大林組は2026年10月19日、シールドトンネル工事の全自動化を目指すシステム「OGENTS(Obayashi Intelligent Shield)」を構成する全6技術について、現場での個別実証を完了したと発表した。国内10カ所の現場検証を通じて、全技術を統合導入した場合に従来の施工体制から40〜50%程度の省人化を見込めることが確認されている。
国内10現場で実証された「OGENTS」全6要素技術の検証データ
シールド工法は、大深度地下や都市部の軟弱地盤において道路・鉄道・上下水道などのインフラを非開削で構築する基盤工法である。しかし、掘進中のシールドマシン方向制御やセグメント組立、土砂搬出の調整など、各工程のオペレーションは熟練作業員の経験と勘に依存してきた。大林組が開発を進める「OGENTS」は、これら個々の作業プロセスを自動化し、データ連携によって施工全体を自律稼働させるプラットフォームである。
「OGENTS」開発のタイムラインと適用実績
大林組は2019年から要素技術の現場投入を段階的に進め、北海道新幹線の札樽トンネルなどの現場で実証を重ねてきた。2021年3月以降は国内10カ所のシールド工事現場において、各現場の土質や断面条件に応じた個別技術の検証を推進してきた。
| 年月 | 開発・実証フェーズ | 実装技術・システム | 検証内容・達成成果 |
|---|---|---|---|
| 2019年1月 | 測量自動化の確立 | OGENTS/SURVEY | 1台のトータルステーションで基準点・水準点・セグメント測量を自動化。測量時間を30%短縮 |
| 2019年9月 | 線形管理の高度化 | シールド三次元線形管理システム | 計画線形と現在位置の偏差を即時算出し、方向修正計画の立案時間を30%短縮 |
| 2021年3月 | 自律方向制御の確立 | OGENTS/DRIVE | AIが掘進実績データを学習し、推進ジャッキの推力配分を自動化 |
| 2021年3月〜2026年10月 | 全6要素技術の個別現場実証 | 搬出・裏込め・設備・組立の自動化 | 国内10現場で各要素を実証。測量人員の半減やセグメント組立の1人化を達成 |
| 2027年12月(予定) | 全技術統合の実施工検証 | OGENTS統合システム | 全6技術を1つの現場へ同時に実装し、一連の施工サイクルを完全連動 |
6つの構成技術と現場検証で得られた省人化・品質データ
「OGENTS」を構成する技術は、坑内環境のセンシングから掘削・排土・壁体構築・設備稼働までの全工程を網羅している。
1. シールド自動測量(OGENTS/SURVEY)
坑内に設置した自動追尾型トータルステーションと特殊ターゲットを活用し、マシン位置、基準点、セグメントの出来形測量を完全自動化した。従来は坑内測量のために専門の測量技術者2名が常駐して計測を行っていたが、システムが測定と解析を自律実行することで1名体制への半減を実現した。
2. シールド自動運転(OGENTS/DRIVE)
シールドマシンの推進ジャッキの制御をAIが担う。過去の掘進データやリアルタイムの地盤反力、機体姿勢(ピッチング・ローリング・偏角)を解析し、計画線形に追従するための最適な推力パターンを自動生成する。オペレーターの作業負担を軽減しながら、トンネル線形精度を確保して安定した掘進を維持できる。
3. 掘削土砂自動搬出
切羽からスクリューコンベヤやベルトコンベヤ、ズリ鋼車等を通じて排出される土砂の性状や排出量をセンサーで連続監視する。地山性状の変化に伴う土砂詰まりや過剰掘削をAIが検知し、搬出設備の稼働スピードをリアルタイムに自動調整する。
4. 裏込め自動注入
セグメントと地山との間に生じる空隙へ注入する裏込め材の注入圧力・注入量を自動制御する。地盤沈下やトンネルの浮き上がりを防ぐため、推進速度やテールボイドの体積変化に合わせて注入速度を連動させ、注入不足や過剰圧送によるセグメント変形を防止する。
5. シールド設備自動化
後続台車上に配置された油圧ユニット、送排水ポンプ、換気設備、受変電設備などの運転状態を集中管理する。稼働状況のセンシングにより異常を予兆検知し、掘進サイクルに合わせた設備の起動・停止を自律化する。
6. セグメント自動組立
エレクター装置に多眼カメラや高精度レーザーセンサーを搭載し、セグメントピースの把持、位置決め、ボルト締結位置への誘導を自動化する。従来は切羽近傍の挟まれ・巻き込まれリスクが高いエリアに作業員が入り、手合図や手元作業で微調整を行っていた。本技術の実証により、危険エリアへの立ち入りを完全に排除し、操作オペレーター1名のみで高精度な組み立てを完了できる体制を確立した。
これら6技術をシールド工事全体に適用した場合、掘進管理や坑内作業に関わる人員編成を従来の施工体制比で40〜50%削減できる試算が導き出されている。
参考記事: シールド工法とは?土圧式・泥水式の選び方から標準手順・最新DX技術まで解説
建設業界の各プレイヤーに生じる実務インパクト
シールド工事の全工程が自動連携する環境は、元請けゼネコンの受注競争力、現場管理者の業務体制、現場技能労働者の作業内容に直接的な影響を与える。
ゼネコン(元請け):個別ツールの導入から「統合制御プラットフォーム」競争への転換
大手ゼネコンを中心とするトンネル自動化の競争軸は、要素技術の単体開発から、全工程を束ねる統合管制能力へと完全に移行している。大林組が能登半島地震の復旧現場で複数重機を連携させた土工自動化を進めているように、土木施工における主戦場は「複数システムの連動性」にある。
シールド工事においても、自動運転単体の精度を競う段階から、掘削・排土・セグメント組立・裏込め注入がシームレスに同期するプラットフォームの保有が受注を左右する。国土交通省の「i-Construction 2.0」では2040年度までに現場の省人化を少なくとも3割削減する目標が設定されており、直轄工事の総合評価落札方式において、現場全体の省人化率を40〜50%引き下げる技術提案は高い配点評価に直結する。
現場監督・施工管理者:暗黙知からデータ駆動型管理への移行と立ち会い負荷の軽減
施工管理者にとって、シールド工事は地盤急変への対応や線形逸脱のリスク管理に追われる過酷な現場であった。掘進管理データ、測量結果、裏込め注入圧などの確認作業が手動からシステム連動へ置き換わることで、施工管理者の役割は「リアルタイムの異常監視」と「計画の補正判断」に純化される。
従来、セグメント組立時のクラック発生リスクや蛇行修正時のジャッキ操作は、熟練オペレーターの経験則に頼る部分が大きかった。これらがAIによる標準化されたパラメータ制御へ置き換わることで、経験の浅い若手技術者であっても品質のばらつきを抑えた現場運営が可能となる。
職人・技能労働者:切羽危険作業の排除と監視・システムオペレーターへの職能転換
セグメント自動組立と自動測量の確立は、トンネル坑内における労働安全衛生環境を大きく変える。特にセグメント組立時の挟まれ事故や重量物運搬に伴う災害リスクが存在した切羽近傍から作業員が完全に退避できる点は、現場の安全管理上極めて大きな進展である。
一方で、現場の技能労働者に求められるスキルセットは変容する。手作業によるボルト締めや目視による位置合わせ技術から、自動組立装置の稼働ステータス監視、センサー精度のキャリブレーション、システム異常時の手動リカバリーといった機器統括能力が求められる。重機キャビンや坑外の遠隔管制室からシステムをオペレーションする形態への移行が進む。
参考記事: 大成建設とエイシング、直径11mシールド機の自動運転で誤差3mm以内を達成
ConShiftの視点:部分最適から「自律施工システムの社会実装」への構造転換
大林組の「OGENTS」全要素技術の実証完了は、建設DXのフェーズが「単一作業を支援するツールの試験導入」から「複数工程を統合した自律施工システムの社会実装」へ到達した事実を示している。
個別最適の積み上げでは到達できない「40〜50%省人化」の壁
従来のシールド工事における自動化開発は、自動測量のみ、あるいはマシン運転制御のみといった「作業ごとの部分最適」にとどまるケースが多かった。しかし、掘進作業が自動化されてもセグメント組立や土砂搬出に人手が必要であれば、工事サイクル全体としての人員配置を減らすことはできない。
大林組が全6技術の個別実証を終え、40〜50%程度の省人化を見込める根拠は、クリティカルパスを構成する全作業を網羅し、各工程間でデータを相互フィードバックできる構造を構築した点にある。例えば、自動測量で得られた最新の現在位置座標が即座に自動運転(ジャッキ制御)へ反映され、掘削土量の計測値が土砂搬出速度と裏込め注入量へ自動連動する。工程間のデータ遅延や人的な伝達ロスをゼロにすることで、初めて現場全体の定員を半分に削る体制が成立する。
2027年12月の統合実証がもたらす調達・契約モデルの変革
大林組は2027年12月までに、全6技術を1つの現場へ同時に投入する統合実証を計画している。この統合実証が成功した場合、建設機械の調達や専門工事会社との契約形態にも変化が生じる。
シールドマシンは案件ごとに個別設計・製作されるオーダーメイド機械であるが、今後は「OGENTS」のような自動化インターフェースを標準搭載したマシン設計が前提となる。また、一次下請けとなるトンネル専門工事会社に対しても、オペレーター単体の手配ではなく、自動化システムを運用・保守できるエンジニアリング部隊としての機能が求められるようになる。
参考記事: 大林組、能登国道249号で1km盛土土工を4機種連携により自動化
まとめ:シールド自動化の本格普及に向けて現場が備えるべき指針
大林組が達成した「全6要素技術の実証完了」と「40〜50%程度の省人化試算」は、地下工事の施工体制が新たな自動化段階に入ったことを示している。経営層および現場リーダーは、以下の具体策を念頭に体制整備を進める必要がある。
- 施工データの統合管理インフラの整備
現場ごとの単一ツール導入にとどまらず、測量・重機稼働・地盤性状の各データを同一プラットフォーム上でリアルタイム連動させるネットワーク・通信環境を設計する。
- 協力会社との新契約・作業分担の策定
切羽無人化や自動組立の導入に伴い、下請け専門工事業者の作業範囲が実作業からシステム監視・保守へとシフトすることを見越し、積算基準や労務単価の見直しを進める。
- 遠隔管制・システム監視を担う技術者の育成
現場常駐を前提とした施工管理から、坑外・遠隔地からの複数パラメータ監視と異常時リカバリーに対応できるデジタルスキル教育を技術職員へ展開する。
出典: プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
出典: 株式会社大林組 ニュースリリース(2019年1月17日)
出典: 株式会社大林組 ニュースリリース(2019年9月26日)
出典: 株式会社大林組 ニュースリリース(2021年3月22日)
出典: 国土交通省 建設業の現状と課題



