株式会社奥村組、株式会社ヤマソウ、横浜市下水道管理協同組合、株式会社ジャストの4者は2026年8月4日、福島県いわき市において下水道管路の洗浄から撮影、AIによる劣化診断・報告書作成までを一元化する「ワンストップ型スクリーニング調査手法」の実証結果を発表しました。従来は分離していた現地作業とオフィスでの手作業をハードウェアの統合と専用AIソフトウェアによって自動化・効率化する本取り組みは、老朽化インフラの急増と人手不足に直面する建設・維持管理業界にとって非常に実用性の高い先行事例となります。
福島県いわき市で実証された「ワンストップ型スクリーニング調査」の全貌
全国的に下水道管路の老朽化が急速に進むなか、自治体や維持管理事業者は限られた予算と人員で広大な管路網を効率的に点検・診断する課題を抱えています。こうした背景のもと、奥村組が下水道管路の維持管理業務を受託している福島県いわき市をフィールドとして、現地点検からオフィスでの診断・報告書管理までを一気通貫で行う新たなスクリーニング調査手法の実証実験が行われました。
従来手法と「ワンストップ型スクリーニング調査手法」の比較
従来の下水道管路調査では、管路内の泥や油脂を除去する「洗浄作業」を行った後、別の工程として自走式TVカメラ等を投入して「動画撮影」を実施する2段階の現地作業が必要でした。また、撮影された動画は事務所に持ち帰った後、熟練の技術者が全編を目視で確認し、手作業で損傷個所を記録・判定して報告書を作成していたため、現地・オフィス双方で膨大な時間と労力が費やされていました。
これに対し、今回実証された新手法では、洗浄ノズルと高画質カメラを一体化した「ノズル付きカメラ」を採用することで、洗浄と同時に動画撮影を1回の走行で完了させます。さらに、撮影データを専用のAIソフトウェア「スマカン」に連携することで、展開画像の生成から損傷候補の抽出、報告書作成までを自動化しました。
| 項目 | 従来の手法 | 本実証の新手法 |
|---|---|---|
| 現地(オンサイト)作業 | 2工程 ①高圧洗浄車による管路内の洗浄 ②自走式TVカメラ等による管内撮影 | 1工程(同時実施) 「ノズル付きカメラ」により洗浄と動画撮影を1回の走行で同時に完了 |
| カメラの移動と撮影品質 | 従来型移動(カメラの振れや偏心が発生しやすい) | ノズル噴射の推進力と構造により管路中央付近を安定移動、歪みの少ない展開画像を生成可能 |
| オフィス(バックオフィス)作業 | 技術者による動画の全編目視確認、手入力による損傷個所のプロット・報告書作成 | 「スマカン」による自動化 広角展開画像の自動生成、AIによる管構造・損傷候補の抽出、報告書出力まで一気通貫 |
実証実験における各推進組織の役割
今回の実証実験は、ゼネコン、洗浄・調査の専門企業、業界協同組合、計測・検査SaaSベンダーがそれぞれの強みを持ち寄る共同体制で実施されました。それぞれの明確な役割分担が、ハードウェアとソフトウェアの密接な連携を実現させた要素といえます。
| 組織・企業名 | 本社所在地 | 代表者 | 本実証における役割と背景 |
|---|---|---|---|
| 株式会社奥村組 | 大阪府大阪市阿倍野区 | 代表取締役社長 奥村太加典 | 全体統括・実証フィールド提供(いわき市下水道維持管理業務受託者) |
| 株式会社ヤマソウ | 神奈川県横浜市港北区 | 代表取締役 大淵久敬 | ノズル付きカメラ等のハードウェア開発・現場運用ノウハウの提供 |
| 横浜市下水道管理協同組合 | 神奈川県横浜市金沢区 | 理事長 飯島文男 | 管路維持管理の技術的知見の提供・実務フィードバック |
| 株式会社ジャスト | 神奈川県横浜市青葉区 | 代表取締役社長 角田賢明 | 広角展開カメラ用AIソフトウェア「スマカン」の開発・システム提供 |
技術的ブレイクスルー:ノズル付きカメラとAIソフト「スマカン」の連携機構
本手法の最大の強みは、現地で取得するデータの質(ハードウェア)と、それを処理するアルゴリズム(ソフトウェア)が高度に噛み合っている点にあります。
1. 高精度な展開画像を生み出すノズル付きカメラ
一般的な管内カメラ撮影では、管内のゆれや傾きによって画像の歪みが生じやすく、平坦な「展開画像」を作成する際に補正処理が難航するケースが多く見られました。今回導入された「ノズル付きカメラ」は、洗浄ノズルから噴射される水流の推進力を利用して管内を進むとともに、カメラ本体が管路の中央付近を安定して移動する構造を備えています。
これにより、管壁全体を均一な画角とシャープなフォーカスで連続撮影することが可能となり、後工程でのAI解析に適した高品質かつ歪みの少ない展開画像を正確に自動生成する基盤が整いました。
2. 「スマカン」のAI機能
撮影された動画データは、株式会社ジャストが開発した下水道点検用ソフトウェア「スマカン」に投入されます。奥村組とジャストは2025年12月に、「スマカン」の機能拡張として「管構造抽出AI」および「損傷可能性抽出AI」を共同開発しており、今回の実証でもその威力が遺憾なく発揮されました。
管構造抽出AIの機能
展開画像の中から、管と管の接続部(ジョイント)や、本管から各家庭へ伸びる取付管の接続位置(取付管口)を自動で識別・検出します。従来は技術者が手作業で距離カウンターと照合しながら位置情報を入力していましたが、AIが即座に構造物の位置を特定します。
損傷可能性抽出AIの機能
ひび割れ(クラック)、クラックの進展、腐食、たるみ、異物付着などの異常兆候を展開画像上から自動でスクリーニングします。損傷の深刻度や可能性に応じて濃い赤色などでグラデーション表示されるため、確認者はAIがハイライトした箇所を優先的に点検するだけで済むようになります。
これらAI機能の統合により、従来実施されていた「全編目視確認+二人体制でのダブルチェック」という重厚なオフィス作業が大幅に簡略化され、調査業務の効率化につながります。
建設業界・インフラ維持管理への多角的な波及効果
今回の実証成果は、下水道管路の点検現場にとどまらず、建設業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)や事業モデルの変革に対して非常に大きな示唆を与えています。主要なプレイヤーごとの具体的なインパクトは以下の通りです。
ゼネコン(元請け): 「新設施工」から「データ駆動型ストック維持管理」への深化
従来のゼネコンにおける下水道事業は、管路の敷設工事や開削・シールド工事といった「新設・更新」のハードウェア施工が中心でした。しかし、高度経済成長期に整備されたインフラが一斉に老朽化を迎える現代において、新設市場の縮小と維持管理市場の拡大は不可欠な潮流です。
奥村組のように、自治体から維持管理業務を長期受託(包摂的委託やPPP/PFIなど)し、最新のデジタル技術を組み込んで維持管理を効率化するアプローチは、ゼネコンにとって極めて安定的なストック型収益基盤を構築する手本となります。単なる作業代行ではなく、管路の劣化データをAIで蓄積・管理することにより、将来の最適な補修時期や改修工事の設計・施工までを一元的に提案できる強みが生まれます。
参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?2024年適用後の3本柱と現場の対応手順を解説
BIM・施工管理SaaSベンダー: ハードウェアと高度AIソフトを密結合させた「垂直統合型モデル」の重要性
ソフトウェア単体を現場に持ち込んでも、入力される画像データや現場の撮影条件がバラバラではAIの解析精度は上がらず、現場の定着も進みません。本件においてジャストが示した「スマカン」の展開は、ハードウェア(ノズル付きカメラ)による撮影環境の標準化と、ソフトウェア(AI自動解析・展開画像化・報告書生成)をセットで提供する「垂直統合型ソリューション」の有効性を裏付けています。
今後は、単なる工程管理や写真整理を行うSaaSを超えて、特定の物理作業(点検機器・施工ロボット・ドローン)とシームレスにデータ連携し、AIが診断結果まで自動出力するソリューションを提供するベンダーが、建設DX市場でのシェアを獲得していくと考えられます。
現場監督・施工管理者: 単純作業の脱却と高度な技術判断業務への集中
建設業界全体で2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、限られた労働時間内でいかに生産性を高めるかが最優先課題となっています。管路調査においても、従来は「何時間も動画を見続けて異常を探す」「手書きノートからexcelやCADへデータを打ち直す」といった単純作業・事務作業が現場技術者の残業時間を圧迫していました。
「スマカン」をはじめとするスクリーニングAIが導入されることで、技術者はAIが弾き出した「異常の疑いが強い箇所」の確認と、それに対する適切な修繕工法の選定や補修計画の策定といった、人間にしかできない高度な判断業務に専念できるようになります。これは現場技術者の働き方改革を推進すると同時に、熟練技術者の知見をAIにフィードバックして維持管理全体の精度を高める好循環をもたらします。
参考記事: 遠隔臨場とは?令和6年最新要領と活用メリット・導入手順を徹底解説
ConShiftの視点:データ駆動型メンテナンスへの構造転換と今後の展望
今回発表された奥村組らの「ワンストップ型スクリーニング調査手法」は、建設業界が目指すべきインフラメンテナンスの未来像を象徴しています。ここで重要なのは、これが単なる「作業のスピードアップ」にとどまらず、「物理作業(現地対応)」中心のインフラ維持管理から、「データ処理とAI(オフィス対応)」中心のデジタルオペレーションへの不可逆な構造転換であるという点です。
今後、下水道以外のインフラ(道路、橋梁、トンネル、河川構造物など)においても、センサーやロボットによるデータ取得の省力化と、専用AIによるスクリーニング・報告書自動作成のワンストップ化が急速に普及していくと考えられます。その際、企業としての競争力を左右するのは以下の2点です。
1. データ取得の標準化(ハードとソフトの親和性)
どれだけ優れた解析AIを導入しても、現地で取得する画像や点群データの品質が粗ければAIは真価を発揮できません。「ノズル付きカメラ」のように、現場作業の手順を増やさずに高品質データを自動取得できる仕組みを整えられるかが鍵となります。
2. 自治体・発注者とのパートナーシップを通じたデータ蓄積
奥村組がいわき市で維持管理業務を一括受託しているように、現場というデータ収集の場を確保し、実データでAIを継続的に学習させられる企業が、中長期的に強力な技術的参入障壁を構築できます。
奥村組は今後、本手法の本格導入に向けてさらなる改良と検証を進め、全国の自治体や下水道調査事業者への普及を目指すとしています。こうしたハード・ソフト一体型のプラットフォームを早期に自社の業務プロセスへ取り入れられるかどうかが、今後のインフラ維持管理市場での生き残りを分ける分岐点となるでしょう。
まとめ:インフラ維持管理DXを自社の成長力に変えるアクション
下水道管路をはじめとするインフラの老朽化と技術者不足は、もはや従来のマンパワー頼みの手法では対処できない領域に達しています。奥村組らによる実証成果を踏まえ、建設企業や施工管理者が明日から意識・行動すべき3つのアクションを整理します。
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現行の点検・調査業務における「重複作業」と「手作業」を可視化する
洗浄と撮影、動画視聴と報告書作成など、分離している工程や手作業で転記している工程がないかを棚卸しし、自動化・一体化できるポイントを特定しましょう。 -
ハードウェアとAIソフトウェアが連携した「ワンストップツール」の導入を検討する
単体のアプリ導入にとどまらず、現場でのデータ取得機器とバックオフィスの解析ソフトがスムーズに連携する垂直統合型のDXソリューションに着目して試行導入を進めましょう。 -
現場作業の請負から「データ蓄積・活用によるコンサルティング型維持管理」へマインドを切り替える
単に現地作業をこなすだけでなく、AIによって解析・蓄積されたデータを活用して、発注者や自治体に対して予防保全や長寿命化計画の提案を行える体制を目指しましょう。
出典: BUILT
出典: 奥村組プレスリリース
出典: PR TIMES(株式会社ジャスト プレスリリース)



