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Home > 積算・受発注> PFNら、2027年3月完了へ国交省発注AIで図書不整合を解消
積算・受発注 2026年9月8日

PFNら、2027年3月完了へ国交省発注AIで図書不整合を解消

PFNら、2027年3月完了へ国交省発注AIで図書不整合を解消

株式会社Preferred Networksと合同会社デロイト トーマツは2026年9月8日、国土交通省の受託業務においてインフラ発注・審査業務を支援するAIエージェントの開発と検証を開始したと発表しました。本検証では、図面・数量総括表・特記仕様書の形式横断的な不整合検知および技術提案書の事実確認支援を対象とし、2027年3月の業務完了を目指します。

発注図書3点組みの不整合を解消するAIエージェント開発の全容

国土交通省が公示した『インフラ分野における業務プロセス全体の高度化・効率化に資するAI技術の検証 その2業務』を、株式会社Preferred Networks(以下、PFN)と合同会社デロイト トーマツ(以下、デロイト トーマツ)が共同受託しました。

公共インフラ事業の発注プロセスでは、設計・積算段階で作成される「発注図書3点組み」のデータ形式が異なる点に起因する業務負担が長年の課題となっていました。本事業では、最先端の人工知能技術を用いてこれらの不整合を自動検知し、発注者・受注者双方の業務工数を削減する実証を進めます。

公共インフラ調達における課題構造とAI技術適用の背景

公共土木・インフラ工事の発注業務では、仕様の変更や設計修正が発生するたびに複数の関係書類を手作業で更新する必要があります。しかし、それぞれの書類が個別のソフトウェアやフォーマットで作成・保管されているため、修正内容の転記漏れや数値の不一致が頻発していました。

【従来の発注図書作成における課題】
図面(PDF等) ───┐
数量総括表(Excel) ──┼─→ 形式が異なるため修正反映漏れが発生 → 公告後に質問・修正対応が頻発
特記仕様書(Word) ──┘

発注図書に不整合が残されたまま案件が公告されると、入札参加を検討するゼネコン側からの質疑応答対応や、設計図書の差替え・修正公告といった膨大な手戻りが発生します。

さらに、入札時に提出される技術提案書の審査実務においても、企業の業務実績や配置予定技術者の資格・経歴などの事実確認、入札公告要件との照合作業が特定の時期に集中します。特に新年度の事業開始に伴う4月の発注集中期には、発注機関の審査担当者が膨大な書類の突合作業に追われ、過重な業務負荷が生じていました。

業務受託に至る時系列と政策的位置づけ

国土交通省は2024年に「i-Construction 2.0」を策定し、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割達成(生産性1.5倍)する目標を掲げています。直轄土木工事におけるICT施工の割合は2022年度時点で87%に達し、現場作業において約21%の生産性向上を実現してきました。しかし、調達やバックオフィス業務のデジタル化は現場施工に比べて立ち遅れていました。

日本の生産年齢人口(15〜64歳)が2020年度の約7,509万人から2040年度には約6,213万人へと約2割減少する見通しの中、発注行政自体の効率化は避けて通れない命題となっています。

年月 組織・公表元 主な出来事および政策動向
2024年4月16日 国土交通省 「i-Construction 2.0」を策定。2040年度までの省人化3割目標を明記
2026年4月 国土交通省 直轄建設コンサルタント業務で生成AI利活用方針を決定。仕様書へ反映
2026年7月8日 国土交通省 「AI技術の検証 その1業務」および「その2業務」を公示
2026年8月26日 インフラDX推進本部 「インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」等を決定
2026年9月4日 国土交通省 AI取組方針を正式公表。「共通仕様書(案)」をJSON-LD形式で先行公開
2026年9月8日 PFN・デロイト 国土交通省のAI検証その2業務の共同受託と開発着手を公表
2027年3月(予定) PFN・デロイト 実証検証を完了し、業務支援AIエージェントの検証結果を取りまとめ

2026年9月4日に公表された「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」では、AIを「現場で働く人の能力を拡張させ生産性向上を加速する基盤」と位置づけ、直轄事務所でのAI活用、データ連携基盤の整備、フィジカルAIの導入という3本柱を打ち出しました。今回のPFNとデロイト トーマツによる検証事業は、この取組方針に基づく行政実務改革の先行事例となります。

参考記事: 国土交通省フィジカルAI戦略、2040年省人化3割へ求められる現場変革

共同受託2社の役割分担と実証の技術的骨子

本事業において、受託コンソーシアムはAIアルゴリズム開発と業務分析・ガバナンス設計で明確な役割分担を行っています。

参画組織 主な役割・担当業務 具体的な提供機能・アウトプット
国土交通省 業務知見および検証用実データの提供 直轄土木工事における実際の発注図書データ、審査基準データ
株式会社Preferred Networks AIモデル・エージェントのアーキテクチャ設計・開発 VLMとLLMを統合したクロスモーダル解析エンジン、照合アルゴリズム
合同会社デロイト トーマツ 業務プロセス分析、評価・ガバナンス設計 判断基準の構造化、AI適用ユースケース選定、業務フロー再設計

PFNが開発するAIエージェントの技術的核心は、視覚言語モデル(VLM)と大規模言語モデル(LLM)を組み合わせた「クロスモーダル整合性検証」にあります。

従来の大規模言語モデルはテキストデータの解析に長けているものの、CAD図面から出力されたPDFの図面情報や、複雑な表構造を持つ数量総括表を同時に理解することは困難でした。本システムでは、図面内の幾何学的情報や文字・寸法情報をVLMが空間的に認識し、数量総括表(Excel)の数値群や特記仕様書(Word)の指定条件をLLMが構文解析します。これらを横断的に突合することで、「図面に描かれた部材寸法が特記仕様書の指定と食い違っている」「数量総括表に記載された基礎工の数量が図面の形状値と一致しない」といった矛盾点をAIが自律的に検出します。

また、技術提案審査支援においては、企業側から提出されたPDF提案書から企業名・個人名をマスキングする候補を自動抽出し、公平なブラインド審査を支援します。さらに、入札要件として求められる過去の同種・類似工事実績の適合状況を、公的データベースや提出書類から瞬時に照合・要約する処理を担います。

人間参加型(HITL)による監査性と信頼性の担保

本業務で設計されるAIエージェントは、すべての判断を全自動で下す完全自律型ではありません。公的調達に不可欠な公平性、透明性、説明責任を維持するため、「Human-in-the-Loop(HITL:人間参加型)」の設計思想を厳格に適用しています。

AIの提示画面には、判定結果だけでなく「参照した図面のページ番号」「該当する仕様書の条項」「判定の信頼度スコア」「職員による再確認が必要なフラグ」が明示されます。AIはあくまで書類の横断読解と矛盾候補の抽出という定型下作業を代行する補佐役にとどまり、最終的な設計変更の要否や入札参加資格の適否、技術提案の評価点は人間の職員が下します。

この仕組みにより、AIが誤った推論(ハルシネーション)を起こした場合でも職員が即座に検知・修正できる監査性を確保しています。

参考記事: 国土交通省が2027年度に直轄ASPへAI実装、書類作成はどう変わるか

建設業界の主要プレイヤーに及ぼす影響

国土交通省が進める発注・審査業務のAIエージェント化は、発注機関の業務改善にとどまらず、入札に参加するゼネコンや業界全体のデジタル化水準に直接的な影響を与えます。

発注者・デベロッパー(施主)

公的発注機関である国土交通省の地方整備局や事務所では、技術系職員の減少と高齢化が進む中、定型的な確認作業にかかる時間を劇的に圧縮できる環境が整います。

従来、発注図書3点組みの突合作業は、担当技術者が紙やディスプレイ上で図面とExcelシート、特記仕様書を照らし合わせながら目視で確認していました。この属人的な作業をAIエージェントが下支えすることで、公告前の不整合検知率が向上し、公告後に発生する質問書対応や図面訂正などの手戻り業務が大幅に減少します。

また、地方自治体や民間デベロッパーへの波及も想定されます。国土交通省は本業務で得られたアーキテクチャや処理フローなどの基本設計を「協調領域」として行政機関や関連事業者に広く共有する方針を示しています。地方自治体の土木・建築部局が同一のAIチェック基盤を導入できるようになれば、全国規模での調達業務の標準化と効率化が進むことになります。

ゼネコン(元請け)

元請けゼネコンにとって、本システムの導入は入札業務および積算業務の不確実性を低減させる好機となります。

これまでの入札実務では、短期間の閲覧期間中に図面と特記仕様書、数量総括表の差異を見つけ出し、疑義があれば発注者へ質疑書を提出する必要がありました。発注図書の精度がAIによって事前に担保されれば、不整合に伴う手戻りや手作業でのチェック工数が削減され、より本質的な施工計画の立案や仮設計画の検討にリソースを集中できます。

【ゼネコン側における業務フローの変革】
[従来] 発注図書の不整合チェックに追われる → 質疑書作成・回答待ちによる待機時間発生
[今後] 事前に整合性が担保された図書が提供 → 施工計画や原価低減の検討に集中可能

さらに、本事業で確立されるクロスモーダル整合性検証技術は、将来的にゼネコン自体の積算・見積業務へも応用される道が開かれています。民間工事や下請け契約において、意匠図・構造図・設備図と見積内訳書の整合性をAIで検証する体制が構築されれば、積算時の数量拾い漏れや仕様の見落としによる赤字受注リスクの抑制に直結します。

参考記事: CORDER調査:積算の65%が50代以上、暗黙知の途絶を防ぐ新組織へ

行政・規制当局

国土交通省をはじめとする規制当局は、公共調達における説明責任と監査性を維持しながら、最新の先端テクノロジーを制度内に着地させる標準運用モデルを獲得します。

調達プロセスのAI化において最大の懸念は、審査結果の客観性や公平性がブラックボックス化することです。本事業で採用されたHITL型のアプローチと根拠箇所の可視化手法は、行政機関が生成AIやマルチモーダルAIを導入する際の標準仕様(リファレンスモデル)となります。

また、先行して公表されている「JSON-LD形式による土木工事共通仕様書」の提供など、行政データの機械可読化施策と本AIエージェントが連携することで、国交省が目指す「インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」の実効性が一段と高まることになります。

参考記事: 国交省フィジカルAI戦略、2040年省人化3割へ産学官で実装加速

ConShiftの視点(独自考察):非構造化データの横断読解がもたらす調達プロセスのゲームチェンジ

本取り組みの本質は、建設業界に根強く残る「非構造化ドキュメントの分断」という構造的ボトルネックに対し、AI側から解を提示した点にあります。

なぜ「BIM/CIM一本化」を待たずにクロスモーダルAIが必要なのか

建設DXの理想論としては、企画・設計から施工・維持管理までを完全な3次元BIM/CIMデータで統合し、図面・数量・仕様を単一のデータベースから自動生成する世界が描かれてきました。しかし実務の現場では、中小規模工事を中心に2次元図面(PDF等)、Excel、Wordという「3点組み」での運用が依然として大半を占めています。

【インフラデータ処理の進化段階】
第1段階:紙からPDFへの電子化(人間しか読めない非構造化データ)
第2段階:BIM/CIM等によるデータ統合(理想形だが現場導入のハードルが高い)
第3段階:クロスモーダルAIによる既存書類の直接横断解析(PFN・デロイトの取り組み)

今回PFNとデロイト トーマツが開発するAIエージェントは、既存の「非構造化ドキュメントが混在する発注慣行」を前提としながら、その間をAIがクロスモーダルに橋渡しする現実解をとっています。図面という視覚データ、数量表という表形式の数値データ、仕様書という自然言語データを統合的に解析するアプローチは、現場の実態に即した極めて実効性の高い変革です。

矢作建設工業が地山補強土工法の積算においてAIによる複数案提示と熟練技術者の最終判断を組み合わせたように、本事業が採用するHITL(人間参加型)アーキテクチャは、専門知識とAI推論の共存における業界標準となっていくと考えられます。

参考記事: 矢作建設が2026年8月にAI共同開発を開始|独自工法の積算効率化へ

2027年3月の業務完了がもたらす受発注プロセスの標準化

本検証事業は2027年3月に業務完了を予定しています。この時期は、国土交通省が直轄工事の情報共有システム(ASP)への対話型AI機能の標準搭載を目指す2027年度の直前に位置しています。

発注図書の作成支援AIと、施工段階で使われるASPの対話型AIが将来的にデータ連携を果たせば、発注図書の不整合チェックから着工後の工事打ち合わせ簿の承認、施工計画書の整合性確認に至るまで、インフラ事業のライフサイクル全般を横断する「AIデータパイプライン」が形成されます。

これにより、形式的な書類確認に費やされていた受発注者双方の時間が大幅に削減され、施工管理技術者が安全管理や工程最適化といった現場本来の高度な意思決定に専念できる環境が整うことになります。

まとめ

国土交通省による発注・審査業務支援AIの開発・検証は、公共調達の効率化にとどまらず、建設産業全体のバックオフィス業務を根本から変革する契機となります。2027年3月の完了に向けて検証が進む中、ゼネコンや工務店の経営層、現場リーダーが今から準備すべき実務対応は以下の通りです。

1. 社内文書と見積積算データの機械可読化の推進

発注者側がJSON-LD形式やクロスモーダル解析によるデータ処理を進める以上、受注者側もPDFのスキャンデータ等による管理を脱し、テキストや数値が直接システムから抽出できるデータ管理体制を整える必要があります。

2. 人間とAIの協働を前提とした社内業務フロー(HITL)の設計

AIによる完全自動化を待つのではなく、抽出・照合作業をAIに委ね、最終判断を技術者が下す「HITL型」の業務フローを自社の積算・技術提案作成プロセスに早期に組み込むことが重要です。

3. 2027年度の直轄工事発注・ASP要件改定を見据えたシステム投資の検討

発注図書の不整合が減少し、審査や質疑対応が迅速化する未来を見据え、自社が活用するASPや積算システムの連携機能について、ベンダーの対応状況を確認・精査しておく必要があります。

発注図書3点組みの不整合解消は、長年現場を悩ませてきた手戻りを根絶するための第一歩です。受発注者双方の生産性向上へ向け、先端技術の実装動向を的確に実務へ取り入れる姿勢が求められます。


出典: 株式会社Preferred Networks
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 建通新聞

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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