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コスト管理 2026年9月9日

国土交通省が2026年度81.4兆円発表、実質横ばいで問われる採算管理

国土交通省が2026年度81.4兆円発表、実質横ばいで問われる採算管理

国土交通省は2026年8月31日、2026年度の建設投資見通しにおいて名目投資額が前年度比2.9%増の81兆4,700億円となり、1996年度以来約30年ぶりに80兆円の大台を突破する見込みであると発表した。一方で、物価変動の影響を除外した実質値(2020年度基準)は前年度比0.9%増の65兆4,609億円にとどまり、工事ボリューム自体はほぼ横ばいで推移する推計となっている。

2026年度建設投資推計の全容と名目・実質の乖離実態

国土交通省が取りまとめた「令和8年度(2026年度)建設投資見通し」では、名目値としての市場規模が約30年ぶりにピーク時の水準へ近づく一方、施工現場が実際に扱う物理的な工事量は増えていないという、インフレ局面特有の構造が鮮明になった。

30年ぶり名目80兆円突破の背景と実質値とのギャップ

日本の建設投資は、1992年度に記録した約84兆円をピークとして長期的な減少局面に入り、2010年度には約41.9兆円と半減する水準まで落ち込んだ。その後、東日本大震災からの復興需要や建築補修(改装・改修)投資の算定基準改定(2015年度導入)などを経て、名目ベースでは11年連続の増加傾向が継続してきた。

2026年度の推計値である81兆4,700億円は、1996年度以来の80兆円台復帰となる。しかし、基準年度(2020年度)の物価で換算した実質投資額は65兆4,609億円にとどまる。名目値が前年度比で2.9%伸びているのに対し、実質値の伸びはわずか0.9%である。名目上の増加分の多くは、資材価格の高止まりや労務費の改定によるコスト上昇分がスライド反映された結果であり、国内で着工・施工される構造物やインフラの絶対量が増加しているわけではない。

年度・推計項目 名目投資額 実質投資額(2020年度基準) 名目・実質の乖離幅(差額)
1992年度(過去ピーク時) 約84.0兆円 ― ―
2010年度(底打ち時) 約41.9兆円 ― ―
2025年度(前年度推計) 79兆1,700億円 64兆8,771億円 14兆2,929億円
2026年度(最新見通し) 81兆4,700億円(+2.9%) 65兆4,609億円(+0.9%) 16兆0,091億円

政府投資と民間投資の内訳推移

投資主体別の内訳を見ると、政府投資と民間投資の間、さらには土木部門と建築部門の間で成長率のばらつきが生じている。

2026年度の政府投資は名目値で26兆6,000億円(前年度比0.6%増、構成比32.7%)と微増であるのに対し、実質値は21兆4,808億円(同1.4%減)とマイナスに転じた。特に公共事業(土木)の名目額は15兆5,100億円(同0.6%増)を維持しているものの、デフレーター調整後の実質値では6年連続の減少見通しとなっており、実質的なインフラ整備工事の量は縮小傾向が続いている。

民間投資は名目値で54兆8,700億円(同4.1%増、構成比67.3%)、実質値で43兆9,801億円(同2.0%増)となった。民間部門を牽引しているのは非住宅建築(工場、物流施設、都市再開発ビルなど)であり、名目12兆3,200億円(同8.6%増)と高い伸びを示している。民間住宅投資は名目18兆200億円(同1.9%増)、建築補修(改装・改修)は名目14兆5,900億円(同3.1%増)となっている。

部門・投資区分 2026年度名目投資額 前年度比(名目) 2026年度実質投資額 前年度比(実質)
建設投資 総計 81兆4,700億円 +2.9% 65兆4,609億円 +0.9%
政府投資 計 26兆6,000億円 +0.6% 21兆4,808億円 -1.4%
├ 公共事業(土木) 15兆5,100億円 +0.6% ― 減少(6年連続)
└ その他政府建築等 11兆0,900億円 +0.6% ― ―
民間投資 計 54兆8,700億円 +4.1% 43兆9,801億円 +2.0%
├ 民間非住宅建築 12兆3,200億円 +8.6% ― ―
├ 民間住宅建築 18兆0,200億円 +1.9% ― ―
└ 民間建築補修等 14兆5,900億円 +3.1% ― ―

構造的インフレと労務単価上昇の推移

実質値が横ばいにとどまる主因は、資材価格と労務単価の継続的な上昇である。

一般社団法人日本建設業連合会(日建連)の「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状[四半期版]」によると、直近2年間(2024年春〜2026年夏)の全建設コスト上昇率は平均で7.3〜8.2%に達している。資材面では、建設資材物価指数(東京)が過去5年間で37〜39%上昇した。600Vビニル絶縁電線(45%増)、硬質ポリ塩化ビニル管(34%増)、アルミ地金(31%増)、ストレートアスファルト(21%増)など、金属・石油化学系を中心とした資材高騰が定着している。

労務費に関しては、国土交通省が定めた公共工事設計労務単価(全国全職種加重平均)が2026年3月改定で2万5,834円に達し、公表開始以来初めて2万5,000円を突破した。2012年の底値(1万3,307円)と比較すると94.1%増とほぼ2倍の水準まで引き上げられており、14年連続の上昇を記録している。

これに加え、2024年4月から施行された労働基準法の時間外労働上限規制(年720時間、月45時間原則等)や現場閉所(4週8閉所)の定着により、実働日数が減少した。月あたりの消化施工高が縮小したことで、現場の人工単価は実質的に押し上げられている。

制度改正の進展と価格転嫁を巡る法的枠組み

建設コストの上昇と供給能力の逼迫に対応するため、法制度面の再編も相次いで施行された。

2024年6月に公布された「改正建設業法・公共工事入札契約適正化法(入契法)」は、2024年9月に「著しく低い労務費による見積り・契約の禁止」や中央建設業審議会による「標準労務費」の勧告制度が先行施行された。さらに2025年12月12日には全面施行を迎え、受注者側の原価割れ契約の禁止、著しく短い工期の禁止、資材価格等の高騰に伴う請負代金変更方法の契約書面記載義務化が導入された。

従来のように元請負人が資材高騰分を下請業者への値引き要請で吸収する手法は法令上厳しく制限されており、コスト上昇分を発注者側へ適正に転嫁できる契約体制の整備が進められている。

参考記事: 日建連発表、労務単価2.5万円超で建設コスト増|積算・見積りの再調整が急務

参考記事: 手持ち工事月数が高止まり?2028年末まで続く供給制約を突破する選別受注戦略

参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント

建設投資の名目膨張が業界主要プレイヤーに及ぼす影響

名目81兆円超という数値と、実質横ばい・供給余力の枯渇という現実の乖離は、建設産業のステークホルダーごとに異なる課題をもたらしている。

ゼネコン(元請け):見かけの売上高増加と粗利率低下の危機

元請ゼネコン各社は、名目上の工事請負金額が増大するため、表面的な売上高の規模は維持・拡大しやすい環境にある。しかし、その内実は資材費や労務費の立て替え・通過勘定としての性格が強く、実質的な粗利益率は圧迫されている。

特に契約締結から引き渡しまでの期間が長期化する大型案件では、工期中にさらなる資材価格変動や専門工事業者の労務単価上昇が発生した場合、従来の固定総額請負契約のままでは元請側が追加コストを吸収せざるを得なくなる。直近2年間で全建設コストが7〜8%超上昇している環境下では、見積時に見込んでいた数%の営業利益は容易に消失する。

このため、元請各社では契約締結時の「スライド条項(単品スライド、インフレスライド)」の実質適用や、見積提出期限を従来の数カ月から1カ月程度へ短縮する防衛策が一般化している。同時に、受注キャパシティ(手持ち工事月数)が高止まりしていることから、利益率の低い案件や工期設定がシビアな案件を回避する「選別受注」への完全移行が求められている。

発注者・デベロッパー:事業採算性の悪化と仕様見直しの圧力

発注者である不動産デベロッパーや民間企業にとっては、投資金額が膨張しているにもかかわらず、取得できる建物の実質的な床面積や設備スペックが向上しないというジレンマに直面している。

非住宅投資は名目8.6%増と意欲的な数字を示しているが、平米あたりの建設単価が急騰しているため、当初計画していた延床面積の縮小や、内外装材・設備のグレード調整(バリューエンジニアリング:VE)を余儀なくされる案件が増加している。また、着工遅延やゼネコン側からの見積辞退によって事業開始時期が後ずれし、投下資本の回収計画が狂うリスクも常態化している。

公共事業の発注機関(自治体等)においても、予算総額は前年度比微増にとどまるため、実質値が減少している土木工事を中心に、入札不調・不落の発生や発注時期の延伸が発生している。今後は設計初期段階から施工者側とコスト・工期の調整を行う早期施工者関与(ECI方式)の採用など、発注プロセスの変革が不可欠となっている。

職人・技能労働者:単価引き上げの実効性と下請への還元課題

技能労働者の現場環境においては、公共工事設計労務単価が2万5,834円へと改定され、国交省と日建連等が合意した「おおむね6%の賃上げ」方針など、労務単価の引き上げ圧力はかつてない高まりを見せている。

しかし、公表単価は基本給相当額であり、法定福利費の事業主負担分や安全衛生費を含めた事業者の実質総コストは単価の約148%(日額約3万8,200円相当)にのぼる。建設投資の名目額が増加しても、その資金が中間マージンや急騰した資材費の補填に消えてしまえば、末端の専門工事会社や個々の技能労働者への賃金還元は限定的なものにとどまる。

改正建設業法によって「標準労務費」を下回る不当な請負代金での契約が禁止されたことで、下請各社は積算根拠を明確にした労務費提示を求められるようになった。適正な処遇改善を実現できた企業に技能者が集まる一方、価格転嫁を進められない企業からは職人の離職が進むという、二極化の傾向が強まっている。

ConShiftの視点:「施工量拡大モデル」から「付加価値・選別受注モデル」への構造転換

国土交通省が示した名目81.4兆円・実質横ばいという推計は、日本の建設市場が「施工量の拡大によって売上と利益を伸ばす従来の拡大モデル」から、「コスト上昇を価格に織り込み、限られた施工リソースの中で利益率を高めるインフレ型モデル」へ完全に移行したことを裏付けている。

この構造変化の本質は、建設産業のボトルネックが「需要の有無」から「施工供給能力(キャパシティ)の不足」へと逆転した点にある。高齢技能者の大量離職や時間外労働上限規制の適用、4週8閉所の定着により、業界全体の物理的な消化能力は2028年末頃まで低位にとどまるとみられている。物理的な施工量(実質値)が増えない以上、売上高という「規模」を追う経営行動は、工期の遅延、下請の手配難、追加費用の発生を招き、利益の急激な悪化に直結する。

今後の建設企業に必要なのは、以下の構造転換を自社の業務プロセスに落とし込むことである。

  1. 積算・契約におけるエスカレーション条項の定着

名目投資額の拡大は資材・労務のインフレを反映したものであるため、工事請負契約書における単品スライドやインフレスライドの適用条件を厳密化し、契約後の物価変動リスクを発注者と合理的に分担する体制を常態化させる必要がある。

  1. 手持ち工事月数の適正管理による選別受注

施工消化スピードが落ちている局面では、自社のキャパシティを超えた受注はリスク要因となる。粗利益率の確保と適正工期の設定を前提とした案件のみを選定し、引き合いが多くとも無理な工事着工を行わない規律が求められる。

  1. デジタル技術(BIM/CIM、施工管理DX)による現場密度の向上

実質工事量が頭打ちの中で収益を伸ばす唯一の手段は、1現場・1工種あたりの生産性向上である。現場施工管理クラウドの導入による間接工数の削減や、BIMによる事前干渉チェックを通じた手戻り防止など、現場の実働人工あたりの施工高を引き上げる内製化投資が競争力の源泉となる。

明日から現場と経営で取り組むべき実務対応

名目投資の膨張と実質工事量の頭打ちが併存する環境を乗り切るため、建設会社の経営層および施工管理者が明日から着手すべきアクションを以下に提示する。

  1. 請負契約書における物価スライド条項の再点検

現在進行中の案件および新規見積案件を対象に、資材価格の再上昇や労務単価改定に対応可能なエスカレーション条項・スライド条項が盛り込まれているかを確認する。民間工事においても、改正建設業法に沿って著しく低い労務費や工期短縮の強要を排除する契約条件を確立する。

  1. 見積有効期限の短縮と積算基準の更新

直近2年間で建設コストが7〜8%超上昇している実態を踏まえ、発注者への見積有効期限を30日以内へと短縮設定する。また、公共工事設計労務単価(2万5,834円)に法定福利費や安全衛生費を加味した実質コスト(公表単価の約148%)を前提とした標準的な積算ルールを社内で徹底する。

  1. 自社の手持ち工事月数と消化スピードの再算定

自社の未消化工事高と過去12カ月の月平均施工高を算出し、手持ち工事月数を可視化する。自社の施工体制が逼迫している場合は新規案件の引き合いに対して選別受注基準を適用し、短工期案件や採算性の不透明な工事の受託を制限する。

  1. 施工管理クラウドツール等の活用による間接業務の圧縮

現場管理者の残業時間上限規制を遵守しつつ施工消化力を高めるため、日報作成、写真整理、図面管理のクラウド化を早急に推進する。現場事務所での事務処理工数を削減し、工程調整や安全管理といった現場の中核業務に注力できる環境を整える。


出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 一般社団法人日本建設業連合会(日建連)
出典: 一般財団法人建設物価調査会
出典: 建設通信新聞

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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