日特建設や鹿島をはじめとする建設関連企業が、2026年9月17日から21日まで幕張メッセで開催されている世界最大級のゲーム見本市「東京ゲームショウ2026」にブースを出展しました。日特建設が会場から約60km離れた実機をゲームコントローラーで遠隔操作するシステムを披露したほか、鹿島は音響建築技術を応用した立体音響スピーカーの実機展示を実施しました。
東京ゲームショウ2026における建設技術展示の実態
世界53カ国・地域から過去最多の1,138社が出展し、総来場者数が推計約30万人と過去最多を更新する見通しの「東京ゲームショウ2026」において、建設会社による出展が行われています。過去30年におよぶ同見本市の歴史の中で建設関連企業の出展例は極めて稀であり、土木施工や空間設計の知見をエンターテインメント領域と交差させる展示内容となりました。
出展企業3社の展示内容と技術構成
今回の展示会では、施工現場の遠隔化技術、空間音響技術、地形点群データのゲームアセット化という3つの異なるアプローチが提示されました。
| 企業名 | 展示技術・製品 | 技術の概要 | 会場での実演内容 |
|---|---|---|---|
| 日特建設 | スロープセイバー遠隔操作システム | のり面吹付工法の建機をゲームコントローラーで遠隔制御するUI/UX技術 | 幕張メッセから約60km離れた茨城県内の実機を低遅延通信で遠隔操作 |
| 鹿島 | OPSODIS 1(立体音響スピーカー) | 劇場・ホールの音響建築設計ノウハウと3Dオーディオシミュレーションの応用 | 大手ゲームメーカーの協力によるゲーム空間の音場再現デモ |
| アジア航測 | FIELD ASSET | 航空レーザー測量等で取得した高精度3次元点群データのゲーム向け変換 | ゲーム開発会社向けに実在地形の3Dデータ提供ソリューションを提案 |
日特建設が出展した「スロープセイバー」は、急勾配ののり面でモルタルやコンクリートの吹付作業を行う施工ロボットです。従来は現場近傍での目視操作や大型プロポによる操縦が主流でしたが、ブース内では市販の家庭用ゲーム機コントローラーを接続した操作席を構築し、通信回線を経由して茨城県内の実機アームをミリ単位で制御する様子を公開しました。直感的なスティック操作とカメラ視界の切り替えUIを組み合わせることで、特殊重機の運転資格や長年の操作経験を持たない来場者でも吹付作業の手順を疑似体験できるミニゲームも併設されました。
鹿島は、英国サウサンプトン大学と共同開発した独自の立体音響技術「OPSODIS」を搭載した小型スピーカー「OPSODIS 1」を出展しました。同社が長年手がけてきた音楽ホールや劇場の音響設計技術をハードウェアへ落とし込んだ製品であり、左右のスピーカーから発する音波の干渉を精緻に制御することで、ヘッドホンを着用せずとも背後や頭上から音が迫る360度の立体音場を単体で生成します。クラウドファンディングで国内製品開発プロジェクト最高額となる約9億円を集めた実績を持ち、会場ではスクウェア・エニックスやカプコンのゲームタイトルを用いた試遊ブースが設置されました。
アジア航測は、国土基本図作成や防災点群測量で蓄積した航空レーザー計測データをゲーム制作者向けアセットとして供給する「FIELD ASSET」を展示しました。測量精度の高い実地形データをUnreal Engineなどのゲームエンジンで直接読み込める形式に最適化し、背景アセット制作の工数削減を図る提案を行いました。
建設技術がゲーム産業へ接近した経緯
鹿島の音響技術実用化から各社の見本市出展に至る開発・事業展開の歩みは以下の通りです。
| 年月 | 出来事 | 詳細と事業進捗 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 国交省「i-Construction 2.0」策定 | 2040年度までに現場作業員を少なくとも3割省人化する目標を明記 |
| 2024年4月 | 鹿島が「OPSODIS 1」を発表 | サウサンプトン大学との共同研究による立体音響スピーカーを初公開 |
| 2025年6月 | クラウドファンディング支援金9億円突破 | 「OPSODIS 1」が支援総額9億21万6,399円を記録し製品化を確定 |
| 2026年3月 | 鹿島が製品の一般販売を開始 | 1台13万2,000円(税込)で販売開始。初期ロット完売に伴い一時受付停止 |
| 2026年8月 | アジア航測がTGS2026出展を発表 | 測量点群データを活用したゲームアセット提供事業の展示方針を公表 |
| 2026年9月 | 日特建設が遠隔操作システムの出展を公表 | のり面施工機「スロープセイバー」の遠隔操縦と技能ゲームの展示を決定 |
| 2026年9月 | 鹿島が注文受付再開とTGS出展を決定 | TGS開幕の前日に受注再開を公表し、大手ゲーム会社の試遊環境を用意 |
| 2026年9月17日 | 東京ゲームショウ2026開幕 | 幕張メッセにて各社が実機操作や音響技術の一般・ビジネス向けデモを実施 |
国土交通省が主導する「i-Construction 2.0」では、施工作業の遠隔化や自動化、現場管理のデータ化が強く要請されています。危険区域や傾斜地での作業を遠隔操縦へ切り替える試みは平時工事でも始まっており、2024年度の国交省発注工事における遠隔施工の実施件数は21件でした。直感的なユーザーインターフェース(UI)や遅延知覚を軽減する表示技術を持つゲーム産業の手法は、建機の遠隔化における操縦負荷軽減の解として位置づけられています。
参考記事: 国総研が遠隔施工実験に2000万円、異業種人材の建機操縦参入を促す
建設業界のサプライチェーンに及ぼす影響
東京ゲームショウで示された技術の交差は、ゼネコンの知財戦略、機械メーカーの製品設計、現場オペレーターの労務体系に直接的な変更を促します。
ゼネコン(元請け):施工技術の外販と知財マネタイズ
元請けゼネコンにとって、自社の要素技術を工事請負契約の枠外でマネタイズする道筋が具体化しました。
鹿島の「OPSODIS 1」の事例は、音響建築という請負型のエンジニアリングノウハウをコンシューマー向けハードウェア製品として外販し、クラウドファンディングで9億円超を調達した事業開発モデルです。建設プロジェクトの受注環境や不動産市況に依存しない継続的なロイヤリティ・製品販売収益の獲得手段として機能します。
また、日特建設の事例に見られるように、独自工法を遠隔操作パッケージとして標準化できれば、自社施工の現場だけでなく他社現場へのシステムライセンス供与や、海外インフラ工事への遠隔オペレーションサービスの提供といった新たな役務提供ビジネスへ展開できます。
建機メーカー・レンタル企業:操作系コックピットの汎用化と調達基準の変更
建機メーカーおよび重機レンタル会社に対しては、操作インターフェースの共通規格化とコックピット調達の見直しを迫る要因となります。
これまでの遠隔操縦システムは、実機の運転席レバーを模した専用コックピットや専用プロポが主流であり、1台あたりの導入コストが数百万円規模に達することが普及の制約要因となっていました。市販のゲームコントローラーや汎用タブレットを用いた操作系が実証されれば、操縦席設備のハードウェアコストを大幅に抑制できます。
レンタル会社においては、後付け可能なレトロフィット型通信ユニットと汎用UI操作キットをセットにしたレンタルプランの設計が求められます。通信遅延の補正プログラムや誤操作防止のフェイルセーフ機能をソフトウェア側で実装するアーキテクチャへのシフトが進みます。
参考記事: 建機テレマティクスとは?市場予測からデータ統合・TCO削減効果まで徹底解説
職人・技能労働者:遠隔オペレーションへの移行と労働参加層の拡大
専門工事業者の職人やオペレーターの就労環境は、物理的な危険を伴う現場拘束から、遠隔操縦によるテレワーク型施工へ分岐します。
のり面吹付などの高所・急傾斜作業は、落石や重機転倒、粉じん吸入のリスクを伴う工種です。ゲームコントローラーを用いた遠隔操作が定着すれば、オペレーターは現場詰所や遠隔地のオフィス環境から作業に従事することが可能となり、墜落・転落事故のリスクを排除できます。
さらに、直感的な操作UIと技能習得用ミニゲームによるシミュレーション環境が整備されることで、レバー操作の習熟に数年を要していた従来の重機教育期間が短縮されます。若年層やゲームの操作に習熟したデジタルネイティブ層、身体的制約を持つ人材が建設オペレーションに直接参加する経路が開かれます。
参考記事: 清水建設、55歳以上37%の建設現場へ人型ロボ協調基盤を提唱
ConShiftの視点
東京ゲームショウ2026で見られた出展動向は、建設技術の「異業種展開」と「異業種技術の現場逆輸入」という双方向の循環が実用段階に達した事実を示しています。
従来、建設業におけるDXは、他産業で確立された汎用ITツールを現場管理に適合させる「消費型」のデジタル活用に偏っていました。しかし、鹿島が音響建築データをコンシューマー音響機器へ転用し、アジア航測が高精度測量データをゲーム空間構築アセットとして商品化した動きは、建設企業が保有するリアル空間の計測・制御ノウハウがエンターテインメント産業側で高い価値を持つことを証明しています。
同時に、日特建設が取り組む「操作系のゲームUI化」は、国交省がi-Construction 2.0で掲げる2040年度3割省人化に向けた現実的な解です。産業用の重機操作体系を維持したままでは若年層の参入障壁を取り除くことはできません。ゲーム産業が数十年かけて磨き上げた「誰でも直感的に扱えるインターフェース設計」を施工機械の制御レイヤーに移植することで、重機オペレーターの定義そのものが書き換えられます。
施工会社が今後検討すべきは、自社が持つ専門施工ノウハウを「現場でしか使えない技術」として囲い込むのではなく、ソフトウェアインターフェースを介して外販・共有可能なアセットへと変換することです。ハードウェアと操作系を分離し、APIや汎用デバイス経由で操作できる土木・建築技術を確立した企業が、次世代の施工体制において主導権を握ります。
まとめ
日特建設や鹿島による東京ゲームショウ2026への出展は、建設業が蓄積してきたエンジニアリング技術が他産業のデジタル体験を拡張し、同時にゲーム産業のUI/UXが過酷な現場施工を遠隔・省力化する相互循環の始まりを告げるものです。
明日からの実務に向けて、各社は以下のステップを検討する必要があります。
- 自社が保有する施工工法や設計データ(音響・振動・地盤・点群など)をリストアップし、建設工事以外の領域で製品化・データ販売できる技術資産がないか棚卸しを行う
- 直轄工事や民間工事における危険作業工種を抽出し、ゲームコントローラーや汎用端末を用いた遠隔操作キットの導入可否を機械レンタル会社と協議する
- 国交省「i-Construction 2.0」の省人化指標に基づき、若手技能者の教育訓練においてゲームエンジンやシミュレータを活用した育成プログラムの策定に着手する
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 日刊建設工業新聞
出典: AV Watch
出典: PR TIMES
出典: アジア航測公式ニュース
出典: 国土交通省 i-Construction



