国土交通省は2026年8月27日、2027年度(令和9年度)の予算概算要求において、住宅局関係の予算総額として前年度当初比約2.5倍となる4,187億円を計上しました。重点施策には能登半島地震の延焼被害を契機とした新規事業「密集集落防災事業」の創設や、空き家再生を支援する住宅金融支援機構の新たな賃貸融資制度が含まれています。
国土交通省2027年度住宅局概算要求の骨子と重点施策の全貌
国土交通省が公表した2027年度予算概算要求では、一般会計国費総額が前年度当初比44.4%増の8兆7,694億円に達しました。その中でも際立った増額となったのが住宅局関係予算であり、前年度当初予算(1,721億円)から約2.43倍(約2.5倍)に急拡大する4,187億円が要求されました。
近年の住宅局概算要求は、2026年度(令和8年度)要求時点で約2,068億円(前年度当初比1.20倍)にとどまっていましたが、2027年度は一挙に倍増以上の水準へ引き上げられています。
住宅局予算が前年度比約2.5倍に急増した2つの制度的要因
今回の要求額急増の背景には、政策の重点化と国家的な財政方針の転換という2つの大きな要因が存在します。
第1の要因は、政府が「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」において打ち出した「補正予算依存からの脱却」です。これまで省エネ住宅の新築や高断熱改修を支援する事業(現行の「みらいエコ住宅2026事業」など)は、年度途中の大型経済対策に伴う補正予算で手当てされるケースが恒態化していました。しかし、2027年度要求からは後継となる「みらいエコ住宅2027事業」などの大型支援策を当初予算へ計上する方針へ改められたため、見かけ上の概算要求額が大幅に膨らむ結果となりました。
第2の要因は、2024年1月に発生した能登半島地震をはじめとする自然災害への対応と、急増する空き家問題への危機感です。従来の新築中心の支援体系から、既存ストックの有効活用や地域レジリエンスの強化へ国の舵取りが明確にシフトしたことが、予算枠の再編と拡充に直結しています。
| 項目 | 2026年度(当初予算) | 2027年度(概算要求) | 伸び率・変動要因 |
|---|---|---|---|
| 国土交通省 一般会計総額 | 約6兆0,700億円 | 8兆7,694億円 | 前年度当初比 +44.4% |
| 住宅局関係予算 総額 | 1,721億円 | 4,187億円 | 前年度当初比 約2.5倍(2.43倍) |
| 前年度概算要求時の水準 | 2,068億円(26年度要求) | 4,187億円(27年度要求) | 要求ベースで2,119億円の純増 |
| 主な予算急増要因 | 補正予算による追加措置 | 補正事業の当初予算化、防災・脱炭素重点化 | 骨太方針2026に基づく本予算への組み替え |
住宅局が打ち出した重点5本柱の施策構造
2027年度の住宅局予算は、住宅市場と地域社会が直面する構造課題に対応するため、以下の5つの柱に基づいて体系化されています。
【2027年度 住宅局重点5本柱】
├── 1. 住まい・くらしの安全確保、良好な市街地環境の整備
│ └── 密集集落防災事業(新設)、耐震改修補助の拡充(感震ブレーカー支援追加)
├── 2. 既存ストックの有効活用と流通市場の形成
│ └── 住宅ストック活用賃貸住宅融資(新設)、フラット35金利引下げ見直し
├── 3. 誰もが安心して暮らせる多様な住まいの確保
│ └── 居住サポート住宅の整備支援、セーフティネット機能強化
├── 4. 住宅・建築物分野の省エネ・脱炭素取組の推進
│ └── 建築物LCCO2削減推進事業(新設)、省エネ住宅普及支援
└── 5. 供給力強化に向けた担い手の確保・生産性の向上
└── 建設産業の供給力強化事業(大工育成・省力化工法普及)
これら5つの施策は相互に連動しており、新築需要が頭打ちとなる中で、地域に存在する既存建物の長寿命化と防災性能の向上を同時に達成する意図が反映されています。
参考記事: 国交省27年度概算要求、公共事業費7.6兆円計上で経営予見性向上
防災とストック活用を加速させる新規・拡充事業の詳細
2027年度概算要求において、特に住宅・建築実務に直結する重要な新規施策および制度改定は、防災対策と金融支援の2系統に分かれています。
新規事業「密集集落防災事業」の創設と延焼防止対策
今回の概算要求で最も象徴的な新規施策が「密集集落防災事業」です。
2024年1月の能登半島地震では、石川県輪島市の朝市通り周辺をはじめ、地方部の集落において広域的な市街地火災が発生しました。現行の建築基準法を満たさない築古の木造家屋が密集し、さらに適切に管理されていない劣化した空き家が点在していたことが、消火活動を阻害し延焼を招いた主因と分析されています。
従来の都市防災事業は大都市圏の密集市街地(木密地域など)が主たる対象でしたが、本事業の創設により、地方都市や過疎地域の集落も支援対象へ明確に組み込まれます。
| 支援区分 | 主な対象工事・取り組み | 支援の狙い・実務上のポイント |
|---|---|---|
| 管理不全空き家の除却 | 倒壊や延焼の危険が高い劣化空き家の解体撤去 | 自治体の除却代執行や所有者支援を後押しし、延焼経路を遮断 |
| 延焼防止・住環境整備 | 防火上有効な空地(ポケットパーク・避難路)の整備 | 空き家跡地を防災広場や消防活動用地として再編 |
| 共同化・更新の円滑化 | 複数敷地の集約化や共同建て替え、耐火構造化 | 接道条件が劣る敷地でも協調的な建て替えを可能にする枠組み |
| 循環・更新機能の整備 | 防災性能の高い小規模賃貸住宅や交流施設の配置 | 被災後の居住継続を担保し、集落機能の消滅を防ぐ |
また、既存の「住宅・建築物耐震改修事業」も大幅に拡充されます。これまでの耐震診断・耐震補強工事に対する助成に加え、大規模地震時の通電火災を防ぐための「感震ブレーカーの設置支援」が新たな補助要件として盛り込まれました。さらに、老朽建築物の更新を促す「優良建築物等整備事業」についても、補助要件の緩和と制度延長が要求されています。
参考記事: 既存不適格建築物の耐震改修とは?放置リスクから耐震診断・補助金活用・解消アプローチまで解説
住宅金融支援機構による空き家賃貸融資の創設とフラット35の見直し
ストック活用を金融面から後押しする施策として、住宅金融支援機構において「住宅ストックを活用した賃貸住宅融資制度」が新たに創設されます。
これまで住宅ローンの対象になりにくかった「個人が所有する築古の戸建て空き家」や「空き家を借り受けて転貸するサブリース事業者」に対し、機構が直接または間接にリフォーム資金の融資を実施するスキームです。
【住宅ストックを活用した賃貸住宅融資の仕組み】
[空き家所有者]
│
▼(物件借上げ・サブリース契約)
[住宅借上事業者(工務店・不動産事業者等)] ◀───【住宅金融支援機構】
│ リフォーム融資(低利・長期)
▼(耐震・断熱リノベーション施工)
[再生された賃貸住宅]
│
▼(良質な住まいとして提供)
[一般入居者(若者・子育て世帯・単身高齢者等)]
これにより、状態が良好であるにもかかわらず売却・賃貸の流通に乗っていなかった空き家を、事業者が低利融資を受けて改修し、賃貸住宅として再市場化するビジネスモデルが成立しやすくなります。
併せて、住宅金融支援機構の主要商品である「フラット35」の優良住宅整備促進等事業費補助が見直されます。現在提供されている各種の金利引き下げメニュー(フラット35S、地域連携型、維持保全型、子育てプラス、中古プラス)について、新たな住生活基本計画の基本目標を踏まえ、過度な負担なく良質な住宅を取得・改修できるよう金利優遇の適用条件や対象住宅の基準が再編されます。
さらに、地方公共団体が実施する空き家対策への支援として、「空き家対策総合支援事業」および「空き家再生等推進事業」が拡充され、危険な空き家を除却した所有者に対する固定資産税の減税分などを、自治体の財政負担額として算定できるよう制度的な手当てが行われます。
施策の根底にある住宅産業の構造的データ
今回の超大型概算要求が編成された背景には、統計データが示す日本の住宅ストックの歪みと、施工現場の急激な供給制約があります。
空き家数900万戸突破と放置空き家の急増
総務省が公表した「2023年住宅・土地統計調査(確報集計)」によると、国内の総住宅数は6,504万7千戸に達する一方、全国の空き家数は過去最多の900万2千戸を記録しました。総住宅数に占める空き家率は13.8%に達しています。
特に問題視されているのが、二次的住宅(別荘等)や売却用・賃貸用の募集物件を除いた、利用目的のない「その他の空き家(放置空き家)」の推移です。2003年時点で212万戸だった放置空き家は、20年間で約1.8倍となる385万6千戸へと急拡大しました。
| 指標 | 2003年調査 | 2013年調査 | 2023年調査(最新) | 20年間の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 全国の総住宅数 | 5,389万戸 | 6,063万戸 | 6,504万7千戸 | +1,115万7千戸(20.7%増) |
| 空き家数 総数 | 659万戸 | 820万戸 | 900万2千戸 | +241万2千戸(36.6%増) |
| 空き家率(総住宅数比) | 12.2% | 13.5% | 13.8% | +1.6ポイント上昇 |
| その他の空き家(放置空き家) | 212万戸 | 318万戸 | 385万6千戸 | +173万6千戸(約1.8倍) |
放置された木造住宅は、経年劣化により特定空家(保安上危険または衛生上有害な状態)へ進行しやすく、地震時の倒壊や火災時の火種となります。住宅局が「密集集落防災事業」や「空き家再生賃貸融資」を新設せざるを得ない客観的な危機がここにあります。
大工就業者の半減と急速な高齢化
住宅を改修・維持管理するための施工能力(供給力)の激減も深刻です。
国土交通省住宅局が提示した推計データによると、木造住宅の建築やリフォームを支える大工就業者数は、2000年の65万人から2020年には30万人へと半減しました。さらに2035年には、2000年比で4分の1以下となる15万人まで落ち込むと予測されています。
【大工就業者数の推移と予測】
2000年: ■■■■■■■■■■■■■ 65万人(高齢化率 22%)
2020年: ■■■■■■ 30万人(高齢化率 40%)
2035年: ■■■ 15万人(予測)
大工就業者に占める高齢化率(60歳以上の割合)は、2000年の22%から2020年には40%へと跳ね上がっています。この供給崩壊を防ぐため、今回の概算要求には「建設産業の供給力強化事業(10億円)」が盛り込まれ、次世代大工の育成や、省人化・プレカット化を伴う省力化工法の開発普及に対する直接支援が位置付けられました。
参考記事: 厚労省・国交省、27年度助成73億円要求で問われる採用変革
参考記事: 国交省リフォーム受注5兆円超、非住宅の増築需要が市場を牽引
建設業界の各プレイヤーに押し寄せる影響
住宅局関連予算の約2.5倍への膨張と制度の再編は、ゼネコン、工務店、自治体、不動産開発事業者の事業環境に直接波及します。
中小工務店・地場ビルダー:ストック再生型への事業転換
新築住宅の着工戸数が減少傾向をたどる中、中小工務店や地場ビルダーにとって、今回の概算要求は明確な事業転換の道筋を示しています。
機構の「住宅ストック活用賃貸融資」や「空き家再生等推進事業」の拡充は、地域の築古戸建てを自社で借り上げ、高断熱化・耐震改修を施して賃貸住宅として再流通させる「ストック再生型事業」の採算性を劇的に向上させます。単なる下請け工事にとどまらず、企画・改修・維持管理を一貫して担うことで、元請けとしての粗利益率を確保できる構造が生まれます。
また、耐震改修とセットで実施される感震ブレーカー設置補助や密集集落防災事業は、地域密着型のビルダーにとってリフォーム提案の強力なフックとなります。行政の補助メニューを熟知し、耐震診断から補助金申請、施工までをワンストップで支援できる体制を構築した工務店に需要が集中することになります。
行政・規制当局:防災と空き家対策の一体運用
自治体の建築指導課や都市計画課、危機管理部門にとっては、これまで縦割りになりがちだった「防災行政」と「空き家対策」を完全に連動させて運用する局面を迎えます。
密集集落防災事業を活用するためには、延焼リスクの高い重点地域を指定し、管理不全空き家の調査と除却計画を策定しなければなりません。また、2023年12月に施行された改正空家法に基づく「空家等管理活用支援法人」の指定や、除却後の固定資産税軽減措置を地方負担額として算定する手続きなど、自治体職員の実務負荷は高まります。
地域の実情を把握している地場の建設業団体や建築士会と官民協働の体制を構築できるかどうかが、補助金の執行効率と地域防災力の向上を左右します。
発注者・デベロッパー(施主):既存ストック活用の採算性向上
住宅借上事業者や不動産デベロッパーにとっては、融資条件と補助要件の緩和により、地方都市や郊外の築古住宅を対象とした再生事業の投資回収期間を短縮できます。
資材価格や労務費が高騰を続ける現在、新築共同住宅の開発は利回りの確保が極めて難しくなっています。機構の低利なリフォーム融資と各種省エネ補助金(みらいエコ住宅等)を組み合わせることで、解体新築を伴わないバリューアップ型の賃貸経営や再販(買取再販)事業の事業化リスクを抑えることが可能になります。
さらに、フラット35の維持保全型や中古プラスの基準改定に合わせた商品企画を行うことで、住宅取得層に対する販売力を強化できます。
参考記事: 建築確認申請とは?対象基準と2025年4号特例縮小に伴う実務ポイントを徹底解説
ConShiftの視点(独自考察)
今回の住宅局予算要求における本質は、単なる予算規模の拡大ではなく、「新築のフロー支援から、防災と脱炭素を掛け合わせたストック再生への完全シフト」が国家予算の構造として固定された点にあります。
「建築物LCCO2削減」と「密集地防災」の交差点
国土交通省が同年度の概算要求で同時に進めている「建築物ライフサイクルカーボン(LCCO2)削減推進事業」と、今回の「密集集落防災事業」「空き家再生賃貸融資」は、政策として完全に連動しています。
既存の基礎杭や躯体を残したまま耐震・防火性能を引き上げるリノベーションは、更地からの新築工事と比較して、初期建設時における温室効果ガス排出量(エンボディドカーボン)を大幅に抑制します。つまり、築古建物の除却と改修の線引きを正確に行い、残すべきストックを高性能化する施工力を持つ企業は、防災行政の補助金だけでなく、脱炭素関連の大型財政支援を同時に獲得できるポジションを確立できます。
淘汰される工務店と残存者利益を獲得するビルダーの分岐点
2020年時点で40%に達した大工の高齢化と、2035年に15万人まで激減する推計は、今後10年で大工を直接雇用または専属囲い込みできていない事業者の施工キャパシティが消失することを意味します。
新築着工が右肩下がりを続ける中で、国の予算が4,187億円という規模でストック市場へ投じられることは、業界構造の再編を加速させます。これまで新築分譲や単純な下請け工事に依存してきた企業は、案件の急減と職人不足の板挟みによって急速に経営体力を奪われます。
生き残りの鍵を握るのは、以下の2つの能力を確立できるか否かです。
- 「現況調査のデジタル化」: レーザースキャナーや点群データ、写真測量アプリを活用し、図面のない築古物件の構造劣化・傾き・耐震性能を即座にモデル化・積算する技術。
- 「制度活用とファイナンスの提案力」: 機構の新たな賃貸融資制度、自治体の除却補助、国の省エネ・耐震補助金を組み合わせ、施主の自己資金負担を最小化する事業計画の策定力。
国が用意した巨額の予算枠は、この2つの実行力を持つ事業者に集中配分され、地方都市におけるストック再生市場の独占的なシェア形成へとつながるでしょう。
参考記事: 国交省、27年度1699億円計上でLCCO2補助新設へ|低炭素施工を加速
参考記事: 国交省、27年度予算で上限1/2補助へ拡充!復興住宅のDX推進
明日から意識すべきこと
住宅局関連の概算要求4,187億円が示す市場シグナルを捉え、自社の事業戦略へ落とし込むための実務アクションを整理します。
- 自社施工エリアの密集集落および空き家危険地域の事前調査
自治体が公表しているハザードマップや空家等対策計画を確認し、新設される「密集集落防災事業」の対象となり得る木造密集エリアや管理不全空き家の分布を把握します。現地の道路幅員や接道状況、築年数データを先行して整理することで、次年度の事業開始と同時に除却・更新提案を打てる体制を整えます。
- 住宅金融支援機構の新たな賃貸融資スキームに関する情報収集
空き家の賃貸活用を目的としたリフォーム融資の要件や対象事業者基準について、機構の公表資料を定点観測します。空き家を所有しながら利活用に悩む既存顧客に対し、売却だけでなく「借上げ・改修・賃貸化」という新たな資産運用モデルを提案できるよう、事業収支シミュレーションの雛形を作成します。
- 耐震診断および省エネ改修の積算体制と施工パートナーの再点検
拡充される耐震改修補助(感震ブレーカー設置要件の追加等)や省エネ補助金に対応できるよう、既存建物の耐震診断資格者の配置状況や診断ソフトの更新を実施します。同時に、手待ち・手戻りを防ぐため、電気工事店や解体業者、プレカットメーカーとの連携を見直し、短工期で改修を完了させる施工体制を再構築します。
出典: Housing Tribune Online
出典: 新建ハウジング
出典: ハウスニュース
出典: 国土交通省(令和9年度概算要求の各施策概要)
出典: 総務省(2023年住宅・土地統計調査)
出典: 国土交通省(大臣等会見録)


