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法規制・制度 2026年10月21日

厚生労働省が建設業のカスハラ対策を10月義務化|5つの防止措置を規定

厚生労働省が建設業のカスハラ対策を10月義務化|5つの防止措置を規定

厚生労働省は改正労働施策総合推進法に基づき、建設業を含む全企業に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を義務付けました。2026年10月1日の施行に伴い、企業規模を問わずすべての事業主に対して基本方針の明確化や社内外への周知、相談体制の整備が義務化されます。

改正労働施策総合推進法が定める義務措置と建設業への適用範囲

厚生労働省は「カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」を公布し、顧客や取引先からの著しい迷惑行為から労働者を保護する雇用管理上の措置を事業主に義務付けました。一般消費者を相手にする小売業やサービス業にとどまらず、BtoB取引や請負契約が主軸となる建設業も等しく義務化の対象です。

指針では、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、労働者の就業環境が害されるもの」と規定しています。この「顧客等」には一般の施主や近隣住民だけでなく、発注者、元請企業、さらには上位の取引先が含まれます。

カスハラ対策法制化の経緯と施行スケジュール

法制化に向けた議論は、2024年以降の労働政策審議会および関係省庁の連携会議を通じて段階的に進められてきました。

年月日 主な動きと決定事項
2024年12月26日 労働政策審議会雇用環境・均等分科会にて防止対策義務化の建議をとりまとめ
2025年1月17日 国土交通省を含む関係省庁による第1回「カスハラ防止対策推進関係省庁連携会議」開催
2025年6月4日 改正労働施策総合推進法が参議院本会議で可決・成立(6月11日公布)
2026年2月26日 厚生労働省が「カスタマーハラスメント防止指針」を告示・公表
2026年10月1日 改正法施行、全事業主を対象にカスハラ防止措置が義務化

事業主に義務付けられる5つの雇用管理上の措置

厚生労働省指針に基づき、建設会社が講じなければならない具体的な防止措置は以下の項目で構成されます。

  • 事業主の方針明確化と周知・啓発: カスハラに対する基本方針を策定し、就業規則や社内規定に明文化した上で、自社Webサイトや契約書面等を通じて社内外に周知する。
  • 相談体制の整備: 現場の従業員が不当な要求を受けた際に報告・相談できる専用窓口を設置し、担当者が迅速に対応できる体制を整備する。
  • 事後対応の迅速・適切な実施: 相談を受理した際、速やかに事実関係を確認し、被害を受けた担当者のケアや相手先への組織的な申し入れを会社として行う。
  • プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止: 相談者や事実確認に協力した従業員の個人情報を保護し、相談を理由とする減給や配置転換などの不利益な取り扱いを禁じる。
  • 他社への協力対応(努力義務): 自社の従業員が取引先に対してカスハラを行った疑いがある場合、相手方企業からの事実確認要請に誠実に対応するよう努める。

参考記事: 改正労働施策総合推進法、10月1日施行で義務化される5つの防止措置

調査データに見る建設業界のカスハラ被害実態

建設現場は屋外での作業、重層下請構造、近隣住民との接触など、多様な関係者が交錯する環境にあります。厚生労働省や調査機関の公表データによると、建設現場における迷惑行為の発生頻度は高水準で推移しています。

調査項目 数値 出典・調査概要
建設業のカスハラ被害経験割合 14.5% 帝国データバンク「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」(2024年7月)
企業のカスハラ相談発生割合 27.9% 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年公表)
カスハラ相談企業の該当認定割合 86.8% 同上(相談があった企業のうち実際にカスハラと判断した割合)
建設・採掘職の反復被害経験割合 26.8% 同上(職種別で「何度も繰り返し経験した」と回答した割合の最高値)

厚労省の実態調査において、過去に迷惑行為を受けた際の現場の対応は「上司に引き継いだ」(37.4%)に次いで「謝り続けた」(32.1%)が上位を占めていました。また、職種別で「何度も繰り返しカスハラを経験した」と回答した割合は建設・採掘職が26.8%と全職種中最も高く、現場の担当者が理不尽な要求を個人で抱え込み、謝罪を重ねて事態を収束させてきた実態が数字に表れています。

不当な商習慣の是正と改正建設業法との連動

建設業におけるカスハラは、暴言や威圧的な態度といった言動面だけでなく、契約内容や商習慣に直結する金銭的・労務的な不当要求として顕在化します。

「著しく低い請負代金」と過剰な値引き要求の排除

発注者や上位の元請企業が、正当な積算根拠を無視して一方的な指値発注を行ったり、契約直前に過剰な値引き(歩引き)を迫ったりする行為は、労働施策総合推進法上のカスハラに該当するだけでなく、改正建設業法が禁じる「著しく低い請負代金の禁止」に抵触します。

中央建設業審議会が作成・勧告する「労務費の基準(標準労務費)」を下回る代金での契約締結は法令違反の対象となります。カスハラ防止措置の義務化により、受発注間の価格交渉において威圧的な態度で原価割れの受注を強要する行為は、労務管理と業法遵守の双方から厳格に追及されます。

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

仕様外の無償工事・追加作業要求への規制

建設現場で頻発してきた「ついでに直してほしい」「この程度の追加工事はサービスでやるのが当然だ」といった無償工事の強要も、典型的な不当要求に該当します。建設業法第19条第2項では、工事内容の変更や追加が発生した場合、着工前に書面による変更契約を締結することが義務付けられています。

正当な設計変更や工期延長の協議に応じず、担当者を怒鳴りつけて無償で作業を行わせる行為は、カスハラ防止指針が規定する「手段・態様が社会通念上不相当なもの」に合致します。企業は、現場監督が個人的な判断で無償作業を引き受けないよう、見積提示と契約変更を前提とした組織的対応ルールを社内に徹底する必要があります。

参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点

建設Gメンによる集中調査との連携

国土交通省は全国158名体制の「建設Gメン(建設業適正取引推進指導員)」を配置し、請負契約の適正化や労務費転嫁の調査を実施しています。不当な代金減額や工期短縮の強要に対しては、国土交通省の駆け込みホットラインへの通報や立入検査を通じた行政指導が行われます。

労務施策総合推進法に基づく労働局の指導と、建設業法に基づく建設Gメンの立入調査が連動することにより、取引上の優越的地位を背景とした不当要求に対する行政の監視体制が強化されています。

参考記事: [国土交通省が11月に158名体制の建設Gメン集中調査|労務費転嫁を指導](https://conshift.net/2026/10/19/post-1378/)

建設業界各プレイヤーに生じる実務上の影響

カスハラ防止措置の義務化は、重層請負構造の中で業務を行う各事業者の日常業務と契約実務に変更を促します。

ゼネコン(元請け):対外防衛体制の構築と下請管理ガバナンス

元請であるゼネコンは、施主や近隣住民からの不当要求に対する防衛体制を整えると同時に、自社が下請企業に対して加害者とならないための社内統制を構築する必要があります。

施主からの理不尽な仕様変更や値引き要求に対しては、現場代理人任せにせず、支店や法務部門が介入するエスカレーションルートを確立しなければなりません。工事請負契約約款にカスハラ行為に対する対応条項を明記し、威圧的な言動や過剰な要求が繰り返される場合には工事の中断や契約解除を法的に行える規定の整備が必要です。

また、元請の工務担当者や調達担当者が下請事業者に対して行う指値発注や工期短縮の指示についても、言動基準の見直しが求められます。下請企業からの正規の見積もりに対して一方的な減額を迫る行為は、下請法や建設業法だけでなくカスハラ防止指針に抵触するため、購買プロセスの透明化と交渉記録の保存が不可欠です。

中小工務店・地場ビルダー:個人施主との契約明確化と組織対応

個人施主との距離が近い中小工務店や地場ビルダーでは、引き渡し間際の仕様変更要求や、SNSへの悪評投稿を盾にした値引き要求といったトラブルが発生しやすい傾向にあります。

これまでは営業担当者や現場監督が関係性維持のために無償で手直しを引き受ける事例が見られましたが、義務化に伴い、設計仕様書や変更合意書の署名・押印ルールを厳格化する必要があります。契約前の段階で「カスハラに対する基本方針」を書面や自社Webサイトで提示し、社会通念を超える要求には組織として応じない姿勢をあらかじめ示すことが予防策となります。

トラブル発生時には、担当者単独での訪問や電話対応を禁止し、複数人での対応や会話の記録・録音を行うマニュアルを整備することで、現場の心理的負担を軽減する体制を作ることが求められます。

現場監督・施工管理者:個人対応の廃止と協議履歴の書面化

現場監督は、施主、近隣住民、元請、下請職長との間で発生する要求の窓口となってきました。厚労省の調査で建設・採掘職の26.8%が反復被害を経験している背景には、現場監督が個人的に謝罪して収束を図る傾向があった点が挙げられます。

今回の義務化により、現場監督は会社の定めた基準に基づいて毅然とした対応を取る根拠を得ます。怒鳴り声での威嚇、土下座の強要、夜間の執拗な電話などの行為に直面した場合、その場で要求を呑むのではなく、対応を一時中断して本社の相談窓口や上長へ即座に報告する運用へ移行します。

追加作業の指示を受けた際にも、現場での口頭約束を廃止し、作業内容、工期、追加費用の内訳を記載した確認書を作成して相手方の承諾を得る業務手順を徹底することが自身の身を守る手段となります。

ConShiftの視点:商習慣から契約主義への移行と労務費基準の実効性

建設業界では長年にわたり、「顧客第一主義」や「元請と下請の力関係」を背景に、仕様外の作業や無理な値引き要求を現場の労務で吸収する商習慣が存在していました。今回のカスハラ対策義務化は、そうした商習慣に終止符を打ち、対等な契約関係に基づく近代的な産業構造へ移行するための制度的基盤となります。

実務上の成否を分けるのは、改正労働施策総合推進法の指針と、改正建設業法における「労務費の基準(標準労務費)」の連動です。国交省の調査では「労務費の基準」の事業者認知度が34.1%にとどまるなど、制度の浸透には課題が残されています。しかし、内訳明示のない一括値引きや無償工事の強要が「法的なカスハラ」に該当すると明確に位置付けられたことで、下請企業や施工管理者は客観的な数値を根拠に不当要求を拒絶できるようになります。

企業側にとっても、従業員を守る方針を対外的に公表することは、離職防止や若手入職者の確保に直結する経営課題です。現場任せの曖昧な合意形成を排除し、すべての変更協議と対価設定を書面化する「契約主義」を現場レベルで徹底できるかどうかが、建設各社の持続可能性を左右します。

明日から着手すべき実務対応

法令の施行に伴い、建設企業が速やかに着手すべき実務項目は以下の通りです。

  1. 基本方針の策定と社内外への周知

就業規則にカスハラ防止規定を追加するとともに、自社のWebサイト、会社案内、見積書・契約書の添付資料に「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を記載し、不当な要求には応じない姿勢を明文化する。

  1. 相談窓口の設置と運用フローの策定

総務部門や外部委託窓口を活用して従業員が相談できる専用ホットラインを設置し、相談を受けた際の事実確認手順、関係部署(法務・役員)へのエスカレーションルールを定めた対応マニュアルを整備する。

  1. 契約変更プロセスの厳格化と記録の徹底

現場監督や営業担当者が独断で追加作業や値引きを承諾することを社内規定で禁止し、仕様変更が発生した際は必ず書面で見積もりを再提出し、注文書・請書を交わしてから着工する業務フローを徹底する。


出典: 日経クロステック(xTECH)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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