全国建設業協会が会員企業1,877社を対象に実施した調査において、発注時における工期設定が不適正と回答された割合は民間工事で19.0%に達しました。民間工事では完成時期の厳守が最優先され、作業員の週休2日や猛暑による作業効率低下が工程計画に織り込まれていない実態が明らかになっています。
2026年度全建調査が示す工期設定・工期変更の実態
全国建設業協会(今井雅則会長)は、会員企業を対象に実施した「2026年度発注関係事務の運用状況等に関するアンケート報告書」を公表しました。本調査は、2025年6月1日から2026年5月31日までに施工された工事を対象に、発注関係事務の実態や適正工期の確保状況を把握したものです。
公共工事では働き方改革や品質確保の観点から工期見直しが進む一方、民間工事や市区町村発注工事においては依然として不適正な工期設定や変更の拒否が残されている実態が浮き彫りとなりました。
発注区分別における工期設定の適正度と主な要因
調査結果によると、発注時点の工期設定を「不適正」とした割合は、国土交通省発注工事で5.7%、都道府県・政令指定都市で8.5%にとどまる一方、市区町村では12.2%、民間発注工事(PFI事業者を含む)では19.0%に上りました。民間工事ではおよそ5件に1件の割合で、着工当初から現場条件に見合わない工期が設定されています。
| 発注機関区分 | 工期設定「適正」割合 | 工期設定「不適正」割合 | 主な問題点・不適正要因 |
|---|---|---|---|
| 国土交通省 | 94.2% | 5.7% | 関係者協議の未了、現場条件と設計内容の乖離 |
| 都道府県・政令指定都市 | 91.5% | 8.5% | 関係者協議の遅れ、支障物の未撤去 |
| 市区町村 | 87.8% | 12.2% | 設計内容と現場条件の乖離、関係者協議の未了 |
| 民間発注者(PFI含む) | 81.0% | 19.0% | 完成時期最優先、休日の未考慮、猛暑影響の未考慮 |
工期設定において生じている具体的な問題点を見ると、国土交通省や地方自治体などの公共工事では「関係者との協議や手続きが整っていない」(国交省工事で62.5%)や「設計内容と現場条件が乖離している」(同60.2%)が上位を占めました。支障物の撤去遅れや埋設物調査の未完了など、着工前の準備不足が施工期間を圧迫する要因となっています。
一方、民間発注工事における問題点では「完成時期が最優先され、工事規模・難易度などが現場条件に合っていない」(51.8%)が最多となりました。さらに「作業員の休日(週休2日等)が考慮されていない」(40.9%)、「猛暑日や猛暑による作業効率の低下が考慮されていない」(40.9%)が同率で並び、法定休日の確保や就業環境への配慮が設計工程から除外されている実態が確認されています。
発注後の工期変更における許容度と阻害要因
着工後の条件変更や想定外の事態に伴う「工期変更」についても、発注者間で大きな格差が生じています。発注後の工期変更が「不適正(変更が適切に認められない)」とされた割合は、国土交通省が2.8%、都道府県・政令市が4.0%、市区町村が6.9%と公共工事全般で1割未満に収まったのに対し、民間発注工事では13.8%に達しました。
| 発注機関区分 | 工期変更「適正」割合 | 工期変更「不適正」割合 | 工期変更が認められない最多理由 |
|---|---|---|---|
| 国土交通省 | 97.2% | 2.8% | 予算の執行可能期限(年度末制約・繰越不可) |
| 都道府県・政令指定都市 | 96.0% | 4.0% | 予算の執行可能期限(年度末制約・繰越不可) |
| 市区町村 | 93.0% | 6.9% | 予算の執行可能期限(年度末制約・繰越不可) |
| 民間発注者(PFI含む) | 86.2% | 13.8% | 目的物の運用開始日が固定(完成日厳守) |
発注後に工期変更が認められなかった具体的な事象としては、すべての発注者に共通して「追加工事や設計変更に伴う作業量増加への対応」や「設計図書と実現場の不一致への対応」が上位に挙がっています。発注者側の指示や確認待ちによって工事着手が大幅に遅延したにもかかわらず、最終工期の延長が承認されないケースが散見されます。
民間工事において特筆すべきは、施工者側の責に帰すことができない外生的要因への対応です。「資材の供給遅延に伴う工期変更」や「想定以上の降雨・降雪、猛暑などの作業不能日や作業効率低下に伴う工期変更」が認められないとする回答が、公共工事と比較して突出して多い結果となりました。
工期変更が認められない理由の根底には、官民それぞれの制度的・事業的制約が存在します。公共工事では単年度会計主義に基づく「予算の執行可能期限」が工期変更を阻む最大の障壁となっています。他方、民間工事では商業施設の開業日や工場の稼働日、賃貸マンションの入居開始日など「目的物の運用開始日の固定」が大きな制約条件となり、施工現場に無理な突貫工事を強いる構図が続いています。
適正工期を巡る法制度と規制の変遷
建設業界における適正工期の確保は、建設業法等の法改正を通じて段階的に義務付けが進められてきました。
| 年月 | 制度・法改正の動き | 主な規定内容と業界への影響 |
|---|---|---|
| 2020年7月 | 中建審「工期に関する基準」作成・勧告 | 自然要因、週休2日、猛暑等を考慮した工期算出基準を明確化 |
| 2020年10月 | 改正建設業法施行 | 発注者に対し「著しく短い工期の禁止」を法定義務化 |
| 2024年4月 | 時間外労働上限規制の適用 | 建設業に年720時間・月45時間原則(特例あり)の罰則付き規制施行 |
| 2025年12月 | 改正建設業法(第三次担い手3法)全面施行 | 元請・下請を含め「著しく短い工期による契約締結」を受注者側も禁止 |
2020年の建設業法改正によって発注者に対する「著しく短い工期の禁止」が創設され、国土交通大臣等による勧告手続きが整備されました。さらに、2024年4月の時間外労働上限規制の適用を経て、2025年12月12日には改正建設業法(第三次担い手3法)が全面施行されています。この改正では、注文者に対する規制にとどまらず、受注者側(元請負人および下請負人)に対しても「著しく短い工期による請負契約の締結」が明文で禁止されました。
全国建設業協会は、適正工期の設定や工期変更の容認が全体として8割以上で「適正」と回答されている点について、中央建設業審議会が策定した「工期に関する基準」の周知や法令遵守意識が一定程度定着してきた成果と捉えています。しかし、依然として民間工事の2割弱で初期工期が不適正であり、天候不順や猛暑リスクを施工者が一方的に負わされる契約構造が残存しています。
参考記事: 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)とは?2024年改正の要点と発注者・受注者の実務解説
建設業界の各プレイヤーに及ぼす影響
今回の調査で示された工期設定の実態と官民格差は、建設サプライチェーンに関わる各主体に深刻な影響を与えています。
ゼネコン・元請企業:法的処罰リスクと採算割れの狭間
ゼネコン各社は、時間外労働の上限規制の遵守と請負契約の維持という二重の制約に直面しています。2025年12月の改正建設業法全面施行により、元請企業は施主から無理な工期を提示された場合、それを受け入れて契約を結ぶこと自体が法令違反(著しく短い工期の禁止違反)に該当するリスクを負うことになりました。
民間プロジェクトにおいて発注者から工期短縮を強く要請された場合、断れば受注機会を逸失し、承諾すれば労働基準法違反や労務倒産のリスクを抱え込むというジレンマが深刻化しています。さらに、公共工事で工期変更が認められた場合でも、現場事務所の維持費や重機リース料、労務管理費などの「間接費(現場管理費・共通仮設費)」の増額変更が全額反映されない事例が報告されています。工期の長期化がそのまま元請企業の採算悪化につながる構造は、依然として解消されていません。
参考記事: 追加変更工事とは?定義の違いから代金未払いトラブルを防ぐ合意書・電子化のポイントまで解説
発注者・デベロッパー:事業計画の見直しとサプライチェーン遮断リスク
民間デベロッパーや施主企業にとって、従来の「開業日逆算型」のプロジェクトマネジメントは通用しなくなっています。テナントのオープン日や賃貸契約の開始日を固定したまま無理な短工期を発注する行為は、行政指導や企業名の公表といったコンプライアンスリスクに直結します。
また、資材調達の遅延や酷暑日による作業中断といった不可抗力条項を適切に契約書へ盛り込まない発注姿勢を継続した場合、施工者側から入札辞退や契約拒否を受けるケースが増加しています。建設技術者・技能者の供給が逼迫する環境下において、適正工期や週休2日を容認しない発注者は、工事の引き受け手を確保できず、自社の事業計画そのものが破綻するサプライチェーン遮断リスクに晒されています。
参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?適正工期・賃金引き上げ・現場DXを実現する3つの柱を解説
現場監督・施工管理者:設計不備と工程圧縮に伴う調整負担の集中
現場で直接施工を担う現場監督や施工管理技術者には、発注前の準備不足と着工後の工程圧縮のしわ寄せが最も集中しています。全建の調査結果が示す通り、設計図書と現場の不一致や埋設物の確認不備により着工が遅延しても、発注者が最終完成日の変更を認めない場合、その遅れを取り戻すための工程調整は現場代理人の双肩にかかります。
不可抗力による休止や資材遅延が発生しても、休日の返上や夜間工事による挽回が上限規制によって法的に制限されているため、現場監督は協力会社の手配調整や工程の組み換えに追われ、過度の心理的・身体的ストレスを強いられています。適正工期が担保されない現場では、安全管理や品質管理の確認工程が削られるリスクが高まり、労働災害や施工不備の誘因となっています。
参考記事: 施工管理の4大管理(品質・工程・原価・安全)とは?現場で役立つ実務手順と5大管理・DXへの拡張ポイント
ConShiftの視点:官民の労務環境格差を解消する工期マネジメントの確立
本調査結果が突きつけている本質的な課題は、法改正と指針整備が進む公共工事と、市場経済の論理が優先される民間工事との間で「労務環境と取引慣行の二極化」が固定化しつつある点にあります。
公共事業においては、国土交通省の直轄工事を中心に週休2日対象工事の標準化やスライド条項の適用が進み、工期変更への理解度は9割を超えています。一方、民間発注工事では「完成日の固定」を理由に、気象変動リスクや作業員の健康管理コストが受注者に転嫁されています。中建審の「工期に関する基準」では、降雨・降雪だけでなく、近年の地球沸騰化に伴う猛暑日(WBGT値上昇に伴う作業中断)を考慮した適正工期の算出が求められていますが、民間の契約実務には十分に反映されていません。
今後は、施工者側が「中央建設業審議会の工期に関する基準」や「過去の気象データ」に基づいた科学的な工程根拠を見積提出時に提示し、契約条項に明文化する実務対応が不可欠となります。2025年12月以降は受注者側の短工期請負も禁止対象となった事実をテコに、着工遅延時の工期延長ルールや、不可抗力時の間接費補償に関する取り決めを民間標準契約約款に沿って厳格に締結する姿勢が求められます。
参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説
まとめ:適正工期確保のために施工企業が明日から進めるべき対応
工期の不適正設定や不可抗力による変更拒否を防ぐため、施工会社および現場実務者が取り組むべき実務ポイントを整理します。
- 見積提出時における工程根拠(週休2日・不稼働日・猛暑考慮)の書面提示
中建審の「工期に関する基準」を引用し、法定休日(4週8休)、過去の降雨・猛暑実績に基づく作業不能日数を織り込んだ工程表を見積書と一体で発注者に提出します。完成日ありきの要求に対しては、法令遵守上の制約を根拠として書面で合意形成を図ることが基本となります。
- 着工前の現場条件確認と支障物協議のログ管理
調査で判明した「関係者協議の遅れ」や「設計と現場の乖離」に対処するため、着工前の現地調査で発見された疑義事項や協議待ちの事象をすべて記録(議事録化・電子保存)します。発注者起因の着工遅れが発生した際は、即座に工期延長の協議を書面で申し入れます。
- 不可抗力条項および工期延長に伴う間接費増額ルールの契約明文化
資材供給遅延や気象異常など、施工者の責によらない事由が発生した際の工期延長条項を請負契約書に確実に盛り込みます。さらに、工期が延伸した際の現場管理費や仮設物維持費等の追加費用負担について、契約変更の手続きフローをあらかじめ取り決めておくことが重要です。
出典: 建設通信新聞Digital
出典: 日刊建設工業新聞



