国土交通省の「持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会」は、2026年10月13日に第2回会合を開き、技能労働者の処遇改善やAI活用を軸とした施策の議論を行いました。会合では、日給制から月給制への移行を後押しする発注平準化や、中小企業の育成機能集約を狙うロールアップ型M&Aの推進が具体策として提起されました。
第2回検討会が示した「人を大事にする」産業への転換策
国土交通省が設置した有識者会議「持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会」の第2回会合は、2026年10月13日に開催されました。当日は「人を大事にする」産業の実現を主題に、技能労働者の給与体系、中小事業者の育成体制、AI・ロボティクス技術の適用方針について議論が交わされました。
会合の冒頭、国土交通省の須藤明夫不動産・建設経済局長は、建設業が選ばれる産業となるために一層の処遇改善、あらゆる人材が活躍できる制度や環境の整備、人材育成の取り組み強化が求められる旨を述べました。
検討会設置の経緯とビジョン策定の時系列
国土交通省は2017年に中長期施策「建設産業政策2017+10~若い人たちに明日の建設産業を語ろう~」を策定しました。それから約10年が経過した現在、2024年6月に成立した第三次・担い手3法(改正品確法、改正建設業法・入契法等)の施行プロセスと連動させながら、次の10年を見据えた新たな産業ビジョンの策定に着手しています。
| 年月日 | 出来事・会議体 | 主な決定事項と検討内容 |
|---|---|---|
| 2017年 | 建設産業政策2017+10 | 若年入職者の確保に向けた10年計画を策定 |
| 2024年6月 | 第三次・担い手3法成立 | 標準労務費の勧告や原価割れ契約の禁止を法制化 |
| 2026年7月9日 | 本検討会(第1回) | 大久保哲夫氏が座長に就任。2027年夏の新ビジョン策定を決定 |
| 2026年10月1日 | 入札・発注WG(第1回) | 適正工期と平準化に向けた発注制度の個別課題を抽出 |
| 2026年10月13日 | 本検討会(第2回) | 「人を大事にする」産業を議題に月給制・M&A・AI活用を協議 |
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
検討会委員による主な提案と論点
会合では、学識経験者や業界団体代表から、労働環境や組織形態の再編に関する意見が相次ぎました。単一企業の努力に委ねるのではなく、サプライチェーン全体での制度設計や資本統合を視野に入れた施策が議論の中心となりました。
| 発言者(役職) | 主な発言趣旨・提案内容 | 現場実務・経営への関わり |
|---|---|---|
| 勝見剛氏(日建連総合企画委員会政策部会部会長) | 民間発注者への平準化・支払い条件指導と、月給制導入企業への支援・評価の仕組みが必要 | 工期平準化による年間を通じた労務費原資の確保 |
| 錢高久善氏(全建副会長) | 建設業務労働者就業機会確保事業の使い勝手が悪い。柔軟に活用できる制度への見直しを要望 | 閑散期における他現場・他社への技能者送出の弾力化 |
| 古屋星斗氏(リクルートワークス研究所主任研究員) | 中小・零細企業の人材育成共同化、地域建設業界による学校教育への主体的投資を提案 | 採用・初任教育にかかる単独企業のコスト負担分散 |
| 福地宏之氏(一橋大学大学院准教授) | ロールアップ型M&Aによる教育・採用機能の集約と、人を大事にする企業が伸びる環境創出 | 規模拡大による経営基盤強化と間接部門の効率化 |
| 浜田紗織氏(ワーク・ライフバランス取締役) | 時間や家庭の制約がある潜在労働力を引き出す柔軟なマネジメントへの転換を提起 | 短時間勤務やテレワークによる技能者・技術者の裾野拡大 |
| 全邦釘氏(東京大学大学院特任教授) | 安全や処遇の改善にAIは不可欠。「人を減らす」ではなく「人を守る」技術としての位置づけ | 危険作業の遠隔・自律化による死傷病リスクの低減 |
| 丸山優子氏(山下PMC社長) | 日本の品質管理ノウハウをフィジカルAIへ組み込み、人にしかできない仕事で高処遇を実現 | 現場施工データのアルゴリズム化と付加価値向上 |
技能労働者の賃金体系と就業実態データ
検討会で焦点となった「月給制への転換」に関して、国土交通省が2026年7月に公表した「賃金・法定福利費・安全衛生経費等に係るアンケート調査」(2025年10〜11月調査)によると、建設業許可業者における基本給の形態は以下の通りです。
- 月給制:74.0%
- 日給月給制:24.5%
- 日給日払い等:0.8%
- その他:0.7%
企業単位では74.0%が月給制を採用しているものの、専門工事業の職人に絞ると状況は異なります。建設産業専門団体連合会の調査では、日給月給制を適用している企業が49.6%(複数回答)に上り、現場の稼働日数や天候、繁閑の差が技能者の実収入を直接左右する状況が続いています。
国交省調査において日給制を採用している企業のうち、月給制への移行を検討している企業は34.8%(具体的に検討している4.5%、移行を考えている30.3%)を占めており、固定給化に伴う固定費負担と工事量の繁閑リスクをいかに吸収するかが移行の争点となっています。
技能労働者・下請・元請の3層に波及する制度と実務の変化
本検討会で提起された諸施策は、発注者から技能労働者に至る重層下請構造の各層に対して、具体的なオペレーションの変更を迫る内容を含んでいます。
職人・技能労働者:収入安定化と身体的負荷の低減
日給月給制から完全月給制への移行が進むと、降雨や冬季の稼働停止、現場間の端境期による月収の変動が解消されます。生活設計の予見可能性が高まることで、若年技能労働者の離職を防ぐ基盤が整います。
安全面においては、全邦釘特任教授が提起した「人を守るAI」の実装が直結します。2026年9月に国土交通省が公表した「建設分野におけるフィジカルAI戦略」の重点分野である鉄筋・型枠作業の補助ロボットや資材小運搬の自律化、ドローンによる巡視点検が現場に導入されることで、重量物運搬による腰痛や高所作業に伴う墜落・転落事故のリスクが抑制されます。
参考記事: 国土交通省フィジカルAI戦略、2040年省人化3割へ求められる現場変革
サブコン・専門工事業者:固定費化への耐性確保とロールアップM&A
下請を担う専門工事業者にとって、月給制への移行は人件費の完全な固定費化を意味します。年間を通じた施工量を自社単独で確保できない中小零細企業では、雨天や工期遅延によるキャッシュフローの悪化リスクが直接経営を圧迫します。
この課題に対し、検討会で示されたロールアップ型M&Aの活用が現実的な選択肢となります。同一地域や同工種の同業他社が経営基盤の強固な企業を軸に経営統合し、バックオフィス機能や採用・教育を本社に集約することで、1社あたりの間接コストを抑制できます。また、錢高副会長が要望した建設業務労働者就業機会確保事業の制度見直しが実現すれば、自社の端境期に他社の繁忙現場へ技能者を公式に送出する柔軟な雇用シェアが可能になります。
ゼネコン(元請け):民間発注者との工期交渉とサプライチェーン選定基準
元請けゼネコンは、下請企業の月給制維持を前提としたサプライチェーンの再構築を求められます。公共工事で先行する施工時期の平準化を、民間建築工事の発注者に対しても適用するよう交渉する役割が生じます。
勝見部会長が言及した民間発注者への指導体制が行政側で強化される場合、元請けは適正工期と労務費を担保した請負契約を締結する義務を負います。2025年12月に全面施行された改正建設業法に基づく標準労務費の順守に加え、一次・二次下請の給与体系が月給制であるかを施工体制台帳等で確認・評価する仕組みが導入されれば、協力会社の選定基準そのものが「労務単価」から「雇用の安定性」へと移行します。
ConShiftの視点:フィジカルAIとロールアップM&Aが再編する施工管理
本検討会の議論において注目すべきは、建設DXの位置づけが「省人化によるコスト削減」から「人を守り、人の能力を最大限に引き出すための基盤」へと公式に再定義された点です。
中小建設業におけるAI導入率は15.9%(中小企業基盤整備機構・2026年3月調査)にとどまり、全産業でワースト2位となっています。この停滞の要因は、中小事業者が単独でAI開発や高額な施工ロボットを調達・運用する資本力を持たない点にありました。
参考記事: 国土交通省のAI導入推進|中小導入率15.9%から現場事務を削減する手法
一橋大学の福地准教授が提唱した「ロールアップ型M&A」と、山下PMCの丸山社長が指摘した「品質管理ノウハウのフィジカルAI化」が結びつくことで、業界再編の形が具体化します。優れた現場管理ノウハウを持つ企業が中核となり、地域の専門工事業者をグループ化(ロールアップ)して共通のデータ基盤とAIツールを配備する体制です。
施工手順や配筋検査、安全確認などの暗黙知をAIのアルゴリズムに組み込み、グループ内の現場で共通運用できれば、経験の浅い若年技能者や時間制約のある短時間勤務者でも一定品質の施工管理を遂行できます。結果として、個社単独では不可能だった「月給制の固定費負担」と「先端技術投資」をグループ全体の施工量で回収するモデルが成立します。
明日の現場運営に向けて着手すべき実務対応
国交省検討会の議論は、2027年夏の新ビジョン策定と次期法改正に向けた政策の方向性を示しています。建設企業の経営層や現場リーダーは、制度化を待つことなく以下の実務対応に着手する必要があります。
- 下請企業の給与形態と雇用契約の棚卸しを実施する
一次協力会社だけでなく二次・三次下請を含め、現場に入場する技能労働者のうち日給制・日給月給制の比率を正確に把握します。改正建設業法の標準労務費遵守状況とあわせ、下請契約の単価設定が技能者の月額手取り水準を維持できる水準にあるかを検証します。
- 民間工事における工程平準化データの蓄積を開始する
天候不順や資材調達遅延に伴う現場稼働停止日数の実績データを蓄積し、民間施主に対する工程設定の根拠として整理します。発注者起因の工期変更や支払遅延が発生した場合に備え、協議記録を書面・電子データとして残す運用を現場監督レベルで徹底します。
- 自社単独に依存しない育成・設備投資の提携先を検討する
自社単独での人材採用や重機・デジタル機器の購入に限界がある場合、同業他社との共同研修の立ち上げや、資本業務提携・ロールアップ型M&Aの可能性を経営課題として検討します。技能労働者の繁閑差を埋めるため、近隣他社との雇用シェア制度(建設業務労働者就業機会確保事業等)の活用可能性も調査対象に含める必要があります。
出典: 日刊建設工業新聞
出典: 建設通信新聞
出典: 国土交通省 報道発表資料(2026年10月6日)



