東日本旅客鉄道(JR東日本)は、釜石線小佐野駅(岩手県釜石市)の老朽化した駅舎を、施工現場に直接プリンターを持ち込んで造形する「オンサイトプリンティング」方式の建設3Dプリンターで建て替えると発表した。施工は會澤高圧コンクリートが担当し、2026年10月13日に現駅舎の解体に着手したうえで、2027年3月の供用開始を予定している。
釜石線小佐野駅建替えの概要と現場直接造形(オンサイト)の選定理由
今回の小佐野駅建替えは、鉄筋コンクリート造平屋建て、延床面積約7.5平方メートルの待合室を対象とする工事である。現駅舎は築78年が経過し、2020年より無人駅として運用されてきた。
国内における3Dプリンターを用いた駅舎の建設は、2025年7月に運用を開始したJR西日本きのくに線初島駅(和歌山県有田市)に次ぐ2例目となる。ただし、初島駅が工場で分割製造した部材をトラックで運搬して現地で組み立てる「オフサイト工法」を採用したのに対し、小佐野駅は建設予定地の基礎上で直接プリンターノズルからコンクリート材を積層していく「オンサイト工法」を採用する。現場直接造形による駅舎建設は国内初の事例となる。
駅舎整備における工法別の仕様比較
オフサイト工法とオンサイト工法、および従来の現場打ち鉄筋コンクリート(RC)工法の違いは以下の通りである。
| 評価項目 | 小佐野駅(オンサイト3Dプリント) | 初島駅(オフサイト3Dプリント) | 従来工法(現場打ちRC造) |
|---|---|---|---|
| 製造場所 | 施工現場(駅敷地内) | 専用工場 | 施工現場(駅敷地内) |
| 躯体構造 | 積層造形RC構造 | 分割部材の現地接合 | 型枠組立+生コン打設 |
| 輸送負荷 | プリンター資機材・材料のみ搬入 | 成形済み大型部材の特殊輸送 | 型枠材・鉄筋・生コン車搬入 |
| 現場作業 | プリンター設置・自動積層施工 | クレーン建方・接合部処理 | 型枠建込・配筋・コンクリート打設・脱型 |
| 主な制約 | 現地の天候・温湿度管理 | 輸送限界(道路幅・クレーン揚程) | 熟練技能者の確保・養生期間の長期化 |
技術検証の時系列推移
JR東日本は、社内のボトムアップ型技術開発制度である「現場第一線における技術開発制度」などを活用し、段階的に建設3Dプリンティング技術の現場実証を進めてきた。
- 2022年10月: 東京大学および會澤高圧コンクリートなどとの産学連携により、内房線太海駅に3Dプリンター製の駅用ベンチを設置。
- 2023年11月末: 常磐線佐和駅の工事ヤードにおいて、現場直接造形(オンサイト)による災害対応列車型ベンチの造形実証を実施。気温や湿度の変化が積層材料の硬化性状に及ぼす影響を検証。
- 2025年7月: JR西日本がセレンディクスと連携し、初島駅(延床面積約9.9平方メートル)を工場製造・現地組立方式で竣工。
- 2026年9月30日: JR東日本が小佐野駅におけるオンサイト3Dプリント駅舎の建替え計画を公表。
- 2026年10月13日: 現駅舎の解体工事および仮通路切り替え工事に着工。
- 2027年3月: 新駅舎の完成および利用開始を予定。
参考記事: 国土交通省|200㎡以下の3Dプリンター建築告示施行で事業化加速へ
建設サプライチェーンに生じる3つの構造変化
小佐野駅におけるオンサイト3Dプリンティングの実装は、鉄道事業者のみならず、資材供給から専門工事に至るサプライチェーンの役割分担に再編を促す。
発注者・インフラ事業者の動向
鉄道会社や地方自治体など、多数の小規模老朽施設を抱えるインフラ事業者にとって、オンサイト造形は現地施工期間と維持管理コストを抑制する手段となる。
従来、延床面積10平方メートル前後の待合室や公衆トイレを更新する場合でも、仮設足場、型枠工事、配筋、打設、型枠脱型といった一連の工程に数カ月を要していた。オンサイト3Dプリントによって躯体工程を数日単位へ短縮できれば、駅利用者の仮設通路動線を最小化し、運行監視に伴う保安要員コストを削減できる。
参考記事: インフラ長寿命化計画とは?予防保全への転換と実務担当者が押さえるべき計画策定のポイント
建材メーカー・サプライヤーの役割変革
コンクリートメーカーの立ち位置は、生コンクリートや二次製品の供給元から、造形機を含めた施工プロセスそのものを受託する体制へと移行し始めている。
小佐野駅を施工する會澤高圧コンクリートは、専用のセメント系複合材料の開発にとどまらず、自社で建設用3Dプリンター設備を運用し、直接現場で躯体を立ち上げる専門施工業者としての機能を担う。材料単価の競争から脱却し、材料配合と積層ロボットの制御技術を一体化した高付加価値型の工事請負へとビジネスモデルの転換が進む。
サブコン・専門工事業者の職務範囲
従来の型枠大工や左官工、鉄筋工が担ってきた現場作業は、デジタル機械のオペレーションと品質管理業務へ再編される。
オンサイト造形では、木製・鋼製型枠の組み立ておよび解体作業が不要となる。一方で、プリンターノズルから吐出される特殊モルタルの粘性制御、外気温に応じた凝結遅延剤・促進剤の現場添加判断、ポンプ圧送時の閉塞防止など、高度な材料工学的判断を現場レベルで下せる技能者が求められる。従来の労務提供型サブコンは、プリンター施工のオペレーション技術や計測・検査技術を取り込む必要が生じる。
参考記事: 士幌町は1人で道路4200km維持|群マネ難航で迫る賢い縮小と事業転換
ConShiftの視点:7.5平方メートルの実施工が示す地方インフラ更新の現実解
小佐野駅の計画で着目すべきは、延床面積約7.5平方メートルという建物の規模である。この規模設定は、2026年6月に施行された国土交通省の技術的基準(平屋建て・延床面積200平方メートル以下を対象とする告示)に合致する範囲であり、建築確認申請プロセスを簡素化できる法制度上の枠組みに沿っている。
先行したJR西日本の初島駅は、工場製作した部材を道路輸送するオフサイト方式であったため、道路幅員の制約や大型重機の進入路確保が不可欠であった。これに対し、山間部や線路脇の狭小地に位置することが多い地方路線の無人駅では、大型完成部材のトラック輸送が困難なケースが多い。
機材と材料を搬入して現地で直接出力するオンサイト工法は、輸送インフラが脆弱な地域における構造物更新の制約を低減する。JR東日本が2022年の太海駅ベンチ、2023年の佐和駅実証実験を経て小佐野駅の実施工に踏み切ったプロセスは、実証フェーズから本設構造物の実用工法へと移行したことを示している。
施工管理者・技術者が明日から着手すべき具体的手順
- 200平方メートル以下告示の仕様要件の確認
自社が手掛ける小規模現場(倉庫、現場事務所、受変電設備基礎、待合施設など)について、積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造の設計基準に適合可能か、設計担当部門とともに確認を進める。
- オンサイト造形用材料の温度依存性データの収集
建設3Dプリンティングを外気環境下で適用する場合、気温や湿度の変化が材料の凝結性状や層間付着強度に直接影響する。寒冷地や夏季施工に対応した専用材料の物性データおよび添加剤の管理手法について、材料メーカーからのヒアリングを実施する。
- 現場ヤード計画における重機動線と機械設置スペースの再試算
型枠材の保管場所や仮設足場の設置面積が削減される一方、3Dプリンター本体の据付地盤耐力や材料混合プラント、圧送ポンプの配置スペースが新たに必要となる。仮設計画における面積バランスと揚重計画の再構成を進める。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 讀賣新聞オンライン
出典: マイナビニュース
出典: 建設通信新聞Digital
出典: Impress Watch


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