国土交通省は2026年10月5日に開催した中央建設業審議会のワーキンググループで、標準労務費の実効性を検証する新規の追跡調査を2026年10月下旬から開始する方針を決定しました。民間建築工事を中心に「躯体系」「仕上げ系」「設備系」の3区分で下請構造の商流をさかのぼり、現場技能者への適正な賃金行き渡りを阻害している要因を抽出します。
第13回中建審WGが決定した労務費追跡調査と法規制の経緯
中央建設業審議会(中建審)の「労務費の基準に関するワーキンググループ(第13回)」では、2025年12月に勧告された「標準労務費」が重層下請構造の末端まで反映されているかを確認するため、新たなフォローアップ調査の設計が固められました。
今回の新規調査は、元請から一次、二次、三次以降の下請業者へと続く商流を個別工事ごとに追跡し、見積もり協議から契約締結、実際の技能者への支払いに至るプロセスを精査する点に特徴があります。国交省の過去の調査では、改正法施行前の民間工事において資材高騰等に伴う請負代金変更条項を契約書に設けていない契約が約6割を占めており、労務費の転嫁についても契約段階での取り決めが曖昧なまま現場に負担が押し付けられている実態が指摘されていました。
標準労務費制度の導入から今回の追跡調査に至る法規制の流れは以下の通りです。
| 時期 | 法制度・施策の動き | 実務への適用内容 |
|---|---|---|
| 2024年6月 | 改正建設業法(第三次担い手3法)公布 | 中建審による標準労務費勧告権限の新設 |
| 2024年12月 | 改正法の一部施行 | 資材高騰リスク情報の事前通知義務化 |
| 2025年12月 | 改正法全面施行・標準労務費勧告 | 著しく低い労務費による見積り・原価割れ契約の禁止 |
| 2026年10月 | 第13回WG開催・新規調査着手 | 躯体・仕上げ・設備の3区分で労務費流通を追跡 |
会合の場では、専門工事業団体側の委員から「処遇改善を進めている企業ほど経営が圧迫されている実態があり、公共工事設計労務単価以上の単価で契約が結ばれているか確認を徹底してほしい」という意見が出されました。一方、発注者側の委員からも「建築費の上昇幅に比べて現場末端の技能者へ適正な対価が届いていないボトルネックをサプライチェーン全体で解消すべき」との提起がなされ、商流全体を対象としたモニタリングへの合意が形成されました。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
発注者・元請・専門工事業者に生じる実務への影響
国交省によるサプライチェーン全体の追跡調査開始に伴い、各階層の取引主体にはそれぞれ異なる管理責務が生じます。
ゼネコン(元請企業)に求められる下請取引の透明化
元請企業に対しては、民間発注者からの標準労務費を反映した請負代金の確保にとどまらず、下位下請への適切な転嫁を監督するガバナンスが求められます。改正建設業法では、材料費・労務費・適正施工に不可欠な経費(法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金)を明確に区分した「材工分離」での見積書作成が努力義務とされ、見積書等の10年間の保存が義務付けられています。
追跡調査の対象となった場合、元請が一次下請へ適正な単価を支払っていたとしても、二次以降の階層で不当な指値や労務費の圧縮が行われていれば、元請の指導監督責任が問われる可能性があります。一次下請の選定段階から、二次以下の下請契約における労務費の取り決めを把握・追跡できる契約管理フローの構築が必要です。
専門工事業者(下請企業)の労務費明示と賃金連動
専門工事業者は、躯体系・仕上げ系・設備系の特性に応じた標準労務費を積算に組み込み、元請に対して適正な根拠を示して協議する責任を負います。従来の「一式見積もり」による価格交渉は通用しなくなり、歩掛や工種ごとの必要工数を明示できなければ、原価割れ契約の是正を主張できません。
また、元請から適正な労務費を確保した専門工事業者は、それを技能者の日当や基本給へ確実に還元している事実を証明する体制が不可欠です。請負代金の引き上げ分が内部留保や資材費補填に相殺されず、技能労働者の処遇改善へ結びついているかどうかが、行政調査における直接的な確認事項となります。
参考記事: 重層下請構造とは?ピラミッド型組織の仕組み・背景と現場リスクを徹底解説
ConShiftの視点:取引エビデンスのデジタル結合による防衛策
今回のWGで決定された追跡調査は、従来の書面アンケート形式とは異なり、個別現場における商流の実態を掘り下げる方針が取られています。この動きは、建設業法上の立入検査や指導監督が、元請・一次下請間の「契約書面」だけでなく、二次・三次下請における「実支払データ」まで踏み込んで行われるフェーズに入ったことを意味します。
民間建築工事では、躯体系(型枠・鉄筋など人工比率の高い工種)、仕上げ系(内装・塗装など工期短縮のしわ寄せを受けやすい工種)、設備系(機材費と施工手間の配分が複雑な工種)で労務費の削られ方が異なります。行政がこの3区分を指定して調査に入る以上、企業側の自己防衛策も工種ごとの取引実態に即したものでなければなりません。
元請および上位下請がリスクを回避する現実的な手段は、見積もり・契約・支払い・就業実績のデータを一気通貫で突合できる運用への移行です。建設キャリアアップシステム(CCUS)の就業履歴や技能者レベル判定と、材工分離見積書における標準労務費の計上額を連動させ、「誰に、どの工種で、いくらの単価を前提に発注し、実際に支払われたか」を客観的に証明できる体制を整えることが、重層下請構造下におけるコンプライアンス維持の要件となります。
参考記事: 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは?2026年完全義務化への対応と導入メリット・登録手順を解説
取引実態の透明化に向けた実務対応の整理
中建審WGが主導する労務費の実態把握に対して、施工管理および契約実務の現場で直ちに着手すべき事項は次の2点です。
- 内訳明示見積書の保存と下請契約書の総点検
自社が交わしている下請契約において、材料費・労務費・法定福利費等の必要経費が切り分けられて記載されているかを確認し、10年間の保存義務に沿った保管台帳を整理します。特に二次下請以降への発注単価が、標準労務費を著しく下回る金額で固定化されていないかを点検してください。
- 労務費反映と賃金支払いの突合体制の確認
元請から労務費の増額変更を受けた専門工事業者は、その増額分が現場技能者の賃金改定や手当支給に反映されているかを照合可能な状態にしておく必要があります。賃金台帳と発注内訳の突き合わせを行い、行政調査や元請からのヒアリングに対して具体的な賃上げ実績を提示できる帳票管理を進めてください。
出典: 建設通信新聞Digital
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 日刊建設工業新聞


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