清水建設は、資機材の搬入車両や揚重設備の予約情報をクラウド上で一元管理する「建設物流DXシステム」を開発し、東京・千代田区で施工中の超高層ビル「Torch Tower(トーチタワー)」の現場へ初適用した。地下4階・地上62階建て、完成時には日本一の高さとなる約385mの大規模現場において、車両の進入待機や揚重機の空き待ちといった物流の非効率をデジタル技術で解消する。
Torch Tower現場が直面する物流制約とシステム導入の事実関係
Torch Towerは、延床面積約55万平方メートルを超える建築プロジェクトであり、2028年度の完成を目指して工事が進められている。現場内には日々膨大な資機材が搬入されるが、都心部の過密地帯における敷地制約と建物の超高層化が重なり、搬入バースの不足や揚重機の割り当て競合が常態化しやすい環境にあった。
従来、現場への資機材搬入は専門工事業者が個別にトラックを手配し、紙の申請書や現場事務所のホワイトボードを介して揚重設備の利用時間を調整していた。この運用では、トラックの到着時刻のブレや前工程の作業遅延が発生した際、ゲート周辺での路上待機や作業員の待機時間が連鎖的に発生する要因となっていた。
清水建設が導入した建設物流DXシステムは、資機材を搬入する車両の入場予約から場内運行の誘導、現場内のクレーンや仮設エレベーターといった揚重設備の割り当て予約までをクラウド上で統合管理する仕組みである。
| 項目 | Torch Tower現場における運用内容 |
|---|---|
| 対象プロジェクト | Torch Tower(東京都千代田区) |
| 建物規模 | 地下4階・地上62階建て、高さ約385m |
| 完成予定時期 | 2028年度 |
| 適用システム | クラウド型「建設物流DXシステム」 |
| 主要機能 | 搬入車両の入場予約管理、揚重設備の割り当て調整、運行実績の可視化 |
| 運用の役割分担 | 協力会社が車両情報を事前登録し、現場専任組織が荷役・運行を誘導 |
物流関連法令の施行と荷待ち削減の義務付け
本システムの現場適用には、現場の作業効率化だけでなく、輸送事業者を取り巻く法規制への適合という側面がある。2024年4月1日より、自動車運転業務に対して年間960時間(休日労働を除く)の時間外労働上限規制が適用された。
国土交通省の実態調査によると、トラック運行において荷待ち時間が発生している割合は全体の24%を占め、1運行あたりの平均荷待ち時間は1時間34分に及んでいた。長時間の待機はドライバーの拘束時間を直接圧迫するため、発注者や元請け事業者に対する改善要請が強まっていた。
さらに、2024年に改正された物流効率化法では、荷主や着荷主に対して荷待ち・荷役時間の短縮に向けた措置が努力義務として規定された。一定規模以上の貨物を取り扱う特定事業者には中長期計画の策定や定期報告が求められ、是正勧告に従わない場合の社名公表基準も整備された。清水建設による現場物流のデジタル化は、現場周辺の交通渋滞抑制と法令遵守の双方を満たすための措置となる。
参考記事: 清水建設、高さ390mの現場で建設物流DXシステムを運用開始|揚重代行
サプライチェーンを構成する関係各社への直接的影響
現場物流のクラウド一元管理は、元請ゼネコンの管理体制、専門工事業者の労務効率、ならびに納入ドライバーの運行計画に直接的な影響を与える。
ゼネコン(元請け):垂直・水平動線のデータ統括による管理工数圧縮
元請けの工事部門にとって、搬入車両の出入りや揚重機のスケジュール調整は、複数の工区と専門工事業者の利害が交錯する負荷の高い業務であった。これらをクラウド上で一括処理することにより、手作業によるタイムテーブルの作成や現場間の無線連絡といった間接工数が削減される。
また、ゲートの通過実績や設備の稼働履歴がデジタルデータとして蓄積されるため、バースの占有率や時間帯別の搬入集中度を定量的に分析できるようになる。データに基づいて次週以降の搬入枠を最適配分することで、ゲート前の滞留を抑え、周辺の一般交通に対する環境負荷を低減できる。
サブコン・専門工事業者(下請け):高層階からの移動ロスと待機時間の排除
躯体工事や内装・設備工事を担う専門工事業者は、現場内で資機材を受け取るために作業階から地上1階まで往復移動し、トラックの到着を待つ必要があった。地上62階に達する超高層現場では、仮設エレベーターの昇降待ちだけで1回につき数十分を要し、職人の実稼働時間を削る要因となっていた。
本システムと現場の揚重代行運用を組み合わせることで、協力会社は事前にクラウド上へ車両と積載資材の情報を登録するだけで荷降ろし作業を専任スタッフに委ねられる。職人が高層階の作業エリアに留まったまま施工を継続できるため、手待ち時間に伴う労務コストの浪費が抑えられる。
現場監督・施工管理者:日々の搬入調整業務から品質・安全管理へのシフト
各工区の施工管理者は、毎夕行われる工程調整会議でホワイトボードや紙面を突き合わせ、クレーンの使用順序を巡る折衝を行っていた。急な資材の仕様変更や天候不順による納入順序の乱れが発生するたび、電話での再調整作業に追われる実態があった。
クラウドシステムによって空き枠や予約状況がリアルタイムに共有されることで、予約重複や連絡ミスに起因する現場トラブルが回避される。施工管理者は調整業務に割いていた時間を、建蔽部の配筋検査や協力会社への安全指示といった施工品質の担保業務へ再配分できる。
参考記事: 竹中工務店と清水建設、工程アプリGaNettを国内現場展開|工数3割削減へ
ConShiftの視点:現場DXの焦点が「書類のデジタル化」から「サプライチェーン全体の同期」へ
建設業界におけるDXは、写真台帳の自動作成や図面のタブレット閲覧といった、元請け技術者の事務作業をペーパーレス化する取り組みから普及してきた。しかし、清水建設がTorch Towerで進める物流DXシステムは、デジタル化の適用領域が個別業務の効率化から、外部の輸送事業者や資材サプライヤーを含む「現場物流・サプライチェーン全体の同期」へ移行したことを示している。
超高層現場において揚重機は物理的なボトルネック設備であり、これを現場代理人個人の勘や職長同士の力関係で配分する方式は、建物の規模拡大に伴って破綻する。バース予約と揚重計画を単一プラットフォームに集約し、荷役そのものを元請け側の共通インフラとして提供する運用は、現場内物流の個別最適を全体最適へ切り替える設計思想に基づいている。
今後は、蓄積された入退場実績や揚重稼働データをAIで解析し、天候や工程の進捗に応じた最適配車を自動提示するアルゴリズムの統合が競争軸となる。資機材の工場出荷から現場取り付けまでの動線をデータで結ぶプラットフォームを構築できるか否かが、大規模案件を円滑に消化するための施工能力を左右する。
参考記事: 施工管理アプリ(クラウド型)入門|導入メリットと失敗しない選び方を徹底解説
まとめ:明日から自社の現場物流を見直すための実務手順
現場の物流効率化と荷待ち時間の削減に向けて、事業者が着手すべき実務手順を以下にまとめる。
- 現場内の荷待ち時間・揚重待機時間の実態把握
まずは主要工種の資材搬入について、トラックがゲートに到着してから荷降ろしを完了するまでの時間と、職人が地上で待機している時間を計測・データ化する。待機が発生している時間帯やボトルネックとなっている設備を特定することが改善の起点となる。
- 搬入バースと揚重設備の予約ルールのデジタル移行
ホワイトボードや紙の管理表を廃止し、施工管理アプリやスケジュール共有ツールを用いた事前予約制へ切り替える。協力会社に対して入場予定日時と資材量の事前入力を義務付け、現場内の車両動線が重複しない配線計画を確立する。
- 物流効率化法の基準を踏まえた発注条件の整理
運送事業者との取引において、荷降ろし開始時刻の指定精度向上や待機料の発生条件を確認する。元請け側で荷受体制を整えるのか、協力会社が荷役を完結させるのかといった責任分界点を下請契約および現場作業要領に明記し、運送事業者に対する拘束時間短縮を徹底する。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 清水建設株式会社 ニュースリリース
出典: BUILT(ITmedia)
出典: 国土交通省 中部運輸局
出典: 大和ハウス工業 DPL Letter コラム
出典: サンワーク
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