全国建設業協会が実施した調査により、改正建設業法で創設された主任技術者・監理技術者の現場兼任特例を活用している企業が24.8%にとどまる実態が明らかになりました。営業所技術者の専任現場兼務に至っては活用率が7.9%にとどまり、兼任に伴う技術者の業務過重やICT環境整備の負担が現場運用の障壁となっています。
改正建設業法による兼任特例の骨子と全建アンケートの調査結果
全国建設業協会(全建、今井雅則会長)は、会員企業を対象に発注関係事務の運用状況などに関するアンケート調査を実施しました。その結果、2024年12月13日に施行された改正建設業法に基づく「現場技術者の専任義務緩和規定(専任特例1号・法第26条第3項)」を活用し、主任技術者または監理技術者を複数現場で兼任させた実績のある企業は全体の24.8%でした。さらに、営業所技術者等(旧・営業所専任技術者)に現場の主任技術者・監理技術者を兼務させた実績のある企業は7.9%にとどまっています。
建設現場における技術者配置のルールは、下請代金や請負代金の規模に応じて法律で厳格に定められてきました。2020年10月施行の改正法では、監理技術者補佐を専任配置することを条件に1人の監理技術者が2現場を管理できる「特例監理技術者制度(専任特例2号)」が導入されました。続いて2024年12月施行の改正法では、補佐を置かずにICT活用や連絡員の配置を条件として主任技術者・監理技術者が最大2現場を兼ねられる「専任特例1号」が新設されました。
技術者専任緩和に関連する制度の変遷
| 年月 | 制度改正の内容 | 主な適用要件・影響 |
|---|---|---|
| 2020年10月 | 特例監理技術者制度の新設(専任特例2号) | 監理技術者補佐(1級技士補等)の専任配置により、監理技術者が2現場兼任可能 |
| 2024年12月 | 専任義務緩和規定の施行(専任特例1号・第26条の5) | ICT活用・現場連絡員配置等の下で主任技術者・監理技術者の2現場兼任を容認 |
| 2025年2月 | 技術者の専任配置金額基準の引き上げ | 請負代金額下限が土木一式等で4,500万円以上、建築一式で9,000万円以上に改定 |
| 2025年6〜7月 | 全建による実態調査の実施 | 新制度下での主任・監理技術者兼務の活用率は24.8%、営業所技術者兼務は7.9% |
2024年12月に施行された専任特例1号を適用するためには、複数の厳格な要件を同時に満たす必要があります。
- 請負代金額の制限(土木一式・各専門工事等は各1億円未満、建築一式工事は各2億円未満)
- 移動時間の制約(現場間が一日で無理なく巡回可能であり、片道おおむね2時間以内)
- 下請次数の制限(下請次数が3次以内)
- 現場連絡員の配置(土木・建築一式工事では実務経験1年以上を有する者の配置)
- 遠隔管理措置(ICT機器やカメラ、入退場管理システムによる現場状況の常時確認)
- 人員配置計画書の作成および現場への備え置き
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
現場から寄せられた定性的な課題と懸念
アンケートの自由回答では、制度を活用できない要因や、実際に適用したことで生じた課題について、会員企業から具体的な指摘が多数寄せられました。
特に多く見られたのは、技術者個人の労務管理に関する指摘です。「兼務により技術者の責任と書類作成などの事務負担が増加し、実質的な賃下げになっている」「現場技術者が仕事量の増加を嫌がり、複数現場の担当を拒否する」「労働時間の規制が厳しくなり、兼任は困難」といった意見が挙がっています。
また、受注機会の公平性に関する懸念も示されました。「高い評価点を持つ技術者を抱える一部の企業が、兼任特例を使って地域工事を独占している」「小規模工事に分割して発注されるため兼任手続きが必要になるが、近接する工事であれば一括発注してくれれば兼任そのものが不要になる」といった発注形態への不満も表出しています。専任技術者の確保が難しい地方の中小建設会社と、人員に余裕のある上位会社との間で、運用上の格差が生じている実態が浮き彫りとなりました。
参考記事: 主任技術者とは?監理技術者との違いや専任基準・実務要件をわかりやすく解説
元請ゼネコン・現場監督・SaaSベンダーが直面する運用上の現実
主任技術者・監理技術者の兼任特例活用が約2割にとどまる現状は、施工体制を組む元請ゼネコン、日々の施工管理を担う現場監督、そして現場のICT化を支援するITベンダーのそれぞれに直接的な影響を及ぼしています。
元請ゼネコン:受注枠拡大と労務コンプライアンスの板挟み
元請ゼネコンにとって、有資格者の専任配置義務は受注件数の上限を決定づける直接的な経営制約です。兼任特例の導入は、保有技術者数以上の案件を受注するための手段となります。
しかし、約2割の利用率にとどまっている背景には、現場連絡員の確保やICTツールの配備コスト、下請次数3次以内といった厳格な条件の存在があります。さらに、兼務させた技術者が時間外労働上限規制を超過するリスクを避けるため、安全側に倒して専任配置を継続せざるを得ない判断が下されています。制度利用に伴う労務監査や現場管理計画書の策定にかかる間接コストが、兼任による売上増や利益改善効果を相殺している状況です。
参考記事: 建設業の2024年問題とは?時間外労働上限規制のポイントと現場が取るべき対策を徹底解説
現場監督・施工管理者:移動時間と書類業務の二重負担
現場の施工管理者にとって、2現場の兼任は物理的・精神的な負荷の増大に直結しています。移動時間が「片道おおむね2時間以内」と規定されているため、巡回だけで1日の大半が消費されるケースが存在します。
特例の要件を満たすために現場連絡員を配置したとしても、施工計画の策定、出来形管理、品質管理、安全巡回、安全衛生協議会の運営といった基幹業務の責任は兼任技術者自身に残ります。遠隔確認ツールが十分に機能していない現場では、連絡員からの電話連絡や確認依頼が頻発し、手戻りや意思決定の遅延を招いています。兼任に伴う処遇改善や業務支援が伴わないまま運用された結果、現場技術者の離職リスクを高める要因にもなっています。
参考記事: 監理技術者と主任技術者の違いとは?配置基準や資格要件、専任緩和の特例まで解説
施工管理SaaSベンダー:要件充足から実効的な業務削減への転換要求
遠隔臨場システムや施工管理アプリを提供するSaaSベンダーには、法的な要件クリアだけを目的としたツールの提供から、実質的な作業時間削減を担保するソリューションへの転換が求められています。
専任特例1号では「遠隔で現場状況や施工体制を確認できる措置」が義務付けられていますが、単にカメラを設置して映像を閲覧できるようにするだけでは、現場監督の書類作成時間や臨場の手間は削減されません。入退場管理システムと連動した施工体制台帳の自動更新、遠隔臨場システムによる段階確認の立ち会い時間短縮、現場連絡員と技術者をつなぐチャットや図面共有機能の連携など、施工管理全体の工数を圧縮できる実装が不可欠となっています。
参考記事: 遠隔臨場とは?現場の立ち会い待ちをゼロにする仕組みと最新ガイドラインの重要ポイント
ConShiftの視点:専任原則から遠隔マネジメントへの移行に必要な評価と制度運用
従来の建設業法は「技術者の現場常駐・専任」を工事品質と安全確保の基礎としてきました。改正法による専任特例1号の新設は、常駐を前提とした施工管理体制から、ICTと現場連絡員を組み合わせた遠隔マネジメントモデルへの法的な転換点です。しかし、活用率が24.8%にとどまる現実は、法制度の緩和に対して現場の実務体制と発注側の運用が追いついていない構造的なギャップを示しています。
この乖離を解消するためには、兼任する技術者の業務量を客観的に評価し、適正に分散させる仕組みが必要です。全建のアンケートでも「兼任は実質的な賃下げ」「仕事量の増加を嫌う」との声が上がったように、1人あたりの管理対象工事件数が増加した分の対価が技術者自身に還元されなければ、制度の定着は進みません。専任特例を適用する場合は、浮いた人件費の一部を兼任手当として技術者に配分することや、施工図作成や写真整理などのバックオフィス業務を中央管理部門へ集約・アウトソーシングする分業体制の確立が前提条件となります。
さらに、自治体や民間発注者における調達慣行の見直しも不可欠です。近接する複数工区を小規模に分割して発注し、受注者に兼任特例の手続きを強いる運用は、現場に無用な管理コストを発生させます。入札契約段階で一括発注(ロット拡大)を採用するか、あるいは発注図書上で兼任特例の適用要件を明確に提示し、遠隔臨場や電子書類の事前承認を進めるなど、発注者側の受入体制整備が普及の鍵を握ります。
参考記事: 専任技術者とは?主任技術者・監理技術者との違いや要件・兼務特例まで解説
まとめ:兼任特例の導入検討に向けた実務チェックポイント
現場兼任特例の導入を検討する企業が、制度上の不備や労務トラブルを避けるために明日から確認すべきポイントを整理します。
- 対象工事の請負代金と現場間距離の適合確認
土木一式等で1億円未満(建築一式2億円未満)、移動時間が片道おおむね2時間以内であるかを確認し、工程上ピークが重なる時期の巡回スケジュールを策定してください。
- 現場連絡員の適格性と業務分担の定義
土木・建築一式工事では1年以上の実務経験者が必要となります。連絡員が担う確認範囲と、主任技術者・監理技術者が判断する事項を人員配置計画書に明記し、責任の所在を文書化してください。
- 遠隔管理ICTツールの動作検証と労務管理の見直し
現場状況を確認できるカメラや入退場管理ツールの通信環境を現場ごとに事前検証するとともに、兼任技術者の時間外労働が月45時間・年360時間の基準内に収まるよう、事務作業の分散措置を講じてください。
参考記事: 施工管理アプリ(クラウド型)入門|導入メリットと失敗しない選び方を徹底解説
出典: 建設通信新聞Digital
出典: 建通新聞
出典: 日本工業経済新聞
出典: 国土交通省 関東地方整備局



公開_hero.webp)