竹中工務店と内装工事業の爽美は、技能者が現場で描いた手書き図面をスマートフォンで撮影するだけで内装仕上げ材の加工用CADデータを自動生成するシステムを開発した。手書き図自動生成アプリ「AI i-Bow」と現場加工機をクラウド基盤「i-Bow Cloud」で直結し、2026年9月から近畿圏を皮切りに加工機のレンタル提供を順次開始する。
「AI i-Bow」が解決する内装仕上げ材加工の入力ボトルネック
建築内装仕上げ工事の現場では、石膏ボードなどの部材を取り付ける際、躯体の寸法誤差や特注の納まりに合わせた現場加工が頻繁に発生する。従来は技能者がスケッチや端材の裏に鉛筆で寸法を手書きし、手作業で切断するか、現場加工機用の端末アプリでCAD図面を指先などで入力して切断機を動かしていた。
しかし、現場作業の合間にタブレット端末上で作図・入力を行う作業は、デジタル機器の操作に不慣れな高齢技能工や外国人技能工にとって負担が大きく、加工自動化の普及を妨げる要因となっていた。
今回開発された「AI i-Bow」は、技能者がボードの端材や紙にフリーハンドで描いた寸法入りの手書きスケッチをカメラで撮影するだけで、AIが業界特有の図面記号や手書き数値を判読し、仕上げ材加工用のCADデータおよびCAMデータを即時に自動生成する。
「i-Bow」シリーズの開発経緯と実証実験の推移
竹中工務店と爽美は、2020年から内装仕上げ材加工機の開発を段階的に進めてきた。
| 年月 | 開発・運用の推移 | 技術的進展と主な内容 |
|---|---|---|
| 2020年11月 | 初代「i-Bow」発表 | ボード材切断を自動化する現場用加工アシスト機を実用化。 |
| 2022年9月 | 「i-Bow2」共同発表 | 無人自動加工機能と画面上で手動入力する「YUBI CAD」を実装。 |
| 2024年7月 | 金沢大学との共同研究 | 爽美が画像認識入力に関する産学共同研究契約を締結。 |
| 2025年3月 | AI研究開発に着手 | 爽美が手描き図面を生成AIでSVGデータ化する研究を開始。 |
| 2025年9月 | オクジュー作業所で初適用 | 内装工事大手のオクジューが関東圏(小田原市新病院)で先行実証。 |
| 2026年6月 | 公式リリース発表 | 手書き認識AIとクラウド基盤「i-Bow Cloud」の連携を正式発表。 |
| 2026年9月 | レンタル提供開始 | 近畿圏の作業所を皮切りに加工機レンタルを順次スタート。 |
| 2027年6月(予定) | 集中加工ステーション構想 | 大規模現場内に数十台規模の加工機を配置する運用を計画。 |
本技術開発は、国土交通省のSBIR(中小企業技術革新制度)建設技術研究開発助成制度にも採択されており、2025年5月および2026年6月にも継続採択を受けながら開発が進められてきた。
クラウドと連携する現場加工システムの仕組み
新システムは、手書き図面の撮影から自動加工までを以下の3層構造で処理する。
- 手書き図自動生成アプリ「AI i-Bow」
現場技能者が石膏ボードの端材やメモ用紙に鉛筆で描いた寸法入りのスケッチを、スマートフォンやタブレットのカメラで撮影する。AIがラフな線画や職人特有の寸法表記を解析し、CAM制御用のベクターデータへ即時変換する。
- 現場クラウド基盤「i-Bow Cloud」
生成された加工データと撮影画像はクラウド上で一元管理される。施工管理者や職長がデータをリアルタイムに確認でき、必要に応じて従来の作図アプリ「YUBI CAD」を介して寸法の微修正や再編集が行える。
- 建築内装仕上げ材加工アシスト機「i-Bow2」
クラウドから送信された加工データを受信し、現場内に持ち込まれた加工機が無人でボード材などを高精度に自動切断する。
参考記事: 竹中工務店、2026年9月に手書き図面AI認識の加工機レンタル開始
施工関係各層におけるオペレーションの変化
手書き図面からのCADデータ自動生成と加工機レンタル展開は、技能労働者、専門工事業者、元請けゼネコンの現場運用にそれぞれ具体的な変化を与える。
職人・技能労働者:CAD操作教育を不要化し作業ミスを抑制
従来のデジタル加工機を現場で稼働させるには、技能者がタブレット端末上で専用CADアプリの操作を習得する必要があった。これが高齢の技能工や新規入職の外国人技能工にとって心理的・時間的な参入障壁となっていた。
「AI i-Bow」の導入により、技能者は従来の習慣通りに端材へ鉛筆で寸法をメモし、それを端末で撮影するだけで加工指示を完了できる。CADソフトの教育コストを発生させず、手作業によるノコギリ切断に伴う切り間違いや粉塵の吸入リスクを低減できる。
参考記事: CAD(Computer Aided Design)入門|2D・3Dの違いからBIM連携・ソフト選定まで解説
サブコン・専門工事業者:現場加工の内製化とリードタイム短縮
内装工事業を担う専門工事業者は、現場の取り合い調整で生じる端数部材をその場で高精度に切り出せるようになる。
特注部材をプレカット工場へ再発注する場合に生じる数日間の納品待ちリードタイムが解消され、現場内での即時加工が可能となる。2025年9月に関東圏の病院新築現場で先行導入したオクジューの実証運用のように、協力会社が加工機を現場ステーションとして運用することで、現場加工専任の人員配置を最小化できる。
元請けゼネコン:内装クリティカルパスの圧縮と廃材削減
内装仕上げ工事は建物の引き渡し直前に位置するため、工期の遅延を取り戻すバッファが極めて少ない工程である。
手書きスケッチから即座に加工機が動く環境が現場内に整うことで、採寸から部材取り付けまでのサイクルが短縮され、工程遅延のリスクが低減する。また、正確な切断データに基づいて端材を活用できるため、石膏ボードなどの現場廃材発生量を抑制できる利点がある。
参考記事: 国土交通白書、民間AI投資は米国の250分の1|現場導入1割の打開策
ConShiftの視点|「現場の身体性」を維持するラストワンマイルのAI実装
建設現場のデジタル化において、端末へのデータ入力作業は最大の定着阻害要因となってきた。PCやタブレットのUIに数値を手動入力させるアプローチは、粉塵が舞い手袋を着用して作業する技能者にとって実用上の負担が大きかった。
竹中工務店と爽美による取り組みの特徴は、「端材の裏に鉛筆で寸法を書く」という職人の身体的な作業様式を一切変更せず、そのアナログメモの読み取り側をAIでデジタル化・自動化した点にある。人間側に新たなUI操作を強制するのではなく、機械側が現場の慣習(手書き線や手書き文字)を解釈する設計をとっている。
国交省の「建設分野におけるフィジカルAI戦略」でも指摘されている通り、フィジカル空間でロボットや加工機を動かすためには、現場の暗黙知や手元作業の機械可読化が不可欠である。今後は内装ボードの加工にとどまらず、配管加工寸法のメモ書き、鉄筋の配筋検査チョーク跡、仕上検査の付箋メモなど、現場の泥臭い物理的記録をAIが直接認識してCAM制御や施工管理基盤へ連動させる実装が各工種へ波及していく。
参考記事: 国土交通省フィジカルAI戦略、2040年省人化3割へ求められる現場変革
まとめ
竹中工務店と爽美による手書き図面のCAD自動生成システムは、現場の作業習慣を変えずに自動加工機の稼働率を高める実践的なモデルである。施工管理関係者や現場リーダーが意識すべき点は以下の通りである。
- 技能者に入力作業を強要しないツール選定
端末操作の講習を必要とするシステムではなく、既存の作業動線や手書き習慣をそのまま活用できるインターフェースを優先する。
- 現場加工ステーションの配置計画
2027年に計画されている集中加工ステーション構想のように、加工機を現場のどのフロア・ヤードに配置すれば運搬動線と待ち時間を最小化できるかを検証する。
- 現場発生端材の加工データ連携
手書き採寸から自動加工までのサイクルを運用し、部材発注量の最適化と現場廃材の削減効果を定量的に把握する。
出典: 日本経済新聞
出典: 竹中工務店 プレスリリース
出典: 株式会社アクティオ プレスリリース
出典: 株式会社爽美 公式HP


