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法規制・制度 2026年11月2日

厚生労働省が残業月45時間の一律指導を9月撤廃|健康確保措置の確認へ転換

厚生労働省が残業月45時間の一律指導を9月撤廃|健康確保措置の確認へ転換

厚生労働省は2026年9月1日、全国の労働基準監督署が実施してきた時間外労働を原則「月45時間以内」に抑えるよう求める一律の行政指導を取りやめました。特別条項付き36協定を締結している企業に対し、労働時間数のみを捉えて一律削減を迫る手法を改め、医師による面接指導など健康確保措置の履行確認を中心とする運用へ転換しています。

「月45時間」一律指導撤廃の経緯と新たな労務指導方針

今回の指導見直しは、2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」および「経済財政運営と改革の基本方針2026」に基づき実施されました。高市首相就任後の労働時間規制緩和に関する検討指示や、全国の商工会議所を通じた中小企業への実態調査を経て、労使合意に基づいた柔軟な働き方を阻害しない行政運用への変更が合意された形です。

一律指導撤廃のタイムラインと政策決定の推移

行政指導の転換に至る主な動きは以下の通りです。

年月日 主体 決定事項および公表内容
2025年10月21日 内閣総理大臣 厚生労働大臣に対し労働時間規制緩和の検討を指示
2026年4月〜5月 日本商工会議所 中小企業1,724社を対象に労働時間実態調査を実施
2026年7月21日 閣議決定 成長戦略等で労基署による健康確保措置確認への指導見直しを明記
2026年8月19日 厚生労働省 9月1日付での「月45時間以内」一律指導の取りやめを正式発表
2026年9月1日 労働基準監督署 時間外労働の一律削減指導を撤廃し、健康確保措置重点の運用を開始

監督指導方針の変更点と健康確保措置の義務

労働基準監督署の指導方針は、時間外労働の抑制目標そのものを撤回したわけではありません。適法な特別条項付き36協定が締結されている場合、単に月45時間を超えているという事実のみをもって削減指導を行う運用を停止しました。

一方で、法的な時間外労働の上限(原則月45時間・年360時間、特別条項発動時でも年720時間以内・単月100時間未満・複数月平均80時間以内)の枠組みは維持されています。指導の重点は、36協定で定められた健康確保措置(医師による面接指導、深夜業の回数制限、勤務間インターバルなど)が確実に履行されているかの確認に移りました。過重労働による健康障害のリスクが高い事業場に対しては、引き続き是正指導が実施されます。

実態調査に見る中小企業の労働時間と現場負担の偏在

全国47都道府県の324商工会議所を通じて中小企業1,724社を対象に実施された実態調査(2026年4月7日〜5月18日)では、時間外労働規制に対する企業の運用実態が示されています。

  • 事業運営への影響: 上限規制によって事業運営に制約が生じていると回答した企業は全体の19.1%
  • 管理職への負荷集中: 管理職やリーダー層の業務負担増加・偏在を挙げた企業は63.2%
  • 労働時間延長のニーズ: より長く働きたいと考える正社員が1割以上いると答えた企業は43.9%
  • 柔軟な制度への要望: 変形労働時間制など柔軟な制度を求める企業は72.6%
  • 実績労働時間: 月間平均の時間外労働が20時間未満の企業は81.0%、単月で45時間以上の時間外労働を行った企業は25.9%

この調査結果は、多くの企業で通常時の残業時間は抑制されているものの、繁忙期における月45時間超の発生や、上限規制の遵守に伴う管理職への業務集中が常態化している実態を示しています。

指導撤廃に対する労使双方・法曹界の賛否両論

一律指導の撤廃に対しては、現場の実態に応じた柔軟な運用を歓迎する意見と、長時間労働の再常態化を懸念する意見の間で激しい議論が交わされています。

賛成側・推進側の立場からは、繁忙期の工期厳守や突発的なトラブル対応において、月45時間を超える時間外労働が実務上不可避である点が強調されます。また、手取り収入を増やしたい労働者や、若手社員が現場経験を積む機会を制限しすぎないための措置として前向きに捉えられています。

一方で、労働界や法曹界からは強い批判が上がっています。日本労働組合総連合会(連合)の芳野友子会長は2026年8月20日の定例記者会見で、今回の見直しを「非常に遺憾」と表明し、時間外労働を助長しかねないと批判しました。健康確保措置の確認強化自体は評価しつつも、労働者の生命と健康を守るための規制緩和には警戒感を示しています。

同日、過労死弁護団全国連絡会議の代表幹事を務める川人博弁護士も緊急声明を出し、従来の是正方針を否定するものとして撤回を求めました。厚生労働省が公表した令和6年度の過労死等労災補償状況では、脳・心臓疾患に関する労災請求件数が1,030件、支給決定(認定)件数が241件と依然として増加傾向にあり、指導基準の緩和が過労死リスクの増大につながるとの指摘がなされています。

参考記事: 建設業の36協定・時間外労働の上限規制の基礎知識|2024年4月適用ルールと違反リスクを解説

建設業界の主要プレイヤーに及ぶ実務への影響

2024年4月より時間外労働の上限規制が適用されている建設業界にとって、今回の行政指導撤廃は法規制の緩和を意味するものではありません。しかし、現場の工程管理や人員配置の実務において、各プレイヤーの労務対応に異なる影響が生じています。

ゼネコン(元請け):自社基準による労務統制と安全配慮義務の継続

ゼネコン各社は、一律指導の撤廃を「残業枠の拡大」と誤認してはなりません。労働基準法上の上限基準(特別条項時:年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間超は年6回まで)は一切変更されておらず、違反時の刑事罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)や公共工事の指名停止処分リスクは従前通り存続します。

行政指導が健康確保措置の確認へ重点を移したことにより、元請企業には社員および協力会社に対する医師面接指導の実施状況や、インターバル確保の履歴管理がより強く求められます。自社で定めた労務上限の基準を緩めずに維持し、下請企業の過重労働を抑止する体制を継続することが不可欠です。

現場監督・施工管理者:心理的負荷の緩和と際限ない残業への防波堤

現場監督や施工管理者にとって、突発的な天候不順や設計変更が生じる繁忙期において、月45時間の枠に過度にとらわれていた心理的プレッシャーは一定程度緩和されます。実態調査でも示された「管理職・リーダー層への過度な業務集中」を是正するためのシフト調整が組みやすくなる側面があります。

しかし、現場に拘束される労働時間が際限なく延びる状態へ逆戻りすることは防がなければなりません。書類作成や安全写真の整理といった内業時間の削減が進まないまま現場対応時間を延ばせば、現場代理人の離職や健康被害へ直結します。業務プロセスの可視化とデジタル化による総労働時間の抑制管理が必要です。

職人・技能労働者:手取り増の期待と健康管理のトレードオフ

技能労働者の間では、日給月給制や残業手当に依存する給与体系において、労働時間の柔軟化が手取り額の増加につながるとして歓迎する声が存在します。若手技能者が早期に施工技術を習得するための稼働時間確保という観点でも肯定的な見方があります。

一方で、疲労蓄積に伴う労働災害の発生リスクは高まります。労働時間の増加による収入確保は持続可能な手段ではなく、中央建設業審議会が策定を進める「標準労務費」に沿った基本賃金の引き上げと、適正な工期設定を通じた週休2日の確保を両立させることが、各施工企業の喫緊の課題となります。

参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説

ConShiftの視点:労務管理は「時間数の一律抑制」から「健康措置の立証」へ

今回の指導方針転換により、建設業の労務管理は「単に月45時間以内に抑える形式的な勤怠管理」から、「特別条項適用時の健康確保措置を客観的に立証する実務」へと移行しました。

労働基準法第36条および労働安全衛生法に基づく医師の面接指導(月80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる労働者に対する実施)や、勤務間インターバル制度の運用履歴は、今後の労基署調査における主要な確認項目となります。勤怠管理システムと連携し、該当する現場代理人や技術者を早期に抽出し、産業医との面談日程を自動調整できる仕組みを備えているかどうかが、企業のコンプライアンス順守における境界線となります。

また、画一的な労働時間の制約から柔軟な運用へ舵が切られたとしても、労働時間の延長に依存して完工を急ぐ手法は、担い手確保の観点から通用しません。施工現場で求められるのは、クラウド施工管理ツールによる現場と事務所間の移動工数の削減や、遠隔臨場による立ち会い時間の短縮など、実作業以外の付帯業務を徹底的に削ぎ落とすオペレーションの確立です。時間規制の弾力化をデジタル活用による生産性向上と組み合わせられる企業のみが、技術者の健康維持と事業収益の確保を両立できます。

参考記事: 厚労省が9月16日に労働時間規制見直し着手、現場の労務管理に迫る変革

まとめ:明日から意識すべき労務管理の実務アクション

行政指導の基準変更を受け、施工現場および管理部門が明日から点検すべき実務項目は以下の通りです。

  • 法的な36協定特別条項の適用基準の再点検
    一律指導が撤廃されても、年720時間以内、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年6回までの上限規制は法的拘束力を維持しています。全技術者・管理職の超過状況をリアルタイムで追跡する体制を確認してください。
  • 特別条項に付帯する健康確保措置の実施状況の整備
    自社が締結している36協定の協定書を確認し、月45時間超の従業員に義務付けている健康確保措置(面談、インターバル、代休など)の実施記録が漏れなく保管されているかを監査してください。
  • 現場代理人の内業時間を圧縮するツールの棚卸し
    残業時間を増やすことで工程の遅れを取り戻す運用を避け、施工写真の自動整理や日報共有など、現場監督が事務作業に費やす時間を直接削減するデジタルツールの稼働状況を見直してください。

出典: 47NEWS
出典: 厚生労働省
出典: 読売新聞
出典: ラクスクラウド
出典: note(hirokimiyano)
出典: note(saeki2020)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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