- キーワードの概要:下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、発注側(親事業者)が立場を利用して不当な値引きや代金支払いの遅延を受注側に行うことを防ぐ法律です。資本金規模や取引内容によって適用が機械的に決まり、発注書の即時交付や60日以内の支払いなどが義務付けられています。
- 実務への関わり:建設業では現場の工事請負には建設業法が適用されますが、特注部材の製作委託や設計図面・BIMデータの作成外注には下請法が適用されます。調達・購買担当者は契約内容ごとに適用法規を切り分け、書面交付や支払期日を遵守して法令違反リスクを防ぐ必要があります。
- トレンド/将来予測:2026年1月施行の法改正により、従来の資本金基準に加えて従業員規模の基準が導入され、規制対象となる取引が拡大します。現場外注を含めたサプライチェーン全体で取引先情報の把握と適正な価格転嫁、コンプライアンス管理の徹底がより一層求められます。
- 下請法(下請代金支払遅延等防止法)の基本定義と対象取引・資本金区分の判定基準
- 対象となる4つの取引類型(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託)
- 親事業者と下請事業者を分ける資本金区分の判定マトリクス
- 建設業法と下請法の違いと適用境界線|工事・資材調達・設計委託の切り分けルール
- 建設工事の請負契約に下請法が適用除外となる理由
- 建設業者に下請法が適用される取引具体例
- 建設業法と下請法の規制内容比較
- 親事業者に課される「4つの義務」と遵守要件(3条書面・60日ルール)
- 3条書面の交付義務(必須12項目と電磁的記録運用)
- 下請代金の支払期日を定める義務(60日ルールの起算点と締め日実務)
- 書類作成・保存義務(5条書類)と遅延利息支払義務
- 親事業者の「11の禁止行為」と違反時の行政処分・企業名公表ペナルティ
- 建設資材調達・設計外注で頻発する禁止行為
- 違反調査から企業名公表・指名停止へのペナルティフロー
- 下請取引コンプライアンス点検リストと電子受発注の実装実務
- 電子受発注システム(EDI・クラウド契約)による統制機能の実装
- よくある質問(FAQ)
下請法(下請代金支払遅延等防止法)の基本定義と対象取引・資本金区分の判定基準
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、経済的に優位な立場にある親事業者が優越的地位を濫用し、下請事業者に不当な不利益を課す行為を取り締まる特別法です(法第1条)。独占禁止法を補完する位置づけにあり、その適用可否は当事者の合意や契約名称にかかわらず、法律が定める「取引内容の4類型」と「双方の資本金規模(または従業員規模)」の組み合わせによって機械的に判定されます。
対象取引に該当した場合、親事業者には発注書面の即時交付(3条書面)や受領後60日以内の代金支払期日設定といった4つの作為義務が課され、買いたたきや減額、受領拒否など11項目の行為が禁止されます。禁止事項への違反は公正取引委員会による勧告および企業名公表の対象となり、3条書面の未交付や報告徴収拒否には最高50万円の罰金刑が規定されています(法第10条・第11条)。
対象となる4つの取引類型(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託)
下請法の規制対象は、事業者が業として行う委託取引のうち、法律が定める以下の4類型に限定されます(法第2条第1項〜第4項)。
- 製造委託
- 物品の販売や製造を請け負う事業者が、その物品の全部または一部の製造・加工を他社へ委託する取引です。
- カタログ掲載の規格品を既製品のまま購入する取引は売買契約として除外されますが、自社仕様に合わせた別注品や、部品の特注加工を外部委託する場合は本類型に該当します。
- 修理委託
- 物品の修理を業として請け負う事業者が、その修理作業の全部または一部を他社へ再委託する取引です。
- 自社で使用する機械設備の単なる維持補修は対象外ですが、顧客から修理を請け負った製品の分解・補修作業を外注する場合は修理委託に該当します。
- 情報成果物作成委託
- ソフトウェア、各種設計図面、映像・音声コンテンツ、取扱説明書などの作成を業として行う事業者が、その作成作業を外部委託する取引です。
- 販売用システムの開発委託のほか、建築物の意匠図面、構造計算書、施工図、CAD/BIMデータの作成委託などが該当します。
- 役務提供委託
- 自社が顧客へ提供するサービス(役務)の全部または一部を、他社に代行させる取引です。
- 自社の総務・経理アウトソーシングは自家使用として除外されますが、元請として受託した運送サービス、ビルメンテナンス、警備業務などを外部委託する場合は役務提供委託となります。
なお、建設業法第2条第1項に規定される建設工事(土木一式、建築一式など29工種)の完成を目的とした請負契約は、下請法第2条第4項のただし書により下請法の対象から除外されています。工事請負そのものは建設業法の規律を受けるため、現場で施工する工事と、現場外で製作する特注部材の製造や設計図面作成を契約単位で切り分けて管理する必要があります。
親事業者と下請事業者を分ける資本金区分の判定マトリクス
取引内容が4類型のいずれかに該当する場合、発注側と受注側の資本金規模を照合して適用の有無を判定します。取引類型ごとに区分基準が異なります。
| 取引区分のカテゴリー | 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 | 判定結果 |
|---|---|---|---|
| 第1区分 ・物品の製造委託 ・物品の修理委託 ・情報成果物作成委託(プログラム等) ・役務提供委託(運送・倉庫保管等) |
3億円超 | 3億円以下(個人事業主を含む) | 下請法を適用 |
| 第1区分 ・物品の製造委託 ・物品の修理委託 ・情報成果物作成委託(プログラム等) ・役務提供委託(運送・倉庫保管等) |
1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下(個人事業主を含む) | 下請法を適用 |
| 第2区分 ・情報成果物作成委託(プログラム等を除く)(※1) ・役務提供委託(運送・倉庫保管等を除く) |
5,000万円超 | 5,000万円以下(個人事業主を含む) | 下請法を適用 |
| 第2区分 ・情報成果物作成委託(プログラム等を除く)(※1) ・役務提供委託(運送・倉庫保管等を除く) |
1,000万円超 5,000万円以下 | 1,000万円以下(個人事業主を含む) | 下請法を適用 |
※1:プログラムを除く図面、デザイン、映像等の情報成果物作成委託。
実務上の判定では、以下の3点に留意する必要があります。
- 個人事業主への委託
- 個人事業主は下請法上「資本金1,000万円以下」の事業者として扱われます。発注側の資本金が1,000万円を超えている場合、相手がフリーランスや個人親方であってもすべて下請法の保護対象となります。
- 資本金1,000万円以下の発注者
- 発注側の資本金が1,000万円以下であれば下請法は適用されません。ただし、独占禁止法第19条(優越的地位の濫用)の規制は受けるため、一方的な買いたたきや減額が免責されるわけではありません。
- 同等資本金ランク間の取引
- 親事業者が「資本金2,000万円」で下請事業者が「資本金1,500万円」など、同一区分内にある企業同士の取引には下請法が適用されません。
2026年1月1日施行の改正法(中小受託取引適正化法/取適法)では、従来の資本金基準に加えて「従業員基準(300人/100人)」が導入され、対象取引に「特定運送委託」が追加されます。資本金が基準以下であっても従業員規模によって規制対象となるケースが生じるため、取引先台帳の属性情報の管理要件が拡大します。
建設業法と下請法の違いと適用境界線|工事・資材調達・設計委託の切り分けルール
建設会社の購買・調達実務では、1つの施工現場に関わる発注であっても、契約内容に応じて「建設業法」と「下請法」の適用が分岐します。
【取引内容の判定】
自社が発注する取引内容は何か?
├─ 建設業法第2条第1項に定める「建設工事(29工種)」の完成を委託する
│ └─ 【建設業法】が適用(下請法は適用除外)
│
└─ 建設工事以外の業務を委託する
├─ 設計図面・CAD/BIMデータ作成、構造計算等の委託
│ └─ 【下請法】情報成果物作成委託
│
├─ 特注部材(特注サッシ・PC部材・鉄骨加工等)の製造委託
│ └─ 【下請法】製造委託
│
├─ 重機の修理や、建設工事に該当しない保守点検
│ └─ 【下請法】修理委託/役務提供委託
│
└─ 市販の規格資材(一般合板、既製ボルト等)の購入
└─ 【売買契約】下請法の対象外(独占禁止法が適用)
建設工事の請負契約に下請法が適用除外となる理由
下請法第2条第4項ただし書は、役務提供委託の対象から「建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせること」を明文で除外しています。29工種の建設工事の完成を目的とする契約には、建設業法が優先して適用されます。
建設工事が適用除外とされている背景には、工事特有の取引構造があります。建設工事は単品受注生産であり、気象条件や地盤性状、現場での設計変更など外部要因による工期・原価の変動が不可避です。製造業を前提とした「受領後60日以内の画一的支払」を一律に適用すると、出来高査定や竣工検査の実態に即さないため、建設業法(第19条の3:不当に低い請負代金の禁止、第24条の3:引渡し申出から1か月以内の支払、第24条の5:特定建設業者の支払期日等)により独自の規律が敷かれています。
なお、建設工事の請負契約であっても独占禁止法の適用は免れません。公正取引委員会の「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」に基づき、設計変更に伴う費用増額を拒む行為や、下請側に非がない指値発注などは優越的地位の濫用として取り締まりを受けます。
建設業者に下請法が適用される取引具体例
工事請負契約から切り離して発注される以下の取引は、資本金要件を満たす限り下請法の適用を受けます。
- 製造委託に該当する取引
- 特注部材の製作納品:設計図書の仕様に合わせて加工させる特注サッシ、プレキャストコンクリート部材、特注配電盤などを、現場据付工事を含めずに「工場製作・現場納品」のみで発注する契約。
- 部材加工の外注:鉄骨の切断・曲げ加工やプレカット加工のみを専門業者に委託する契約。
- 情報成果物作成委託に該当する取引
- 図面・モデリングの外注:意匠設計図、施工図、CADトレース、BIM/CIMデータ、完成予想パースの作成委託。
- 計算・解析の外注:構造計算、設備容量計算、地盤解析などの算定委託。
- 修理委託・役務提供委託に該当する取引
- 自社保有機械の整備:自社所有のバックホウやクレーン等の定期点検・補修作業を整備業者へ外注する取引(修理委託)。
- 工事を伴わない維持管理・運搬:躯体修繕を伴わない定期清掃や運転保守業務、現場発生土・産業廃棄物の運搬のみを切り離して委託する契約(役務提供委託)。
現場で使用する市販の合板、規格ボルト、生コンクリートなどを資材商社から仕入れる行為は、仕様を指定して加工させるわけではないため、原則として下請法の対象外(物品売買)となります。
建設業法と下請法の規制内容比較
発注内容が建設業法と下請法のいずれに服するかによって、実務上の義務・制約は大きく変わります。
| 項目 | 建設業法(下請保護規定) | 下請法(下請代金支払遅延等防止法) |
|---|---|---|
| 対象となる取引 | 建設工事(29工種)の完成を目的とする請負契約 | 物品の製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託 |
| 適用基準 | 資本金規模にかかわらず、すべての建設業許可業者・工事請負契約に適用(特定建設業者の規制等は資本金等で区分) | 親事業者と下請事業者の資本金区分(および従業員基準)の格差により判定 |
| 書面交付義務 | 工事着手前に書面による契約締結(第19条)または電磁的措置(事前承諾制) | 発注時に直ちに法定書面(3条書面)を交付。電磁的記録の提供も事前承諾により可 |
| 支払期日ルール | 引渡申出から1か月以内(特定建設業者は申出から50日以内かつできる限り短い期間内) | 物品受領日・役務提供日から起算して60日以内(60日ルール) |
| 主な禁止行為 | 不当に低い請負代金の禁止、指値発注、赤伝処理、工期変更に伴う費用不払い | 買いたたき、減額、受領拒否、返品、支払遅延など11の禁止事項 |
| 違反時の罰則・措置 | 指導・指示処分、営業停止処分、許可取消処分等 | 公正取引委員会による勧告・企業名公表、報告拒否等に対する最高50万円の罰金 |
実務における最大の相違点は、「発注書面を交付する時期」と「代金支払期日の起算点」です。
建設業法では「工事着手前」までに請負契約を締結すれば適法ですが、下請法では発注を行った瞬間に、品名・数量・代金額・支払期日などを明記した3条書面を交付しなければなりません。また支払期日についても、建設業法(特定建設業者)が「完成引渡しの申出があった日」を起点に50日以内としているのに対し、下請法は検査完了日ではなく「物品や図面を受領した日」から60日以内に全額を支払う必要があります。
月間数十件の改修工事を施工管理する場合、躯体工事の協力会社とは工事着手前の請負契約で足りますが、同工事で使用する特注アルミルーバーの製作工場や、施工図のCAD外注先に対しては、発注と同時に3条書面を交付し、納品日から60日以内に支払う運用体制を敷く必要があります。
親事業者に課される「4つの義務」と遵守要件(3条書面・60日ルール)
下請法上、親事業者には作為義務として以下の「4つの義務」が課されています。
- 3条書面の交付義務(発注時の法定書面交付)
- 支払期日を定める義務(受領後60日以内)
- 5条書類の作成・保存義務(取引記録の2年間保存)
- 遅延利息の支払義務(期日超過時の年14.6%)
3条書面の交付義務(必須12項目と電磁的記録運用)
親事業者が下請事業者へ発注する際、口頭発注や仕様未定での着工は認められず、直ちに以下の12項目を記載した書面を交付しなければなりません(法第3条)。未交付や記載不備には最高50万円の罰金が科されます(法第10条)。
| 番号 | 記載事項 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 1 | 親事業者・下請事業者の名称 | 正式商号を記載(略称不可) |
| 2 | 委託日 | 発注年月日を正確に記載 |
| 3 | 給付の内容 | 製造品名・仕様・数量、図面作成の範囲等を具体的に特定 |
| 4 | 給付の受領期日・役務提供期日 | 納入日や完了期日を特定(「工期中」等の曖昧な表現は不可) |
| 5 | 給付を受領・役務提供を受ける場所 | 現場事務所、指定工場、納品先倉庫等の住所・名称 |
| 6 | 検査完了期日 | 検査を行う場合は、受領日から起算した完了期日 |
| 7 | 下請代金の額 | 単価×数量の確定総額を明記(「協議の上決定」は原則違反) |
| 8 | 支払期日 | あらかじめ定めた具体的な支払期日 |
| 9 | 支払方法 | 現金、手形、電子記録債権等の別と手形期間 |
| 10 | 有償支給原材料等の対価・決済期日 | 原材料を有償支給する場合の品名、数量、対価、引落期日 |
| 11 | 前払金に関する事項 | 前払金を支払う場合の金額および支払期日 |
| 12 | 価格の決定理由 | 代金決定に合理的な算定基準を用いた場合はその計算方法 |
発注時点でどうしても仕様や代金が確定できない正当な理由がある場合に限り、「未確定事項」として確定予定時期を明記し、確定次第速やかに補充書面を交付する「補充書面制度」が認められています。ただし、当初から金額欄を空欄にして着工させる行為は認められません。
3条書面を電子メール、EDI、クラウド電子契約などの「電磁的記録」で交付する場合は、あらかじめ下請事業者から書面または電子手段による承諾を得た上で、相手方の端末で出力(印刷・PDF保存)でき、送信後の改変を防止できるシステム環境を担保する必要があります。
下請代金の支払期日を定める義務(60日ルールの起算点と締め日実務)
親事業者は、下請代金の支払期日を「給付を受領した日(役務提供委託は役務提供完了日)から起算して60日以内」で、かつ「できる限り短い期間内」に定めなければなりません(法第2条の2)。
- 起算日の原則
- 起算日は「自社の受入検査が完了した日」ではなく、部材が指定場所に到着した日、または設計データが納品された日(受領日)です。検査に日数を要しても起算日は繰り延べられません。
- 月末締め実務の留意点
- 「月末締め・翌月末払い」は概ね60日以内を満たしますが、31日ある月に受領した場合(例:7月1日受領、8月31日支払)、経過日数が61日となり下請法違反となります。
- 「月末締め・翌々月払い」は受領日からの経過日数が60日を超えるため、下請法上違法です。
- 当事者間で「受領後75日払い」と合意してもその約定は無効となり、受領後60日目が自動的に法定支払期日とみなされます。
書類作成・保存義務(5条書類)と遅延利息支払義務
- 5条書類の2年間保存
- 取引完了後、3条書面の記載事項に加え「受領日・受領数量」「検査完了日・結果」「実際の支払日・支払額」「手形交付時は振出日・満期日・手形金額」などを記録した5条書類を作成し、2年間保存する義務を負います(法第5条)。定期調査や立入検査時に不備があった場合、50万円以下の罰金対象となります。
- 年14.6%の遅延利息
- 受領日から起算して60日を経過した日(61日目)から実際の支払日までの日数に対し、年率14.6%の遅延利息を支払う法定義務が発生します(法第4条の2)。親事業者の資金繰り悪化や施主からの入金遅延は免責理由になりません。下請側からの請求がなくとも、親事業者が自主計算して支払う必要があります。
親事業者の「11の禁止行為」と違反時の行政処分・企業名公表ペナルティ
下請法第4条は、親事業者の優越的地位濫用を防止するため、11項目の禁止事項を定めています。下請事業者の同意があっても成立し、親事業者に違反の意図がなかったとしても客観的事実をもって違反と認定されます。
| 分類 | 禁止行為 | 概要 |
|---|---|---|
| 代金・支払関連 | 下請代金の支払遅延 | 受領日から起算して60日以内の支払期日までに代金を支払わない行為。 |
| 代金・支払関連 | 下請代金の減額 | 発注後に、下請側に非がないにもかかわらず代金を減額する行為。 |
| 代金・支払関連 | 買いたたき | 通常対価より著しく低い下請代金を不当に設定する行為。 |
| 代金・支払関連 | 割引困難な手形の交付 | 金融機関で割引を受けることが困難な手形等を交付する行為(手形期間60日超が指導対象)。 |
| 取引・給付関連 | 受領拒否 | 下請側に非がないにもかかわらず、発注した物品の受領を拒む行為。 |
| 取引・給付関連 | 返品 | 下請側に非がないにもかかわらず、受領後の物品を引き取らせる行為。 |
| 取引・給付関連 | やり直しの要請 | 発注取消、または受領後に無償で再作業を行わせる行為。 |
| 負担・強制関連 | 購入・利用強制 | 指定する資材・製品・サービスを正当な理由なく強制購入させる行為。 |
| 負担・強制関連 | 報復措置 | 親事業者の法違反を通報したことを理由に不利益な扱いをする行為。 |
| 負担・強制関連 | 有償支給材の早期相殺 | 有償支給した原材料等の代金を、下請代金の支払期日より前に差し引く行為。 |
| 負担・強制関連 | 不当な利益提供要請 | 協賛金、協力金、作業員派遣などを不当に提供させる行為。 |
建設資材調達・設計外注で頻発する禁止行為
実務上で特に問題となりやすい類型として、以下の4点があります。
- コスト高騰を放置する「買いたたき」
- 原材料費や労務費が高騰している状況下で、価格交渉の場を設けず従来単価のまま据え置き発注する行為、または指値発注により一方的に相場を下回る価格を強要する行為。
- 名目を問わない「下請代金の減額」
- 「原価低減ノルマ」「協力値引き」「早期決済に伴う歩引き」「端数切り捨て」などの名目で、発注代金から一定額を差し引いて支払う行為。2024年3月には日産自動車が原価低減を名目に約30億円を減額した事案が下請法違反と認定され、公取委から勧告を受けました。
- 現場都合による「受領拒否」
- 現場工程の遅延や保管スペース不足を理由に、完成した特注部材(PC板、サッシ等)の納入を期日に受け入れず、製造元に無償保管させる行為。
- 無償作業・金型保管などの「不当な経済上の利益提供要請」
- 安全大会の協賛金や創立記念名目での拠出金要請、現場雑作業への無償動員、発注終了後の部材製作金型を無償で長期保管させる行為。2025年2月にも金型の無償長期保管に対して公正取引委員会が勧告を行っています。
違反調査から企業名公表・指名停止へのペナルティフロー
公正取引委員会および中小企業庁は、毎年実施する「下請取引等調査(定期調査)」や下請事業者からの申告を端緒として調査を実施します。
[調査の端緒]
├ 定期書面調査(親事業者・下請事業者双方への照会)
└ 下請事業者からの申告(通報者の秘密保持と報復禁止規定)
↓
[行政調査]
└ 立入検査・帳簿調査(虚偽報告・検査拒否は最高50万円の罰金)
↓
[行政措置]
├ 軽微・自発的改善:指導(非公表)
└ 重大・悪質:勧告(法第7条)
↓
[社会的制裁・波及影響]
├ 公取委Webサイトでの企業名・違反事実の公表
├ 減額分の全額返還・遅延利息(年14.6%)の支払
└ 国交省・地方自治体による公共工事の指名停止措置
2024年度の行政指導件数は8,230件、企業名公表を伴う勧告件数は21件に達しています。勧告を受けた場合、企業名と違反内容がWebサイトで公表されるだけでなく、国土交通省や地方自治体から公共工事の指名停止措置(1カ月〜数カ月程度)が下されます。建設業において指名停止は公共事業の入札機会喪失に直結するため、下請法違反は調達担当者の事務ミスにとどまらず、全社的な経営危機へと波及します。
下請取引コンプライアンス点検リストと電子受発注の実装実務
法令違反を構造的に防ぐため、調達プロセスの各フェーズで以下のチェックポイントを運用します。
| 業務工程 | 点検項目(法令根拠) | 違反リスク | 必須の運用対策 |
|---|---|---|---|
| 取引開始・見積 | 資本金区分の確認(法第2条) | 下請法適用の取引を工事請負と混同して処理する | 取引先台帳で資本金・従業員数を管理し、発注品目ごとに適用法規を自動判別する |
| 価格交渉 | 労務費・資材高騰の協議(第4条第1項第5号) | 価格交渉を行わず、目標原価で指値発注する | コスト上昇分を反映した見積書を徴収し、単価決定の協議記録を書面化する |
| 契約・発注 | 3条書面の即時交付(法第3条) | 口頭発注や金額未定での先行着工 | 12の法定記載事項を満たした書面、または電磁的記録を発注時に即座に交付する |
| 納品・受領 | 受領拒否の防止(第4条第1項第1号) | 現場遅延を理由に特注部材の納入を延期させる | 当初指定日に納品を受領する。仕様変更・再作業時は追加費用を全額負担する |
| 検収・支払 | 60日ルールの遵守と減額排除(第2条の2、第4条) | 納品後に歩引き処理を行う。手形サイトが60日を超過している | 受領日から起算して60日以内の支払日を設定し、発注代金からの事後減額を禁止する |
電子受発注システム(EDI・クラウド契約)による統制機能の実装
下請法の義務を人的管理のみで徹底することは困難です。EDIやERP(基幹システム)、クラウド電子契約を連動させ、システム上で統制をかける運用が不可欠です。
- 取引先マスターによる自動分岐
- 取引先の資本金区分と発注品目をマスター連動させ、特注品製造や図面作成に該当する場合は「下請法対象案件」として専用フローを自動起動させます。
- 必須項目未入力時の発注ブロック
- 給付内容、代金額、受領期日、支払期日などの法定12項目がシステム上で入力されない限り、承認ボタンを押せない入力制御(バリデーション)を実装し、口頭発注や金額未確定での発注を防止します。
- 受領日を起点とした支払期日アラート
- 入力起点を「現場検収日」ではなく「物品到着日(受領日)」とし、受領日から60日を超える支払期日や、満期日までの期間が60日を超える手形が選択された場合はシステムが警告を出して差し戻します。
- 5条書類の自動アーカイブ
- タイムスタンプを付与した3条書面データ、受領実績データ、振込決済ログを同一案件IDで紐付け、法定保存期間である2年間にわたり即時照会できる状態で保管します。
月数十件の現場を動かすゼネコン・サブコンでは、現場代理人が特注部材や施工図作成を電話で直接手配し、請求書受領後に注文書を事後起票する運用が散見されます。この手法は3条書面の即時交付義務に直ちに抵触します。モバイル端末から仕様と金額を確定させ、事前承諾に基づく電磁的記録の発行をもって着手させる仕組みを標準化することが、下請法リスクを排除するための実務的な分岐点となります。
よくある質問(FAQ)
Q. 下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは何ですか?
A. 優越的地位にある親事業者が、下請事業者に不当な不利益を課すことを防ぐ法律です。独占禁止法を補完し、契約名にかかわらず「取引内容の4類型」と「双方の資本金規模」で機械的に適用されます。親事業者には発注書面の即時交付や60日以内の支払期日設定が義務付けられ、買いたたきや代金減額などの違反には企業名公表や最高50万円の罰金刑が科されます。
Q. 建設業における下請法と建設業法の違いは何ですか?
A. 建設工事の完成を目的とした請負契約は下請法の対象外となり、建設業法が適用されます。ただし、現場施工以外の「特注部材の製造委託」や「設計図面・BIMデータの作成委託」などは下請法の対象取引に該当します。そのため建設会社は、現場での工事請負か、現場外での製造・成果物作成委託かによって、契約単位で適用法令を切り分けて管理する必要があります。
Q. 下請法が適用される対象取引の4類型とは何ですか?
A. 下請法が定める類型は「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つです。規格品の購入や自社用の業務委託は除外されますが、別注品の加工や顧客向け修理の外注、設計図・ソフトウェアの作成委託、運送やビルメンテなどの受託サービスの代行委託が該当します。これら4類型のいずれかと資本金区分を満たすと下請法が適用されます。
