鹿島建設と三菱電機エンジニアリングは、長大な鉄筋籠の配筋検査を自動化する「移動式AI配筋検査システム」を共同開発しました。2台のステレオカメラを備えた門型移動装置とAI画像解析を組み合わせ、従来は鉄筋籠1基あたり約300分を要していた発注者の立会検査時間を約100分へと約70%短縮します。
なにわ筋線工事で実証された移動式AI配筋検査システムの詳細
鹿島建設と三菱電機エンジニアリングは2026年9月11日、ステレオカメラを搭載した門型移動装置が自走しながら鉄筋籠を撮影・計測するシステムを開発したと発表しました。本システムは、関西高速鉄道が発注する「なにわ筋線南海新難波分岐T及び千日前通シールドT土木工事」のRC地中連続壁工事に初適用されています。
開発の経緯と従来工法における制約
両社はこれまで、1台のステレオカメラとタブレット端末を組み合わせた「可搬型AI配筋検査システム」を展開してきました。同システムは国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS:KT-230164)に登録され、すでに300社以上へ導入されています。
しかし、RC地中連続壁や大口径場所打ち杭などで用いられる長大な鉄筋籠では、検査員が鉄筋の組み立て進捗に合わせて移動・撮影を繰り返す必要があり、計測に膨大な時間を要していました。また、多段配筋による部材の重なりや補強枠の存在によって死角が生じやすく、カメラの設置角度によっては正確な自動抽出が難しいというハードウェア上の制限が存在していました。作業員が足場の不安定な鉄筋籠の上を歩行して検尺作業を行うことによる転落・転倒リスクも安全管理上の大きな懸念点でした。
なにわ筋線工事での実証データと装置の諸元
今回開発されたシステムでは、レール上を走行する門型移動装置に2台のステレオカメラを配置することで、補強枠に遮られる死角を解消しています。撮影された画像データを基に、AIが主筋の本数、鉄筋間隔、鉄筋径(D16〜D51)を自動解析します。
初適用現場となった「なにわ筋線南海新難波分岐T及び千日前通シールドT土木工事」の施工概要および検査システムの仕様は以下の通りです。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 工事名称 | なにわ筋線南海新難波分岐T及び千日前通シールドT土木工事(本体工事) |
| 発注者・施工者 | 発注:関西高速鉄道株式会社/施工:鹿島・鴻池・飛島特定建設工事共同企業体 |
| 対象構造物 | RC地中連続壁 24エレメント(鉄筋籠30基) |
| 鉄筋籠の規模 | 1基あたり5ロット、全長54.2m、最大幅2.7m(鉄筋径D16~D51) |
| 撮影ユニット | 門型移動装置+ステレオカメラ2台 |
| 検査時間削減効果 | 鉄筋籠1基あたりの発注者立会時間を約300分から約100分へ短縮(約70%削減) |
本システムは、鉄筋組み立ての進捗に合わせて下段配筋・上段配筋と段階的に走行・撮影が可能です。組み立て完了後に全体を一括検査する場合と比べて手戻りを防ぎ、検査待ちによる工程の停滞を解消しています。
参考記事: 配筋検査の実施タイミングと許容基準数値|アプリ活用と遠隔臨場で業務効率化
施工現場と組織オペレーションへの具体的な影響
門型移動装置とAI解析の組み合わせは、土木構造物の施工管理プロセスに具体的な変革をもたらします。元請ゼネコンおよび現場管理者の双方において、業務フローや安全衛生管理の基準が大きく更新されます。
元請ゼネコンにおける品質管理体制の高度化
元請ゼネコンにとって、全長50mを超える大規模な鉄筋籠の出来形計測データを均一な精度でデジタル化できる点は、品質管理の信頼性向上に直結します。従来の目視検査や手作業のスケール計測では、計測箇所の選定や写真の撮り方に検査員の技量差が生じる余地がありました。
国土交通省が定めた「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測の実施要領(案)」への準拠が進むなか、AIによる客観的な抽出データとステレオカメラによる三次元座標の記録は、発注者に対する品質証明のトレーサビリティを強固にします。発注者の立会時間が70%短縮されることで、監督員側の拘束時間も減少し、官民双方での立会調整コストが軽減されます。
現場監督・施工管理者の労働環境と安全管理の改善
現場監督や施工管理者にとって、鉄筋籠の上を歩行して検尺テープをあて、黒板を添えて工事写真を撮影する作業は、身体的負荷と危険を伴う業務でした。門型移動装置が自動で長手方向をスキャンするため、高所や開口部付近での危険作業が排除されます。
また、撮影画像から鉄筋径・本数・ピッチが自動計算され、検査帳票の出力までがデータ連携されるため、事務所に戻ってからの写真整理や野帳からの数値転記といった付帯業務が大幅に削減されます。日中の立会検査と夕方以降の内業に追われていた現場管理者が、協力会社との工程調整や作業環境の安全巡視など、現場施工の本質的なマネジメントへ工数を配分できるようになります。
参考記事: AIJO 配筋王とは?AIを活用した鉄筋自動計測と帳票作成で配筋検査を効率化する特徴を解説
ConShiftの視点:移動機構とAI解析の統合が示す配筋検査DXの到達点
国土交通省による「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測の実施要領(案)」の改定以降、タブレット端末やスマートフォンを活用した単眼・複眼カメラによる配筋検査アプリの普及が進みました。鹿島建設らが展開してきた「可搬型AI配筋検査システム」がNETIS登録を経て300社以上に採用された実績も、ソフトウェア技術の現場浸透を示しています。
しかし、長大かつ立体的な構造物においては、人間が端末を持って移動・撮影するアプローチそのものがボトルネックとなっていました。今回の「移動式AI配筋検査システム」が示した重要な転換点は、AI画像処理というソフトウェア技術に、現場の幾何学的制約をクリアする専用の「ハードウェア移動機構(門型フレーム+2台のステレオカメラ)」を組み合わせた点にあります。
ステレオカメラを2台に増やして角度をつけることで、補強枠の死角という物理的な障害をハードウェア構成側で排除し、AIの認識率低下を防止しています。単に汎用デバイスへAIを搭載する段階を越え、対象構造物の寸法や施工手順(ロットごとの段階施工)に合わせて移動装置自体を最適化する設計思想は、土木・建築分野におけるロボティクス活用の実効的な基準となります。
参考記事: 建設RX・施工ロボットとは?設立背景や主要技術・現場での活用メリットを解説
明日から意識すべきこと
大規模土木工事における配筋検査の自動化は、実証実験の段階を越えて本施工への適用が進んでいます。現場レベルでこの技術革新に対応するため、以下の実務確認を推奨します。
- 直轄・準直轄工事における鉄筋出来形計測要領への現場適合性の確認
工事着手前に、発注機関が「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測の実施要領(案)」に基づくデジタル計測を協議対象としているか確認し、施工計画書への反映可能性を精査します。
- 対象構造物の配筋密度と死角要因の事前抽出
配筋検査アプリやAIツールの導入を検討する際は、対象部材が単段か多段配筋か、補強枠などの死角部材が存在するかを照合し、手持ちの可搬型システムで対応可能か、専用治具や複数カメラを要する規模かを判別します。
- 検査工程と組み立て作業の並行スケジューリング
検査を組み立て完了後の最終工程として一括処理するのではなく、下段・上段の段階ごとに撮影・確認を行う工程設計を組み込み、検査待ちによるクレーン作業や配筋作業の待機ロスを削減します。
配筋検査の自動化は、検査員個人の手作業から、撮影装置と画像解析システムによる定型化されたデータ収集へと移行しています。現場の構造物規模に応じた計測ツールの選定が、管理工数と安全性の水準を左右します。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: 鹿島建設株式会社 プレスリリース



