Skip to content

Conshift(コンシフト)

  • 施工管理
  • 人材マネジメント
  • 積算・受発注
  • 政策動向
  • ツール紹介
  • 統計分析
  • 用語辞典
Home > 品質・安全> 厚労省が9.8億円概算要求、建設業の高年齢労災対策マニュアル策定へ
品質・安全 2026年9月10日

厚労省が9.8億円概算要求、建設業の高年齢労災対策マニュアル策定へ

厚労省が9.8億円概算要求、建設業の高年齢労災対策マニュアル策定へ

厚生労働省は令和9年度(2027年度)予算概算要求において、高年齢労働者の労働災害防止対策推進事業の拡充に向け9億8000万円を計上しました。本事業では、労災発生率の高い建設業や警備業を重点対象として過去の災害データを分析し、業種別の安全管理マニュアルや好事例集の作成および動画配信を進める方針です。

改正安衛法と令和9年度概算要求にみる高年齢者労災対策の骨子

厚生労働省が公表した令和9年度(2027年度)の予算概算要求では、安全衛生関連の重要施策として「高年齢労働者の労働災害防止対策推進事業」の拡充に9億8000万円が盛り込まれました。前年度当初予算の8億8000万円から増額されており、建設業や警備業など高年齢労働者の就労比率と被災率が高い産業を名指しした実効的な支援策が盛り込まれています。

この施策の根底には、2026年4月1日に施行された改正労働安全衛生法があります。同法によって、高年齢労働者の身体特性や身体機能の低下等に配慮した作業環境の整備および適切な作業管理が事業者の努力義務として位置づけられました。さらに、2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」においても、高齢者の就業確保とともに労働災害防止に向けた安全衛生対策の更なる推進が明記されています。

政策の流れを整理すると、2020年のガイドライン策定から始まり、法改正による努力義務化を経て、今回の業種別マニュアル策定と具体的普及フェーズへと段階的に移行してきた経緯があります。

年月 施策・出来事 内容・法的位置づけ
2020年3月 エイジフレンドリーガイドライン策定 高年齢労働者の安全と健康確保のための指針を国が策定。
2020年度 エイジフレンドリー補助金開始 中小企業の身体機能低下を補う設備導入等の費用補助を開始。
2025年5月 改正労働安全衛生法公布 高年齢労働者の特性に配慮した措置を努力義務化することを決定。
2026年2月 高年齢者の労災防止指針告示 事業者が講ずべき具体的措置(リスクアセスメント等)を提示。
2026年4月 改正労働安全衛生法施行 高年齢者の特性に配慮した作業環境改善・作業管理が努力義務化。
2026年7月 日本成長戦略閣議決定 多様な人材の活躍に向け高年齢者の安全衛生対策推進を明記。
2026年8〜9月 令和9年度概算要求公表 対策事業に9.8億円を計上。建設業等のマニュアル作成等を明記。

今回の9億8000万円の要求事業では、単に一般的な指針を示すだけでなく、建設業の工種特性や作業動線に即した具体的なマニュアル作成が行われます。過去の災害データを科学的に分析したうえで好事例集を取りまとめ、現場で直感的に理解できる解説動画の制作やオンライン説明会の展開までをパッケージ化して支援する計画です。

また、安全衛生分野の概算要求には、従業員50人未満の小規模事業場に対するストレスチェック実施義務化(2028年6月までに適用予定)を見据えた中央労働災害防止協会の相談窓口体制整備なども含まれており、職人の心身両面を支える安全管理基盤の構築が進められています。

参考記事: 労働安全衛生法(安衛法)の法体系と現場実務|選任基準から安衛則との違いまで徹底解説

建設業における高年齢化の進展と労災リスクのデータ推移

厚生労働省が建設業を重点対象に指定した背景には、現場就業者の急激な高齢化と、それに伴う労働災害発生状況の深刻さがあります。

総務省の「労働力調査」によると、建設業就業者全体に占める60歳以上の割合は2005年時点で15.0%(85万人)でしたが、2024年には25.8%(123万人)へと拡大しました。現在では現場で稼働する作業員の約4人に1人が60歳以上であり、65歳以上の就業者数も2019年以降6年連続で80万人を超えて推移しています。若年入職者の不足と全産業的な高齢化が重なり、建設現場はシニア層の熟練技能によって支えられているのが実態です。

一方で、身体機能の自然な衰退に伴い、高年齢層の被災リスクは若年層に比べて著しく高くなっています。厚生労働省の公表データに基づき、建設現場の就業構造と災害発生の相関を整理したものが以下の比較です。

指標区分 若年・全年齢層の数値・傾向 60歳以上就業者の数値・傾向
建設業就業者に占める割合 29歳以下は約1割程度で推移 25.8%(全体の約4分の1、123万人)
死傷者数全体に占める割合 20〜30代の占有率は低下傾向 休業4日以上の死傷災害の3割台を占有
墜落・転落災害の相対発生率 基準値(20代男性を1.0とした場合) 20代男性の約3.6倍の発生頻度
災害発生時の休業長期化 相対的に早期の現場復帰が可能 骨折等の重篤化により休業期間が長期化

厚生労働省の「労働災害発生状況について」によると、休業4日以上の全死傷者数のうち60歳以上が占める割合は過去20年で倍増し、3割台に達しています。とりわけ建設業の主たる災害類型である「墜落・転落」において、60歳以上の男性労働者の被災率は20代の約3.6倍に上ります。加齢に伴う平衡感覚の低下、筋力や視力の低下、瞬発的な危険回避動作の遅れなどが、足場の昇降や高所作業、段差の歩行時における重大事故に直結していることを示しています。

こうした現状に対し、従来の「個人の不注意をなくす」という精神論的な安全指導では限界を迎えていることから、国は予算を投じて作業環境そのものを高齢者の身体特性に適合させるアプローチへと舵を切りました。

参考記事: ヒヤリハットとは?建設現場で重大事故を防ぐメカニズムと報告書の書き方・DX活用事例

建設業界の各プレイヤーに求められる実務対応

国による業種別マニュアルの策定と改正安衛法の努力義務化は、建設プロジェクトに携わる各プレイヤーの役割や責任のあり方に直接的な変化を及ぼします。元請、下請、現場の施工管理者がそれぞれどのような課題に直面し、どのような実務運用へシフトすべきかを整理します。

ゼネコン(元請け)における統轄安全管理と環境整備の標準化

ゼネコン各社には、統轄安全衛生責任者を中心とした現場全体の作業環境改善が求められます。これまで下請企業の自主管理に委ねられがちだった作業員の体調管理や身体負荷の軽減を、共通仮設や現場ルールのレベルで標準化していく必要があります。

具体的には、仮設足場における階段の傾斜緩和や手すり先行工法の徹底、照度基準の引き上げが挙げられます。高齢作業員は暗がりでの視認性が若年層に比べて著しく低下するため、地下ピットや屋内工事エリアにおける照明設備の増設、段差や開口部への高輝度反射テープの貼付など、物理的な転倒・墜落防止措置の標準化が不可欠です。

さらに、2026年4月施行の努力義務規定に基づき、協力会社任せにしない安全管理体制の構築が問われます。元請が率先して国のマニュアルや好事例を取り入れ、現場巡回時のチェックリストに高年齢労働者配慮項目(昇降経路の安全性、重量物運搬の補助設備有無など)を組み込むことが、現場全体のコンプライアンス維持に直結します。

サブコン・専門工事業者(下請け)における職人の健康管理と作業プロセスの見直し

職人の高齢化が先行して進む専門工事業者(下請け)においては、熟練技術を持つシニア作業員が安全かつ継続して働けるよう、個人の経験則に依存した施工手順を組織的に見直す必要があります。

足場架設、鉄筋配筋、型枠建て込み、設備配管などの専門工事現場では、中腰姿勢の継続や資材の長距離運搬など、身体的負荷の高い作業が日常的に発生します。下請企業は、国のエイジフレンドリー補助金なども活用しながら、運搬用台車やアシストスーツの導入、資材の小分け発注など、腰痛や過度の疲労を防ぐハード面の改善を推進することが現実的な対策となります。

また、毎日の朝礼やツールボックスミーティング(TBM)における健康観察の高度化も求められます。持病(高血圧や糖尿病等)の有無を考慮した適正配置や、当日の体調不良を気兼ねなく申告できる現場環境の醸成が、突発的な意識喪失やふらつきによる重大事故の抑止につながります。個々の職人の「まだ若い者には負けない」という過信を抑え、客観的な体力・体調把握に基づいた人員配置へと運用を変革することが下請経営陣の責務です。

参考記事: 職長・安全衛生責任者教育とは?選任基準や講習カリキュラム・費用と受講方法を解説

現場監督・施工管理者における日々の配置計画とデータ連動の安全巡回

現場監督や施工管理者にとっては、日々の施工管理における「安全管理」の実務手順がより緻密化します。工程と原価を遵守しながら、シニア層の身体的限界を考慮した実効性の高い巡回・配置管理が日常業務の主要テーマとなります。

第1に、高所作業や重量物取り扱い作業における人員配置の精査です。高所での建方作業や足場解体作業など、墜落リスクが極めて高い作業プロセスにおいては、年齢や健康診断結果、過去のヒヤリハット記録を勘案し、若手・中堅とのペアリングを義務付けるといった工夫が求められます。

第2に、夏季における熱中症リスクの加重管理です。高年齢者は口渇感(のどの渇き)や暑さを感じにくく、体温調節機能が低下しているため、若年層と同じWBGT(暑さ指数)環境下にあっても重篤化しやすい傾向があります。施工管理者はWBGT値に基づく画一的な休憩指示にとどまらず、シニア作業員に対してこまめな水分・塩分補給を直接声掛けするなど、個別配慮を徹底する必要があります。

参考記事: 施工管理の4大管理(品質・工程・原価・安全)とは?現場で役立つ実務手順と5大管理・DXへの拡張ポイント

参考記事: 熱中症対策とWBGTの計算方法と実務基準|現場で命を守る作業判断のポイント

ConShiftの視点:精神論からの脱却と安全衛生対策の構造転換

今回の厚労省による9.8億円の予算投入と業種別マニュアル策定は、日本の建設現場が長年囚われてきた「注意一分、怪我一生」に代表される精神論的・属人的な安全管理からの決別を意味しています。

建設業の安全管理は長らく、個人の注意力や現場での気配りに依存してきました。しかし、就業者の4人に1人が60歳以上となり、60歳以上の墜落・転落被災率が20代の3.6倍に達しているという厳然たる客観的事実は、個人の注意力だけでは身体機能の低下を補えないことを証明しています。2026年4月に施行された改正労働安全衛生法の努力義務化は、この構造的限界を法制度として認識した結果であり、安全衛生対策の主眼は「個人の注意喚起」から「身体特性を前提とした現場環境整備とテクノロジー補完」へと明確に構造転換しています。

今後、ゼネコンや工務店の経営層が直面するのは、この環境適応を投資として捉えられるかという問いです。高年齢労働者に優しい現場環境(段差のない通路、見やすい照明、アシスト機器の導入、バイタルセンサーによる体調把握)は、若年入職者や外国人労働者にとっても等しく安全で働きやすい現場となります。

今後は、国が策定する業種別マニュアルを形式的なコンプライアンス対応として受け流す企業と、現場の作業手順の平易化やロボット・センシング技術による身体負荷軽減へと踏み込む企業との間で、施工能力と人材調達力の格差が急速に拡大していくと考えられます。高年齢者の安全確保を単なる「労災コストの予防」ではなく、「熟練技能者の稼働期間を最大化し、現場の生産性を維持するための経営投資」として位置づけ直すことが求められます。

参考記事: 建設RX・施工ロボットとは?設立背景や主要技術・現場での活用メリットを解説

まとめ:明日から現場と経営が着手すべき実務

厚生労働省の施策拡充を契機として、各建設会社が自社の管理体制をアップデートするための初動を提示します。

  1. 自社現場における高年齢労働者の稼働実態と健康診断結果の総点検

現場に入場する作業員名簿や施工体制台帳を精査し、60歳以上の職人の比率、配置工種、直近の健康診断受診状況を把握してください。特に高所作業や重量物取り扱い作業に就いているシニア作業員の把握を急ぎ、配置基準の妥当性を確認する必要があります。

  1. 現場の「つまずき・転倒・照度不足」リスクを洗い出す物理的チェック

明日の現場巡視から、通路のわずかな段差、仮設階段の手すり設置状況、暗所作業エリアの照度測定を行ってください。エイジフレンドリーガイドラインに準拠し、段差の解消や注意喚起標識の追加、高照度LED照明の配置など、即座に実行できる低コストな環境改善から着手することが実効性を高めます。

  1. 改正安衛法に対応した安全衛生経費の確保と見積内訳の適正化

高年齢者の安全対策に必要な資機材(アシスト機器、手すり先行足場、熱中症対策設備等)の費用を「安全衛生経費」として明確に積算し、発注者や元請企業との協議において適正に確保する交渉を進めてください。法令で努力義務化された安全管理措置を確実に履行するための原資を担保することが、企業の継続的な施工体制維持に直結します。

参考記事: 安全衛生経費の積算・見積り実務|ガイドライン改訂のポイントと内訳明示の手順を徹底解説


出典: 労働新聞社Webサイト
出典: 厚生労働省「令和9年度概算要求等の概要」
出典: 内閣官房「日本成長戦略」
出典: 建設業労働災害防止協会
出典: 建通新聞

Share this article:

監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにて設備保全プロジェクトに従事。 その後、スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してConShiftを立ち上げ。 現在は建設DXメディア「ConShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

関連記事

前田建設工業、切羽圧の10秒先予測でシールド工事の属人化打破へ
2026年9月4日

前田建設工業、切羽圧の10秒先予測でシールド工事の属人化打破へ

静岡労働局、労災死者24人急増で警戒再発令|現場安全対策の総点検を
2026年9月3日

静岡労働局、労災死者24人急増で警戒再発令|現場安全対策の総点検を

2026年8月7日

熊本地震で予備費206億円投入、土木被害マップが示す耐震設計の要点

ConShift

建設業のビジネス知識に関心を持つ経営層・現場リーダーのための課題解決メディア。現場のノウハウから最新のDX事例まで、ビジネスを加速させる情報をお届けします。

カテゴリー

  • 施工管理
  • 品質・安全
  • コスト管理
  • 人材マネジメント
  • 積算・受発注

もっと探す

  • 政策動向
  • BIM/CIM
  • 法規制・制度
  • 海外トレンド
  • ツール紹介
  • 統計分析
  • 建設業界用語辞典

サイト情報

  • 運営者情報
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • LogiShift
  • TechShift

© 2026 ConShift. All rights reserved.