株式会社関電工と株式会社Arentは2026年8月25日、共同開発した電気設備自動設計システム「VOLDAR(ヴォルダー)」の運用を開始しました。従来は複数人で2〜3週間を要していた概算用の幹線根拠図面作成を、設計ロジックとBIMの自動ルーティング技術により1人かつ約1時間へ短縮します。
関電工の設計知見とArentのBIM自動化が実現した「VOLDAR」の全貌
電気設備工事における概算業務は、設計図面が確定していない初期段階で工事予算枠の基準を提示する重要な工程です。従来は機器や配線の記載がない白図をもとに、設計者が個人の経験則から配電盤の位置や幹線ルートを決定していました。この作業は熟練技術者の暗黙知に強く依存しており、算出根拠や精度のばらつき、若手とベテランの間で生じる手戻りが業務時間を長期化させる構造的要因となっていました。
今回運用が開始されたVOLDARは、関電工が蓄積してきた技術計算、配線計画、法規格の設計ロジックと、Arentが保有するBIM自動化および自動ルーティング技術を統合したシステムです。両社間に資本提携や出資関係はなく、業務上の共同開発としてプロジェクトが推進されました。
本システムでは、BIMモデルの建築形状データを読み込み、最適な幹線ルートを3次元空間上で自動生成します。ルート生成にとどまらず、幹線設備平面図、系統図、単線結線図、各種機器リスト、Excel形式の技術計算書までを一元的に自動出力する機能を備えています。
従来の概算業務とVOLDAR導入後のプロセス比較
| 項目 | 従来の手作業による概算設計 | VOLDARを活用した自動設計 |
|---|---|---|
| 作業工数・所要期間 | 複数人で2〜3週間 | 1人で約1時間 |
| ルート・容量算定手法 | 個々の設計者の経験則(暗黙知) | 関電工の設計ロジックに基づく自動計算 |
| 成果物の作成形式 | 2D図面と手動入力の計算書 | BIM連動の3Dモデル・各種図面・Excel計算書 |
| 後工程へのデータ連携 | 再入力による転記作業が発生 | BIM属性情報を施工・積算へそのまま連携 |
開発の経緯と学会での成果公表
VOLDARの開発成果は、実務運用に先駆けて学術分野でも発表されています。両社は2025年度の電気設備学会全国大会で基礎技術を先行発表したのち、2026年9月3日から4日に広島市で開催された2026年度電気設備学会全国大会において、「幹線の概算見積根拠図作成業務の自動化・効率化(1)・(2)」と題した研究発表を行いました。
関電工からは捧慎一氏、佐藤芳伸氏、榎本良太氏、白土知憲氏、西脇一真氏、西野雄大氏が、Arentからは舟越功貴氏、山越将之氏、佐野龍太郎氏が登壇し、アルゴリズムの妥当性と計算精度を公表しています。
国内におけるBIM活用実態と生産性の壁
Arentが実施したBIM活用満足度調査によると、BIM活用による成果を実感している領域として「顧客へのプレゼンテーション」を挙げた回答者は86.6%に達しています。3次元モデルを用いた意匠や空間の可視化は発注者向けの提案ツールとして定着しています。
一方で、「業務効率化や業務フローの改善による生産性向上」で成果を実感している回答者は43.0%にとどまります。設計段階で部材情報や属性データを手動入力する負担が大きく、入力したデータが後工程の積算や施工へシームレスに引き継がれないため、導入コストに見合う実利を得られていない現場が依然として多く存在します。VOLDARはこの初期入力の工程そのものを自動化することで、BIMの入力負荷を軽減するアプローチをとっています。
関電工は2024〜2026年度の中期経営計画において「全業務のデジタル化と経営情報統合基盤の確立」を掲げており、DXの重点項目として「プロセス改革と商品化」「AIと効率化」を推進しています。同社は今後2年以内を目途に、一般的な建築物における電気設備基本設計の大部分を自動化する計画です。
参考記事: BIM/CIMとは?原則義務化の運用ルールと実務での導入メリット・導入ステップを解説
電気設備自動設計が建設サプライチェーンに及ぼす影響
設備設計プロセスの自動化は、電気工事を請け負う専門工事業者にとどまらず、元請けゼネコンや設計事務所の実務フローにも直接的な影響を与えます。
サブコン・専門工事業者の積算工数削減と技能継承
設備サブコン各社において、2024年4月1日から適用された改正労働基準法による時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項付きで年720時間以内)への対応は経営上の必須命題となっています。特に見積・概算業務は設計変更に伴う再計算が多く、技術者の時間外労働を増加させる主因となっていました。
VOLDARのように設計手順をアルゴリズム化することで、作業時間が短縮されるだけでなく、ベテラン技術者の退職に伴う技術喪失を防ぐことが可能になります。若手技術者がシステムを用いて適正なルートと計算書を速やかに出力できるようになるため、属人化を排除した組織的な施工管理・積算体制の構築につながります。
参考記事: サブコンとは?ゼネコンとの違いから仕事内容・年収・現場DXまでわかりやすく解説
ゼネコンの概算精度向上とフロントローディングの加速
元請けゼネコンにとって、施主に対する企画・基本設計段階での工事費提示スピードは受注競争力を左右します。従来は設備サブコンからの概算回答を待つために2〜3週間のリードタイムを要し、基本設計の変更が重なると見積もりの更新が停滞していました。
幹線設備の図面と計算書が約1時間で自動生成される環境が整えば、意匠や構造の設計変更に追従して設備コストを即座に再算定できます。プロジェクト初期段階で高精度な工事予算枠と根拠図面を確定させるフロントローディングが機能し、施工段階での予算超過や取り合い調整の手戻りを抑制できます。
設計事務所における定型作業の削減と品質検証への集中
設計事務所の設備設計者にとって、設備容量の算定やルート引き、単線結線図の作成といった定型業務は工数の大半を占めていました。また、白図から手動で幹線図を起こす作業は入力ミスや法規チェックの漏れを誘発しやすい工程でもありました。
計算書と結線図の自動出力が実用化されることで、設計者は作図や計算の入力作業から解放され、受変電設備の配置計画や省エネルギー手法の検討、施主のBCP要件への対応といった高度な検討業務に集中できます。設計初期における検証精度が高まることで、詳細設計への移行が円滑になります。
ConShiftの視点|「見せるBIM」から「解くBIM」への実利シフト
VOLDARの実装が示しているのは、建設業界におけるBIMの活用フェーズが、3Dグラフィックによる「見せるBIM(可視化)」から、設計・積算ロジックを実行する「解くBIM(自動化)」へと移行した点です。
これまで多くの建設現場において、BIMは意匠の合意形成や干渉チェックなど、空間把握の補助ツールとして主に扱われてきました。その結果、Arentの調査データにあるように「プレゼン満足度86.6%」に対して「業務効率化の実感43.0%」という乖離が生じ、入力負担に見合う費用対効果を現場が見出せない状況が続いていました。
今回の事例で特筆すべきは、関電工という国内大手サブコンが持つ技術計算や配線基準という「暗黙知のロジック」を、Arentのアルゴリズム実装力によってBIMモデルと直接連携させたことです。図面を描くためのBIMではなく、データを流し込めば法規と計算書を満たした図面と積算根拠が自動生成される仕組みを構築したことで、BIMは単なるデータ保管庫から「自動処理エンジン」へと役割を変えています。
今後は、電気設備にとどまらず空調・衛生設備や構造計算の領域においても、専門工事業者が持つ施工ノウハウのアルゴリズム化が進むと考えられます。データを蓄積するだけのプラットフォーム構築から、自社の固有技術をソフトウェアコードに落とし込み、積算・見積リードタイムを短縮できる企業が、建設サプライチェーンにおける主導権を握ることになります。
明日から取り組むべきアクション
設備設計プロセスの自動化とBIM連携の流れに対し、経営層および現場リーダーが直ちに着手すべき取り組みを整理します。
- 見積・概算業務における作業時間と手戻り頻度の実態把握
自社で見積書や概算図面を作成する際、どの工程に何日を要しているか、設計変更による再計算が何回発生しているかを数値で可視化します。属人化している計算手順を特定することが自動化ツールの導入要件を定める前提となります。
- 社内に分散している設計判断基準と過去データの棚卸し
ベテラン技術者が個人の経験則で判断している機器容量の選定基準や配線ルートの選定ルールを、チェックリストや手順書として形式知化します。将来的なアルゴリズム連携やシステム化に対応できるよう、過去の設計実績データを整理することが求められます。
- BIMソフトの運用目的を「作図・可視化」から「属性データの積算連携」へ再設定
社内におけるBIMの運用ガイドラインを見直し、単なる3Dモデル作成にとどまらず、機器の仕様や数量データが後工程の積算や調達へ連動するモデリングルールを確立します。入力作業の重複を排除するデータ連携体制を整えることが、生産性向上に直結します。
出典: BUILT
出典: 株式会社関電工 プレスリリース
出典: 2026年度電気設備学会全国大会 プログラム
出典: 厚生労働省 適用猶予業種の時間外労働上限規制



