井林辰憲国土交通相は2026年9月24日の就任記者会見で、2027年度当初予算の概算要求額が前年度比44.4%増となったことに触れ、事項要求に位置づけた国土強靱化関係予算をさらに上積みする方針を表明しました。政府が進める補正予算依存からの脱却方針に伴い、公共工事の執行を円滑化するための発注平準化にも細心の注意を払って取り組む意向を示しています。
2027年度概算要求と国土強靱化の施策枠組み
井林国交相は会見において、頻発する自然災害やインフラ老朽化に対応する危機管理投資に加え、人流・物流ネットワーク整備などの成長投資を当初予算主導で推し進める姿勢を明確にしました。高市政権が掲げる「補正予算ありきの予算編成からの脱却」を前提に、中長期的な事業量の予見可能性を確保し、建設企業の経営基盤を維持する狙いがあります。
概算要求の規模と予算編成の転換点
2026年8月27日に公表された2027年度国土交通省予算概算要求では、一般会計国費総額として前年度当初予算比44.4%増の8兆7,694億円が計上されました。公共事業関係費は45.0%増の7兆6,761億円に達し、従来の「約6.3兆円規模の当初予算+秋以降の経済対策(補正予算)」という配分パターンからの構造転換を示しています。
| 区分・指標 | 2027年度概算要求数値 | 前年度当初予算比 | 施策の重点内容・位置づけ |
|---|---|---|---|
| 一般会計国費総額 | 8兆7,694億円 | +44.4% | 恒常的施策の当初予算化を含む要求総額 |
| 公共事業関係費 | 7兆6,761億円 | +45.0% | 流域治水、物流インフラ、道路・港湾整備 |
| 「強く豊かな日本」投資枠 | 1兆5,508億円 | ― | 防災・減災、老朽化対策、成長産業基盤 |
| 防災・安全交付金(内数) | 1兆1,293億円 | +32.4% | 自治体管理インフラの修繕・耐震化 |
| 社会資本整備総合交付金(内数) | 6,811億円 | +48.2% | 都市基盤の再編および活力向上施策 |
参考記事: 国交省27年度概算要求、公共事業費7.6兆円計上で経営予見性向上
事項要求として扱われる主要計画と決定プロセス
今回の概算要求において、金額を明示しない「事項要求」として扱われているのが、第1次国土強靱化実施中期計画に基づく施策群です。本計画は2025年6月6日に閣議決定された法定計画で、2026年度から2030年度までの5年間で「おおむね20兆円強程度」の事業規模を目途としています。井林国交相が言及した「さらなる上積み」は、年末の予算編成過程における財務省との査定協議を通じて、この中期計画に基づく事業費を当初予算へ上乗せすることを指しています。
| 年月日 | 関連する出来事・施策の推移 | 主な決定事項・協議内容 |
|---|---|---|
| 2025年6月6日 | 第1次国土強靱化実施中期計画を閣議決定 | 5年間で20兆円強を目途とする重点114施策を策定 |
| 2025年12月12日 | 第三次担い手3法が全面施行 | 労務費基準の作成・勧告、原価割れ契約禁止の運用開始 |
| 2026年6月1日 | 日建連・不動産協会の協議会が初会合 | 民間発注における労務費確保や適正工期の協議を開始 |
| 2026年7月17日 | 同協議会の傘下組織「幹事会」が初会合 | 実務的な取引適正化ルールの検討に国交省がオブザーバー参加 |
| 2026年8月27日 | 国交省が2027年度予算概算要求を公表 | 一般会計8兆7,694億円、国土強靱化は事項要求で計上 |
| 2026年9月17日 | 第2次高市改造内閣が発足 | 元国交官僚の井林辰憲氏が第30代国土交通大臣に就任 |
| 2026年9月24日 | 井林国交相が就任専門紙会見を実施 | 国土強靱化の上積み要求と発注平準化の徹底を表明 |
参考記事: インフラ長寿命化計画とは?予防保全への転換と実務担当者が押さえるべき計画策定のポイント
担い手確保と生産性向上に向けた制度運用
予算拡充と並行して、井林国交相は建設業の供給力を担保するための施策推進を強調しました。2025年12月に全面施行された「第三次担い手3法」に基づく適正な労務費の行き渡りや、中央建設業審議会が作成する標準労務費の浸透、建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者レベル別評価の定着を図る方針です。
あわせて、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割向上させる目標を掲げる「i-Construction 2.0」を軸に、ICT建機の現場導入や施工管理のデータ連携を推し進める姿勢を示しています。
参考記事: 担い手3法(品確法・入契法・建業法)とは?法改正の変遷と実務で押さえるべきポイントを徹底解説
発注平準化と予算拡充が建設各層に及ぼす影響
当初予算の大幅増額と発注平準化の推進は、元請ゼネコン、行政機関、民間デベロッパーの各層において業務プロセスと契約運用の見直しを促します。
ゼネコン(元請け):通年施工体制への移行と省人化の必須化
公共事業費が当初予算ベースで確保され発注の平準化が進むことで、年度末の繁忙期と初夏の閑散期という極端な事業量の波が抑制されます。これにより元請ゼネコンは、下請業者との通年契約や技術者の年間配置計画を組み立てやすくなり、稼働率の低下による固定費ロスを削減できます。
一方で、現場の労務供給制約が継続する中、予算規模の拡大に対応するためには、i-Construction 2.0に対応したICT施工技術や遠隔管理ツールの導入が不可欠です。平準化によって案件が年間を通じて均等に供給される環境下では、省人化施工体制を構築できているかどうかが受注余力と収益性を直接左右します。
参考記事: i-Constructionとは?建設DXを推進する3つの柱と導入のメリットをわかりやすく解説
行政・規制当局:年度末集中排除の工期設定と指導監督
地方整備局や自治体などの発注機関には、補正予算の成立を待たずに事業を進められる当初予算主導の枠組みを活かし、ゼロ債務負担行為の積極的活用や早期入札手続きによる通年発注の徹底が求められます。単年度主義に基づく3月末竣工の慣習を排し、出水期や積雪期を避けた適切な実働工期の設定が制度上義務づけられています。
さらに、第三次担い手3法の規定に沿って、元請・下請間の契約で標準労務費が適正に計上されているか、不当な工期短縮や指値発注が行われていないかを監視する調査指導体制の強化が進められます。
参考記事: 標準労務費の勧告制度とは?2024年建設業法改正で変わる実務と見積・契約のポイント
発注者・デベロッパー:民間商慣行の是正と価格転嫁の受容
公共工事における労務費基準の設定や予算増額の動きは、民間建築市場へも直接波及します。2026年6月1日に発足した不動産協会と日本建設業連合会による「持続可能な建設業および不動産業の実現に向けた協議会」、ならびに7月17日に設置された幹事会には、国土交通省もオブザーバーとして参加しています。
この協議体を通じて、資機材価格の高騰分や適正な労務単価を請負金額へ反映させるスライド条項の採用、週休2日を前提とした適正工期の確保が民間取引の標準ルールとして協議されています。民間デベロッパーは、従来のコスト重視・短工期要求の契約形態を改め、サプライチェーン全体での原価管理に対応する必要があります。
参考記事: 改正建設業法(2024・2025年施行)のポイントを解説|標準労務費と契約実務の変更点
ConShiftの視点:予算構造の転換が迫る生産力マネジメント
公共事業が「景気対策としての補正予算」から「当初予算ベースの計画的インフラ投資」へと転換することは、建設企業の経営前提を根底から変えます。
第1次国土強靱化実施中期計画に基づく5年間で20兆円強の枠組みや、一般会計で44.4%増となった概算要求は、中長期にわたる事業量の底上げを示しています。しかし、この需要増は従来の施工体制のまま享受できるものではありません。第三次担い手3法による原価割れ受注の禁止や標準労務費の勧告制度は、単価の上昇を促す一方で、法令を遵守できない企業を市場から排除する淘汰圧として機能します。
発注が平準化されると、繁忙期に外注頼みで乗り切る経営モデルは成立しなくなります。年間の工事稼働がフラットになるため、自社および固定化されたパートナー企業による自律的な施工能力が問われます。今後は、i-Construction 2.0が掲げる省人化3割の達成度合い、およびCCUSのレベル別評価に連動した賃金設計が、直轄工事の総合評価方式における得点差や民間パートナーシップでの選定基準に直結していきます。予算拡大期だからこそ、機械化投資と人材処遇の改善に先行着手した企業が持続的な施工余力を握ることになります。
明日からの実務で意識すべきポイント
- 当初予算案件を基準とした年間受注計画の策定
自治体や地方整備局の発注見通し公表データを確認し、ゼロ債務負担行為を含む4〜6月着工の平準化案件を特定して、自社の年間機械・人員稼働計画へ前倒しで組み込むこと。
- 標準労務費と法定福利費を分離した見積書の標準化
第三次担い手3法の取引ルールに基づき、労務費を内訳明示して原価割れを防ぐ積算手順を下請業者を含めて周知徹底し、契約変更交渉の証拠力を確保すること。
- CCUS登録技能者のレベル評価と賃金台帳の連動確認
公共工事の入札評価や今後の労務費基準運用の厳格化に備え、自社作業員および主要協力会社のCCUSカードタッチ率を点検し、レベル判定に応じた日給単価への反映状況を確認すること。
出典: 建通新聞 電子版
出典: 建設通信新聞Digital
出典: 日刊建設工業新聞
出典: 内閣官房
出典: 国土交通省



