清水建設は日本キヤリアおよび協立エアテックと共同で、吹き出し口に段ボールを採用した超高層ビル建設現場向けの仮設大型空調システムを開発した。工場向け大型空調機をベースに重量を抑えることで、フロア全体の冷暖房を可能にしながら現場内での移設作業を容易にしている。
超高層ビルの温熱対策を刷新する軽量仮設空調の概要
清水建設、空調機器を手がける日本キヤリア、制気口(吹き出し口)メーカーの協立エアテックの3社は、ビル建設現場の作業空間全体を空調する仮設大型空調システムを共同開発した。従来の現場冷房で多用されてきた局所型のスポットクーラーではカバーしきれなかった広大なスラブフロア全体の環境改善を目的としている。
段ボール吹き出し口の採用による軽量化と運用性の両立
新システムは、工場などで実績のある大型空調機の基本構造を流用しつつ、現場での可搬性を追求して設計された。
一般的な仮設ダクトや金属製チャンバーボックスは重量が大きく、クレーンによる揚重や台車搬送の負担、設置スペースの制約が課題となっていた。今回のシステムでは吹き出し口の部材に段ボール素材を採用し、機器全体の軽量化を図っている。これにより、内装や配管の施工進捗に伴って頻繁に発生する空調ユニットの移設や再配置が、作業員の手作業や簡易な運搬機具でスムーズに行える仕様となった。
冷房のみならず暖房運転にも対応しており、夏季の酷暑対策だけでなく、冬季の厳しい冷え込み下における躯体・内装仕上げ作業の環境改善にも通年で活用できる。
仮設空調・現場環境改善に関する開発動向と法規制
建設現場における作業環境の改善は、技術開発と法規制の両面から急速に進展している。今回の開発に至る技術的背景および関連動向は以下の通りである。
| 年月 | 主体・対象 | 内容・関連事項 |
|---|---|---|
| 2020年11月 | 竹中工務店、協立エアテック、山田ダンボール | 不燃ダンボールダクト「エボルダン」を共同開発し、長期耐久性能評価を取得 |
| 2022年 | 清水建設 | 高強度段ボール等を仮設風門に活用する技術「KAMIWAZA」を実用化 |
| 2024年4月 | 厚生労働省 | 建設業への時間外労働の上限規制(年960時間上限)が適用開始 |
| 2025年6月 | 厚生労働省 | 改正労働安全衛生規則が施行され、熱中症対策の体制整備や手順作成が義務化 |
| 2025年7月 | 大林組 | 本設ダクトを活用した大型冷房「涼人(りょうじん)」を都内現場へ初適用 |
| 2026年9月 | 清水建設、日本キヤリア、協立エアテック | 吹き出し口に段ボールを採用した超高層向け仮設大型空調システムを発表 |
現場の仮設資材に紙や段ボールを応用する取り組みは、清水建設が推進してきた「KAMIWAZA」や協立エアテックの段ボール製制気口技術など、長年の要素技術の蓄積が存在する。加えて、同社が施工を進める「Torch Tower(トーチタワー)」をはじめとする超高層建築では、外皮の施工前後にわたって日射や外気の影響を直接受けるため、大空間を効率的に空調する仮設設備の開発が急務となっていた。
参考記事: 熱中症対策とWBGTの計算方法と実務基準|現場で命を守る作業判断のポイント
建設業界の主要プレイヤーに与える実務的影響
大型仮設空調の導入と部材の軽量化は、元請ゼネコンの安全管理体制から現場の労務環境まで、施工プロセス全体に直接的な影響を及ぼす。
ゼネコン(元請け):安全配慮義務の確実な履行と協力会社の定着
2025年6月に施行された改正労働安全衛生規則により、熱中症のおそれがある場所での作業体制の整備や措置手順の策定は、努力義務から罰則を伴う法的義務へと厳罰化された。元請ゼネコンにとって、酷暑期の現場環境改善は労災発生時の操業停止や安全配慮義務違反リスクを防ぐための必須要件となっている。
広範囲をカバーする仮設大型空調の配備は、現場単位の温熱指標(WBGT)を計画的に管理する基盤となる。過酷な現場環境を緩和できる元請の施工管理体制は、深刻化する職人不足の中で専門工事業者から優先的に応援を取り付けるための差別化要素として機能する。
参考記事: 厚生労働省、熱中症対策義務化で死傷1803人受け現場管理を刷新せよ
現場監督・施工管理者:仮設設備の揚重・段取り替え工数の削減
現場監督にとって、仮設空調の運用における最大の障壁は「移設にかかる段取り工数」であった。従来の重量級空調設備や金属製ダクトは、楊重機の空き待ちや夜間の間隙を縫った運搬手配が必要となり、工程変更に対する追従性が低かった。
段ボール製吹き出し口による機器の軽量化は、間仕切り壁の施工や床仕上げ工程に合わせた空調機のレイアウト変更を容易にする。揚重機への依存度を下げ、日中の作業時間内に少人数で移設を完了できるため、工程管理の自由度が大幅に向上する。
職人・技能労働者:身体的負荷の低減と作業継続性の確保
現場で作業を行う技能労働者にとって、スポットクーラーの吹き出し口周辺に限られていた冷気の恩恵が作業フロア全体に行き渡る意義は大きい。ファン付き作業服や冷却ベストの併用効果が高まり、過度な深部体温の上昇を抑えることができる。
また、冬季においても暖房運転によって手元の冷えによる作業精度の低下や資材の硬化に伴う施工不良を防ぎ、年間を通じて安定した生産性を維持できる環境が整う。
参考記事: 安全衛生経費の積算・見積り実務|ガイドライン改訂のポイントと内訳明示の手順を徹底解説
ConShiftの視点:仮設空調の常設化が促す安全衛生経費の構造転換
従来の建設現場における温熱対策は、ファン付き作業服の配布や経口補水液の常備、現場休憩所の冷房完備など、作業員の身体近傍や休憩スペースに閉じた「局所的アプローチ」が主体であった。しかし、改正労働安全衛生規則への対応や猛暑日の常態化を受け、大林組の「涼人」プロジェクトや今回の清水建設の取り組みに見られるように、作業エリアそのものを空調管理する「空間的アプローチ」への移行が鮮明となっている。
注目すべきは、段ボール資材の活用による「軽量化と廃棄の合理化」が仮設設備のコスト構造を変える点である。金属製部材に比べて輸送コストや保管スペースを圧縮でき、解体・転用時の作業負荷が極めて小さい。この軽量化技術が確立されたことで、これまで超大型プロジェクトに限定されていた仮設全体空調が、中規模ビルや物流倉庫の建設現場へも波及していく現実的な余地が生まれた。
元請企業は今後、こうした仮設空調設備の導入費や移設手配を単なる追加コストとして処理するのではなく、発注者との契約協議において「安全衛生経費」として適切に積算・内訳明示し、工事全体で回収する標準仕様として確立していく実務が求められる。
明日から意識すべきこと
自社の担当現場において、夏期・冬期の温熱環境対策を個人の対策具に依存させず、施工区画全体の空間制御へと切り替えられる体制を検証する必要がある。
- 現場の温熱対策における揚重・移設制約の棚卸し
大型仮設機器の導入を阻害している要因(クレーン揚重枠の不足、床荷重制限、搬入通路の有効幅など)を洗い出し、軽量素材を用いた分割型・可搬型の仮設機器への置き換え可否を検討する。
- 安全衛生経費としての積算根拠の整備
仮設空調の導入費用および電気・移設運用費を共通仮設費の枠組み内に埋没させず、安全衛生管理の必須実費として内訳を明示し、発注者や元請間での適正な費用配分に向けた準備を進める。
- 通年利用を前提とした現場環境管理フローの策定
冷房専用機器の夏期レンタルで終わらせず、冬季の暖房や仕上げ工程の温湿度管理にも連動させ、年間を通じた品質向上・稼働率向上に資する設備計画を早期に確立する。



