竹中工務店は2026年10月22日、独自開発した耐火集成材「燃エンウッド」(1時間/2時間耐火仕様)の特許技術および大臣認定について、民間建築工事向けのライセンス提供を2026年10月より開始すると発表した。木造耐火建築の実績を持つ設計事務所との連携を条件に、同社以外の施工会社でも最上階から14層までの耐火木造建築に本技術を適用できるようになる。
「燃エンウッド」民間開放の骨子とライセンス適用条件
竹中工務店が今回開始するライセンス供与は、これまで公共建築工事に限定されていた「燃エンウッド」の利用枠組みを民間建築工事へ拡大する措置である。これにより、民間のオフィスビル、商業施設、複合ビルなどの新築・増改築において、竹中工務店が施工を受注しない案件であっても同部材の採用が可能となった。
提供されるライセンスの対象範囲
施工会社や設計者が本ライセンスを通じて利用できる権利および技術範囲は以下の3点である。
- 特許技術の使用権:竹中工務店が保有する耐火集成材「燃エンウッド」の構造および製造技術に関わる特許の実施
- 国土交通大臣認定の利用権:1時間耐火および2時間耐火の柱・梁部材として取得済みの国土交通大臣認定の適用
- 登録商標の使用権:竹中工務店の登録商標である「燃エンウッド®」の名称使用
利用に求められる2つの前提条件
他社施工の民間プロジェクトで本技術を導入する場合、無条件で材料を購入・施工できるわけではない。竹中工務店は品質管理と構造安全性の担保を目的として、以下の条件を規定している。
- 設計者の実績要件:木造の耐火建築物に関する知見と設計実績を有する設計事務所が設計を担当すること
- 施工会社の連携確認:上記の実績を有する設計事務所のもとで、施工計画および品質管理体制を連携して構築できる施工会社であること
大臣認定部材を用いた木造耐火建築では、接合部の納まりや被覆厚の管理、現場での雨水対策など特有の施工管理が求められる。認定内容から外れた施工による耐火性能の欠落を防ぐため、設計・施工双方の実務能力が確認された案件に限り部材供給が行われる。
製造・販売を担う集成材メーカー4社
部材の製造および供給は、竹中工務店とライセンス契約を締結している集成材メーカー4社が担当する。設計会社および元請ゼネコンは、これらのメーカー各社へ直接問い合わせを行い、部材の調達や割付計画を進める体制となる。
| 集成材メーカー名 | 担当窓口 | 連絡先(電話番号) |
|---|---|---|
| 齋藤木材工業株式会社 | 建築部 | 0268-68-3811 |
| 藤寿産業株式会社 | 営業部 | 024-944-7550 |
| 銘建工業株式会社 | 木質構造事業部 | 03-5801-9857 |
| 山佐木材株式会社 | 営業部 | 0994-31-4141 |
参考記事: 不燃・準不燃・難燃材料の違いとは?加熱時間と認定番号の見分け方を徹底解説
耐火集成材の構造機構とこれまでのライセンス展開経緯
燃エンウッドは、木材をそのまま室内に露出させる「木材現し(あらわし)」の意匠を保ちながら、建築基準法で規定された耐火性能を満たす木質構造部材である。
3層構造による耐火メカニズム
火災時に木材が燃焼すると炭化が進むが、燃エンウッドは性質の異なる材料を同心円状に積層することで、中心部の構造耐力を維持する仕組みを採用している。
- 荷重支持部(内層):建物の鉛直荷重および地震力を支持する中心の集成材コア。火災時の熱から完全に保護される設計となっている。
- 燃え止まり層(中間層):モルタルや石こう系材料などの不燃材と木材を組み合わせた層。吸熱効果により燃焼の進行を物理的に食い止め、火災の熱が内部の荷重支持部に伝わるのを防ぐ。
- 燃え代層(外層):最外層を構成する木材層。火災初期に炭化することで断熱効果を発揮し、内部への熱伝導を遅らせる。通常時は化粧材として室内に木目の表情を露出させることが可能である。
この自立した燃え止まり機構により、火災が一定時間継続した後に自然鎮火した場合でも、荷重支持部の断面欠損が生じない。2時間耐火仕様が認可されたことで、建築基準法上、最上階から数えて14層までの階層に木造柱・梁を適用できる仕様となっている。
2013年から2026年までの展開推移
竹中工務店は要素技術の開発から実物件への適用、公共工事への部分開放を経て、段階的に本技術の実装範囲を拡大してきた。
| 年月 | 出来事 | 技術的・制度的進展 |
|---|---|---|
| 2013年 | 初弾プロジェクトへの実弾適用 | 国内で初めて市街地の木材現し大規模木造に1時間耐火仕様を適用 |
| 2016年12月 | 公共工事向けライセンス供与発表 | 齋藤木材工業、藤寿産業、銘建工業の3社と製造・販売契約を締結合意 |
| 2017年〜2019年 | 1時間耐火の公共ライセンス本格運用 | 2019年に山佐木材が加わり、集成材メーカー4社体制へ移行 |
| 2018年1月 | 2時間耐火の大臣認定を取得 | 柱・梁部材で認定取得。14階建て(または最上階から14層)への適用が可能に |
| 2024年8月 | 2時間耐火の公共ライセンス契約締結 | 集成材メーカー4社へ2時間耐火仕様の製造・販売権を供与 |
| 2026年10月 | 民間工事向けライセンス供与を開始(本件) | 設計実績を有する設計事務所案件を対象に、他社施工を含む民間全般へ開放 |
参考記事: CLT(直交集成板)とは?構造メカニズムから坪単価・補助金まで徹底解説
法規制の改正動向と非住宅・中高層木造の市場環境
今回の民間ライセンス開放の背景には、木造建築を巡る関係法令の改正と、民間の非住宅建築物における低炭素建材への需要急増が存在する。
関係法令の推移と木造化の対象拡大
2021年10月に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市の木造化推進法)」により、国や自治体による木材利用促進の対象が従来の公共建築物から民間建築物を含む建築物一般へと拡大された。
さらに2025年4月に施行された改正建築基準法では、中大規模建築物の木造化を阻んでいた防火規定が合理化され、階数や延床面積に応じた耐火性能の要求基準が見直された。これにより、従来は鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)で計画されていた都市部の事務所ビルや商業施設において、構造躯体の一部または全部を木造化する設計が法規上扱いやすくなっている。
階数別に見る木造化率の偏りと未開拓領域
林野庁の統計によると、建築着工床面積ベースにおける木造率は用途や規模によって偏りが顕著である。
- 低層住宅(1〜3階):80%超が木造で施工されている
- 低層非住宅(1〜3階):約15%の木造率にとどまる
- 中高層建築物(4階建て以上):木造率は1%未満(2023年実績では0.1%以下、約4.6万㎡)
4階建て以上の中高層建築物における木造化が進まなかった最大の要因は、1時間〜2時間の耐火性能を満たす木質部材の入手経路が限られていたことにある。鉄骨やコンクリートを石こうボードで多重被覆する工法では木材現しの意匠が得られず、独自の大臣認定を取得するには数千万円単位の試験・申請コストと数年の開発期間を要するため、スーパーゼネコン各社による自社特命案件での囲い込みが常態化していた。
参考記事: 国交省、27年度1699億円計上でLCCO2補助新設へ|低炭素施工を加速
建設業界の各プレイヤーに生じる実務上の影響
竹中工務店による大臣認定技術の民間開放は、元請ゼネコン、組織設計事務所、集成材メーカーのサプライチェーン構造に直接影響を与える。
ゼネコン(元請け):準大手・中堅による都市部木造ビルの受注領域拡大
自社で木造耐火の大臣認定を持たない準大手・中堅ゼネコンにとって、燃エンウッドの調達が可能になったことは、都市部の民間再開発や社屋建築における提案力の補強に直結する。
発注者から「エントランスや上層階の執務空間に木材を露出させたい」「建物全体のエンボディドカーボンを低減したい」という要件を提示された場合、これまでは鉄骨造に木目調シートを貼るか、木造耐火認定を持つスーパーゼネコンに施工を譲らざるを得ないケースが散見された。今後は、実績のある設計事務所と組むことで、中堅ゼネコンであっても燃エンウッドを用いた14階までの木質構造案件を入札・施工できるようになる。
ただし、木質構造特有のクリープ変形や金物接合部の建方精度、降雨時の木材養生計画など、鉄骨・RC造とは異なる現場施工管理能力が問われることになる。
設計事務所・設計者:特命施工縛りの解消と木質ハイブリッド設計の標準化
組織設計事務所やアトリエ設計事務所の実務においては、施工会社を特定せずに基本設計・実施設計を進められる環境が整う。
従来、大手ゼネコンが開発した耐火集成材を図面に落とし込む場合、当該ゼネコンの特命受注を前提とするか、実施設計段階で汎用的な鉄骨造へ設計変更を余儀なくされる制約があった。今回のオープン化により、設計段階で「燃エンウッド指定」または同等品指定を行い、施工者選定で見積もり競争を行わせることが可能になる。
また、最上階から14層までという適用範囲を活かし、地下および低層部(1〜2階)をRC造・S造とし、中高層部を木造とする「木質ハイブリッド構造」の納まり設計が標準的な設計選択肢として定着する基盤ができる。
集成材メーカー:民間案件の獲得による稼働平準化と製造原価の低減
製造・販売を担う齋藤木材工業、藤寿産業、銘建工業、山佐木材の4社にとっては、公共建築工事の入札スケジュールに左右されていた耐火集成材の生産ラインを、民間工事の需要で通年平準化できる利点がある。
燃え止まり層を組み込む耐火集成材は、一般的な構造用集成材に比べて製造工程が複雑であり、製造ラインの段取り替えコストが課題であった。民間オフィスや商業ビルからの定常的な発注が確保できれば、工場稼働率の向上による製造原価の圧縮が見込める。部材価格の低下は、延床面積数千平方メートル規模の中規模ビルにおける木造採用のコストハードルを引き下げる要因となる。
ConShiftの視点(独自考察)
独自技術の囲い込みから「プラットフォーム提供」への転換
大手ゼネコンが膨大な研究開発費を投じて取得した大臣認定技術を他社へライセンス提供する動きは、知財の排他的独占による工事受注モデルから、部材供給とライセンス供与を通じたデファクトスタンダード形成モデルへの転換を示している。
背景にあるのは、2028年度に開始が予定されている改正建築物省エネ法に基づく「建築物通算炭素排出量(LCCO2)評価」の届出義務化である。延床面積5,000㎡以上のオフィスビル等を対象に、建設時の排出量を含むライフサイクル全体でのGHG評価が義務付けられる中、デベロッパー各社は構造躯体の木造化を急速に求めている。
1社単独の施工能力だけでは急拡大する民間の木造化需要を取りこぼすリスクがある。竹中工務店は自社施工案件以外にもライセンスを広げることで、集成材メーカー4社とのサプライチェーンを強固にし、木造耐火部材における業界標準の地位を固める狙いがある。
施工管理における「実績要件」が現場のボトルネックになる可能性
本ライセンスの民間適用にあたり、竹中工務店は「木造耐火建築物の設計実績を有する設計事務所」および「その設計事務所と連携する施工会社」であることを確認要件として設定している。この規定は品質事故防止のために不可欠である一方、短期的には現場適用のボトルネックになり得る。
日本国内において、4階建て以上の木造耐火建築物を設計・監理した経験を持つ設計事務所は極めて少数に限られている。準大手・中堅ゼネコンが民間施主から木造オフィスの相談を受けた場合、実績要件を満たす設計事務所をいかに設計協力パートナーとして巻き込めるかが、受注確度を左右する要因となる。
単に材料の調達ルートを確保するだけでなく、木造耐火特有の取り合い詳細図の作成や、施工時の水分計を用いた含水率測定、仮設養生手順の確立といった実務ノウハウを早期に社内標準化できるかどうかが、施工会社の競争力を分ける。
まとめ
竹中工務店による「燃エンウッド」の民間建築工事向けライセンス供与は、他社施工による中高層木造ビルの実装を現実的な選択肢に変える節目となる。
明日から意識すべき実務対応は以下の通りである。
- 設計実績ネットワークの把握:自社の営業・積算部門において、木造耐火建築物の設計実績を有する設計事務所との協業関係やコンタクト状況を確認する。
- メーカー各社との調達リードタイムの共有:齋藤木材工業、藤寿産業、銘建工業、山佐木材の4社に対し、2時間耐火仕様を含む部材の標準的な製作期間と割付条件をヒアリングし、見積積算の歩掛に反映する。
- 低層S造・RC造案件の木質化検討:現在引き合いのある4〜14階建ての民間オフィス・研究施設・社屋案件において、構造躯体の一部を燃エンウッドに置き換えた場合のLCCO2削減効果とコスト増減の比較検証に着手する。
出典: 竹中工務店
出典: 株式会社竹中工務店 プレスリリース(2016年12月7日)
出典: 株式会社竹中工務店 プレスリリース(2024年8月1日)
出典: 株式会社竹中工務店 プレスリリース(2018年1月30日)
出典: 林政ニュース
出典: 林野庁「令和5年度 建築物における木材の利用の促進に向けた措置の実施状況の取りまとめ」
出典: 国土交通省「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」



