厚生労働省は2026年9月15日、2025年に労働基準関係法令違反が認められた技能実習生を使用する建設業の事業場数が、前年比31.2%増の2,252件に達したと発表しました。全産業の技能実習生受入事業場に対する監督指導では機械等の安全基準違反が22.8%と最多を占めており、違反が確認された各事業場に対して労働基準監督署から是正勧告が行われています。
建設業における技能実習生受入事業場の違反実態と監督強化の推移
厚生労働省が公表した「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況」によると、建設業における労働基準関係法令違反の件数が大幅に増加しています。2024年4月からの時間外労働上限規制の適用を経て、労働基準監督機関による外国人労働者の就労環境に対する重点的な監督・指導が強化されたことが背景にあります。
監督指導の概要と違反件数の推移
今回の発表内容に基づき、建設業における技能実習生受入事業場への監督指導結果の推移を整理します。
| 項目 | 2024年(令和6年) | 2025年(令和7年) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 違反事業場数(建設業) | 1,716件 | 2,252件 | +31.2% |
| 公表日 | 2025年9月26日 | 2026年9月15日 | – |
| 発表主体 | 厚生労働省 | 厚生労働省 | – |
2024年の1,716件から1年間で536件増加しており、増加率は30%を超えました。建設業では若手入職者の減少と高齢化に伴う熟練技術者不足を補うため、技能実習生をはじめとする外国人材の受け入れを拡大してきた経緯があります。しかし、受け入れ規模の拡大に現場の労務管理や安全衛生体制の整備が追いついていない実態が数値として表れました。
全産業における主な違反項目と悪質事案の状況
2025年に厚生労働省が全国で実施した技能実習生使用事業場に対する監督指導の全体データでは、監督を実施した13,148事業場のうち、73.2%にあたる9,619事業場で法令違反が確認されました。主な違反事項の内訳は以下の通りです。
| 順位 | 違反事項 | 全体に対する割合 | 主な違反内容 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 機械等の安全基準 | 22.8% | 墜落防止措置の不備、安全装置の未設置 |
| 2位 | 医師等からの意見聴取 | 15.7% | 健康診断実施後の医師意見聴取の未実施 |
| 3位 | 割増賃金の支払 | 15.6% | 時間外・休日労働に対する割増賃金未払い |
重大・悪質な法令違反が認められた事案については、全国で26件の送検が行われました。特定技能外国人を使用する事業場に対しても8,082事業場に監督指導が実施され、6,179事業場(違反率76.5%)で違反が認められ、9件が送検されています。
厚生労働省の労働基準局監督課は、技能実習生や特定技能外国人の適正な労働条件と安全衛生の確保に重点的に取り組む方針を示しており、度重なる指導に従わない事業者には送検を含む厳正な処分を行う姿勢を明確にしています。
参考記事: 建設業の36協定・時間外労働の上限規制の基礎知識|2024年4月適用ルールと違反リスクを解説
サプライチェーン各層に及ぶ法令違反急増の波及影響
建設業における違反事業場の急増は、個別の下請事業者の労務問題にとどまらず、元請企業から現場の技能労働者全体に至るサプライチェーン全体へ直接的な影響を及ぼします。
サブコン・専門工事業者(下請け)における事業継続リスク
技能実習生を直接雇用して現場作業を担うサブコンや専門工事業者にとって、今回の監督強化と是正勧告件数の増加は死活問題となります。労働基準監督署から是正勧告を受けた場合、違反状態の解消に向けた改善報告書の提出が義務付けられます。さらに、労働基準法違反や安全衛生法違反が重大・悪質と判断されて送検や行政処分に至った場合、技能実習計画の認定取消や今後の受入停止処分を受けることになります。
下請企業では、慢性的な人手不足と短工期の要請から、残業時間の適正な集計や割増賃金の適正支給が後回しにされてきた側面がありました。しかし、客観的な記録に基づかない勤怠管理や残業代の固定払い(定額残業手当の不適正運用)は、監督指導において即座に未払い賃金として指摘される対象となります。
加えて、元請企業からのコンプライアンス審査が厳格化されているため、労働基準関係法令違反を起こした企業は現場への入場制限や指名除外を受けるリスクが高まっています。法令遵守の体制を整えられない専門工事業者は、外国人材の受け入れ資格を失うだけでなく、元請からの受注機会そのものを喪失する局面を迎えています。
参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説
ゼネコン(元請け)に問われる統括管理責任とガバナンス
元請ゼネコンにとって、自社が直接雇用していない下請企業の外国人労働者であっても、作業所内での法令違反は現場全体の操業停止や企業評価の失墜につながる重大なリスクです。労働安全衛生法上、特定元方事業者としての統括安全衛生管理義務が課されており、安全装置の不備や墜落防止措置の不徹底による違反は、元請の指導不足として追及される可能性があります。
公共工事や大手民間工事では、企業の社会的責任(CSR)やサプライチェーン全体における人権デューデリジェンスの確認が発注者から強く求められます。二次・三次下請で技能実習生に対する賃金未払い法令違反や過重労働が発覚した場合、元請企業自身が監督責任を問われ、指名停止措置や企業ブランドの失墜を招く恐れがあります。
このため、元請各社は現場入場時における外国人労働者の在留資格や就労条件の確認、下請企業の36協定締結状況のチェックをより緻密に行わざるを得なくなっています。建設キャリアアップシステム(CCUS)などを活用した正確な就業履歴の把握と、労務費が適正に末端まで支払われているかの確認作業が、現場管理者の通常業務として不可欠なものとなっています。
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
職人・技能労働者の就労環境と安全確保の変化
現場で稼働する技能実習生や特定技能外国人にとって、監督指導の厳格化と違反事業場の摘発は、安全衛生や処遇の是正につながる動きとなります。言語や商習慣の壁から不当な労働環境を甘受せざるを得なかった労働者に対し、適正な割増賃金の支払いや足場・開口部の安全措置が徹底される基盤が作られつつあります。
一方で、現場の労務管理が厳格化されることで、工期末期の突貫工事による残業対応が困難になり、現場全体の工程見直しが避けられなくなります。日本人職人と外国人技能者の双方が適正な休息を確保しつつ作業を進めるためには、現場全体での作業効率化と適正工期の設定が前提となります。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント
ConShiftの視点:育成就労制度への移行期における労務管理の構造転換
2025年の違反件数が前年比31.2%増の2,252件に達した事実は、建設業界における従来の労働力供給構造が限界に達していることを示しています。背景には、2024年6月に成立した改正入管法及び育成就労法により、現行の技能実習制度が発展的に解消され、人材確保と育成を目的とした「育成就労制度」への移行が決定している点があります。
新制度では、一定の要件を満たすことで労働者本人による転籍(職場変更)が認められる方向で制度設計が進められています。従来の技能実習制度では原則として転籍が制限されていたため、過酷な労働環境や労務管理の不備が存在しても人材を現場に留め置くことが可能でした。しかし、転籍制限が緩和される環境下では、賃金未払いや安全基準違反を放置する企業からは外国人技能者が合法的に離脱していくことになります。
つまり、労働基準監督署による是正勧告を回避することにとどまらず、外国人材から「働き先として選ばれる企業」でなければ事業継続そのものが不可能になる構造へと変化しています。
建設業の2024年4月からの時間外労働上限規制に続き、労務管理の不備を放置したまま施工能力を維持することはもはや不可能です。紙の出勤簿や手書きの日報、現場代理人の感覚に依存したアナログな勤怠管理を継続している事業者から淘汰が進み、デジタルツールを活用して客観的就業データを把握できる企業へのサプライチェーン再編が加速していくと考えられます。
参考記事: 建設業働き方改革加速化プログラムとは?適正工期・賃金引き上げ・現場DXを実現する3つの柱を解説
明日から意識すべき現場労務管理の是正ポイント
是正勧告件数の急増という実態を受け、元請・下請を問わず、自社および現場全体の労務コンプライアンスを即座に総点検する必要があります。
- 客観的記録に基づく労働時間の把握と割増賃金の再計算
タイムカードや入退場ログ、施工管理アプリなどを活用し、始業・終業時刻を1分単位で客観的に記録する運用を徹底してください。移動時間や朝礼、後片付けの時間が労働時間として適正に計上されているかを確認し、36協定の限度時間を超える違法な残業や割増賃金の未払いがないかを点検することが最優先です。
- 現場の安全設備と外国人労働者向け安全衛生教育の点検
違反事項で最も割合の高い「機械等の安全基準」を満たすため、足場先行工法の遵守や開口部養生、墜落制止用器具の使用実態を現場巡回で再確認してください。また、母国語併記の安全標識設置や通訳ツールを介した危険予知活動(KY活動)を実施し、安全指示が正確に伝わっているかを検証してください。
- 二次・三次下請を含む労務コンプライアンス状況のモニタリング体制構築
元請企業は現場に入場するすべての協力会社に対し、社会保険加入状況だけでなく、直近の36協定届出書や健診結果に基づく医師意見聴取の実施状況を書類で確認するフローを定着させてください。下請企業側も、法令違反が発覚した際のリスクを全社で共有し、労務管理の透明化を進めることが不可欠です。
出典: 建通新聞 電子版
出典: 厚生労働省 報道発表資料



