われないだけでなく、受注者側が「協議自体を申し入れていない」とする割合も民間工事では36.5%に達しており、民間案件において受注者が価格交渉を諦めている実態も浮き彫りになりました。

設計変更を阻害する発注者ごとの構造的課題

設計変更や契約変更が進まない要因について分析すると、発注者の組織形態や予算体系の違いによって直面する課題が異なっています。

国土交通省をはじめとする国の機関では、設計変更の必要性自体は認められる傾向にあります。しかし、「発注者との協議に伴う事務作業負担が大きい」(64.0%)、「提出を求められる書類が多い」(58.9%)といった手続き面の煩雑さが上位を占めました。直轄工事においては変更プロセスの厳格さが、施工現場の技術者にとって過大な業務負荷となっている状況です。

一方で、市区町村や民間発注者では問題の性質が大きく異なります。市区町村では57.8%、民間発注者では59.0%の企業が「予算がないとの理由で変更に応じてもらえない」ことを最多の課題として挙げました。当初に設定した予算枠の固定観念が強く、施工途中での物価変動や地中障害物の出現といった予期せぬコスト増を契約変更として受け入れない体質が顕在化しています。

さらに、都道府県や政令指定都市においては、「変更金額に落札率を乗じられてしまう」(57.2%)という積算上の商慣行が問題視されています。当初請負契約時の落札率を追加工事や設計変更の増額分にも一律で適用されることで、追加工事にかかった実費を回収できず、採算割れに陥る構図が生じています。

加えて自由記述では、発注者側の現場事前調査が不十分であるために、設計図書と現場の施工条件が一致せず、着工後に大量の変更業務が発生しているという指摘も相次ぎました。適正な精算が行われないまま手戻り作業を強いられる現場の実態が示されています。

第三次・担い手3法の施行とスライド条項の形骸化

こうした契約トラブルや価格転嫁の遅れを解消するため、法制度の整備は急速に進められてきました。2024年6月に成立・公布された「第三次・担い手3法」(建設業法、公共工事入札契約適正化法、品確法の一体的改正)は、建設業の持続的な担い手確保と適正な取引環境の構築を目的としています。

同法に基づき、2024年12月13日からは、契約締結前に資材高騰リスクを受注者から注文者へ通知することが義務付けられました。さらに、資材価格が高騰した際の契約変更方法をあらかじめ書面で明確化することや、受注者からの契約変更協議の申し出に対して注文者が誠実に協議に応じる努力義務が規定されています。加えて、2025年12月12日には、中央建設業審議会が作成する労務費の基準(標準労務費)の勧告や、著しく低い請負代金による契約(原価割れ契約)の禁止措置が全面施行されました。

法的枠組み・基準 施行・勧告時期 主な規定内容・実務への要請
建設業法(資材高騰リスク通知) 2024年12月施行 契約前における資材高騰リスクの通知義務化
建設業法(誠実協議努力義務) 2024年12月施行 価格高騰に伴う契約変更協議への誠実対応
中建審「工期に関する基準」 改定実施済み 著しく短い工期の禁止と適正な工期設定
建設業法(原価割れ契約の禁止) 2025年12月施行 標準労務費に基づく著しく低い請負代金の禁止

法改正により契約変更協議の枠組みは法制化されたものの、実務現場への定着には大きな課題が残されています。今回の全建調査によると、見積書の提出は95.2%の工事で行われており、資材価格高騰の恐れを通知している割合も61.2%と一定の進展が見られます。通知後に価格が上昇した場合、約7割の工事で何らかの変更契約が結ばれていました。

しかし、通知を行ったにもかかわらず価格高騰分の変更が一切認められなかったケースが7.9%存在します。また、物価変動リスクを分散するための「スライド条項」に関して、民間工事では「申請しなかった」企業が7割強に達し、「契約書に条項自体がなく申請できなかった」企業も約1割存在しました。制度として用意された変更手続きが、民間市場の取引現場では十分に機能していない現実が浮き彫りとなっています。

参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正の要点と発注者・受注者の実務解説

建設業界の各プレイヤーに及ぶ影響

民間工事や市区町村発注工事における契約変更の停滞は、サプライチェーン全体に波及しています。元請けゼネコンから民間施主、そして行政機関に至るまで、それぞれが直面している課題と影響を整理します。

ゼネコン・工務店(元請け):見積条件の厳格化と利益防衛の転換

民間案件において価格高騰時の協議未実施率が20.8%に達し、民間工事の15.7%で原価割れが発生している現実は、元請け企業の経営に直接的な打撃を与えています。従来の「施主との関係悪化を恐れて追加請求を控える」「完工時の精算で回収を図る」といった曖昧な商慣行は、近年の急激な資材価格や労務費の高騰局面では致命的な赤字要因となります。

受注企業にとっては、見積提出段階における施工条件の明確化が不可欠です。着工後のトラブルを防ぐためには、地盤条件や搬入制約、資材価格の変動リスクを事前に書面で合意しておく防衛策が求められます。2024年12月に義務化された資材高騰リスクの通知書面を確実に交付し、あらかじめ設計変更の協議条件を契約約款に盛り込む実務が定着しなければ、利益を維持することはできません。

さらに、下請企業に対する適正な労務費の支払い義務を果たすためにも、元請け企業は施主に対して価格転嫁を毅然と申し入れる交渉力が試されています。労務費基準を割り込む契約が法的に禁止されたいま、元請けがコスト上昇分を自己吸収することはコンプライアンス上の重大なリスクにも直結します。

参考記事: 見積条件書とは?建設業法が定める法定14項目と実務での提示ルールを徹底解説

参考記事: 追加変更工事とは?定義の違いから代金未払いトラブルを防ぐ合意書・電子化のポイントまで解説

発注者・デベロッパー(施主):固定予算志向の限界と発注リスク

民間発注者やデベロッパーにおいては、「予算がない」ことを理由にした設計変更や増額協議の拒否が、中長期的な調達基盤を自ら破壊するリスクを孕んでいます。建設各社が直近の利益状況悪化に直面する中、インフレリスクを受注者に一方的に押し付ける発注姿勢を続ければ、入札不調や施工者の選定難に直面することは避けられません。

民間発注者は、企画・設計の初期段階から資材や人件費の変動幅を織り込んだ予算計画を策定する必要があります。当初の総額請負契約に固執するのではなく、インフレ局面に対応したスライド条項の導入や、施工条件の変更に応じたフレキシブルな精算スキームへの転換が不可欠です。

また、着工前の地盤調査や既存建物の現況調査を十分に行わずに発注し、着工後に想定外の事態が生じた場合、その費用負担を受注者に転嫁することは許されません。適切な事前調査と精度の高い設計図書の提供は、施主側の重大なリスク管理責務となっています。

行政・規制当局:協議プロセスのデジタル化と民間・自治体への指導強化

国土交通省をはじめとする行政・規制当局には、公共工事と民間工事、あるいは国と基礎自治体の間に広がる「運用の二重基準」を是正する役割が求められています。直轄工事においては必要な設計変更が99.0%行われているものの、事務作業負担(64.0%)や書類の多さ(58.9%)が施工現場の生産性を著しく阻害しています。

直轄工事における手続きの簡素化や、遠隔臨場・施工管理クラウドなどを活用した監督・検査事務のデジタル化を一層進めなければ、2024年4月から施行されている時間外労働上限規制の遵守と現場技術者の負担軽減は両立しません。

さらに、市区町村や民間発注者に対する働きかけも急務です。改正建設業法で導入された「誠実協議努力義務」や「標準労務費の勧告制度」の実効性を担保するため、通報窓口の運用強化や、著しい違反事例に対する勧告・公表措置を厳格に執行する体制が求められています。

参考記事: 遠隔臨場とは?現場の立ち会い待ちをゼロにする仕組みと最新ガイドラインの重要ポイント

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

ConShiftの視点(独自考察):官民格差を解消する変更プロセスの標準化

今回の全建調査によって可視化された本質的な課題は、物価上昇局面における「官民格差」と「基礎自治体の旧態依然とした予算制度」です。

国直轄工事においては、インフレに対応した各種スライド条項(単品スライド、インフレスライド)の運用基準が整備され、制度上は変更に応じる土台が整っています。その一方で、市区町村の57.8%、民間発注者の59.0%が「予算不足」を理由に変更を拒否している事実は、契約の本質が「実際の施工にかかった適正原価の補填」ではなく「事前に組んだ単年度予算の枠内に押し込めること」に終始している実態を示しています。

この構造的課題を打破するためには、契約変更プロセスの標準化と透明化を早急に推進しなければなりません。具体的には以下の3点が業界変革の焦点となります。

第一に、民間標準請負契約約款におけるスライド条項の標準装備とその発動要件の簡素化です。現在、民間工事ではスライド条項の申請を見送る企業が7割強を占めており、契約約款に条項が存在しないケースも散見されます。改正建設業法の「誠実協議努力義務」を実質化させるため、民間工事においても一定水準以上の物価・労務費変動が生じた場合に自動的に協議テーブルに着くことを義務付ける標準契約書の普及が不可欠です。

第二に、追加変更工事に伴う協議手続きのデジタル証跡化です。国直轄工事で指摘された「書類の多さ」や民間工事での「言った言わないの未払いトラブル」は、施工管理クラウドや電子契約を活用した合意プロセスの簡素化によって解消できます。現場で発生した施工条件の差異を写真や位置情報とともに即座にクラウド上で記録し、発注者とリアルタイムで共有・電子承認する仕組みを構築することで、協議の遅延と事務負担を大幅に削減できます。

第三に、追加変更額に対する「落札率乗じ」という慣行の撤廃です。都道府県・政令市工事で57.2%の企業が問題視しているこの手法は、物価や賃金が右肩上がりに上昇する局面では受注者の原価割れを加速させる要因にしかなりません。追加工事や設計変更に伴う費用は、最新の市場実勢価格に基づく実費精算を原則とする制度変更を、地方自治体全体へ浸透させる必要があります。

参考記事: 施工管理アプリ(クラウド型)入門|導入メリットと失敗しない選び方を徹底解説

まとめ:明日から取り組むべき契約・現場実務のアクション

全建のアンケート調査は、適正な利潤を確保し持続的な現場運営を実現するために、施工会社自身が契約管理のあり方を根本から見直さなければならない現実を示しています。民間工事や小規模公共工事を担当する経営層および現場リーダーは、直ちに以下の具体的なアクションに着手する必要があります。

  1. 見積条件書と資材高騰リスク通知書の標準添付

見積書の提出時に法定14項目を網羅した見積条件書を必ず添付し、着工後の施工条件変更に対する精算ルールを明文化します。さらに、改正建設業法に基づく資材高騰リスクの通知を書面で確実に行い、価格変動時の協議申し入れを行う法的根拠を契約前に確保してください。

  1. 現場における追加変更作業の即時記録と合意形成

設計図書と現場状況の差異や発注者からの追加要望が発生した際、口頭での了解で作業を先行させることを全社的に禁止します。施工管理アプリなどを活用して変更内容と理由を写真付きで速やかにデータ化し、工事着手前に追加変更合意書や指示書を取り交わす運用を徹底してください。

  1. 自社の採算ラインに基づく受託判断と落札率ルールの確認

自治体案件や民間案件において、設計変更時の積算方法(落札率の一律適用や単価据え置きなど)を契約前に確認します。価格高騰に対する変更協議が認められず原価割れに陥るリスクが高い工事については、無理なダンピング受注を避け、標準労務費の基準に沿った適正価格での受注活動を貫いてください。

出典: 日刊建設工業新聞
出典: 日本工業経済新聞
出典: 建設通信新聞

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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