国土交通省は直轄工事を対象とする「工事請負契約書第26条第5項(単品スライド条項)」の運用マニュアルを改訂し、全国建設業協会などを通じて施工現場への周知を開始した。今回の改訂では、資材の実勢購入価格が物価資料単価を上回るケースにおいて、見積書等の証明により実勢価格との乖離が30%以内に収まる場合は実際の購入価格をスライド額算定に用いる運用基準を明文化した。
単品スライド運用マニュアル改訂の骨子と算定ルールの変更点
国土交通省直轄工事における単品スライド条項(工事請負契約書第26条第5項)は、工期内に主要な工事材料の価格が著しく変動し、請負代金額が不適当となった際に代金変更を請求できる制度である。発注者と受注者のリスク分担として、対象資材の価格変動額のうち工事全体費用の1%を超える部分を発注者が負担する仕組みをとっている。
実購入価格の採用基準と運用柔軟化
従来の運用では、「購入月の物価資料単価」と「実際の購入価格」を比較し、安価な方を採用することが原則とされていた。そのため、急激な価格高騰局面において市場の実勢購入価格が物価資料の掲載価格に先行して上昇した場合、請負業者が実際に支払った材料費との間に乖離が生じ、十分な価格転嫁が行えない課題が存在していた。
改訂されたマニュアルでは、適正な取引であることを示す証明書類(見積書や請求書など)を提出し、実勢価格との乖離が一定水準(+30%以内など)に収まっていると確認できる場合には、実際の購入価格が高くてもスライド額の算定単価として採用できる取り決めが追加された。
あわせて、以下の2点に関する実務上の特例および柔軟な運用が明記されている。
- 守秘義務への配慮(鋼橋上部工等):契約上の商慣行や守秘義務によって実際の購入価格を示す納品書等を提出できない場合、部材の工場搬入時期や購入時期を証明できれば「搬入・購入月の物価資料単価」を用いて変更手続きを行うことを可能とした。
- 複数年にわたる維持工事の年度末対応:各年度において完済部分検査を実施する複数年の維持工事について、工期末を待たずに各年度末時点で単品スライド条項を請求・精算できる規定を整備した。
公共工事標準請負契約約款におけるスライド制度の比較
公共工事で設定されているスライド条項には、変動の要因や対象期間に応じて3つの区分が存在する。単品スライド条項とインフレスライド条項は重複しての併用が可能であり、申請順序にも制約は設けられていない。
| 条項区分 | 根拠条項 | 変動対象と適用要件 | 発注者の負担基準 |
|---|---|---|---|
| 全体スライド | 第26条第1〜4項 | 工期開始から1年経過後の賃金・物価水準全体の変動 | 変動額のうち残工事代金の1.5%を超える額 |
| 単品スライド | 第26条第5項 | 特別な要因による主要工事材料(鋼材・燃料油等)の急激な変動 | 資材価格の変動額のうち対象工事費の1%を超える額 |
| インフレスライド | 第26条第6項 | 短期間の急激なインフレ等に伴う賃金・物価の全体的な変動 | 残工事費の変動額のうち残工事費の1%を超える額 |
また、本改訂の周知にあわせて、国土交通省不動産・建設経済局による低入札価格調査基準および最低制限価格の見直し情報も共有されている。資材調達コストの適切な契約変更を担保する一方で、工事着工前の入札段階におけるダンピング受注を防止する施策が同時に運用されている。
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正の要点と発注者・受注者の実務解説
発注機関および施工企業に求められる実務対応
ゼネコン・元請企業の実務対応
元請企業にとって、今回のマニュアル改訂は資材調達コストの上昇分を契約変更へ反映させるための根拠が具体化されたことを意味する。実勢購入価格を採用するためには、材料購入先からの見積書、注文請書、納品書、請求書などの取引証憑を抜け漏れなく揃え、物価資料との差異理由を論理的に説明する準備が必要となる。
社内におけるスライド請求フローを早期に整備し、資材発注の段階から証拠書類の収集・保管体制を標準化しておくことが、請負代金変更手続きの円滑化に直結する。
発注者・規制当局の監督業務
直轄工事を監督する地方整備局等の担当部署では、提出された購入証明書類の妥当性審査を迅速に進める体制が求められる。物価資料単価と実購入価格の乖離が30%以内であるかの確認や、鋼材・燃料油等の対象品目の数量算出など、積算上の確認作業が従来よりも増加する。
あわせて改定された低入札価格調査基準の運用により、安値受注を排除しつつ、契約後の正当なコスト上昇にはスライド条項で適切に対応するという発注規律の徹底が監督官庁に課されている。
参考記事: 担い手3法(品確法・入契法・建業法)とは?法改正の変遷と実務で押さえるべきポイントを徹底解説
ConShiftの視点:協議負担の解消に向けた調達データの集約
全国建設業協会が実施した「発注関係事務の運用状況等に関するアンケート」によると、国土交通省案件における設計変更の実施割合は99.0%に達し、資材高騰に関する協議未実施割合も4.1%と極めて低い水準にある。制度としての契約変更は機能しているものの、変更協議における最大の課題として同調査では「事務作業負担(発注者との協議)が大きい」(64.0%)、「提出を求められる書類が多い」(58.9%)が上位を占めている。
今回の単品スライド運用改定により、実勢購入価格でのスライド請求が可能になった一方、立証のための提出書類はより精緻なものが要求される。購入価格と物価資料の乖離を証明するための見積書や納品書を手作業で整理・突合する運用を続けていては、現場代理人や積算担当者の業務負荷が過重になる。
今後は、資材発注・納品データとスライド条項の算定式を直結させ、契約変更に必要な差額計算書や証憑リストを迅速に生成できる管理体制を自社内で整えられるかどうかが、資材インフレ下における収益確保の分水嶺となる。
参考記事: 全建調査、民間工事20.8%が高騰未協議で原価割れの危機に
明日から意識すべき資材管理と契約変更の手順
- 主要資材の発注証憑を調達時点で一元管理する
材料の注文書、請書、納品書、請求書を受領した段階で案件ごとに分類保管し、後からの証憑集めによる工数増を防ぐ。
- 物価資料単価と実勢価格の差額を月次でモニタリングする
対象資材(鋼材、燃料油等)の納入価格と積算上の単価を定期的に照合し、乖離率が制度適用条件に達する兆候を早期に捉える。
- 監督員へのスライド請求意向を事前協議で共有する
工期末直前の申請ではなく、価格変動が生じた時点で担当監督員へ情報提供を行い、必要書類や手続き時期の認識をあらかじめ擦り合わせる。
出典: 一般社団法人兵庫県建設業協会
出典: 国土交通省
出典: 一般財団法人 建設物価調査会

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