国土交通省が公表した令和7年度「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」において、猛暑日を不稼働日とするよう申し入れた建設企業に対し、注文者の69.7%が工程調整などの対応を取った実態が明らかになりました。対応の内訳は「契約書には記載しなかったが工程調整などで運用上対応された」が56.9%を占め、契約条件への正式反映(12.8%)を大きく上回る運用主導の調整が先行しています。
猛暑日を「不稼働日」と見なす基準と受発注者間の対応実態
国土交通省が2026年9月に公表した本調査は、2024年12月以降に民間工事を受注した建設企業1,939社および発注企業55社を対象に実施されました。直轄工事だけでなく民間工事を含めた適正工期の設定状況を把握する定例調査において、猛暑日への配慮状況を独立した設問として取り上げたのは今回が初めてです。
制度の変遷と中建審「工期に関する基準」の位置づけ
建設現場における気象要因の不稼働日設定をめぐっては、2023年度に国交省直轄工事において、工期算定の雨休率算出に暑さ指数(WBGT)31以上の猛暑日を作業不能日として算入する試行が始まりました。
2024年3月には中央建設業審議会(中建審)が「工期に関する基準」を改定し、自然要因として猛暑日(WBGT31以上)における不稼働を考慮した工期設定を明記しました。建設業法第19条の5が禁じる「著しく短い工期の禁止」の判断基準にもこの指針が反映されており、発注者・受注者双方に対して気象リスクを織り込んだ標準工程の作成が求められる法体系が整えられています。
| 時期 | 制度・施策の動向 | 実務への適用内容 |
|---|---|---|
| 2023年度 | 直轄工事での試行導入 | 雨休率の計算にWBGT31以上の猛暑日を算入 |
| 2024年3月 | 中建審「工期に関する基準」改定 | 猛暑日不稼働を自然要因として適正工期算定に明記 |
| 2024年7月〜 | 地方自治体への要請・波及 | 都道府県・政令市が猛暑日考慮の工期積算基準を導入 |
| 2026年9月 | 国交省が実態調査を初公表 | 申入れ企業の約7割に対し注文者が工期・工程配慮を実施 |
申入れに対する発注者の対応内訳と工事区分による温度差
調査結果によると、猛暑日を不稼働日として実際に考慮している建設企業は全体の26.2%にとどまります。さらに注文者への申入れを行った企業は25.2%(口頭での相談17.2%、着工後の申入れ6.0%、見積書面への明記2.0%)であり、74.4%の企業は申入れ自体を行っていません。
一方で、不稼働日の設定を申し入れた企業に対する発注者の対応内訳を見ると、合算で69.7%が工期や工程の見直しを受け入れています。
| 注文者の対応状況 | 割合 | 実務上の運用実態 |
|---|---|---|
| 運用上対応(工程調整等) | 56.9% | 契約書変更を伴わず日々の工程スライドで吸収 |
| 契約条件に正式反映 | 12.8% | 変更契約を締結し全体工期の延長や請負代金を変更 |
| 参考受け止め(未反映) | 26.9% | 申入れを認知するのみで従前工程の遵守を要求 |
| 受け入れ拒否 | 3.3% | 猛暑日を理由とした工程変更を明確に否認 |
受注工事の属性によって対応状況には明確な乖離が見られます。公共工事を主体とする建設企業では84.2%が何らかの工期配慮を得られたのに対し、民間工事を主体とする企業では53.3%にとどまりました。発注者側アンケート(回答55社)でも、猛暑日を当初から工期算定に織り込んでいる発注者は約4割(18社)であり、受注者からの協議要請を受けてから運用調整に動く受動的な姿勢が浮き彫りとなっています。
参考記事: 熱中症対策とWBGTの計算方法と実務基準|現場で命を守る作業判断のポイント
主要プレイヤーに生じる実務上の影響
ゼネコン・元請企業:見積段階における「気象リスクの定量化」と変更協議
元請企業には、着工前の見積積算時点で過去の気象データ(WBGT観測値)に基づいた作業不能日数を算出し、発注者へ提示する標準見積書の運用が求められます。今回の調査で書面による申入れが2.0%にとどまり口頭での申し出が過半を占めた点は、追加費用や正式な工期延長の契約変更を困難にする要因です。
着工後に猛暑による作業停止が発生した際、速やかに受発注者間で工期変更手続きを進めるため、客観的な観測記録(現場設置のWBGT計測器のログ等)を保管し、当初契約書に気象要因の変更条項を盛り込む法務実務が必須となります。
発注者・デベロッパー:標準工期の再定義と変更契約手続きの定着
民間発注者やデベロッパー側では、猛暑日を作業員の生命に関わる不可抗力リスクと認識し、当初工期そのものに一定の予備日を織り込む設計が不可欠です。
調査では運用上の対応が56.9%に達したものの、契約変更を行わない現場対応は、引き渡し期日直前における突発的な突貫工事を誘発するリスクを内包します。工期短縮の強要が建設業法における「著しく短い工期の禁止」に抵触する恐れがあるため、工程の先送りだけでなく、必要に応じた中間期日・最終引き渡し期日の変更契約を結ぶガバナンス体制の整備が必要です。
現場施工管理者:WBGT連動型の動的工程管理とリカバリー計画
施工現場の技術者には、固定的なバーチャート工程表に依存せず、気象予報と連動した柔軟な工程管理が課されます。WBGT値が31以上となる時間帯の重労働作業を回避するため、早朝作業へのシフトや屋内作業との入れ替えなど日次の再配置を判断しなければなりません。
運用対応による休工が発生した場合には、労務・機械の稼働平準化を保ちつつ、クリティカルパス上の作業をどのように組み直すかという動的なリスケジューリング能力が工程管理の焦点となります。
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正の要点と発注者・受注者の実務解説
ConShiftの視点(独自考察)
本調査の数値が示す本質的な課題は、「運用上の対応」が56.9%を占める一方で、「正式な契約条件への反映」が12.8%にとどまっている点にあります。契約条項を変更せず日々の運用調整で休工を吸収する手法は、下流工程の専門工事業者に圧縮されたしわ寄せが集中する構造的リスクを放置しています。
元請企業が見積書面で猛暑日不稼働を明記したケースがわずか2.0%という事実は、民間工事において気象リスクを作業不能日として見積条件に明文化する商慣習が未成熟であることを示しています。中建審「工期に関する基準」改定を経て、猛暑日は「予見可能な自然要因」として定義されました。今後は口頭の折衝に頼る運用を脱し、発注者との契約締結時にWBGT基準値に基づく工期延長条項を約款へ組み込めるかどうかが、企業の損益管理および法令遵守の分水嶺となります。
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
まとめ
国土交通省の調査により、建設企業からの申し入れがあれば発注者の約7割が猛暑日の不稼働を考慮した工程調整に応じることが判明しました。これを受け、施工管理現場および経営層が明日から見直すべき実務アクションは以下の通りです。
- 見積条件明細への猛暑日不稼働条項の追加
着工前の契約協議において、過去の気象データから算出した不稼働想定日数を明記し、書面ベースでの事前合意を図ること。
- 現場におけるWBGT値の客観的ログ記録と保存
作業中止や作業時間変更の根拠とするため、現場ごとのWBGT実測データを日々電子データとして記録・管理すること。
- 運用調整にとどまらない変更契約プロセスの確立
気象による連続不稼働が発生した段階で、引き渡し期日および請負金額の変更を注文者へ正式申請する社内基準を定めること。
出典: 労働新聞社Webサイト



