厚生労働省静岡労働局は、2025年度における建設業関連の労働基準関係法令違反事案として、計9件を検察庁へ書類送検した。全業種の送検件数26件のうち建設業は34.6%を占め、労働安全衛生法違反が6件、労働基準法・最低賃金法違反が3件となっている。
静岡労働局管内における送検状況と重大事案の概要
静岡労働局が発表した2025年度の送検実績によると、建設業の送検件数は前年度の5件から80.0%増加した。全業種送検数26件のうち建設業は製造業と並んで最多の割合(34.6%)を占めている。
| 年度 | 全業種送検数 | 建設業送検数 | 建設業の割合 | 主な傾向 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年度 | 24件 | 13件 | 54.1% | 建設業が過半数を占め最多 |
| 2024年度 | 26件 | 5件 | 19.2% | 製造業(9件)、その他に次ぐ3番目 |
| 2025年度 | 26件 | 9件 | 34.6% | 前年度比80%増、製造業と並び最多 |
送検事案の内訳を見ると、労働安全衛生法関係が6件、労働基準法・最低賃金法関係が3件となっている。労働安全衛生法違反の具体的な内訳は、危険防止措置に関する違反が3件、特定元方・注文者の違反が2件、労災隠しが1件である。
重大事故の経緯と法的違反事由
2025年度の送検事案の中で重大な影響を及ぼしたのが、国道1号静清バイパス清水立体事業の現場で発生した鋼製橋桁の落下事故である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生時期 | 2023年7月6日未明 |
| 工事名 | 国道1号静清バイパス 尾羽第2高架橋鋼上部工事 |
| 事故概要 | 架設中の鋼鉄製橋桁(長さ約63m、重量約140t)の降下作業中に約7〜9mの高さから落下、8人死傷(2人死亡、6人重軽傷) |
| 元請の送検容疑 | 橋桁架設に使用する主要設備に関する計画未作成(安衛法第30条・安衛則第638条の3違反の疑い) |
| 2次下請の送検容疑 | 架設用設備の落下・倒壊防止措置の未実施(安衛法第21条・安衛則第517条の7違反の疑い) |
| 送検年月 | 2026年3月(静岡地検へ書類送検) |
この事案では、架設設備の計画を作成していなかった元請事業者と、設備自体の落下・倒壊防止措置を講じていなかった2次下請事業者の双方が刑事責任を問われる形となった。
また、法面地滑り対策工事において休業を伴う労働災害が発生した際、所轄の労働基準監督署長へ労働者死傷病報告を速やかに提出しなかった事案も労働安全衛生法第100条違反(労災隠し)として送検されている。
参考記事: 労働安全衛生法(安衛法)の法体系と現場実務|選任基準から安衛則との違いまで徹底解説
建設業界の各階層における実務への影響
静岡労働局による厳格な送検措置は、重層下請構造における各プレイヤーの業務執行体制に直接影響を及ぼしている。
元請ゼネコン:特定元方事業者としての計画策定義務の厳格化
元請企業に対しては、特定元方事業者としての統括管理責任が厳密に問われる。橋梁架設など特殊な機械・設備を使用する工事において、施工計画書や設備配置計画の不備・未作成は、事故発生時に直接の刑事罰対象となる。
現場での作業を下請業者に委託している場合であっても、元請が主要設備の構造計算や架設手順の妥当性を確認し、計画書として残していない状態は許容されない。下請任せの施工計画チェック体制から脱却し、元請の技術者が機械設備・仮設構造の安全性を検証するプロセスの確立が必須となる。
参考記事: 施工計画書とは?書き方のコツから標準14項目・DXによる作成効率化まで解説
現場監督・施工管理者:作業手順の履行確認と是正記録の保持
現場監督や施工管理者には、作成された計画書が現場で形式化せず、実際の作業手順として運用されているかを点検する実務が求められる。仮設設備の組み立てや特殊重機の稼働に際し、計画と現場の乖離を早期に発見・是正する手順が不可欠である。
また、事故や負傷が発生した際の報告体制においても、現場判断による遅延や隠蔽は送検に直結する。軽微な休業災害であっても法定の労働者死傷病報告を速やかに行うフローを現場管理規程に明記し、運用を徹底する必要がある。
参考記事: 作業手順書とは?施工計画書との違いや法的根拠・実効性のある書き方を徹底解説
サブコン・専門工事業者:安全教育の再徹底と下請階層でのコンプライアンス
2次下請を含む専門工事業者においては、自社が担当する作業区画や使用設備の物理的な危険防止措置を講じる責任が明確化された。元請の指示に従って作業を行う立場であっても、労働安全衛生規則に定められた落下・倒壊防止措置を怠れば事業者自身が書類送検の対象となる。
現場リーダーとなる職長や安全衛生責任者が、現場入場時の送り出し教育や危険予知活動(KY活動)を通じて、安全設備の固定や点検記録を確実に残す運用が求められる。
参考記事: 職長・安全衛生責任者教育とは?選任基準や講習カリキュラム・費用と受講方法を解説
ConShiftの視点:計画書類の実効性検証と報告プロセスの標準化
静清バイパスの事案における「元請の計画未作成」と「下請の危険防止措置不備」という双方への送検は、重層下請構造における責任の分界点を改めて示している。元請が書類上の計画を整備するだけでなく、その計画が現場の下請作業員まで伝達され、物理的な措置として実行されているかを確認・記録する仕組みがない場合、重大事故時の免責は成り立たない。
また、法面工事での労災隠し送検に見られるように、休業災害の報告遅延に対する労働基準監督署の監視姿勢も厳格化している。現場でのヒヤリハットや不安全状態、負傷事故の発生状況をデジタルツール等で元請・下請間で共有し、所轄官庁への報告手続きをルーティン化する管理体制の構築が、法的リスクを遮断するための実務要件となる。
まとめ
静岡労働局による2025年度の送検事例を踏まえ、各現場で直ちに見直すべき実務対応は以下の通りである。
- 特殊機械・仮設設備を使用する作業における施工計画書の作成有無および計算根拠の再確認
元請主導で計画書の不備がないかを点検し、下請企業へ作業手順の事前周知を行う。
- 重層下請現場における物理的な落下・倒壊防止措置の現地確認と点検簿の保管
2次下請以降の作業範囲であっても、安全設備が正しく設置されているかを日常巡視で記録する。
- 軽微な負傷事故を含む休業災害の速やかな報告フローの社内周知
現場判断での対応保留を防ぐため、労働者死傷病報告の提出手順を安全管理マニュアルで明文化する。
出典: 建通新聞 電子版
出典: 静岡労働局
出典: 国土交通省 中部地方整備局 静岡国道事務所

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