大成建設は2026年10月16日、福島県白河市の「Atosビレッジ」内に2車線道路トンネルを模した実物大の「トンネル施工技術実証フィールド」を構築したと発表しました。敷地約1,000平方メートルに全長55メートルの模擬坑道を整備し、稼働現場の工程制約を受けずに覆工コンクリート自動打設などの新技術を反復検証できる環境を整えています。
福島・白河に誕生した実物大トンネル実証フィールドの仕様と開発背景
大成建設が今回構築した「トンネル施工技術実証フィールド」は、山岳トンネル施工における機械化・自動化技術を実現場へ導入する前段階で、安全かつ反復して検証するための専用テストベッドです。
実規模施設「トンネル施工技術実証フィールド」の主要諸元
本施設は、実際の山岳トンネル工事現場と同等の空間条件を再現するため、2車線道路トンネルの断面寸法をそのまま採用しています。
| 項目 | 詳細仕様 |
|---|---|
| 設置場所 | 福島県白河市「Atosビレッジ」内(敷地約1,000㎡) |
| 想定構造 | 2車線道路トンネル(NATM工法) |
| 延長/内空断面積 | 全長55m / 68㎡ |
| 断面寸法 | 高さ7.9m × 幅11.3m |
| 主要構造部材 | 実現場で使用される鋼製支保工を配置 |
| 現在の検証対象 | 覆工コンクリート自動打設技術の施工性・充填性・作業効率 |
施設内には実際の山岳トンネル施工で用いられる鋼製支保工が建て込まれており、その内側にセントル(型枠台車)やコンクリート圧送管、各種センサーを配置することで、本番現場と同一の幾何学的条件下で打設試験を行える仕様になっています。
実稼働現場における実証実験の限界と専用ヤードの必要性
山岳トンネル工事は、「掘削」「ズリ搬出」「一次支保(鋼製支保工建込み・コンクリート吹付け・ロックボルト打設)」「防水・覆工コンクリート打設」という複数の定型作業が連続するサイクル施工で進められます。1つの作業が遅延すると後続作業のすべてが停滞し、全体の工期に直結するクリティカルパスを形成します。
このような稼働現場において開発途上の新技術を試行する場合、以下の制約が開発サイクルの停滞を招いていました。
- 工事工程の厳守: 日進量が設定された本番現場では、機械トラブルによる施工停止やパラメータ調整のための作業中断が許容されない。
- 狭小空間での重機・人員の輻輳: 坑内という閉鎖空間では、搬送車両や作業員が集中するため、新技術の測定機器や開発機材を配置する物理的余裕がない。
- 品質トラブルのリスク: 特に覆工コンクリートはトンネル構造物の長期供用性を担保する最終仕上げ工程であり、充填不足やジャンカなどの施工不良が生じると抜本的な補修作業が発生する。
本施設は、営業線や本設構造物ではない独立した実物大ヤードであるため、開発機の不具合解析や制御アルゴリズムのパラメータ変更を現場工程に関係なく何度でも繰り返すことが可能です。
山岳トンネル自動化に向けた大成建設の技術開発経緯
大成建設は、トンネル坑内の自動化・省人化に向けた要素技術を段階的に開発してきました。覆工コンクリート分野では、打設時の可視化システムを手始めに、段階的に自律制御へと領域を広げています。
| 年月 | 取り組み内容 |
|---|---|
| 2019年7月 | 岐阜工業と共同で覆工コンクリート打設状況の可視化システム「T-iMonitor Tunnel Concrete」を開発 |
| 2024年3月 | Atos株式会社が福島県白河市に大規模な建設DX実証拠点「Atos Village」を整備 |
| 2025年6月 | 坑内換気・重機自動運転を統括する「T-iDigital Field」の機能を拡張し、換気電力約48%削減を実証 |
| 2026年8月 | 土木施工DXの横断ブランド「T-iDRIVE X」を制定し、各要素技術のデータ連携方針を確立 |
| 2026年10月 | 「Atosビレッジ」内に全長55mの実物大「トンネル施工技術実証フィールド」を構築、自動打設検証に着手 |
国土交通省が2024年4月に打ち出した「i-Construction 2.0」では、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割削減し、生産性を1.5倍に引き上げる目標が掲げられています。直轄工事でも「技術提案評価型S1型」などを通じて山岳トンネル自動化技術の試行が進んでおり、実施工レベルで即座に機能する技術の保有が受注競争力に直結する制度環境となっています。
参考記事: 大成建設が2026年8月31日に土木DXブランド制定、全工種のデータ統合へ
建設業界各プレイヤーに与える実務的影響
実物大の専用実証環境が整備されたことは、元請けゼネコンの技術開発プロセスだけでなく、建機メーカーの機器開発や作業所の施工管理体制にも具体的な波及効果を及ぼします。
元請けゼネコン:施工リスクの事前排除と実現場導入の短期化
従来のゼネコン各社における建設DX技術のPoC(概念実証)は、実稼働現場の特定工区を借りて行う手法が一般的でした。しかし、この方式では現場代理人が背負う工程遅延リスクが大きく、思い切った実験的機能の検証には二の足を踏む傾向がありました。
大成建設が専用の実物大テストベッドを保有したことで、机上シミュレーションや縮小模型では把握できないコンクリートの流動性、型枠圧、ノズル配管の圧力損失といった物理現象を、現場投入前に把握できるようになります。これにより、直轄工事などの実現場へ自動打設システムを投入する際の初期トラブル率を大幅に抑え、実用化までの開発期間を短縮することが可能になります。
建機・型枠メーカー:実施工条件に即した機材・制御システムの協業検証
トンネルの覆工コンクリート打設は、セントルと呼ばれる大型型枠台車とコンクリートポンプ車、配管切り替えバルブ、バイブレータ(締固め装置)が一体となって機能する複合設備です。機械メーカー単体では、これら一連の大型設備を組み上げた実寸大の試験環境を保有することは困難でした。
本フィールドの存在は、メーカー側にとっても自社の自動化アタッチメントやセンサー類を実寸大の鋼製支保工の内側で動かし、トンネル坑内特有の反射波や電波環境、コンクリート充填時の荷重変化を直接計測できる貴重な場となります。実機を用いたフィードバックサイクルが早まることで、現場仕様に適合した機器改良のスピードが向上します。
現場監督・施工管理者:狭小坑内における立会業務と輻輳管理の低減
山岳トンネルの覆工コンクリート打設現場では、施工管理者が打設窓から型枠内部を目視確認し、配管の切り替えやバイブレータの作動タイミングを技能工へ指示する過酷な立会管理が常態化しています。打設中はコンクリートミキサー車の進入や配管圧送が連続し、粉じんや騒音の中で安全管理を行わなければなりません。
本フィールドで検証されている自動打設技術が成熟して現場実装されれば、コンクリートの均等充填や締固め状況がセンサーを介して自動制御されるため、施工管理者は坑外の遠隔監視室からタブレット端末等で打設状況を把握できるようになります。狭小な坑内での重機・作業員の輻輳管理から解放され、出来形管理や他工種の進捗調整へリソースを再配分できる環境が整います。
参考記事: 清水建設ら5社、トンネル自動吹付けで切羽作業ゼロと時間5%短縮を実証
ConShiftの視点:開発プロセスの「実現場依存」からの構造的転換
本番現場での一発勝負から専用テストベッドでの高速反復へ
山岳トンネル分野の技術開発における最大の障壁は、「実現場でしか実証できないが、実現場では失敗が許されない」という構造的ジレンマにありました。特に一次支保工(吹付けコンクリートやロックボルト)や二次覆工(覆工コンクリート)は、地山崩落防止やトンネル本体の耐久性に直結するため、未成熟な自動化技術を安易にテストすることは現場代理人にとって極めて高いリスクを伴います。
大成建設の取り組みは、新技術の開発プロセスを「稼働現場での出たとこ勝負」から「専用の大型実証フィールドでの反復検証」へと明確に切り替えた点に本質があります。2026年8月に制定された同社の土木DXブランド「T-iDRIVE X」では、人と機械の協調と実装型DXが基本理念に掲げられています。55メートルの実規模施設は、この理念を具現化し、ソフトウェアの修正とハードウェアの稼働試験を同日中に何度も回すアジャイル型の土木開発を実現するインフラとなります。
他工種とのデータ連携とトンネル全工程オートメーションへの布石
覆工コンクリートの打設精度は、それ以前の掘削精度や支保工建込み精度、吹付け厚さの平滑性に大きく左右されます。余掘りが多ければコンクリート使用量が増大し、型枠との隙間に偏りが生じれば均等充填の難度が増します。
先行事例として、東急建設が有田海南道路で実証した全自動ドリルジャンボによる穿孔人員80%削減や、清水建設ら5社連合による「ヘラクレス-AUTO」での自動吹付けなど、切羽直下の工程ではすでに無人化・自動化の成果が相次いでいます。大成建設が今回、後工程である「覆工コンクリート自動打設」の専用実証に着手したことは、切羽の掘削から最終覆工に至る山岳トンネルの全工程を、点ではなく「線」として自動化・データ連携させるためのラストピースを埋める動きといえます。
参考記事: 東急建設、穿孔人員を5人から1人へ削減し切羽ゼロ実現
まとめ:明日から意識すべき実務の視点
大成建設による実物大実証フィールドの整備は、土木DXの主戦場が「要素技術の単体開発」から「実施工条件での事前検証を経たパッケージ実装」へと移行している現実を端的に示しています。
自社の現場運営や技術選定においては、以下の視点を実務に落とし込むことが求められます。
- 新技術導入時のリスク評価基準を更新する
開発段階の自動化重機やシステムを稼働現場へ採用する際は、単なるカタログスペックではなく、実規模環境での事前反復検証データ(打設圧、充填偏差、停止時の復旧フロー等)がどの程度蓄積されているかを調達・選定の評価基準として組み込む。
- 切羽から覆工までのデータ連携を見据えた施工計画を立てる
一次支保工の平滑度や余掘データが覆工コンクリートの打設品質に波及することを前提に、工種単体での省人化にとどまらず、前工程の3D計測データを後工程の自動化機械に引き渡せるデータ連携基盤の有無を確認する。



