大成建設は株式会社本田技術研究所、大成ロテック株式会社と共同で、走行中の電気自動車へ非接触給電を行う「磁界結合方式無線給電道路システム」の基盤技術を開発した。本システムは車両総重量20トンクラスの大型車を対象とし、最大150kW級の高出力給電と100万輪の輪荷重試験に耐える舗装構造を両立させている。
磁界結合方式無線給電道路システムの技術仕様と開発の歩み
物流インフラの脱炭素化において、大型商用車の電動化はバッテリー重量に伴う積載量の減少と長時間の充電停止が普及のボトルネックとなっている。全日本トラック協会の統計によると、2025年3月末時点の国内におけるEV・FCEVトラックの保有台数は計4,582台、保有割合は約1.06%にとどまる。政府は2030年までに車両総重量8トン以下の商用車新車販売で電動車比率20〜30%を目指しており、走行中に給電を行うインフラの実用化が待たれていた。
本開発では、磁界結合方式を用いて路面下のコイルから車両底面のコイルへ高効率に電力を伝送する。大型車の継続的な走行に耐える土木構造と、ミリ秒単位で通過する車両へ瞬時に送電する大電力制御の統合が実現した。
共同開発3社の役割分担とシステム構成
今回の開発では、ゼネコンの土木設計力、自動車メーカーの車両・給電制御技術、道路舗装会社の施工技術が組み合わされている。各社が担当した要素技術は以下の通りである。
| 参画企業 | 担当領域 | 開発内容の概要 |
|---|---|---|
| 大成建設 | 直流電源システム | 高出力給電を可能にする地上側受変電・直流電源設備の開発 |
| 本田技術研究所 | 給受電ユニット | 地中埋設型「直流配電型GAシステム」および車両側「VAユニット」 |
| 大成ロテック | 舗装施工・更新技術 | 既存舗装の切削・埋設工法および不陸対策、将来の更新手法確立 |
| 3社共同 | 耐久性・給電検証 | 輪荷重試験機による100万輪載荷評価、実車を用いた高出力給電実験 |
本システムの中核である「直流配電型GA(Ground Assembly)システム」は、送電コイルを路面下に配置し、車両側の「VA(Vehicle Assembly)ユニット」と磁界を介して共鳴させる。数ミリ秒という極めて短い通過時間に合わせて安定給電を行うため、新たに設計した直流電源システムを直結させ、送電損失を低減している。
無線給電道路の実装に向けた技術開発の時系列
大成建設は2010年代前半から走行中非接触給電の基礎研究を進めており、今回の発表は高速道路本線での実証を見据えた段階にあたる。
| 年月 | 主な動き | 開発・実証の概要 |
|---|---|---|
| 2013〜2015年度 | 総務省SCOPE研究開発 | 豊橋技術科学大学と共同で10m試験路にて時速10km・3kW送電を実証 |
| 2025年4月 | 改正道路法公布・施行準備 | 道路管理者による脱炭素化推進計画の策定、道路占用基準の改定 |
| 2026年5月26日 | 館山プロジェクト参画決定 | NEXCO東日本が館山道本線での実証参画チーム(大成建設連合等)を公表 |
| 2026年10月5日 | 基盤技術の開発発表 | 20t車対応・最大150kW級の磁界結合方式無線給電道路システムを発表 |
| 2026年末(予定) | T-FIELD/TAMURA走行路構築 | 実車を用いた100万輪載荷試験、電磁界対策、150kW給電性能の実証 |
| 2027年度以降(予定) | 館山自動車道での公道実証 | 君津PA付近の高速本線約300m区間における実環境走行中給電検証 |
舗装耐久性と施工更新性を両立した3つの構造的特長
高速道路本線への導入を前提とする場合、過密な交通を遮断することなく施工・修繕を行える実用性が不可欠となる。本技術では、以下の3点において土木施工上の課題をクリアしている。
- 既存舗装の切削・埋設工法
道路を基礎から造り直すのではなく、既存のアスファルト舗装を切削してGAユニットを収容し、再舗装する工法を採用した。切削面の凹凸(不陸)を吸収する充填材の選定や配線ルートの最適化により、舗装内部の応力集中を抑制し、将来的なユニット交換や舗装補修を容易にしている。
- 100万輪の載荷に耐える高強度構造
埼玉県幸手市の研究拠点「T-FIELD/SATTE」に実験道路を造成し、大型車の通行を再現する輪荷重試験を実施した。1方向あたり1日250台以上1,000台未満の大型車が通行する路線規格に相当する「100万輪(49kN換算輪数)」の繰り返し載荷試験をクリアし、コイル埋設部周辺の疲労ひび割れや変形を抑え込む舗装配合を確立した。
- 直流配電による瞬時大電力伝送
交流送電で生じる配線リアクタンスによる電圧降下を避けるため、給電グリッドには直流電源システムを採用した。高速走行する車両が送電コイル上を通過する数ミリ秒のタイミングを検知し、最大150kWの電力を途切れなく供給する制御ロジックを組み込んでいる。
大成建設は自社の無線給電技術ブランド「T-iPower」シリーズとして、道路向けの「T-iPower Road」、工場・物流倉庫の床面向け「T-iPower Floor」、遠隔センサー給電向け「T-iPower Beam」を展開しており、今回の成果は道路向け技術の商用化ステップとなる。
参考記事: 国交省、2026年度自動物流道路に6グループ採択|ゼネコン参画の要点
建設バリューチェーン各層に生じる実務上の影響
道路インフラへの給電システム埋設は、道路新設・舗装工事の入札要件や施工プロセスを大きく変える要因となる。元請けゼネコン、舗装・電設工事業者、道路管理者それぞれの実務に直接的な変化が現れる。
ゼネコン(元請け):土木構造物施工からエネルギーグリッド構築への事業領域拡張
大手ゼネコンにとって、道路土木は構造物の強度や平坦性を担保して引き渡す請負モデルから、エネルギー供給ネットワークを道路躯体に内包させるスマートインフラ施工へと変貌する。
受変電設備から道路路盤内の直流配電網、送電コイル、通信制御盤までを一体で設計・施工する能力が求められる。特に、2025年10月に施行された改正道路法では、道路管理者に脱炭素化推進計画の策定が義務付けられ、道路占用制度における脱炭素設備の特例措置が導入された。高速道路会社や地方整備局が発注する今後の総合評価落札方式において、給電設備一体型舗装の設計・施工ノウハウを有しているかどうかが、幹線道路案件の受注競争力に直結する。
サブコン・専門工事業者:切削精度と電気・舗装複合施工技術の要求
舗装工事業者および電気設備工事業者にとっては、施工精度の基準値が従来と大きく異なる。
従来の舗装補修工事ではミリ単位後半の施工誤差が許容されていたが、磁界結合方式のコイル埋設では、車両側受電ユニットとの離隔距離(クリアランス)を数センチ以内で均一に保つ必要がある。切削面の不陸処理、耐熱・絶縁性能を備えた特殊充填材の充填、直流高圧ケーブルの配管接合など、舗装工と電設工が交差する工程管理が発生する。道路維持補修を手掛ける下請け事業者にとっても、高電圧配線を取り扱う電気工事士の常駐配置や、コイル埋設専用の切削アタッチメントへの設備投資が施工資格の要件となっていく。
発注者・道路管理者:給電事業による新たな収益モデルと維持管理基準の改定
高速道路各社などのインフラ管理者にとっては、EV化に伴うガソリン諸税の減収懸念に対し、走行中給電サービスの対価を徴収する新たな課金ビジネスの道筋が開かれる。
国土交通省が2025年に策定した「道路脱炭素化基本方針」では、道路分野のCO2排出量を2040年度に2013年度比73%削減する目標を定めている。これを受け、NEXCO東日本の「館山プロジェクト」のように、本線の一部区間に給電レーンを敷設するパイロットケースが本格化する。発注仕様書の段階で、舗装の切削深さ、コイルの耐荷重規格、漏えい電磁界の人体防護基準(ICNIRPガイドライン適合)を明記する必要が生じるため、土木技術基準と電気通信基準の統合改定が進むことになる。
参考記事: 鹿島建設ら4社、成田空港で自動運転車両3台を11月実証|地上設備簡素化へ
ConShiftの視点:モビリティとエネルギーを結ぶプラットフォームビルダーへの転換
本開発が示す重要な示唆は、建設業が「構造物を造る受託者」から「モビリティとエネルギー網を接続するインフラプラットフォームの提供者」へと立ち位置を変え始めている点にある。
成田空港周辺で進む自動物流道路の実証実験(鹿島建設連合など)では、路盤に光ファイバーを埋設して地上設備を簡素化する取り組みが進んでいる。これに対し大成建設連合は、舗装下に大電力の直流給電グリッドを埋め込むアプローチをとった。両者に共通するのは、道路という静的な土木構造物に情報通信やエネルギー伝送の動的機能を付加し、車両のハードウェア負荷(過大な車載センサーや大容量バッテリー)を道路インフラ側へ肩代わりさせるアーキテクチャである。
最大150kWという出力は、大型EVトラックが高速走行を維持しながら車載バッテリーを減らさずに走る、あるいは走行中に蓄電できる水準である。車両単体での長距離走行を諦め、インフラ側から連続給電する思想は、EV導入における車両購入コストを大幅に引き下げる。ゼネコン各社は、単なる路盤の敷設にとどまらず、埋設された給電ユニットの稼働データ取得、コイル交換周期の予知保全、さらには送電課金システムの運用受託までを見据えたサービス型ビジネスへの転換を検討すべき局面に入っている。
参考記事: 大成建設、国交省直轄トンネルにセメントゼロ型を初適用|CO2を70%削減
まとめ:明日から意識すべき実務の要点
走行中無線給電道路の実用化は、遠い未来の技術開発ではなく、2027年度の高速道路本線実証を経て公共インフラの標準仕様へ組み込まれるプロセスに入った。施工現場および経営計画において、以下の2点を意識して備える必要がある。
- 電設・通信と舗装土木が一体化した複合施工体制の構築
今後の道路改修工事では、従来の舗装打替え技術に加えて、高圧直流配線や送電ユニットの埋設を伴うハイブリッド工法が標準化される。自社の施工管理技術者に電気工事の知見を習得させるか、専門工事業者との協業体制を早期に結んでおくことが入札対応力を左右する。
- 脱炭素化推進計画に伴う公共調達基準の動向注視
改正道路法および道路脱炭素化基本方針に基づく実証が全国の幹線道路で順次計画される。地方整備局や道路公社の特記仕様書に「非接触給電対応舗装」や「電線共同溝と連動した直流受電設備」の記載が増加するため、実証実験の技術基準(埋設深さ、平坦性基準、電磁シールド仕様)を仕様書策定の前段階から情報収集しておくことが重要になる。
出典: 大成建設株式会社
出典: 本田技研工業株式会社
出典: 東日本高速道路株式会社



