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Home > 積算・受発注> 国土交通省調査、民間発注未達企業の68%がコスト増拒否で調達見直しへ
積算・受発注 2026年9月9日

国土交通省調査、民間発注未達企業の68%がコスト増拒否で調達見直しへ

国土交通省調査、民間発注未達企業の68%がコスト増拒否で調達見直しへ

国土交通省が実施した民間発注者向け調査において、計画通りに工事を発注できなかった企業22社のうち、半数を超える12社が発注困難事例が「増えた」と回答しました。発注を見送った理由としては、物価や人件費の高騰によるコスト増を許容できなかったとする回答が68.2%を占めています。

国土交通省による民間発注実態調査の結果と浮き彫りになった課題

民間建築市場における工事発注の遅延や見送りが顕在化しています。国土交通省不動産・建設経済局建設業課は、不動産協会や住宅生産団体連合会などの業界団体を通じて「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」を実施し、2024年12月以降の民間発注実態をまとめました。

調査概要と回答企業の属性

本調査は、民間発注者における適正な工期設定や取引環境の実態を把握する目的で行われたものです。調査対象には、開発事業を手がける不動産業や戸建て・集合住宅を供給する住宅メーカーをはじめ、電力・ガス・熱供給などのインフラ事業者が含まれています。

項目 内容
調査実施主体 国土交通省不動産・建設経済局建設業課
調査協力団体 不動産協会、住宅生産団体連合会、東京建築士会、全国有料老人ホーム協会など
対象期間 2024年12月以降の発注動向
有効回答数 民間発注者55社
主な業種 不動産業、住宅メーカー、電気事業、ガス・熱供給事業など

計画通りに発注できなかった民間企業が約4割に達した実態

回答企業55社のうち、予定していた工事を計画通りに発注できなかった企業は合計22社(40.0%)に上りました。「計画通りに発注できなかった事例はなかった」と回答した企業は56.4%(31社)にとどまり、民間プロジェクトの現場で発注段階の滞留が生じている状況が示されています。

発注状況の区分 企業数 構成比
計画通りの発注を行えなかった事例はない 31社 56.4%
発注を見送った工事がある 16社 29.1%
一部工事で規模縮小や延期が生じた 12社 21.8%

※発注状況の各項目は複数回答を含むため、合計値および比率の総和は一致しません。

計画通りの発注ができなかった22社に対して直近1年間の変化を尋ねたところ、過半数となる12社(54.5%)が発注できなかった工事が「増えた」と回答しました。特に不動産業においては、他業種を上回る5社が「増えた」と回答しており、商業施設やオフィスビル、分譲マンションなどの開発事業において計画の修正を余儀なくされるケースが目立っています。

なお、見送りや計画変更が発生した工事の種別としては、建築工事が最も多く、電気・設備工事、土木工事、維持修繕工事がそれに続いています。

工事発注を見送った主な要因

工事の発注を見送らざるを得なかった背景には、建設資材の価格高騰や労務単価の上昇に伴う工事費の膨張が存在します。発注を見送った要因について尋ねた設問では、コスト面の問題が突出して高い割合を占めました。

工事を発注できなかった要因 選択した割合
人件費高騰や資材調達難によるコスト増を許容できなかった 68.2%
受注者側(施工会社)の技能者不足 50.0%
希望する工期設定が困難(合意難航) 22.7%

※計画通り発注できなかった企業を対象とした複数回答。

コスト増を許容できなかったとする回答が約7割に達した一方、施工会社側の技能労働者不足を理由に挙げる発注者も半数に達しました。電気事業やガス・熱供給事業などのインフラ事業者においては、インフラ設備の維持・更新に伴う制約から希望工期の設定が折り合わず、発注を断念した事例も報告されています。

発注見送り防止策とコスト受容の乖離

発注が見送られる事態を回避するため、民間発注者各社は施工能力の確保に向けた事前の対策を講じています。全55社に対する防止策の設問では、早期の手配や調達先の拡大に取り組む姿勢が見られました。

発注見送りを防ぐための取り組み 企業数 構成比
早めに建設会社を抑える(早期確保) 29社 52.7%
取引のなかった新規協力会社を開拓・拡大 21社 38.2%
建設コストの見積もり予算を引き上げた 15社 27.3%

施主側の5割強が早期に施工会社を囲い込み、4割弱が新たな協力会社を開拓して施工体制を維持しようとしているのに対し、上昇したコストを見積もり予算に反映させたと回答した企業は27.3%(15社)にとどまりました。施工リソースを確保したい意向を持ちながらも、投資利回りの悪化や事業収支の厳しさを理由に、実際の請負契約金額への上乗せには消極的な姿勢が残っています。

工期長期化の主因は「リソース不足」

発注工事の工期設定状況について回答した48社のうち、約5割に当たる25社は「あまり変化がない」と答えたものの、約4割に当たる21社は「長い工期が増えている」と回答しました。

工期が長期化している要因として、回答した21社のうち約6割(12社)が「資材・人員の不足や調達遅延」を挙げています。一方で、法改正や指針に基づく「適正な工期の見積もり」を理由とした企業は約3割(7社)にとどまりました。工期の延伸が働き方改革に伴う計画的な配慮だけでなく、現場のリソース逼迫によって受動的に引き起こされている実態が示されています。

制度改正とこれまでの経緯

建設業界では、2024年4月1日から時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間等の罰則付き規制)が適用されています。これに先立ち、中央建設業審議会は2020年7月に「工期に関する基準」を作成・勧告し、2024年3月には実効性を高める改定を行いました。さらに2024年6月には第3次担い手3法(改正建設業法等)が公布され、著しく短い工期の契約締結禁止や、価格転嫁の円滑化、労務費等の変動に伴う請負代金変更の協議が法的に強化されています。

年月 主な出来事・施策 概要
2020年7月 中央建設業審議会「工期に関する基準」作成・勧告 著しく短い工期の禁止や適正工期の算定手順を明文化
2024年3月 「工期に関する基準」改定 休日確保や準備期間の考慮など実務上の留意点を強化
2024年4月 建設業への時間外労働上限規制が適用開始 罰則付き上限規制が全面施行され、働き方改革が義務化
2024年6月 第3次担い手3法(改正建設業法等)公布 工期ダンピング対策の強化、価格転嫁や契約変更協議の義務付け
2026年2〜3月 国交省「働き方改革の推進に関する調査」実施 民間発注者55社を対象に発注動向や工期設定の実態を調査
2026年9月 調査結果の報道公表 民間発注者の未達企業のうち半数超で見送り増が判明

参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説


建設バリューチェーン各層への波及効果

民間発注者による発注見送りや工期の長期化は、不動産デベロッパーから元請ゼネコン、専門工事業者に至るサプライチェーン全体へ多面的な影響を及ぼしています。

発注者・デベロッパー(施主):投資計画の再考と早期選定への移行

発注者側では、これまで通りの予算感で競争入札を行い、最も廉価な建設会社を選定するという従来の手法が成立しにくくなっています。調査結果において、計画通りの発注を行えなかった企業の半数以上が「見送りが増えた」と回答し、その7割近くがコスト高騰を理由に挙げた事実は、従来の収支モデルが建設費用の実勢価格に追いついていないことを表しています。

特に不動産業においては、建設コストの上昇分を販売価格や賃料設定へ転嫁できなければ、事業収支が成り立たず開発そのものを凍結せざるを得ません。オフィスビルや集合住宅のプロジェクトにおいて着工時期が後ろ倒しになれば、土地の取得費用や借入金に対する金利負担が増加し、事業全体の採算性を圧迫します。

このため、発注見送りを防ぐ対策として52.7%の企業が選択した「早めに建設会社を抑える」手法への転換が進みつつあります。設計の初期段階から特定の施工会社を内定させ、施工計画や資材調達の目途を早期につける方式(早期施工者参画型や特命発注など)を採用する動きが広がっています。ただし、見積もり予算を引き上げた企業が27.3%にとどまっていることからも明らかなように、事業予算の上限と実勢コストの板挟みによる事業化判断の停滞は今後も継続する見通しです。

ゼネコン(元請け):選別受注の定着と見積根拠の提示能力

元請ゼネコンにとっては、時間外労働の上限規制の施行に伴い施工余力(キャパシティ)が物理的に制限される中、採算の合わない工事を回避する「選別受注」の傾向が定着しています。人手不足や労務費の上昇分を反映していない不採算案件を受注すれば、自社の収益を損なうだけでなく、下請会社への適正な賃金支払いや労務管理の遵守が不可能になるためです。

発注者が見積もり増額を認める割合が3割弱にとどまる環境下では、ゼネコンが見積もりの妥当性を客観的データに基づいて発注者へ説明する能力が受注の可否を左右します。資材価格のスライド条項や標準労務費を踏まえた原価構成の内訳を開示し、なぜその金額と工期が必要なのかを論理的に提示できなければ、発注者の合意を取り付けることは困難です。

また、発注者が早期の建設会社確保に動いている環境は、ゼネコンにとって設計初期段階からのVE(バリューエンジニアリング)提案を行う契機となります。仕様の見直しやプレキャスト(PCa)工法の採用など、工期短縮や省人化に資する技術提案を早い段階で盛り込むことで、発注者の予算枠内に収めつつ自社の適正利益を確保する受注戦略が求められています。

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

サブコン・専門工事業者(下請け):労務単価の適正転嫁と現場稼働の平準化

鉄筋、型枠、内装、電気・空調衛生設備などの専門工事業者においては、若年入職者の減少と高齢化に伴う職人不足が深刻化しており、調査でも発注見送り理由の50.0%に「技能者不足」が挙げられました。技能労働者そのものが産業全体のボトルネックとなっている現在、専門工事業者は低単価での受注を断り、労務費が適正に確保された工事を選んで従事する傾向を強めています。

一方で、民間発注者が新規開拓として「協力会社を増やした(38.2%)」と回答している点は、専門工事業者にとって新たな取引先を獲得する機会となり得ます。しかし、十分な労務費や法定福利費が担保されない安値での新規契約を受け入れれば、自社の職人の離職を招き、経営危機に直結します。

さらに、資材調達の遅延や前工程の遅れに起因する工期長期化は、専門工事業者の人員配置計画を狂わせる大きな要因です。現場の突貫工事や急な休工を防ぐためにも、適正工期の設定や労務費の見積もり明示義務を規定した改正建設業法の趣旨に則り、元請企業に対して計画通りの工程管理と適正な対価の支払いを求める動きが一段と強まっています。

参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?適正工期・賃金引き上げ・現場DXを実現する3つの柱を解説


ConShiftの視点:民間建築市場における力関係の構造転換

今回の調査結果は、長年続いてきた「民間発注者優位の調達構造」が、生産体制の縮小と法令順守の要請によって持続困難になったことを明確に示しています。

「買い手市場」の終焉と施工能力の希少価値化

日本の民間建築市場では長らく、発注者が複数のゼネコンを競争させて価格を叩き、短工期を強いる「買い手市場」が常態化していました。しかし、時間外労働の上限規制の適用と熟練技能者の大量引退に伴い、施工現場のキャパシティそのものが構造的に収縮しています。

この変化により、施工能力(キャパシティ)は「対価を払えばいくらでも調達できる資源」から「早期に囲い込まなければ確保できない希少な制約条件」へと性質を変えました。調査において、発注見送りの防止策として「早めに建設会社を抑える」が52.7%に達した事実は、市場の主導権が発注者から施工者側へと移行しつつある構造的変化の現れです。

予算先行型調達から「実勢コスト連動型」への再編

現時点において、防止策として「見積もり予算を引き上げた」企業が27.3%にとどまっていることは、発注者の意識変革が施工確保の動きに追いついていない過渡期の歪みを表しています。しかし、技能者不足が50.0%、コスト増許容不能が68.2%という発注見送りの内訳を見れば明らかなように、実勢コストを認めない案件は入札不調や不落、受注辞退を招き、最終的に事業の中断や見送りに追い込まれます。

今後は、あらかじめ定めた投資利回りに合わせて建設費を逆算する「予算先行型」の調達は立ち行かなくなります。施工者の早期参画を前提に、資材実勢価格や標準労務費の水準を反映した適正工期・適正価格での契約変更をあらかじめ契約約款に織り込む「実勢コスト連動型」の調達モデルへと移行せざるを得ない局面に入っています。

参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正の要点と発注者・受注者の実務解説


施工管理者・経営層が明日から取り組むべき実務アクション

民間発注者の調達動向と市場環境の変化を受け、ゼネコンや工務店の経営層および現場リーダーが直ちに着手すべき実務項目を整理します。

1. 積算根拠の透明化と標準労務費に基づく見積提示の徹底

民間発注者がコスト増を許容しにくい背景には、提示された増額分の妥当性を社内や投資家へ説明できないという事情が存在します。積算担当者は、資材単価の推移データや2024年改正建設業法に基づく標準労務費の水準を明示し、根拠のある見積書を作成する実務を定着させる必要があります。一括値上げの提示ではなく、材料費、労務費、法定福利費を分離して内訳を開示することで、発注者側の合意形成を支援する姿勢が求められます。

2. 計画初期段階における工法・工程の見直し提案

施主が早期の施工会社確保に動いている機会を捉え、基本計画段階から積極的に関与する営業・技術体制を整備します。プレキャスト部材の活用、ユニット化工法の導入、BIMを活用した干渉チェックなど、現場の所要人工(にんく)を削減できる代替案を提示することで、発注者の予算制約と現場の労働力不足を同時に解決する提案力を磨くことが必要です。

3. リソース逼迫を前提とした受託判断基準の明確化

自社の施工余力と協力会社の稼働状況をリアルタイムで把握し、採算割れや無理な短工期が前提となる案件については、受注を見送る基準を経営層主導で確立します。受注することが現場の長時間労働や協力会社への単価圧迫につながる案件を排除し、適正な工期と対価が得られる案件に限定して経営資源を集中投下する判断が現場の健全性を保ちます。


出典: decn.co.jp
出典: kentsu.co.jp
出典: mlit.go.jp

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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